直線基調のZ1RからZ1000MkIIを経て国内で大人気に 1979年カワサキ「Z400FX」【柏 秀樹の昭和~平成 カタログ蔵出しコラム Vol.6】

●文/カタログ画像提供:[クリエイターチャンネル] 柏秀樹 ●外部リンク:柏秀樹ライディングスクール(KRS)
ライディングスクール講師、モータージャーナリストとして業界に貢献してきた柏秀樹さん、実は無数の蔵書を持つカタログマニアというもう一つの顔を持っています。昭和~平成と熱き時代のカタログを眺ていると、ついつい時間が過ぎ去っていき……。そんな“あの時代”を共有する連載です。第6回は、1979年に登場した“フェックス”ことカワサキ「Z400FX」です。
カワサキデザインのDNAそして走りはミドル級ザッパー
空冷DOHC4気筒400ccバイクの中でもっとも威風堂々としていたバイク、といえば1979年登場のカワサキZ400FXです。
俗に「フェックス」と呼ばれたZ400FXは当時、最先端のデザイントレンドというべき角張ったカフェレーサースタイルを導入しながら、同時に見た目の大きさが際立っていたことです。
まずはサイズ感。Z400FXは国内にも販売されたZ550FXと同時開発の姉妹車だったから、見た目ではなく実際のサイズの数値として400ccにしては大きかったのです。
Z400FX 主要諸元■全長2100 全幅785 全高1125 軸距1380 シート高─(各mm) 車重189kg(乾)■空冷4ストローク並列4気筒DOHC 399cc 43ps/9500rpm 3.5kg-m/7500rpm 燃料タンク容量15L■タイヤサイズF=3.25H-19 R=3.75H-18 ●当時価格:38万5000円
約2年後の1981年にホンダが肝入りで市場投入したCBX400Fに対して全長で+40mmの2100mm、全幅は+65mmの785mm、全高は+45mmの1125mmだったから大きく見えて当然。偶然にもホイールベースはCBX の1380mmと同じですがZ400FXは前輪19インチ装備だから、なおのこと前輪18インチのCBX400Fよりも車格がひとクラス上に見えたのです。
ホンダは同時開発のCBX550Fにフレームマウント型ハーフカウル装備のCBX550Fインテグラを国内にも投入しましたが、あくまでもCBX400Fインテグラとほぼ同じサイズ。なのでZ400FXのサイズ感はCBX550Fインテグラ比較でも優位でした。
400ccバイクを上限とする中型2輪免許所持のライダーにしてみれば少しでも大きく堂々と見えることは、まさに直球ストレートな正義でした。その頃は前輪19インチが次第に少数派になりつつあった時代で次は18インチとなり、さらにレーシーなバイクとして前輪16インチの技術的な流れが1980年代初頭に来ていても19インチの存在感は根強い強さを持っていました。
存在感といえば角張ったタンクデザインも大きくゴツい=力強い外観のアピールに大きく貢献したと言えるでしょう。ティアドロップ型タンクがたとえば繊細で女性的な美とすれば角形は剛直で男性的な筋肉美ともいえます。
しかもZ400FXは単独で角張ったスタイルをアピールしたのではないのです。ティアドロップ型燃料タンクを持つスポーツ車の傑作として世界的ベストセラーとなった1972年登場の傑作車Z1。カワサキはそのスタイルに固執し続けることなく新たな挑戦として直線基調のZ1Rを1970年代末期に市場投入。
これをスタディモデルとして、より多くの支持が得られるデザインへリファイン。その代表がZ1に勝るとも劣らぬ人気のZ1000MKⅡでした。国内仕様のZ750FXそしてZ400FXさらにZ250FTまで、デザイン的に統一感のある車種構成ながら、それぞれの排気量で独自の美を構成するところがいかにもZ1で絶対の自信を得たカワサキの秀作シリーズだったとも言えます。
さらにZ400FXの次世代Z400GPでは直線基調のタンクとしながらサイドカバー部にタンクからリアカウルに流れるような流麗な曲線を加味するZ400GPとし、これをベースに「ナメクジ」と呼ばれる空冷エンジン+ストリームラインのGPZシリーズへと進めていくのです。まさにカワサキのデザインには長い時間で育んできたストーリーがあるのです。
こちらは1980年モデルの車体色。タンクからシートカウルにかけての2本のストライプは、のちのZ400GPなども採用した。
400専用のボア・ストロークが与えられたZ400FX
カワサキほど、それぞれの時代ごとに明確なデザインメッセージを発信しながら、排気量の大小によるシリーズ化戦略を力強く継続展開してきたメーカーはありそうで実は存在しません。
もちろん外観だけでなく走りでもZ400FXは400ccクラス最速の「ザッパー」を目指して開発が進みました。
かつてカワサキは量産車世界最速のZ1(900cc)を国内販売しようとしたのですが、多発する交通事故が社会問題になっている国内バイク市場で排気量は750ccまでという販売自主規制の流れを受けて4気筒750の販売を止めるか、販売する場合はZ1のボアダウン版か、ボアとストロークの両方を最適化するかの選択を迫られたのです。そしてボアダウンだけの750Z2だけは絶対にやらない。やるなら750専用のボア・ストロークという開発エンジニアの意地が優先されたのです。
ボアダウンによるナナハン化はコスト削減には良いけれど、走りにメリハリがなくなるからです。
Z1とZ2の関係のように、カワサキはZ400FXの開発で400専用のボア・ストロークを採択しました。これにより、きっちり吹き上がる4気筒400のザッパー、Zの名に恥じない「フェックス」が生まれたのです。
Z400FXは今も大切に残すべきカワサキデザインのDNAそのもの。同時に、紛れもなくあの時代の先頭をいく走りの名車だったのです。
ヤングマシン 1979年5月号より。「走り、精悍──ジェットフィール!」とある。カラーバリエーションは、ファイアクラッカーレッドのほか、メタリッククリスタルシルバー、エボニーが展開された。
参考: ヤングマシン1979年5月号は「特大号1979国産車オールカタログ」と銘打ち、特価450円だった。表紙を飾ったのはマチレスG80。
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(柏秀樹)
1969年の袋井テストコース完成が英国車に負けないハンドリングを生んだ ヤマハ初の4サイクルスポーツ車といえば1970年登場のヤマハスポーツ「650 XS-1」です。XS登場の約1年前にデビューしたC[…]
真摯な取り組みから生まれたスズキの良心だった 日本初のナナハンことホンダ「CB750フォア」に対し、GT750は2年後の1971年9月に登場しました。何に感動したかって、低回転のままスルスルっと滑るよ[…]
日本メーカーによる大排気量車ブーム、その先駆けが750フォア 「威風堂々!」 「世界を震撼させた脅威のスペック!」 「日本の技術力を名実ともに知らしめた記念すべき名車!」 1969年デビューのホンダC[…]
カワサキZ400FXを凌ぐため、ホンダの独自技術をフル投入 ホンダが持っている技術のすべてをこのバイクに投入しよう! そんな意欲がヒシヒシと伝わってくるバイク、それが1981年11月に登場したCBX4[…]
美に対する本気度を感じたミドル・シングル ひとつのエンジンでロードモデルとオフロードモデル、クルーザーモデルまでを生み出す例って過去に山ほどありますけど、プランニングからデザインのディテールまでちゃん[…]
最新の関連記事(柏秀樹の昭和~平成カタログ蔵出しコラム)
「世界初の量産250ccDOHC水冷4気筒エンジン」が生み出す最上の乗り味 1983年3月。デビューしたてのGS250FWに乗った印象といえば「速い!というよりすべてがスムーズ。鋭い加速感はないけど必[…]
当時の表記はみんな“並列だった” 現在のヤマハ大型モデルの主軸となるパワーユニットといえば3気筒エンジン。MT-09やトレーサー9GTに搭載されているこのエンジンはDOHC水冷3気筒888cc、120[…]
高性能よりも高感度 現在のロング&ベストセラーモデルの筆頭として君臨しているホンダのレブルシリーズ。そのルーツは1985年デビューした250ccの「レブル」に遡ります。 1985年といえばハイテク満載[…]
最高のハイバランス600ccマルチ! 今回ご紹介するカワサキGPZ600Rは、1985年6月1日に66万9000円(限定1000台)で発売されました。 1980年代半ばといえば400ccクラスが人気の[…]
スズキではレアだった並列2気筒は、GSX-8Sの遠い先祖かも? 今回ご紹介するスズキGR650は1983年3月30日にデビューしました。 1983年といえば、日本のバイク史に記憶される年号のひとつと思[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
Zを知り尽くしたエンジニアならではの勘ドコロを押えた絶品設計! 1989年のゼファー(400)が巻き起こしたネイキッド・ブーム。 カワサキはこの勢いをビッグバイクでもと、1990年にゼファー750と1[…]
ザッパーシリーズの多種多様な展開 トータルでの歴史は30年以上に及ぶザッパーシリーズだが、その存在意義は’80年代以前と’90年代以降で大きく異なっている。まず’80年代以前の主力機種は、クラストップ[…]
ヤマハ・ハンドリングの真骨頂、パイプ構成では得られないデルタ形状アルミ鋼板フレーム! 1980年に2スト復活を世界にアピールしたヤマハRZ250の衝撃的なデビューに続き、1983年にはRZ250Rで可[…]
RZ250を上回る新テクノロジー満載! 1979年にホンダがリリースした、まさかの2ストローク50ccスポーツのMB50(広告なでの名称はMB-5)。 250ccやビッグバイクのスケールダウン・デザイ[…]
現在に続くミドルクラスの基盤は日本メーカーが作った ’70年代の2輪業界における最大のトピックと言ったら、日欧のメーカーが歩調を合わせるかのように、ナナハン以上のビッグバイクを発売したことだろう。もっ[…]
人気記事ランキング(全体)
名機と呼ばれるVツインエンジンを搭載! 今や希少な国内メーカー製V型2気筒エンジンを搭載するSV650/Vストローム650が生産終了となり、名機と呼ばれた645ccエンジンにひっそりと幕を下ろしたかに[…]
より高度な電子制御でいつでもどこでも快適な走りを!! 【動画】2026 CB1000GT | Honda Motorcycles ホンダがEICMA 2025にて発表した「CB1000GT」は、「Hi[…]
スポーツライディングの登竜門へ、新たなる役割を得たR7が長足の進化 ミラノで開催中のEICMA 2025でヤマハの新型「YZF-R7(欧州名:R7)」が登場した。2026年から従来のワールドスーパース[…]
背中が出にくい設計とストレッチ素材で快適性を確保 このインナーのポイントは、ハーフジップ/長めの着丈/背面ストレッチ素材」という3点だ。防風性能に特化した前面と、可動性を損なわない背面ストレッチにより[…]
ニンジャH2 SX SE 2026年モデル発売! スーパーチャージャー搭載のスポーツツアラー「Ninja H2 SX SE」の2026年モデルが、2025年11月1日に発売。おもな変更点は、カラー&グ[…]
最新の投稿記事(全体)
老舗の叡智が凝縮された「もちはだ」腹巻き 寒さ厳しい冬ともなると、ライダーにとって、腹部の冷えは大敵だ。体幹が冷えると全身のパフォーマンスが低下し、ライディングにも集中できなくなる。そんな冬の鉄板防寒[…]
軽量ハイパワー400cc「DR-Z4S/DR-Z4SM」が最新装備で復活 スズキが新型デュアルパーパスモデル「DR-Z4S」と、スーパーモトモデル「DR-Z4SM」の日本導入を正式発表。2025年10[…]
11/1発売:カワサキ Z250 カワサキ「Z250」はニンジャ250と骨格を共有するこの軽二輪スーパーネイキッドは、アグレッシブな「Sugomi」デザインを継承。軽さと力強さを併せ持つ本格的スーパー[…]
長距離や寒冷地ツーリングで感じる“防寒装備の限界” 真冬のツーリングでは、重ね着をしても上半身の冷えは避けにくい。特に風を受ける胸や腹部は冷えやすく、体幹が冷えることで集中力や操作精度が低下する。グリ[…]
冬の走行で感じる“体幹の冷え”との戦い 真冬のツーリングでは、外気温が5℃を下回ると防風ジャケットを着ていても体幹が冷えやすい。特に走行風が首元や袖口から侵入し、次第に体の芯まで冷えが伝わると、集中力[…]
- 1
- 2













































