抜群の扱いやすさで20年ものあいだ愛され続けたセロー225。キャブレターをフルオーバーホールして完調に!

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ヤマハ セロー225|キャブレターオーバーホール

1985年のデビューから2004年まで、約20年に渡るロングセラーとして多くのユーザーに愛されたヤマハ セロー225。競技志向のオフロードモデルではなく、ツーリングと林道を組み合わせたようなライディングに対応するキャラクターを持つセローは、足着き性に優れた低いシート高やスリムで軽量な車体が高く評価されました。キック始動オンリーだった初代からセルモーターが追加され、アルミメッキシリンダーや鍛造ピストンが採用されるなど時代とともに進化したセローには、おもに2タイプのキャブレターが装着されました。キースターは初期型用から最終モデル用まで6種類の燃調キットをラインナップし、セローを乗り続けるライダーたちを応援します。

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高いポテンシャルを持ちながら肩の力を抜いて乗れる二面性で大ヒット

セローが登場した1985年は、オンロードでは本格的なレーサーレプリカブームが到来する頃でした。オフロードも同様で、パンチのある2ストロークエンジンとストロークの長いサスペンションを組み合わせたモトクロッサーのようなモデルが人気を集めていました。

そんな中でセロー225は、最高出力より粘りを重視した4ストロークエンジンや取り回しの良い軽量な車体、足着き性の良い低いシート高など、当時のトレンドと逆行するような仕様で登場。

ところがこれがいわゆる“普通”のライダーに受けて、まずは林道ツーリングマシンとして大ヒット。スリムで軽い車体は街乗りでも扱いやすく、オンロードユースでも好評を博します。

その結果、初期モデルのコンセプトを受け継ぎつつさまざまな仕様変更を繰り返しながら、2004年まで販売される超ロングセラーとなりました。

キャブレターに注目すると、初期型はトレールモデルの標準装備ともいえるピストンバルブ式が採用されたものの、1987年のマイナーチェンジ時に負圧式に変更されました。これはスロットル操作に対する柔軟性をアップさせる目的があり、ガバ開けしてエンストするリスクが低減しました。

その仕様変更と前後してセルモーターが装備されたのも、セローが長寿モデルとなる重要なカギになりました。小柄な車体に魅力を感じてセローを購入した女性ライダーにとって、ボタンひとつで再始動できるセルモーターはエンストに対する恐怖心を取り除いてくれたのです。

もちろん、荒れた林道でスタックしてエンストしたような時には、男性ライダーにとってもありがたい装備だったのは間違いありません。

キースターではセロー225用として以下のセットを設定しています。

  • ・初期型1KH/1RF用(1985~1986年)
  • ・3RW用(1989~1993年)
  • ・4JG1用(1993~1994年)
  • ・4JG2-4用(1995~1997年)
  • ・4JG5-6用(1997~1999年)
  • ・DG08J用(2000~2004年)

1985年に登場した初期型はピストンバルブ式を採用したが、1987年の2LN0型以降は負圧式キャブレターを採用したセロー225。型式によってジェットやニードルのセッティングが異なるので、燃調キットを購入する際は型式の確認が不可欠。

車台番号に従って用意した4JG2型用燃調キット。だが本文で説明しているように、実際に装着されていたキャブレターは4JG1型の仕様だったため、実際の作業では4JG1用の燃調キットを使用した。

スロットル急閉時のアフターファイヤー抑制に重要な働きをするエアカットバルブ。キースターの販売方法は「燃調キット」か「燃調キット+エアカットバルブ」の2種類で、エアカットバルブ単品では販売していないので、購入前にダイヤフラムの状態を確認した方が良い。製造が1990年代半ばということを考慮すれば、無条件でエアカットバルブ付きセットを購入したほうが無難だろう。

フレーム番号や型式でキャブレターの仕様を特定することが重要

セロー225はロングセラーであるがゆえ、中古車として売買されることも珍しくありません。バイクショップで購入したり個人売買で譲ってもらったりとさまざまな入手方法がありますが、複数のオーナーの手を渡る間に各部の仕様が純正とは変わっていることもあるので注意が必要です。

転倒によってフロントフォークのインナーチューブが曲がり、年式違いの前まわりをごっそり移植したり、林道で転倒してクランクケースが割れたエンジンを丸ごと積み替えたり、長期放置で腐食してしまったキャブレターをごっそり交換するような例も、基本設計を踏襲するロングセラーでは珍しいことではありません。

そうした履歴のある車両をメンテナンスする場合、「フレームナンバーで判断するのか」「装着された部品そのもので判断するのか」が難しい問題となることがあるのです。

ここで取り上げるセロー225は、車台番号で区別すれば1995年に発売された機種コード4JG2型に該当します。しかし、取り外したキャブレターのメインジェットとパイロットジェットのサイズをパーツリストで確認すると、4JG2ではなく一代前の4JG1型のセッティングになっていました。

この車両は現オーナーが中古車として購入したもので、本来の4JG2とはセッティングが異なっている理由は分からないとのこと。さらに問題を複雑化させるのは、このセローが4JG2型のごく初期の車台番号を持つことで(4JG2への切り替わりから数十台目)、メーカーの製造工程で4JG1型用のキャブレターが装着された可能性もゼロではないことです。

メインジェットとパイロットジェットのサイズはそれぞれ本体の刻印で分かりますが、パーツリスト上は部品番号が異なるメインノズル(ニードルジェット)とジェットニードルは実物を見てもどちらの部品番号に相当するものかは分かりません。

そこで今回は、実際に装着されているキャブレターの仕様を優先して4JG1用の燃調キットでオーバーホールを行いました。

過去にオーバーホールを行ったことがあるらしく、フロートチャンバーガスケットは完全硬化には至っていなかった。経年劣化で樹脂化するとわずかな油面変化で合わせ面からガソリンが滲む原因となり、耐ガソリンタイプの液体ガスケットを塗っても一時しのぎにしかならない。

このキャブレターのフロートピンは軽圧入タイプで、一方にツバがあるため抜け方向が決まっている。ピンポンチで押すだけでは抜けずハンマーで軽く叩く必要があるが、むやみに叩くとフロートピンの足が折れるリスクがあるため、ディープソケットなどで保持すると良い(画像は抜けたピンを見せるためソケット六角部とピンの足に隙間を作った状態)。

ケーヒン製キャブはフロートバルブシート圧入仕様が一般的だが、ミクニ製は取り外せる場合が多い。経年劣化により根元のOリングが硬化切断すると、フロートニードルが閉じてもフロートチャンバー内へのガソリンの流入が止まらず油面が上昇し、オーバーフローの原因となることもある。

パーツリスト上、4JG2型のパイロットジェットは#35のはずだが実際に装着されていたのは#42.5で、メインは#116.3のはずが#122.5だった。当初は過去の所有者がセッティング変更したものと解釈したが、改めて調べたところ4JG1型のセッティングだと分かった。

ジェットニードルはフロート室からベンチュリー側に押し上げて取り外す。キャブレターの仕様によっては、ベンチュリー側からフロート室側に押し下げるタイプもあるので、構造をよく確認してから作業を行うことが重要。このセロータイプのキャブは、いくらベンチュリー側から叩いても絶対に抜けないので注意しよう。

メインボア下部の腐食痕やパイロットスクリューのOリング抜けが明らかに

セローの純正キャブレターはミクニ製で、エアクリーナーケース固定ボルトを外してケース自体を車体後方にずらすことで比較的容易に取り外すことができます。

セッティング変更でもオーバーホールを行うにせよ、それ以前に調子よく走っていたとしても分解したら徹底洗浄することが重要です。この車両の場合、エンジンが暖まれば問題ないものの冷間時の始動性が良くないとのことなので、スターター系やパイロット系の洗浄を入念に行いました。

その過程で発見したのが、パイロットスクリューに付くべきOリングとワッシャーの紛失とメインボア下部の腐食痕でした。これらはいずれも、過去に少なくとも一度はこのキャブが分解されたことがある証拠となります。

パイロットスクリューのOリングとワッシャーには、エンジンの振動によるスクリューの緩みを防ぐスプリングをサポートし、スクリュー部分からの二次空気吸入を防止する重要な役割があり、一部の例外を除き必ず装着されているはずで、純正パーツリストにも明記されています。

それが付いていないということは、過去に何かの目的でスクリューを取り外して、復元時に付けなかったということになります。年式が古いバイクでは、キャブ本体にOリングとワッシャーが残って外れにくいこともありますが、ピックツールで入念に確認しても見つかりませんでした。

古いOリングは断面が潰れてカチカチに硬化してしまい、本来のシール性がなくなっていることも多いため取り去ってしまったのかもしれません。あるいはスクリューを外した際に床などに落として見失ったのかもしれません。しかしメーカー製造時に組み付け忘れることは考えにくいので、いつかのタイミングでスクリューを外した際に付け忘れたと考えるのが妥当でしょう。

新車時からメインボア下部が腐食しているようなこともあり得ません。アルミ合金の素地にシミのように広がる痕跡は、長期放置や水の浸入など何かの理由で一度腐食した跡をケミカル類でクリーニングしたように見えます。

このようなキャブは、オーバーホール時により一層徹底した洗浄を行うことが必要です。異物が詰まったジェットの穴を針金などで過剰に突くと、穴径が拡大するリスクがあることは何度もお伝えしてきました。

ボディ自体の穴に異物が詰まることもあり、それが穴系の小さなパイロットアウトレットやバイパスポートで発生すると、アイドリングやスロットル開度が小さな領域での混合気に影響します。

ただ、詰まりを確認するために針金などを通そうとすれば穴を拡大するリスクがあり、ジェットと違って交換ができないため面倒な状況になりかねないので注意が必要です。

キャブ本体から外れる部品をすべて取り外したら、キャブレタークリーナーで入念に洗浄する。外観もさることながら、クリーナーをキャブ内部の空気やガソリンの細かな通路に流し込み、汚れに浸透させて除去することが重要。

クリーナーをスプレーしても貫通せず逆噴射する穴は、ジェットメンテナンス用ニードルで通路確認に行う。この作業では穴径に対して十分に細いニードルを使用すること。太い針金で手荒く作業すると、穴径が拡大され空燃比に影響することもある。クリーナーで洗浄した後はパーツクリーナーで洗い流し、エアブローできる環境であればすべての穴の貫通を確認する。

パイロットスクリューを緩めて取り外した時に、スプリングは外れてもワッシャーとOリングがボディ側に残ったままというのはありがちなパターンだ。だがピックツールでしつこくネジ穴の奥を捜索したがどちらも入っていなかった。入れ忘れたのかあえて入れなかったのかは分からないが、これでは正しい作業とは言えない。

メインボア下部は一度腐食した部分を磨いたようで怪しい部分。スロットル全閉時にバタフライバルブと接近するバイパスポートもそれなりに荒れているので、内部通路にも影響があるかもしれない。

スロットル急閉時のアフターファイヤーはエアカットバルブの劣化を疑う

このセローに限らず、キャブレターの中にはエアカットバルブを装着している例があります。エアカットバルブは、エンジンブレーキ使用時など走行中にスロットルを戻した際に生じる混合気の大きな変化を和らげるためのパーツです。

スロットル開度が大きい状態では、吸入空気はベンチュリー内を勢いよく流れてエンジン回転数も高回転になっています。ここでスロットルを急閉して吸入空気を遮断すると、混合気が突然薄い状態になるためマフラー内部で大きな破裂音を伴うアフターファイヤーが発生します。

エアカットバルブはパイロット系統に組み込まれており、通常走行時はパイロットエアの一部としてパイロットジェットに吸入空気を流しています。ここでスロットルバルブを閉じると、エアカットバルブのダイヤフラム室に負圧が生じて、パイロットジェットに流れる空気が遮断されます。

すると負圧に対してパイロット系の空気が不足する分、パイロットジェットから余分にガソリンが吸い出されて混合気が濃くなり、アフターファイヤーが抑えられるというのが作動原理です。

エアカットバルブが作動する条件としては、スロットル開閉時の負圧の変化が大きいことが必要です。つまりスロットル開度が小さい市街地走行よりも、スロットル開度がある程度大きくエンジン回転数が高い状態から急閉するような場面で作動します。

このような役割があるためエアカットバルブが劣化、具体的にはゴム製のダイヤフラムが破損すると、スロットルを急閉してもパイロット系統のエアが減少せずアフターファイヤー発生の可能性が高まります。

これを見落として、パイロットスクリューの戻し回転数やパイロットジェットのサイズ変更でアフターファイヤーの減少を図ろうとすると、今度は通常走行時にスロットル低開度で混合気が濃くなりボコついたりプラグカブリを引き起こす可能性があります。

つまり、エアカットバルブが装着されているキャブレターにおいては、この機能が正常に機能しないとセッティングが決まらないということです(スロットル急閉時のアフターファイヤーに目をつぶるのなら話は別です)。

キースターでは燃調キットとともにエアカットバルブも開発しており、燃調キットとセットで販売しています。

セロー用の場合、6種類の燃調キットのうちピストンバルブ式キャブレターの初期型(1KH・1RF)と2000年以降のDG08J型以外の4種類のキットに、エアカットバルブ付きを設定しています。つまり「燃調キット(税込4400円)」と「燃調キット+エアカットバルブ(税込6050円)」があるということです。

セッティングやオーバーホールを行うキャブレターのエアカットバルブを事前に確認して、不具合がなければ燃調キット単品を購入すれば良いでしょう。

しかし、エアカットバルブは単品販売を行っておらず、4JG2型も製造から約30年を経過していることを考えれば、エアカットバルブ付きセットを購入しておいた方が後々も安心できます。

エアカットバルブのダイヤフラムはボディ側面の樹脂カバーの下にある。ガソリンが付着した状態で長期間不動状態で放置すると劣化が進行することがある。また、黒い樹脂カバーも経年劣化で柔軟性が失われ、ダイヤフラム着脱時にリターンスプリングを押し縮めながらビスを締める際にひび割れることもあるので要注意。

エアカットバルブのダイヤフラムは純正部品でも購入できるが、ダイヤフラムとスプリングで5000円以上する。燃調キット+エアカットバルブであれば燃調キット単体との価格差は1500円なので、セット品を購入した方が格段にリーズナブルだ。

ダイヤフラム裏側のプランジャーは通常はパイロットエア通路を開いており、走行中にエンジン回転数が高い状態でスロットルバルブが閉じてインテークマニホールド内の負圧が大きくなるとエア通路を塞ぐ方向に作動する。空気を遮断することでパイロット系統の混合気を濃くしてアフターファイヤーを緩和するのだ。

ガスケットやニードルバルブなどオーバーホールに役立つ豊富な構成部品も魅力

純正キャブレターではほぼ不可能な、メインジェット/パイロットジェット/ジェットニードルのサイズを変更してセッティングできるのが燃調キットの特長です。

それと同時に、フロートチャンバーガスケット/ニードルバルブ/パイロットスクリュー/ドレンスクリュー/ゴム製のOリング類など、メンテナンスやオーバーホールで重宝する部品を数多く含んでいるのも燃調キットの大きな魅力です。

ニードルバルブ先端の円錐状の部分はゴム製で、開閉するたびにバルブシートに接触することで当たり面が摩耗します。また長期間にわたってガソリン内に浸り、そのガソリンが劣化することでワニスなどが付着してシール性が低下することもあります。

燃調キットの中にはニードルバルブとバルブシートがセットで入っており、これを使用することでガソリンをしっかり断続できるようになり、油面の安定につながります。

また分解時に発覚したように、パイロットスクリューにOリングやワッシャーが入っていないような場合でも、燃調キットに新品部品があるので心配無用です。

キャブレターに注目しても大きく6種類に分類できるほど長きにわたって製造されたセロー225は、走行シーンを選ばずライダーの意思に素直に従う穏やかな特性が高く評価され、最終モデル販売終了から20年を経た現在でも多くのユーザーに愛用されています。

名車と言って過言でないセローにこれからも乗り続けていこうと思うなら、キャブレターのコンディション維持にはキースターの燃調キットを活用することをおすすめします。

燃調キットのニードルバルブシートにはフィルターが付属する。このフィルターは燃料コックのストレーナーを通過してガソリンタンクから流れてきたゴミやサビを取り除く最後の砦だ。ゴミやサビがこの先に流れてフロートニードルとバルブシートの間に引っかかるとオーバーフローの原因になる。

フロートを取り付ける前に、金属磨きをつけた綿棒などでフロートニードルと接する調整板の表面を磨いておく。ニードルと接する部分に目立つ凹みがあると、フロート作動時に引っかかって油面が安定しないことがある。

フロートニードルとバルブシートをセットで交換した場合、キャブレターボディ下面からフロート下面までの距離をフロートレベルゲージで測定し、必要に応じて調整する。サービスマニュアルによると基準値は14.1~15.1mmとなっている。

これは車種によってまちまちだが、セロー用キャブの場合はジェットニードルのクリップの上下にパーツがセットされている。クリップより上の円盤はバキュームピストンスプリング下部のシートとして機能し、クリップ下の白いカラーはピストンの根元に収まる。この白いカラーを入れ忘れると、クリップ段数と実際のセッティングにズレが出る(カラーがない分ジェットニードルがニードルジェットに深く刺さり、中間開度で混合気が薄くなる)ので要注意。

燃調キットにはパイロットスクリュー/スプリング/ワッシャー/Oリングも入っている。これでスロットル開度が小さいパイロット系統のセッティングも安定するはずだ。

キャブレターの働きは複雑だが、それぞれのパーツの働きを理解することでメンテナンスやセッティングに対する興味も深まるだろう。燃調キットを活用すれば、キャブいじりがもっと楽しくなるはずだ。


※本記事はキースターが提供したもので、一部プロモーション要素を含みます。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。