出る杭は打たれる? 自主規制で最高出力が横並びに
リッター100馬力超えを目指した70年代から、達成後にさらなるパワーアップに邁進した80年代。空前のバイクブームと続くレプリカブームも重なり、短期間で驚くほど最高出力がアップしていった。……が、こうなると出てくるのが「最高出力の自主規制」。レプリカ系バイクの事故の増加や、原付(50cc)の使用目的に比べて性能が高過ぎるなど(真偽は定かでないが)諸々の理由により、排気量に応じて最高出力を定めたのだ。
馬力自主規制の推移
1989年に馬力自主規制が明文化され、92年には250と400がさらに引き下げられた。そして2007年に撤廃された。参考値として各クラスのリッター当たりの馬力も表記した。
そのため、どのメーカーも性能重視のロードスポーツモデルは、同排気量ならパワーは基本的に規制上限の横並び。この最高出力に届かない空冷単気筒のヤマハのSR400や、2気筒のホンダのBROSプロダクトIIのようなバイクは「変わり種」、「テイスティなモデル」といった具合に妙なカテゴライズをされたり、4気筒で届いていないと「低性能」と捉えられることもあり、ある意味で不遇な時代ともいえた。
また輸出モデルがメインとなる大排気量車においては、国内モデルが大幅にパワーダウンすることも多く、そのため逆輸入車の人気が高まった。
1990年 ヤマハ VMAX1200
国内モデル 1197cc 97馬力 [リッター81馬力]
輸出モデル 1197cc 145馬力 [リッター121.1馬力]
国内モデルの排気量上限の自主規制が撤廃されて第1段のVMAXは輸出モデルより大幅にパワーダウン。国内モデルにはVMAXの大きな魅力であるVブースト・システムが装備されなかったのが残念だった。
2007年 ホンダ CBR1000RR
国内モデル 998cc 94馬力 [リッター94.2馬力]
輸出モデル 998cc 172馬力 [リッター172.3馬力]
最高出力の自主規制が撤廃された2007年に、1000ccスーパースポーツで唯一国内モデルを販売していたホンダのCBR1000RR。デチューンされて最高出力は輸出モデルの半分強しかなかった。
自主規制撤廃で最高出力はどうなった?
最高出力の自主規制は日本自動車工業会と国土交通省の合意の元に、2007年7月に廃止された。ちなみに規制撤廃の理由は明確ではないが、規制を受けない海外メーカーや逆輸入車の増加により、国内販売モデルのみを規制する意味が薄れた(および不公平)からかもしれない。
それでは2007年に最高出力の自主規制が撤廃されたことで、かつてのように馬力競争が再燃したかというとさにあらず。時代は排出ガス規制と騒音規制が厳しさを増しており、これらの規制をクリアすること自体が高いハードルになっていたからだ。そのため、日本メーカーのバイクで最高出力を競うのは、スーパーバイクレースのベース車両となる1000ccスーパースポーツだけかも……というのが実情だ。
もちろんバイクのスポーツ性の高さは最高出力で決まるわけではなく、シャシーや足周りをはじめ、出力特性のモード切り替えやトラクションコントロール等の電子デバイスも大きく影響するので、近年はトータルでの性能や扱いやすさが重視されている。
そこで、かつてのメジャーな排気量ジャンルにおける、現在の国内販売モデルで最高出力を発揮する車両を挙げてみた。近年はグローバル化が進んだため400や750はマイナー化し、現代において「ミドルクラス」と呼ばれる500~1000ccの間はより細分化されたので比較にそぐわない感もあるが、自主規制時代の最高出力と見比べると変化の大きさに気づくだろう。
250ccクラス カワサキ Ninja ZX-25R
249cc 45馬力(ラムエア加圧時:46馬力)[リッター180.7馬力(184.7馬力)]
クラス唯一の4気筒エンジンを搭載。ラムエア加圧時の46馬力は自主規制の45馬力を上回るので、過去から現在に至るまで250ccで最大のパワーとなる。
400ccクラス カワサキ Ninja 400
398cc 48馬力 [リッター120.6馬力]
水冷2気筒DOHC4バルブエンジンを搭載。ネイキッドのZ400も同出力。ちなみに400cc最強馬力は4気筒のスズキのGSR400(2009年以降のモデル~2018年で生産終了)で、398cc 61馬力 [リッター153.3馬力]だ。
750ccクラス ホンダ NC750X
745cc 58馬力 [リッター77.9馬力]
水冷で270°位相クランクの並列2気筒は穏やかで扱いやすい特性。4気筒ナナハンは消滅してしまったが、最後の4気筒モデルはスズキのGSX-S750で749cc 112馬力 [リッター149.5馬力]で、自主規制時のナナハンよりかなりパワフルだ。
1000ccクラス ホンダ CBR1000RR-R FIREBLADE
999cc 218馬力 [リッター218.2馬力]
スーパーバイクのベース車だけに超高出力で、自主規制時に比べ2倍以上のパワーを誇る。とはいえ、この先には厳しさを増す欧州の排ガス規制ユーロ6が控えているので、現行モデルが最強にして最後の大パワー車となる可能性もある。
市販最強パワーのバイクは?
やはり最高出力といえばスーパーバイクレースのベースとなる1000ccスーパースポーツ車で、国内外を問わず総じて200馬力オーバー。その中で現時点でのトップがドゥカティのパニガーレV4Rだ。
しかし量産市販車で最強馬力といえばカワサキのNinja H2。スーパーチャージャーの威力は絶大で231馬力を発揮し、ラムエア加圧時には242馬力に達するが、もちろん公道走行が可能。2021年モデルを最後に国内販売を終了したのが残念だ。
そして量産市販車ながら公道走行不可、しかもレーシングマシンでもないNinja H2Rは、なんと300馬力オーバー! 一般ライダーには縁遠いバイクかもしれないが、大いに夢のある存在だ。
2023年 ドゥカティ パニガーレV4R
998cc 218/237/240.5馬力 [リッター218.4/237.5/241馬力]
スーパーバイクレースのレギュレーションに合わせたホモロゲーションマシン。公道仕様で218馬力を発揮し、レーシングエキゾーストを装着すれば237馬力、さらに専用エンジンオイルを用いれば240.5馬力に達する。
2021年 カワサキ Ninja H2 CARBON
998cc 231馬力(ラムエア加圧時:242馬力)[リッター231.5馬力(242.5馬力)]
スーパーチャージドエンジンを搭載。国内では販売終了したが、北米では2023年モデルを販売(予約はすでに終了)。ちなみに公道走行不可のNinja H2Rは北米や欧州でも2023年モデルが販売されており、こちらは最高出力310馬力(ラムエア加圧時:326馬力)を発揮する。
厳しい時代に「希望の星」が現れた!?
カワサキ Ninja ZX-4RR
399cc 77馬力(ラムエア加圧時:80馬力)[リッター193馬力(200.5馬力)]
カワサキは2月1日にNinja ZX-4Rシリーズを発表。国内導入は2023年秋を予定。
前述したように2007年に国内モデルの最高出力の自主規制は撤廃されたが、現在は厳しさを増す排出ガス規制によって高出力化のハードルがかなり高くなっている。それはスポーツバイクメーカーが威信をかける1000ccスーパースポーツ車の存続にも影響を及ぼすほどで、かつてのようなパワー競争はもう訪れないかもしれない。
もちろんバイクのスポーツ性能は馬力の高さがすべてではないし、排気量やカテゴリーにかわからず公道を走る上では現行バイクのパワーでまったく問題ないだろう。とはいえバイクを「趣味の持ち物」と考えると、馬力の進化が止まってしまうことに寂しさを覚えるライダーもいるだろう。
そんな昨今の状況の中で、カワサキが発表したNinja ZX-4Rの登場は非常に明るいニュースだ。排出ガス規制に対応しながら77馬力(ラムエア加圧時:80馬力)ものパワーを発揮。リッター馬力に換算すれば、それこそ1000ccスーパースポーツに迫る193馬力(200.5馬力)だ。このようなメーカーの頑張りがあればこそ、ライダーの愉しみや悦びも続いていくのだ。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
バイクやクルマは長く乗るほど扱いが厳しくなる… 10年経つと車検のスパンが短くなる!? 車検とは、正式には「自動車継続審査」のこと。道路運送車両法によって、バイクの場合は251cc以上の小型二輪車に法[…]
70~80年代にキックスターターからセルフ式に移行 現行バイクはスターターボタン(セルボタン)を押すだけで簡単にエンジンが始動できる。しかし1960年代頃までのバイクは、ほとんどが「キックスターター」[…]
ドラムブレーキの歴史は長いが…… この世にバイクが登場し、自転車フレーム+エンジンから、いわゆるオートバイ型になってからは、長い間ドラムブレーキが主流だった。しかし1979年にホンダがCB750FOU[…]
国産バイクのほとんどがステンレス製ディスクを採用 現代のバイクのブレーキは油圧ディスクが一般的。そしてディスクローターの材質は、MotoGPマシンを除けばすべてが「ステンレス」といって過言ではない。じ[…]
FI(フューエルインジェクション)の登場で燃料コックが消滅 FIなのに燃料コックを装備する変わり種 ON、OFF、PRI、RES。燃料コックにも種類がある リザーブは「予備タンク」ではない!? 燃料コ[…]
最新の関連記事(ミリオーレ)
孤高のパニガーレV4Sと友好的なパニガーレV2S パニガーレV4Sでサーキットを3本ほど走ると、強烈な疲労感が僕の身体を襲う。汗は止まらず、足腰に力が入らなくなる。試乗直後は格闘技を終えたような感じだ[…]
ファッションからスポーツまで。現代のバイクライフにフィット このバイクは只者じゃない−−。僕はマヨルカ島のリゾートホテルのエントランスに鎮座するトライアンフの「スピードツイン1200RS」に初対面した[…]
ライダーを様々な驚きで包み込む、パニガーレV4S 5速、270km/hからフルブレーキングしながら2速までシフトダウン。驚くほどの減速率でNEWパニガーレV4Sは、クリッピングポイントへと向かっていく[…]
駒井俊之(こまい・としゆき)/1963年生まれ。バイクレース専門サイト「Racing Heroes」の運営者。撮影から原稿製作まで1人で行う。“バイクレースはヒューマンスポーツ”を信条に、レースの人間[…]
駒井俊之(こまい・としゆき)/1963年生まれ。バイクレース専門サイト「Racing Heroes」の運営者。撮影から原稿製作まで1人で行う。“バイクレースはヒューマンスポーツ”を信条に、レースの人間[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
生産累計1億台、60周年の原点モデル 初代スーパーカブはホンダ創業の本田宗一郎氏と藤澤武夫氏が直接開発の先頭に立ったオートバイ。それに続く東南アジアのドリーム、WAVEなどを含む歴代スーパーカブシリー[…]
デビュー時は2スト125で敵ナシ状態! 1982年のヤマハRZ125が生んだムーブメントは、高速道路へ入れないマイナーな125スポーツだったのを、2ストの水冷化で通勤通学だけでなくレースへ興じる層が加[…]
ライバルとは一線を画す独自の手法で効率を追求 妥協の気配が見当たらない。GS400のメカニズムを知れば、誰もがそう感じるだろう。 フレームはGS750と同様の本格的なダブルクレードルだし、気筒数が少な[…]
250cc2気筒の水冷Newエンジンだけではないテクノロジーによる軽量化! 1980年、世界中を震撼させたRZ250がリリースされた。 排気ガス規制で1970年代中盤を過ぎると軽くてシンプルな高性能と[…]
随所に専用部品を投入したZシリーズ初のR仕様 Z1000の派生/上級機種として’78年に登場したZ1‐Rは、評価がなかなか難しいモデルである。まず当時の流行だったカフェレーサーの手法を取り入れながら、[…]
人気記事ランキング(全体)
日本仕様が出れば車名はスーパーフォアになるか ホンダの名車CB400スーパーフォアが生産終了になって今年ではや3年目。入れ替わるようにカワサキから直列4気筒を搭載する「Ninja ZX-4R」が登場し[…]
トレリスフレーム+ユニトラックサスペンションの本格派 カワサキは欧州で、15psを発揮する水冷125cc単気筒エンジンをスチール製トレリスフレームに搭載し、前後17インチホイールを履かせたフルサイズス[…]
125ccクラス 軽さランキングTOP10 原付二種は免許取得のハードルも低く、手軽に楽しめる最高の相棒だ。とくに重要なのは「軽さ」だろう。軽ければ軽いほど、街中での取り回しは楽になるし、タイトなワイ[…]
高級感漂うゴールドカーキのデザイン 「IQOS ILUMA PRIME ゴールドカーキ」は、その名の通り落ち着いたゴールドトーンとカーキを組み合わせた洗練デザインが特徴です。手に取った瞬間に感じられる[…]
PROGRIP専用の信頼接着剤 デイトナ(Daytona)の「グリップボンド PROGRIP 耐振ゲルタイプ専用 12g 93129」は、PROGRIP用に設計された専用接着剤です。容量は12gで、初[…]
最新の投稿記事(全体)
滑りにくさと耐久性を両立したソール設計 アシックスの安全靴「WINJOB CP113」は、油で劣化しにくく耐久性に優れたCPグリップソールを採用。濡れた床や油で汚れた現場でも安定したグリップ性能を発揮[…]
生産累計1億台、60周年の原点モデル 初代スーパーカブはホンダ創業の本田宗一郎氏と藤澤武夫氏が直接開発の先頭に立ったオートバイ。それに続く東南アジアのドリーム、WAVEなどを含む歴代スーパーカブシリー[…]
W230/MEGURO S1 デビュー応援キャンペーン 株式会社カワサキモータースジャパンが、2025年9月1日(月)より、全国のカワサキプラザにおいて「W230」および「MEGURO S1」の新車([…]
デビュー時は2スト125で敵ナシ状態! 1982年のヤマハRZ125が生んだムーブメントは、高速道路へ入れないマイナーな125スポーツだったのを、2ストの水冷化で通勤通学だけでなくレースへ興じる層が加[…]
ツーリングスポットに事欠かない南伊豆 南伊豆を存分に走り抜けたいなら、「県道16号下田石廊崎松崎線」は欠かせない。伊豆半島最南端の石廊崎へ続くこの道は、海岸線沿いの豪快な絶景海道。漁村が点在する東部の[…]