【三ない運動から交通安全教育へ】埼玉県内高校生の免許取得/講習会参加/交通事故の状況を知る

【三ない運動から交通安全教育へ】埼玉県内高校生の免許取得/講習会参加/交通事故の状況を知る

数年間にわたる検討委員会での議論を経て、2018年に三ない運動を廃止し交通安全教育へと転換、2019年から高校生を対象にバイクの安全運転講習会を全県的に開催している埼玉県。施策を推進するうえで見えてきた課題、これまでの免許取得者数や講習会参加者数、高校生の交通事故状況などをトータルに振り返る。


●文:田中淳麿(ヤングマシン編集部)

講習内容を検討する“指導検討委員会” が開催

2025年1月29日、埼玉県知事公館において「令和6年度 高校生の自動二輪車等の交通安全講習に係る指導検討委員会」(以降、指導検討委員会)が開催された。本委員会は、講習会関係者(※1)が集まり、その年に開催された講習内容や制度について振り返りを行って、成果や課題をふまえたうえで次年度以降の改善を検討するという場になっている。

この取り組みは、2018年に埼玉県が三ない運動を廃止し、「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する指導要項」を定めた2019年度から続けられており、講習会の制度や指導内容の細かな部分にまで改善をもたらしてきた。

※1:埼玉県交通安全協会/埼玉県指定自動車教習所協会/埼玉県二輪車普及安全協会/日本自動車工業会/埼玉県高等学校安全教育研究会/埼玉県高等学校PTA連合会/埼玉県警察本部交通部交通総務課/埼玉県教育局県立学校部 等

「令和6年度 高校生の自動二輪車等の安全運転講習」(6月16日・秩父自動車学校)での開講式の様子。埼玉県教育委員会が主催し、埼玉県指定自動車教習所協会が共催、埼玉県警察本部/埼玉県交通安全協会/埼玉県二輪車普及安全協会/埼玉県高等学校安全教育研究会/埼玉県交通安全対策協議会が後援している。

三ない運動廃止後の免許取得と講習会参加の状況

今回、事務局へ取材した内容をかいつまんで紹介しつつ埼玉県の現状を読み解きたい。

まずは、三ない運動を廃止してからどれぐらいの高校生がバイクの免許を取得したのかという免許取得状況について。指導要項が改められ、講習会が始まったR1(2019年度)からの表を見てほしい(図1)。

図1:埼玉県が三ない運動を廃止し交通安全教育の一環として「高校生の自動二輪車等の安全運転講習」を開始したR1(2019年度)からの表。R6(2024年度)については暫定値。

●免許取得者数は5期の平均で772名

免許取得者数には増減があるが、R1(2019年度)~R5(2023年度)の5期で平均すると772名となる。2023年度の場合、全日制/定時制を合わせた埼玉県の公立高校生徒数は16万363名だったので、免許取得率はおよそ0.45%となる。

●取得免許の割合は原付と自動二輪で7:3

原付免許(原付一種)と自動二輪免許(小型限定/普通二輪/大型二輪)の割合では、R1(2019年度)~R5(2023年度)の5期で平均すると原付72人/自動二輪28人となり、およそ7:3で原付免許の割合が多い(図2参照)。

図2:図1をグラフ化したもので、割合と推移がひと目でわかる。

●通学許可者の数は今後増える可能性も

埼玉県では、三ない運動下でも公共交通網の脆弱な秩父地域(公立は4校)だけは、原付免許の取得と原付バイクによる通学が条件付きで許可されていた。

三ない運動の廃止以降も、秩父地域以外では特例を除いてバイク通学が認められていないので、黄色の折れ線グラフの生徒数はほぼ秩父地域のものだ(図2参照)。

ただし、公共交通網の衰退や学校の統廃合による通学の不便は今後拡大していく可能性もあるので、通学許可校や許可地域の動向は注視したい。

秩父地域で長年バイク通学を続けてきた埼玉県立秩父農工科学高等学校の登校風景

●申込率は向上傾向も参加率が課題

申込率は免許を取得した高校生が講習会に参加した割合で、R1(2019年度)~R5(2023年度)の5期を平均するとおよそ56%となり、ほぼ2人に1人が参加している状況だ。

また、申し込んだ高校生が実際に講習会に参加した割合は、R1(2019年度)~R6(2024年度)の6期平均でおよそ69%となっている。

●免許取得者のうち講習会参加者は39%

免許取得者全体からの講習会参加率は、R1(2019年度)~R5(2023年度)の5期平均でおよそ39%となる。最終的な目標は、県内高校生の免許取得者全員に講習会へ足を運んでもらうということになるだろう。

講習会参加率向上への埼玉県の取り組み

講習会の参加率向上については、埼玉県教育委員会が対策を講じており、R5(2023年度)から以下の改善を施している。

●申込方法の改善

年間を通じて申込受付が可能となり、講習会開催日の2週間前を目途に各校に申し込み状況を通知し、生徒に申し込みを促す。

●実施結果の通知

講習会の参加状況は講習実施後2週間ほどで各校に周知される。参加しなかった生徒には以下の対応を促す。

●不参加生徒への対応

他団体が主催する講習会への参加(次項参照)やインターネット上の講習動画視聴などを促す。

「令和6年度 高校生の自動二輪車等の安全運転講習」(6月16日・秩父自動車学校)での受付の様子。

【視聴動画】梅本まどかと宮城光のセーフティライディング(日本自動車工業会 制作)〜日本自動車工業会が制作した安全運転啓発動画「梅本まどかと宮城光のセーフティライディング」。事故発生のメカニズムと事故を回避するための心がけなどが学べる。

講習会に参加できなかった生徒への対応

なお、講習会に参加できなかった生徒に対しては、県内他地域の講習会への参加や他団体開催の下記講習会(一部有料)を受講することで、本講習会の参加に替えられることとしている。

  • Basic Riding Lesson埼玉
    • 主催:日本二輪車普及安全協会/埼玉県二輪車普及安全協会/埼玉県警察
  • セーフティクラブ二輪車安全運転講習会
    • 主催:セーフティクラブ
  • 原付安全運転講習
    • 主催:埼玉県交通安全協会

こうした団体の講習会で替えることができるのも、埼玉県教育委員会が検討委員会(※2)を立ち上げた時から有識者としての団体関係者を議論に交えてきたからだろう。

※2:長年行われてきた三ない運動の検証や高校生の交通安全教育について議論された「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する検討委員会」(2016年12月~2017年1月/全9回)

当日風邪を引いていたなど、何らかの理由で居住地域の講習会に参加できなかった生徒は、他地域の講習会に参加するか、Basic Riding Lesson埼玉(上写真は前身のグッドライダーミーティング埼玉に参加した生徒の様子)などに参加すればOKだ。

三ない運動廃止後の交通事故発生状況

図3を見ると、令和2年から令和5年にかけて、高校生による二輪車人身事故は年々減少傾向にある。

図3:埼玉県内高校生の二輪車人身事故の年別推移。減少傾向が続いていたが、R6(2024年)は発生件数が増えた。※埼玉県警察公表資料より引用

数字には市立/私立のほか県外の学校に通う高校生も含まれているが、三ない運動廃止以降、二輪車の交通事故が増えてしまったということはないことが見て取れるだろう。

なお、令和6年は発生件数が増えているが、こうした状況もふまえ、令和7年(2025年度)の講習会では埼玉県警察本部による二輪車安全運転講習の内容にも変更が加えられている。この模様はまたの機会に詳しくお伝えする。

筆者の私見「利用環境の整備推進に期待」

埼玉県は首都圏に位置するが、平野部から山間地までと生活環境には大きな違いがある。また公共交通網の整備状況や利用率などにも大きな差があり、高校生の移動に関する課題も一様ではない。

朝夕の学校への送迎や定期代の高騰など家庭への負担も年々増すなか、個人の移動を個人で完結させていくという考え方は若年層や高齢層を中心にますます求められていくだろう。

バイクは便利な個人の移動手段だが、安全運転講習会への参加や保険への加入といった安全の担保は不可欠だ。三ない運動廃止後の高校生の事故状況を見ても、埼玉県ではこの取り組みが成果を上げていることがわかった。

バイクを含め、パーソナルモビリティを必要とする子どもたちとその保護者/地域/学校が、安心して移動手段として選択できるよう交通安全教育を中心とした利用環境の整備推進に期待したい。

「令和6年度 高校生の自動二輪車等の安全運転講習」(6月16日・秩父自動車学校)での「低速バランス」の様子。決められた枠内でどれだけの時間足をつかずにいられるかというもので、上位者には後援団体からのプレゼントも。このようなゲーミフィケーションを取り入れることで受講者のモチベーションを上げ、安全運転技術を楽しく学べる場としている。

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