
不動車あるいはメンテナンス不足のバイクの多くが抱えているのが、ステムベアリングのコンディション不良問題。オーナー自身が気づかない/違和感があるが原因が分からない場合は、前輪を浮かせてハンドルを左右に切れば即座に判断できる。高速走行直進時に“わだち”を乗り越えると、ハンドリングの悪さに恐怖感を覚えることもあるので、一度点検しよう。
●文/写真:モトメカニック編集部 ●外部リンク:丸中洋行
オークションで購入した格安中古車のステムベアリングをチェック
「ノークレーム/ノーリターンの現状販売」という条件で購入したという格安中古車・カワサキ バリオス。
以前の記事で、[1]丸中洋行が販売する規格部品を使用し、消耗部品の至る所を交換→[2]オイル交換→[3]シートの張り替えについて紹介したが、今回は続いて4回目となる記事だ。
オークションでも頻繁に見るフレーズだが、外観から分からない部分の判断は難しい。シリンダー内部やリヤサスペンションのリンクや電装系と並び、ステムベアリングもまた外から見えず不具合を抱えていることが多い。このバリオスは明確な引っかかりがあるほどではないが、前輪を浮かせてロックtoロックでハンドルを左右に切ると、途中で動きに違和感が。
慣性重量を減らすため前輪やフロントフォークを取り外してステム単体でチェックすれば反応はより明確になるが、そこまで分解するのならステムも外してレースを直接確認するのもさほど手間ではないし、確実に状況確認ができる。
残念ながら、というか予想どおり、アウターレースとインナーレースには極端に大きくはないものの打痕や傷があった。約30年前の中古車ゆえ、それ自体は目くじらを立てるようなものではないが、残念なのは傷や打痕のあるレースに新車時とは異なるグリスがコッテリと…。
現オーナーが購入後に転倒したことはないとのことで、あくまで推測だが、見て見ぬフリでグリスを詰めてノークレーム/ノーリターンとしたのか…。見つけてしまった以上は仕方ない。傷付いたレースはすべて新品に交換した。
ステムベアリング交換には工具やスキルが必要だが、交換後のハンドリングのスムーズさは格別
ネイキッド車のステムベアリング交換で面倒なのは、メーターやライトの支えがなくなること。ハーネスカプラーを外すのは手間なので、スタンドで前まわり一式を支えておいた。
ロアブラケットを取り外す前に左右に据え切りすると同時に、ステムナットの締め付け具合を確認。ナットが緩すぎると、ブレーキング時にステム全体がガタつき、異音や違和感の原因になる。
現行車のボールベアリング仕様の場合、一体で外れるリテーナー付きが一般的だが、約30年前に製造されたバリオスはボールを1個ずつ並べるタイプ。グリスは少なくとも2種類使われていた。
今回はNTB製ボールがあるが、再使用する場合は紛失防止のためマグネットで回収すると良い。グリス不足の状態で長期間摺動されると、ボール表面のめっきが傷つくこともあるので確認が必要。
ロアブラケットを抜く際にもボールが脱落するので、ブラケットの下でバットなどを構えておく。グリスがたっぷり塗ってあったので、過去に一度は外したことがあるようだ。
グリスまみれの部品を再使用する場合、ステンレスのバットは洗油や灯油が使えるので便利。ロアブラケットのサビがひどければ、この機会に缶スプレーでシュッと塗るだけで見栄えがグッと良くなる。
上部アウターレースの打痕は、進行方向左側だけに集中していて違和感がある。2度目のグリスを塗ったショップ?(個人?)は、この状態を知りつつ黙視したのか、それとも塗布後にアクシデント!?
ロアブラケットのインナーレースにも線状痕が。若いライダーが乗ることが多い250cc車だから、転倒も一度や二度ではないだろうが、手当てが不十分だと「だから絶版車は…」と悪評が立つ原因になる。
ヘッドパイプに圧入されたアウターレースは、オフセットされた先端部分がレースの“ツバ”に掛かりやすいダートフリーク製ベアリングリムーバーで叩き抜く。全周を均等に叩くのがコツ。
ステムシャフトのインナーレースを取り外す際に使用するタガネは、先端が反ったベンドタイプが使いやすい。1ヶ所ばかり叩くとレースが傾きシャフトに食い込むので、細かく場所を変えながら叩く。
グリスを拭き取ってみれば、4つのレースにはいずれも傷や打痕が付いている。現オーナーの所有期間は1年半ほどなので、それ以前からあった傷のようにも思えるが、現状販売なので……。
ワッシャー/オイルシール/インナーレースの順にステムシャフトに通して、ボールの軌道面に当たらないサイズの金属パイプで圧入する。レースが傾くとシャフトに食い込むので、平行を保とう。
耐水性/極圧性に優れたリチウムグリスやウレアグリスを塗布して、20個のボールを貼り付ける。レースやボールに砂利などが付着すると傷の原因になるので、屋外で作業する際は砂ぼこりにも注意。
アウターレースを外した際にバリが残っている場合は取り除き、スムーズに圧入できるようヘッドパイプにグリスを塗布する。内壁には今回以前にレースを着脱した痕跡のようなものも…。
アウターレースが傾かないよう確認しながら、ベアリングインストーラーで圧入する。傾いてヘッドパイプに食い込むと叩いても進まなくなるので、無理せずすぐに確認する。
圧入量が深くなりインストーラーのコマが干渉したため、寸法が近いソケットを旋盤で削って即席のインストーラーを製作した。レースが着座してハンマーの共鳴音がひときわ大きくなったら圧入完了。
先端が90度曲がったピックツールなどで、レース下面とヘッドパイプ内側に隙間がないことを確認したら、グリスをたっぷり塗って19個のボールを並べる。ボールの全周にもグリスを塗っておく。
ロアブラケットをセットしてステムロックナットを締める。ロックナットは一度強く締め込んでレースとボールをなじませてから、ブラケットがスムーズに動くまで緩める。
ブラケット単体では動きが重く感じても、ホイールが付いて慣性重量が増すと軽くなることを考慮してナットを締める。フォーク装着時はホースやケーブルを正しく通すこと。次回はフロントフォークのオーバーホールを行う予定だ。
※本記事は“モトメカニック”が提供したものであり、文責は提供元に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
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