[伊藤由里絵 日本一周の思い出]靴磨きをきっかけに地元を初めて飛び出したおじいさんの話
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●文:[クリエイターチャンネル] 伊藤由里絵
富山県で靴を磨いていたときのこと。「君、面白いことしてるねー」と声をかけてくれたのはロードバイクに乗ったとあるおじいさんでした。
「こんにちは! 今このバイクで日本一周しながら靴磨きしているんです。良かったら磨いていきませんか? 今履いているスニーカーでも大丈夫ですよ」
「いやー、これから麻雀行くから。応援だけしてるよ!」
「そうなんですね、行ってらっしゃい!」
そんな他愛もない会話をしました。スポーティーなロードバイクに跨がるおじいさんというギャップが何とも新鮮で、ほんの数分の出来事でしたがとても印象的だったのを覚えています。
靴磨きの途中で声をかけてもらうことはよくあることですが、これがキッカケでおじいさんの生活が大きく変わることになんて、この時は想像もしていませんでした。
人生で初めて人にやってもらった「靴磨き」
日本一周中の靴磨き場所は行き当たりばったりでは無く、事前にお店とのコラボを企画して靴磨きイベントを開催します。富山県では、SOGAWA BASEという商業施設の入り口前を数日間お借りして靴磨き屋をオープンさせました。
ここの人通りが多いこと! 商店街の一角だったこともあり、若者からお年寄りまで人が行き交う活気ある通りです。今までで一番なんじゃないかというほどたくさんのお客様が来てくださり、ノンストップで初日営業が終了する頃、ふらっと現れたのはロードバイクのおじいさん。
「あれ、まだやってるんだ」
「ちょうど今日は終わるところですよ。麻雀どうだったんですか?」
「勝ったよ! 朝から面白い人見れたから運が上がったんだな」
「そしたら、靴を磨いたらもっと運が良くなるかもしれませんね!」
「そうだな! じゃあ磨いてもらおうかな」
おじいさんのスニーカーは真新しいものではないのに汚れが全然目立たず、それだけでもおじいさんが身だしなみに気を配っている方なのだということが分かりました。スニーカーを磨かれていく様子に注目しながらも、おじいさんは楽しそうに自分のことを話してくれました。
「現役の頃は毎日リーガルの靴を履いて仕事に行っていたんだよ。靴を磨くのも好きでね、独り身だからずっと自分で靴を磨いてきた。人に磨いてもらうのはこれが人生で初めてだ」
富山県で生まれて富山県で過ごしてきたおじいさんは一度もほかの県に出たことが無く、いつもの麻雀に向かう光景の中にいきなり見慣れないバイクが止まっていて、思わず声をかけてみたのだそう。
「俺はこのロードバイクが相棒だけど、君のバイクもかっこいいね。それでどこにでも行っちゃうなんて憧れるなぁ。次はどこに行くの?」
「ここが終わったら、次は隣の石川県で靴磨きしますよ!」
磨き終わった靴を渡すとおじいさんは嬉しそうに相棒に跨がって、颯爽と帰っていきました。
ほかの県でまさかの再会!?
予定通り数日後、石川県に向かってバイクを走らせ次の場所で靴磨きをしていると、なんと遠くからおじいさんが歩いてくるのが見えたんです。なんかすごい大きな荷物を持ってる…!
「いやー、来ちゃったよ!」そう言っておじいさんは大きなバッグの中から現役当時履いていたというリーガルの靴を5足取り出して並べ始めます。 来ちゃったって…! あれ? 富山から出たことなかったんじゃなかったっけ??
「磨いてもらったスニーカーを見てたらね、あなたが今も日本のどこかで頑張ってるんじゃないかなって思い出すんだよ。そしたら今まで一度も富山を出たいと思ったこともないのに、気付いたら新幹線に乗って富山を飛び出してたよ!!」
最初は驚いたけど、驚き以上におじいさんとまた会えたことがとにかく嬉しくて、並べられたリーガルをせっせと磨き始めました。旅は一期一会と思っていたけど、こうしてまた会えることもあるんだ…と思えた出来事でした。
おじいさんが見つけた新しい趣味
「新幹線に乗ってみて、どうでしたか?」
「日本はこんなに綺麗なんだね。外に出る素晴らしさを教えてくれてありがとう。今までは麻雀しかしてなかった、でもこれからは旅行が俺の趣味になりそうだよ。」
今でもおじいさんはふらっと靴磨きイベントに現れては、当時履いていたリーガルを並べていきます。そしてピカピカに仕上がった靴を履いて、新しい県の旅行を楽しまれているようです。
靴磨きの素敵なところは、単に靴が綺麗になるだけではなくて、持ち主の心までも明るくなってしまう、そして磨いている私も笑顔になれるところです。この出会いを通して、いつしかおじいさんの旅行話を聞くことが私の楽しみの一つにもなってきました。
また日本のどこかで会えるといいなと今日も靴をせっせと磨くいとでした。
イベント終了後、石川県の徳光海岸へ駆けつけて見れた夕焼け
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