
レースのオンボード映像で目に入る、コクピットのリストバンド(?)らしきモノ。ブレーキのマスターカップに巻いているみたいだけど何のため? 1グラムでも軽くしたいMotoGPマシンだから、お洒落アイテムではないと思うけれど……。
●文:伊藤康司 ●写真:ホンダ、スズキ、長谷川徹
昔は本当にリストバンドだった!?
現在もレーシングマシンではお馴染みだが、一般ライダーのバイクではあまり見られなくなったマスターシリンダーのカップに巻いているリストバンド状のカバー。じつは80年代にレーサーレプリカにフルードカップ別体式のマスターシリンダーが装備された頃は、皆がこぞって装着していた。
このリストバンド状のカバー、正しくは「マスターシリンダーカップバンド」、「リザーバータンクカバー」と呼ぶレース用のパーツだが、昔は本当にスポーツの汗止め用のリストバンドを流用していた。もちろん止めるのは汗ではなく、ブレーキフルードの飛散を防ぐためだ。
ヤマハYZR-M1のコクピット。ブレーキマスターカップに巻いたバンドにはファビオ・クアルタラロ選手のゼッケン20が刺繍される。
フルードがシールドに付着したら大変!
レースではストレートで燃料タンクにヘルメットのアゴが触れるほどの前傾姿勢を取るため、マスターシリンダーのフルードカップが目の前の十数センチのところにある。
ブレーキフルードに使われる液体は非常に浸透性が高いため、フルードカップのキャップがキチンと閉まっていても、ほんのわずかに滲み出ることがある。これがツーリングや普段乗りに使っているバイクならたまに洗車すれば問題ないレベルでも、レースとなると状況が変わってくる。
ライダーがストレートでピッタリと前傾姿勢を取ると目の前にフルードカップがあるため、滲んだブレーキフルードの飛沫がヘルメットのシールドに付着する可能性がある。ほんの泡粒のような付着でも、高速走行(MotoGPなら300km/h以上)の風圧を受けてヌラヌラと広がって視界を妨げたら一大事だ。レースではティアオフシールド(捨てバイザー)を使うとはいえ、万全を期すために滲み出たブレーキフルードを吸着するカバーを巻いているのだ。
ブレーキオイルは「油」じゃない!?
油圧式ディスクブレーキに使うため、慣例的にブレーキオイルと呼びがちだが、正しくはブレーキフルード(ブレーキ液)で、オイル(油)ではない。現行バイクの油圧式ディスクで主流のDOT4規格のブレーキフルードは、ポリエチレングリコールモノエーテル(グリコール系)。じつは溶剤としても使われる物質なので、プラスチックやゴムなど樹脂系のパーツやペイントの塗料を傷める。
もしブレーキフルードがマスターカップから漏れて付着した場合は、速やかにジャンジャン水洗いしよう。ポリエチレングリコールモノエーテルは水溶性なので水で洗い流せるのだ(汎用のパーツクリーナーも溶剤が入っているので樹脂や塗装部に使わないコト! かえって被害が拡大する危険アリ)。
一般ライダーにも効果アリ、お気に入りを探そう!
とはいえ一般ライダーは燃料タンクにアゴが着くほど前傾姿勢を取らないし、日常的に300km/hで走ることも無いから、フルードカップにバンドを巻く意味はない……というワケでも無い。ブレーキフルードは樹脂や塗装を傷める性質があるからだ。
もしキャップから滲んだブレーキフルードが、カウリングや燃料タンクのペイントに付着したのを気づかずにいると、比較的短時間で塗装が溶けてしまう。しかしバンドを巻いておけばブレーキフルードを吸着するので、飛散や付着の心配がないのだ(たまには外して洗濯しよう)。
じつはWEBで検索すると、かなりの種類が販売されていて、有名なレースチームやパーツメーカーなどもリリースしていたりする。そしてフルードカップ専用品でなくても、サイズさえ合えば昔のようにスポーツ用のリストバンドを流用するのもアリだろう。
ホンダのMotoGPワークスマシンRC213Vもしっかり装備(写真は2022年シーズンのマルク・マルケス車)。HRCでは実際にレースで使用しているカップバンドと同一品を「ワークスパーツ」として販売しており(詳細はこちら)、全国のHRCサービスショップで購入が可能だ。
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