
1年半ほど前に、インドの山々と「ヒマラヤ」というアドベンチャーバイクに魅せられた僕は、ロイヤルエンフィールドのNEWヒマラヤの試乗会に参加するため、今秋、再びインドへ向かった。メーカー初の水冷エンジンを搭載し、すべてを刷新したNEWヒマラヤは、キャリアを問わずアクセスしやすいというらしさはそのままに、スピードレンジを大幅にアップしていた。
●文:ミリオーレ編集部(小川勤) ●写真:高島秀吉 ●外部リンク:ロイヤルエンフィールド東京ショールーム
ロイヤルエンフィールド初の水冷化!DOHC化!【大自然が生み出したバイク。ヒマラヤがフルモデルチェンジVol.1】>>記事はこちら
ヒマラヤで走り出した瞬間、大自然との共存が始まる
今回は、インド北部の海抜2000mほどのクルという街を起点に、2日間にわたって試乗を行うプログラム。日中は半袖で過ごせるが、日が落ちた途端に辺りのあらゆるものから熱が奪われ、急速に気温が下がる。その場があっという間に真冬の気候になる変化は日本では考えられない一方で、太陽の偉大さを否が応でも痛感させられる。
そんな自然の力を知り、自然にはすべてを委ねないといけないと知ったのは、1年半ほど前に参加した『モト・ヒマラヤ2022』だった。前モデルとなる空冷ヒマラヤで7日間にわたってヒマラヤ山脈を走る旅は、大袈裟でなく僕の人生観を変えた。そしてその旅の相棒であったロイヤルエンフィールドのヒマラヤは、アドバンチャーバイクの本質も教えてくれた。
今回の試乗会も自然との共存だ。初日はワインディングがメイン、2日目はダートセクションが用意されるルート。目の前に並ぶフルモデルチェンジしたヒマラヤは、ロイヤルエンフィールド初となる水冷エンジンを搭載し、各部を洗練。そして、空冷モデルと比較すると少しだけ大柄だが、馴染みやすさは変わらなそうな印象だ。
視認性の高いメーターには、スマホのアプリと連動させたナビも装備。見知らぬインド北部でもこれなら安心だ。エンジンモードもロイヤルエンフィールド初搭載で、エコとパフォーマンスが選択可能。僕は迷わずパフォーマンスを選んだ。
エンジンは振動がなく、かなり洗練されたイメージ。ショートストローク化され吹け上がりは軽いものの、低中速を大切にした味付けが施されている。走り出して印象的なのは、すぐにバイクとの一体感が得られること。ロイヤルエンフィールドのスタッフは常に「アクセッシブル」という表現を使うが、これは多くのライダーがアクセスしやすいバイクという意味を指す。インドでのヒマラヤのターゲットは、まだまだ小排気量車やスクーターに乗っているライダーで、彼らが「いつかはヒマラヤでヒマラヤ山脈へ」と憧れる存在なのだ。
走り出してすぐに、何年も凍結を繰り返したであろう、凸凹の道に遭遇。NEWヒマラヤは難なく進んでいく。この先どんな道や景色が待っているのだろうか。期待と不安が交錯するが、すべてを委ねる気持ちでスロットルを開け続ける。
ヒマラヤ山脈の美しい景色と重なると、その神々しい山や自然をオマージュしたカラーリングを持つヒマラヤは一段と輝いて見える。
雪山をバックに走る。ちなみに試乗中はまったく寒くなく、目に映る山々の遠近感がさっぱり掴めない。
ロイヤルエンフィールド初の水冷エンジン。エンジン単体では空冷時代から10kgの軽量化を実現。しかし、車両重量は大きく変わらない。
新デザインのメーターを採用。リヤのABSカットやモード切り替えは簡単に行える。またスマホに専用アプリを入れてWi-Fiでバイクと同期させることで、Googleマップと連動。ナビを表示させることも可能。
海抜3000m超えなのによく走る、452ccの水冷エンジン!
インド北部の道は舗装路も突然ダートになったり砂利が浮いていたりする。だから常にサバイバルな気持ちで挑まないと難しい。それでいてアベレージは高め。最初の休憩ポイントは、ワインディングの途中にあるロイヤルエンフィールドのディーラーだった。
参加したメンバーと「452ccの40psってこんなもんですかね〜」と言いつつ、海抜を確認すると3200m。こんな場所に普通にディーラーがあるから感じなかったが、やはりインド北部は何もかもが想定外。聞けばこの海抜だと出力は30%ほどカットされ、28psほどとのこと。
1年半前、標高の高い場所を空冷ヒマラヤで走った時は5000〜7000rpnを常用。回さないと走らなかったのだが、水冷ヒマラヤは違った。3000〜4000rpmが常用域で、それでいて空冷ヒマラヤよりもアベレージはかなり高い。これなら海抜5000mを超える場所でも力強く走る姿が簡単に想像できる。
すべてを刷新したヒマラヤ。このプラットフォームを使った他のバリエーションにも期待したい。
エンジンは振動も少なめ。水冷化/DOHC化/ライドバイワイヤ化、さらにはショートストローク化しているが、ヒマラヤらしい使いやすさや許容範囲の広さはそのまま。スピードレンジを上げただけで、ヒマラヤらしさは何も変わっていない。
なかでも好印象だったのは、サスペンションやタイヤがとても良い乗り心地を提供してくれていること。前輪21インチ/後輪17インチのサイズは前モデルを踏襲するが、タイヤは専用のシアット製を採用。サスペンションは前後ショーワ製で、フロントはカートリッジ入りの本格派。刻一刻と変わる路面をスムーズに追従し、絶景へと導いてくれる。
砂埃を掻き分け、数々のカーブを駆け抜け、無事に初日を終えると、「僕はインド北部に戻ってきたんだ」という達成感に満ちていた。
今回は、クシタニのアドベンチャースーツのサンプルとアライヘルメットのツアークロスVで参加。スーツは悪条件に強く、温度調整のしやすさが印象的。発売になったツアークロスVは、多くのインドのスタッフから「ジェラシー」と言われた。アライヘルメットはインドでは日本の約2倍の価格だが、とても人気だ。
オフロード初心者でもダートを不安なく突き進める懐の深さ
2日目はワインディングを繋いだダートセクション。「さあ、リヤのABSをカットして」とダートの直前で先導をしてくれるクルー。操作は簡単でメーター内を見ながらスイッチで直感的に行うことが可能。ダート性能を向上させたことは、ホイールトラベルを前後共に200mm(前モデル比・前は同一/後は+20mm)、最低地上高は230mm(前モデル比+10mm)に設定したことでも明確だ。
またシートは上質感を増し、さらにスリムになっており、スタンディング時のホールド性も大幅にアップ。ちなみに僕はオフロードのプロではなく、オフロードを走るのは1年半前のモト・ヒマラヤ以来だ。「うまく走れるだろうか?」と緊張感が高まるが、オフロードでのNEWヒマラヤの振る舞いを見てみたいし、その先に未知の景色が待っていると思うと気持ちが昂る。ヒマラヤはそんな風にライダーの気持ちを盛り上げてくれるバイクなのだ。これがビッグアドベンチャーだったら、僕は迷わずキャンセルしていただろう…。
ダート、といってもインドでは生活道路に他ならない。ただ、左右は岩壁か断崖絶壁、岩肌をえぐるようにできた道だ。緊張感はあるが不思議と怖さはない。時には雪解け水でできた川を渡り、大きな石を避けながら進んでいく。崖下にはエメラルドグリーンの川が流れる。少し走って慣れるとそんな景色を楽しむ余裕も出てくる。
道を見ると、昔は舗装されていた形跡があるが、海抜3000m超えで何度も凍結すると長くは持たないのだろう。ただ、それでも人々はその道を日々走り続ける。生活の中にこんなアドベンチャーなシーンがあるインド北部で鍛えられた、ヒマラヤの強さを見たような気がする。
正直、ビッグアドベンチャーだったら僕のキャリアでは走れない道や場所ばかりだった。蛮勇を奮って向かったとしても、間違いなく打ちのめされていただろう。でもヒマラヤで進む道なき道は期待に満ちていて、いつだって素晴らしい絶景に導いてくれた。
ダートを抜け、舗装路に入り、可変シートを高い方にセットしてみた。若干、足着き性は悪くなるが、ハンドリングが劇的に良くなった。シートを外せば一瞬で変えられるから、市街地やダートは低い方にセットし、高速道路や峠では高い方で走るのが楽しいはずだ。
水冷化/DOHC化など、ロイヤルエンフィールド初となる技術がたくさん投入されたNEWヒマラヤ。ロイヤルエンフィールドが、いかにヒマラヤというバイクを大切に育んでいるかが伝わってくる。神々しいヒマラヤ山脈を走るために生まれたバイクは、誕生の背景にとても明確なフィロソフィーを持つ。そんなヒマラヤは、何にも似ていない唯一無二のアドベンチャーだ。
もっと大自然との共存を楽しみたかったが、僕は海抜の低い日本での試乗を楽しみにすることにした。その時、NEWヒマラヤは僕にさらなる喜びを与えてくれるに違いない。
シート高は2段階から選べ、シートを外せば簡単に変更できる。こちらはシート高が825mmの場合のポジションと足着き性。身長165cmでも不安はない。また、オプションでローシートも用意される。
この道はどこに繋がっているのだろう? どんな景色が待っているのだろう? 走行中はそんな期待しかなかった。
今回のホテルの前で記念写真。素晴らしい環境で試乗会は開催された。
ヒマラヤのカラバリを見てみよう!
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