
ニッポンがもっとも熱かった“昭和”という時代。奇跡の復興を遂げつつある国で陣頭指揮を取っていたのは「命がけ」という言葉の意味をリアルに知る男たちだった。彼らの新たな戦いはやがて、日本を世界一の産業国へと導いていく。その熱き魂が生み出した名機たちに、いま一度触れてみよう。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:山内潤也/YM ARCHIVE●取材協力:ZEPPAN UEMATSU
時代の変化に翻弄された2スト&ロータリー
公道を走るビッグバイクのエンジンと言ったら、昔も今も主力は4ストロークである。ただし、世界中の2輪メーカーが歩調を合わせるかのように、ビッグバイクに着手した’70年前後は、その定説が覆りそう…な気配を感じる時代だった。
具体的には、従来は小~中排気量車用と考えられていた2ストロークと、既存のレシプロエンジンとはまったく異なる構造のロータリーエンジンが、’70年前後のビッグバイクの世界では大きな注目を集めていたのだ。
中でも、4スト以外の可能性をもっとも真摯に追及したのは、’68年型T500(空冷並列2気筒)と’72年型GT750(水冷並列3気筒)で2スト大排気量車の可能性を提示し、さらに’74年に497ccの1ローター・ロータリーエンジンを搭載するRE5を発売したスズキだろう。
それに次ぐメーカーでは、’69年型500SSと’71年型750SSで、空冷2スト3気筒の圧倒的な速さを披露し、750cc水冷2ストスクエア4気筒車の0280と、896ccツインロータリーのX99を試作したカワサキが挙げられるし、ヤマハが’71/’72年に発表した、水冷2スト並列4気筒のGL750と、660cc2ロータリーのRZ201も市販には至らなかったとはいえ、ビッグバイクの新しい未来を感じさせてくれる車両だった。
もっともそういった未来は、環境問題が注目を集めた’70年代前半で途絶えてしまった。構造がシンプルでパワーが引き出しやすい一方で、排気ガスの清浄化や燃費を考えれば、2ストとロータリーは明らかに不利で、以後のビッグバイクは完全に4ストが主力となったのである。
とはいえ、マスキー法制定とオイルショック勃発がもう少し遅ければ歴史は変わっていたかもしれない。’70年代初頭の時点で、すでにある程度の理論が確立されていた4ストに対して、大排気量2ストとロータリーは本格的な研究が始まったばかりで、未知の領域が多かったのだから。
なお2輪の世界では’70年代末に姿を消した大排気量2ストだが、スズキは’80年代末まで540cc水冷2スト3気筒を搭載する軽4輪、ジムニーを販売していたし、水上スキーやスノーモービルの世界では、十数年前まで2ストが主力だった(’00年代のヤマハとカワサキの水上バイクの旗艦は、145psを発揮する1176cc水冷2スト3気筒を搭載)。
また、ロータリーに関しては4輪のマツダ以外の印象は薄いものの、イギリスのノートンは’70年代末~’90年代初頭に約900台の588cc、2ロータリー車を生産。’89年にはそのワークスレーサーとなるRCW588が、ブリティッシュスーパーバイク選手権で王座を獲得している。
【2ストの可能性を追求】’71年に登場したGT750は、スズキが初めて手がけたナナハンロードスポーツ。当時の2輪では画期的だった水冷機構を導入した2スト並列3気筒エンジンは67psを発揮(’75年型以降は70ps)。日本では’76年、海外では’79年まで発売が続いた。
【ロータリーにも光明を見出す】74年にデビューしたRE5は、日本製バイクでは唯一の市販ロータリーエンジン搭載車。安全性と耐久性を重視しすぎたためか、運動性能はいまひとつだった。最高出力は62ps。
驚異の強さを発揮したヨシムラGSレーサー
スズキにとって4スト処女作だったGS750と、その排気量拡大版のGS1000/Sが、世界各国で高評価を集めた一番の理由は、日欧のライバル勢と互角以上に戦える、優れた資質を備えていたからである。
とはいえ、4スト界の新参者だったスズキが、瞬く間に世界の大排気量スポーツバイク市場の最前線で活躍できたのは…。日本を代表するレーシングコンストラクター、ヨシムラのおかげだろう。
いや、実際の話をするなら、’70年代中盤のヨシムラはレースを戦う素材として、カワサキZに替わる新しいマシンを欲しており、アメリカのサイクル誌に掲載されたGS750の透視図を見て、スズキにコンタクトを取ったのはヨシムラの方だった。
とはいえ’76年8月に初めて対面した、ヨシムラの創始者であるPOP吉村と、スズキでGSの開発責任者を務めていた横内悦夫は、即座に意気投合して業務提携を約束。そして翌年からは、“ヨシムラスズキ”の快進撃が始まったのである。
’79年:デイトナ100マイルで表彰台独占、’79/’80年:AMAスーパーバイクで王座を獲得、’80/’81年:TT-F1世界選手権制覇、’83年:世界耐久チャンピオン獲得など、タッグを組み始めた直後からヨシムラスズキGSは圧倒的な戦績を残しているが、日本人にとってもっとも衝撃的だったのは、’78年の第1回鈴鹿8耐における劇的な優勝だろう。
ホンダワークスのRCBや、すでにレース界で絶大な支持を集めていたZ1やTZ750を破っての勝利は、GSの強さを多くのライダーに印象づけることになった(STDのGSの最高出力が、750:68ps、1000:87psだったのに対して、ヨシムラレーサーは、750改944:125ps、1000:135ps以上)。
なお’80年代初頭のヨシムラスズキは、主力ユニットを4バルブのGSXシリーズに移行するものの、新規導入したロッカーアームの構造に問題があったようでレースでは苦戦。ただし’85年に新世代の油冷GSX-Rが登場してからは、ヨシムラスズキは第二の黄金時代を迎え、世界中のレースで数多くの栄冠を獲得することとなった。
POPが惚れ込んだ素性の良さ
POPこと吉村秀雄が創設したヨシムラは、スズキ製4ストの強さを世界に知らしめたレーシングコンストラクター。と言っても、’70年代中盤の同社はすでに、ホンダCB750フォアやカワサキZ1のチューニングで世界中に名を轟かせていたのである。
【1978 YOSHIMURA GS1000】
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