
アメリカのクルマ好きにとって「デイトナ」というワードは、日本の鈴鹿と同じかそれ以上の響きに違いありません。ここに目をつけて商売をしたのがフェラーリで、多額の権利金を積んで365GTB/4にデイトナのペットネームを付けたのでした。思惑は大当たりで、それまでのV12をフロントに積んだフェラーリをぶっちぎる売れ行き。ヒット作となっただけでなく、生産終了の6年後ですらデイトナ24時間レースで2位を獲得するなどパフォーマンスも折り紙付き。そりゃあ世界中で憧れのフェラーリにもなるというもの。そんなデイトナの3態を改めてチェックしてみましょう。
●文:ヤングマシン編集部(石橋 寛) ●写真:RM Sotheby’s
365GTB/4 デイトナ:275GTB/4を引き継ぎつつ大幅にアップデート
1968年のパリ・モーターショーでデビューした365GTB/4は、それまでのフラッグシップモデル、275GTB/4を引き継ぎ、大幅なアップデートが加えられていました。
275の1960年代的なクラシックさを、ピニンファリーナに在籍していたレオナルド・フィオラバンティが華麗なまでにモダナイズ。丸目2灯だったフロントフェイスが、半透明のプレクシグラスを使うことでスムージングされたかのような顔へと変貌。
それでいて、低くコンパクトなキャビンと旧き良き時代を受け継ぐようなコーダトロンカテールなど、フェラーリでなければ作りえないスタイルを実現していたのです。
搭載しているV12はいわゆるコロンボ・ユニットで、4390ccの60度DOHCエンジン。先代の275から排気量を1.2リッターも増やし、352馬力/1280kgとなかなか歯ごたえあるパワーを手に入れています。
なお、ツインカムの駆動はいわゆるカムギアチェーンで、275から引き継いだ機構。さすが、コロンボと唸るのは先駆け的な設計、機構にもかかわらずとても信頼性が高かったこと。後述の耐久レーサーでも、同じ機構で24時間を闘っています。
1973年までの5年間で生産台数は1406台で、当時のフェラーリからすると大変な数。このうち、ほとんどがアメリカに輸出されている模様です。
ちなみに、右ハンドルも別に151台が作られてイギリスなどに送り出されました。なお、数年前に岐阜で発見され、2億円ほどで落札された個体は左ハンドルでした。
ロングノーズ&ショートデッキ、そして垂直にぶった切ったようなコーダトロンカテール。デイトナは今でもグランツーリスモのお手本かのようなスタイリング。
デビュー当時は透明なプレクシグラスの中にライトを設けていましたが、最大の輸出先であるアメリカの法規に合わせてリトラクタブル式に変更されています。
ジョアッキーノ・コロンボが50年代に作り上げた60度V12は、4.4リッターの排気量から350馬力以上を発揮。ギアとチェーンによるカム駆動の先駆け的な存在。
デイトナ・スパイダー:アイコン的存在のカブリオレモデル
365GTB/4クーペに遅れること1年、1969年のフランクフルトでお披露目されたデイトナ・スパイダー。いわゆるカブリオレモデルですが、イタリア人はスパイダーと呼ぶのが通例です。
ソフトトップに加え、北米の法規に合わせプレクシグラス内のヘッドライトがリトラクタブルに変更されているのが特徴。
エンジンやシャーシはクーペと同じですが、ボディの架装は社内でなくカロッツェリア・スカリエッティへと外注されています。同社は50年代にフェラーリからの投資でもって創業した由緒ある公認カロッツェリアで、その昔は工房だってフェラーリの向かいに建てたってぐらいの仲。
作ったのはFRモデルが中心で、2002&2004年にはスカリエッティのペットネームを付けた456Mと612がリリースされています。
また、映画「キャノンボール」や、人気ドラマ「マイアミバイス」などにも登場し、ひところのアメリカでフェラーリといえば誰もがデイトナ・スパイダーを思い起こすほどのアイコンモデルとなりました。
わずか121台しか作られなかったというのも、伝説化に拍車をかけているのではないでしょうか。
ピニンファリーナのボディを大胆にカットできるのは、フェラーリ公認カロッツェリアのスカリエッティだからこそ。わずかに121台だけが製造されています。
デイトナ・コンペティツィオーネ:貴重なファクトリーレーサー
デイトナ・サーキットの名を冠した以上、当然レーシングカーも作られています。が、フェラーリのファクトリーで製作されたのはわずかに15台のみ。
当時、すでにトップグループはミッドシップのプロトタイプでしたので、デイトナはGT(またはGTS)クラスへの参戦とされ、シボレー・コルベットやポルシェ911Sといったライバルと闘うのが目的だったとされています。
エンジンのチューンナップ(352→450馬力)をはじめ、フレームの強化、よりファットなタイヤが履けるようボディの拡幅といったカスタムで、シリーズ(I~III)ごとにボディ形状、そして仕様素材が異なっています。
写真のサンプルは北米のフェラーリ(サテライト)チーム、NARTが製作したモデルですが、もとを正せばファクトリーが作ったレーサーそのもの。耐久レースらしく、リトラクタブルライトが廃されて、一般的な4灯となったほか、リップスポイラー、オーバーフェンダーといったレーストリムが目につきます。
また、現在のオーナーは公道走行を可能としたらしく、スポーツシートが2脚装備されたほか、エキゾーストパイプもサイド出しから一般的なリヤ4本出しに変更されています。
ただし、メーターパネルのコーションランプやキルスイッチ、追加ライトのスイッチなど、レーサーらしい装備はそのまま。
オークションでの指し値は軽く10億円を超えていましたが、二度と現れないであろうV12のFRレーサー、しかもフェラーリのファクトリーメイドと考えれば、至極当然な値付けではないでしょうか。
あのデイトナが車高を落とし、太いタイヤを装着するとここまで獰猛なレーシングカーに変身。V12の咆哮もまた、胸のすくような音であること間違いなし。
シートが2脚装備されているのは、現オーナーが公道走行も楽しむためのもの。ノーマルとは形状の違うスポーツシートを使っています。
GTクラスでの雄姿。左にいるのは強敵だった911Sですが、このほかにもシボレー・コルベットもデイトナのライバルとして走っていました。
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