出る杭は打たれる? 自主規制で最高出力が横並びに
リッター100馬力超えを目指した70年代から、達成後にさらなるパワーアップに邁進した80年代。空前のバイクブームと続くレプリカブームも重なり、短期間で驚くほど最高出力がアップしていった。……が、こうなると出てくるのが「最高出力の自主規制」。レプリカ系バイクの事故の増加や、原付(50cc)の使用目的に比べて性能が高過ぎるなど(真偽は定かでないが)諸々の理由により、排気量に応じて最高出力を定めたのだ。
馬力自主規制の推移
そのため、どのメーカーも性能重視のロードスポーツモデルは、同排気量ならパワーは基本的に規制上限の横並び。この最高出力に届かない空冷単気筒のヤマハのSR400や、2気筒のホンダのBROSプロダクトIIのようなバイクは「変わり種」、「テイスティなモデル」といった具合に妙なカテゴライズをされたり、4気筒で届いていないと「低性能」と捉えられることもあり、ある意味で不遇な時代ともいえた。
また輸出モデルがメインとなる大排気量車においては、国内モデルが大幅にパワーダウンすることも多く、そのため逆輸入車の人気が高まった。
自主規制撤廃で最高出力はどうなった?
最高出力の自主規制は日本自動車工業会と国土交通省の合意の元に、2007年7月に廃止された。ちなみに規制撤廃の理由は明確ではないが、規制を受けない海外メーカーや逆輸入車の増加により、国内販売モデルのみを規制する意味が薄れた(および不公平)からかもしれない。
それでは2007年に最高出力の自主規制が撤廃されたことで、かつてのように馬力競争が再燃したかというとさにあらず。時代は排出ガス規制と騒音規制が厳しさを増しており、これらの規制をクリアすること自体が高いハードルになっていたからだ。そのため、日本メーカーのバイクで最高出力を競うのは、スーパーバイクレースのベース車両となる1000ccスーパースポーツだけかも……というのが実情だ。
もちろんバイクのスポーツ性の高さは最高出力で決まるわけではなく、シャシーや足周りをはじめ、出力特性のモード切り替えやトラクションコントロール等の電子デバイスも大きく影響するので、近年はトータルでの性能や扱いやすさが重視されている。
そこで、かつてのメジャーな排気量ジャンルにおける、現在の国内販売モデルで最高出力を発揮する車両を挙げてみた。近年はグローバル化が進んだため400や750はマイナー化し、現代において「ミドルクラス」と呼ばれる500~1000ccの間はより細分化されたので比較にそぐわない感もあるが、自主規制時代の最高出力と見比べると変化の大きさに気づくだろう。
市販最強パワーのバイクは?
やはり最高出力といえばスーパーバイクレースのベースとなる1000ccスーパースポーツ車で、国内外を問わず総じて200馬力オーバー。その中で現時点でのトップがドゥカティのパニガーレV4Rだ。
しかし量産市販車で最強馬力といえばカワサキのNinja H2。スーパーチャージャーの威力は絶大で231馬力を発揮し、ラムエア加圧時には242馬力に達するが、もちろん公道走行が可能。2021年モデルを最後に国内販売を終了したのが残念だ。
そして量産市販車ながら公道走行不可、しかもレーシングマシンでもないNinja H2Rは、なんと300馬力オーバー! 一般ライダーには縁遠いバイクかもしれないが、大いに夢のある存在だ。
厳しい時代に「希望の星」が現れた!?
前述したように2007年に国内モデルの最高出力の自主規制は撤廃されたが、現在は厳しさを増す排出ガス規制によって高出力化のハードルがかなり高くなっている。それはスポーツバイクメーカーが威信をかける1000ccスーパースポーツ車の存続にも影響を及ぼすほどで、かつてのようなパワー競争はもう訪れないかもしれない。
もちろんバイクのスポーツ性能は馬力の高さがすべてではないし、排気量やカテゴリーにかわからず公道を走る上では現行バイクのパワーでまったく問題ないだろう。とはいえバイクを「趣味の持ち物」と考えると、馬力の進化が止まってしまうことに寂しさを覚えるライダーもいるだろう。
そんな昨今の状況の中で、カワサキが発表したNinja ZX-4Rの登場は非常に明るいニュースだ。排出ガス規制に対応しながら77馬力(ラムエア加圧時:80馬力)ものパワーを発揮。リッター馬力に換算すれば、それこそ1000ccスーパースポーツに迫る193馬力(200.5馬力)だ。このようなメーカーの頑張りがあればこそ、ライダーの愉しみや悦びも続いていくのだ。
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