
●文:ライドハイ編集部(根本健) ●写真:ドゥカティ 藤原らんか
[Q] エンジンの低回転域を使ってトラクション…って?
[Q] 80年代後半に250ccレーサーレプリカを楽しんでいた世代ですが、少し前にリターンしました。そこで気になるのが、最近よく出てくる“エンジンの低回転域を使ってトラクション”ということです。以前はエンジンのパワーバンド(もう死語でしょうか)を使って、後輪がガッツリ路面に食いついて加速する感じをトラクションだと思っていました。1000ccに乗ってる今も、強いトラクションがあったほうがいいだろうと、6,000回転以上回して頑張ってきたのですが、何か勘違いしているのでは、と思い始めたわけです。
しかし、低回転域だとスロットルの開け始めのエンジンの反応がワンテンポ遅れてくるし、その後の加速がモヤッとしている感じなのですか、これでいいのでしょうか? これもトラクションなのでしょうか?
[A] 一般公道では曲がれるトラクションの範囲内といえば、低回転域のみ。ただし開け方が丁寧過ぎるとその効果は引き出せない
まさにリターンライダーに共通しているテーマですネ。『ライドハイ』で何度もトラクションについて取り上げているのも、BIKE GATHERINGイベントでのご質問の多くが同じような内容だからです。
まず、最新のモトGPの傾向からお話しましょう。いまや300PSといわれる超パワフルなエンジンは、トラクションコントロールなしには後輪の空転が避けられません。
そこで、ストレートのトップスピード狙いはともかく、難しいのがコーナーでのトラクションです。
コーナーではタイヤが滑って一気にホイールスピンしたら、バンク中のマシンはひとたまりもなく転倒してしまいますが、トラクションコントロールの仕組みがこのスピンを検知して、徐々に外へスライドしていく程度に出力を抑えてくれるので、転倒には至りません。いわゆるタイヤのスリップ痕であるブラックマークを路面に残すぐらいに調整されます。
ところが、これでは曲がれるチカラを分散させてしまっていることに、優勝争いをするトップライダーたちは気が付いてしまったのです。加速していく側も大事ですが、肝心のコーナリングフォースにタイヤが負けてしまっては、旋回半径は徐々に大きくなる一方です。
そこで皆さん、次回からモトGPをネット観戦するとき、聞こえてくるエンジンの回転音とシフトアップに注意してみてください。
以前はエンジン回転数まで表示してくれていましたが、さすがにそれだと各チームの機密を開示し過ぎたようで、今は何速なのかと速度にバンク角くらいしか表示してません。
そうなると、音質や瞬時のシフトアップ(特殊なシームレス構造なのでまさに瞬時なのですが、エンジン回転が変わった音は聞き分けられます)からしか判断できにくいのですが、コーナー進入の直前にシフトダウンしてリーンしていくときのエンジン回転は1万回転を遥かに下回っています。
1万8千回転まで回ろうというエンジンの、半分以下、ヘアピンやシケインのような低速コーナーでは8千回転以下までドロップしています。つまり、皆さんの乗っているスーパースポーツが1万回転近くがピークだとすると、半分の5千回転以下になっているのと同じようなものです。
そして続くコーナーが連続したS字とかだと、何と曲がりながら低い回転のまま矢継ぎ早にシフトアップまで繰り返しています。つまり、曲がれる、もしくは曲がりやすいトラクションのグリップが得られる回転域しか使っていないのです。
わかりやすく言うと、安定して曲がれるように、トラクションコントロールが介入しない回転域で走っているというワケです。
モトGPでさえこうなのですから、皆さんの乗られているビッグバイクとなれば、2速や3速の5,000回転以上は曲がれる領域ではありません。
加速を抑えた曲がれるトラクションをうまく利用するワザを身につけましょう。
でも、コーナリング中に3~4000回転でスロットルを開けても、レスポンスにタイムラグはあるし、やんわりとしか加速しない…これでトラクション? とにわかには信じ難い気持ちになるのもわかります。
ところが、こう感じてしまう方々のほとんどは、スロットル開度が足りていません……
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