
●文:ライドハイ編集部(伊藤康司) ●写真:真弓悟史 柴田直行
絶対的な制動力より、コントロール性の高さが大切!
バイクのブレーキは、今やほぼすべてが“油圧式ディスクブレーキ”。マスターシリンダーで発生した油圧がブレーキキャリパーのピストンを動かし、ブレーキパッドをディスクローターに押し付ける摩擦力で制動する仕組み自体は、小排気量のスクーターから大排気量のクルーザーまで基本的に同じだ。
しかし、ブレーキシステムを構成する個々のパーツには様々な種類があり、ライダーが直接触れて操作するフロントブレーキのマスターシリンダーは、古くから使われる“横押し式(横置き式)”と、スーパースポーツやハイスペックな欧州製ネイキッド等が装備する“ラジアル式”が存在する。
モトGPなどのレーシングマシンもラジアルマスターシリンダーを装備するだけに、なんとなく横押し式より高性能なイメージがあるが、実際はどんなメリットがあるのだろう?
注射器のようなシリンダー&ピストンで油圧を発生させる
フロントブレーキのマスターシリンダーは、レバーを操作(引く)することでピストンを押して、シリンダー内のブレーキフルードに圧力を発生させる。この仕組みは横押し式もラジアル式も同じだが、シリンダーの配置とレバーの構造が異なる。
【横押し式(横置き式)マスターシリンダー】シリンダー部分がハンドルバー(グリップ)と平行に配置。ピストンを押すために、レバーは支点を角にしたL型の形状。レバーを操作する力の方向を変換しているので、操作力のロスやレバーを引き込んでいくとフィーリングに変化が生じる。マスターシリンダー全体のサイズがある程度大きくても、車体の形状(カウリングなどとの干渉)に関係なく装着しやすい。
【ラジアルマスターシリンダー】シリンダー部分がハンドルバー(グリップ)と90度に直交する配置。操作するライダーを“中心”に考えれば、シリンダーがラジアル(放射状)に配置されている。レバーを操作する力がほぼ真っ直ぐピストンを押すので、操作力の摩擦損失も少なく、レバーを引き込んでもフィーリングが変化しない。マスターシリンダーがハンドルバーより前方に飛び出すため、コンパクトな形状(設計や製造にコストがかかる)でないとカウリングなどに干渉しやすくなる。
最初のラジアルマスターシリンダーは、エディ・ローソンが駆ったヤマハのYZR500
じつは横押し式もラジアル式も、他のブレーキを構成するパーツが同じモノならば、制動力の強さ自体は変わらない。しかしブレーキは、ライダーなら誰もが経験上感じていると思うが、「どれだけ思い通りにかけられるか」が重要。どんなに強力なブレーキでも、コントロール性に不安があれば強くかけられないため、結果として“効かない(使えない)ブレーキ”になってしまう。
そこで登場したのがラジアルマスターシリンダー。1985年にブレンボ社が初の特許登録をし、翌年からはGP500マシンであるエディ・ローソンが駆ったヤマハのYZR500に装備された……
※本記事は2021年9月22日公開記事を再編集したものです。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
ライドハイの最新記事
250ccを思わせる車格と水冷2スト最強パワーに前後18インチの本モノ感! 1979年、ホンダはライバルの2ストメーカーに奇襲ともいえる2スト50ccの、まだレプリカとは言われてなかったもののレーシー[…]
遂に50ccクラスへ足がかりをつくる! 1980年にドイツのIFMA(ケルンショー)で、カワサキがAR50/80とオフロード車のAE50/80を発表したとき、世界のバイクメーカーに衝撃が走った。 なぜ[…]
直立単気筒はオフ車から転用せずロングストロークの専用設計! 1980年代のレプリカ全盛が過ぎると、各メーカーはパフォーマンス追求から多様なニーズを前提に様々なカテゴリーのモデルを投入した。 そんな中、[…]
ミニトレール以来の得意なデフォルメスポーツ! かつてヤマハは1972年、オフロードモデル(ヤマハではトレールと称していた)の2スト単気筒のDT系を小型にデフォルメしたミニGT50/80(略してミニトレ[…]
ストリートからワインディングまで、250レプリカをカモれるカフェレーサーを目指す! 1987年にヤマハがリリースしたSDR……それまでヤマハのスポーツバイク系ネーミング記号になかったアルファベットの組[…]
最新の関連記事(バイク雑学)
規制の根拠は「道路法・第46条第3項」 高速道路などを走っていると、時折インターチェンジの手前などで「危険物積載車両ここで出よ」という表示を目にすることがある。この表示を見かけた場合、その先に危険物積[…]
日本語表記では「前部霧灯」。本来、濃霧の際に視界を確保するための装備 四輪車ではクロスオーバーSUVのブーム、二輪車においてもアドベンチャー系モデルが増えていることで、「フォグランプ」の装着率が高まっ[…]
白バイがガス欠することはあるの!? 今回は、「白バイが警ら中にもしもガス欠になったら!?」について、お話したいと思います。結論を先に言うと、ガス欠にならないように計画を立てて給油しています。 私も10[…]
免許制度は基本、ヨーロッパで共通 イタリアのバイク事情を現地からお届けするコラム「Vento Italiano」(イタリアの風)第2回。今回はイタリアの自動車運転免許制度について紹介していきます。 と[…]
660ccの3気筒エンジンを搭載するトライアンフ「デイトナ660」 イギリスのバイクメーカー・トライアンフから新型車「デイトナ660」が発表された際、クルマ好きの中でも話題となったことをご存知でしょう[…]
最新の関連記事(メカニズム/テクノロジー)
【冒頭解説】ECUをサスペンションに一体化、フロントフォークに自動車高調整を初採用 2021年1月に日立オートモティブシステムズ、ケーヒン、ショーワ、日信工業が経営統合して誕生した日立Astemo(ア[…]
ヤマハ発動機と三菱重工業は、200kgの貨物を搭載可能な中型マルチコプター型無人機(以下、中型無人機)の開発に向けた共同研究を行っていることを発表した。 パワーユニットには、ヤマハが2023年にコンセ[…]
スズキは、5月から7月にかけて横浜・名古屋・オンラインで開催される「人とくるまのテクノロジー展 2025」(主催:公益社団法人自動車技術会)に出展する概要を発表した。 今回のスズキブースでは、2025[…]
ヤマハ発動機は、5月21日(水)~23日(金)にパシフィコ横浜で開催される国内最大級の自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2025 YOKOHAMA」(主催:公益社団法人自動車技術会)に出展し、同[…]
そもそも「過給機」とは 世界最大規模の2輪車ショーといわれるEICMA(ミラノショー)。2024年11月に開催された同ショーにおいて最大級の注目を集めたのは、ホンダが初公開した電動過給機付きV型3気筒[…]
人気記事ランキング(全体)
新進気鋭のクルーザー専業ブランドから日本市場に刺客! 成長著しい中国ブランドから、またしても新顔が日本市場にお目見えしそうだ。輸入を手掛けることになるウイングフット(東京都足立区)が「導入ほぼ確定」と[…]
静かに全身冷却&最長10時間のひんやり感を実現 ライディングジャケットのインナーとしても使えそうな『PowerArQ Cooling Vest』。その特長は、ファンやブロワー、ペルチェ式ヒートシンクを[…]
なぜ「モンキーレンチ」って呼ぶのでしょうか? そういえば、筆者が幼いころに一番最初の覚えた工具の名前でもあります。最初は「なんでモンキーっていうの?」って親に聞いたけども「昔から決まっていることなんだ[…]
レブル250ではユーザーの8割が選択するというHonda E-Clutch ベストセラーモデルのレブル250と基本骨格を共有しながら、シートレールの変更や専用タンク、マフラー、ライディングポジション構[…]
最新モデルはペルチェデバイスが3個から5個へ 電極の入れ替えによって冷却と温熱の両機能を有するペルチェ素子。これを利用した冷暖房アイテムが人気を博している。ワークマンは2023年に初代となる「ウィンド[…]
最新の投稿記事(全体)
2025年モデル概要:インパクト大なシリーズ初カラー カムシャフトの駆動にベベルギヤを用いた、美しい外観の空冷バーチカルツインエンジンを搭載。360度クランクによる鼓動感や等間隔爆発ならではの整ったエ[…]
エイトボール! 王道ネイキッド路線への参入予告か スズキがグローバルサイトでティーザーらしき予告画像を公開した。ビリヤードの8番玉の横には『SAVE THE DATE 4TH JULY』とあり、7月4[…]
収納しやすく持ち運びやすいカード型くもり止めスプレー これからの時期、急に雨に降られて走行する際にシールドが曇りやすくなる。雨の中でシールドが曇ると余計に視界がなくなり、安全運転を阻害する要因となりか[…]
論より証拠! 試して実感、その効果!! 1947年カリフォルニア州ロングビーチで創業し、これまでにカーシャンプーやワックスをはじめ、さまざまなカー用品を手がけてきた「シュアラスター」。幅広いラインアッ[…]
価格はそのままで、バッテリー交換+メンテナンスサービスチケットが付属 株式会社サイン・ハウスは、オートバイ用インカム「B+COM」シリーズより、 「B+COM SB6XR(シングルUNIT)バッテリー[…]