
二輪メディア歴50年のベテランライターが、日本におけるバイク黄金時代のアレコレを実体験と共に振り返る昭和郷愁伝。今回は若者の入門バイクの決定版だった50ccスクーターについて回想します。
●文:ヤングマシン編集部(牧田哲朗)●写真:YM Archives
0.1ps刻みのスペック競争
日本史上最大のバイクブームが巻き起こった1980年代は、世界最速を謳う大型フラッグシップや最新鋭レーサーレプリカが次々と市場投入され、国産メーカー間の争いは激化の一途を辿った時代でした。そして、最終的には当時の庶民の足となっていた原付スクーターにまでその熱が伝わり、性能競争でヒートアップしていくことに。
今では考えられないけど、当時は多くの若者がバイクに憧れた時代。校則に懐事情もあって、すんなりと立派な中型バイクには乗れなかったけど、唯一、身近にあったのが50ccの原付スクーターでした。家にあった母親のスクーターで走り始めるパターンも多かったよね。当時はバイクレースも大いに盛り上がっていたから、血気盛んな若者は身近なスクーターでスピードを競い合った。レースでもセールスでも目が三角だったメーカーもまたしかり。かくして、街乗りスクーターにおいて0.1psの世界で凌ぎを削るカオスな争いが始まったのでした。
舞台も街中~峠では収まり切らず、最終的にはサーキットヘ。当初は変速機能がなかったり、遠心クラッチを利用した2段変速の買い物モデルしかなく、スクーターレースはそれなりの余興でしかなかったものの、無段変速機構が登場するとパフォーマンスが一変。プーリーを加工して最大変速比を高くしたり、ウエイトローラーの重さで変速のタイミングを変更したりと、セッティング幅が広くなり、スピードも向上。レースが一気に盛り上がっていった。
サーキットを埋め尽くした原付スクーター群。当初はギア付きオートバイがミニバイクレースの主流だったが、無段変速のスクーターが登場してからはその主役の座にのし上がった。写真はホンダDJ-RR系のワンメイクレースだろうか。少なくとも70台以上が走っている。
ハイスペックなスクーターが次々に誕生
そんな頃、ホンダはヤバいスクーターを発表した。水冷エンジンを採用した1983年式ビートだ。同期の初代ジョグが4.5psのところ、ビートでは7.2ps! しかも足踏みペダルで排気プリチャンバーを開閉するV-TACSという排気デバイスを装備していたうえ、2輪車初となるMFバッテリーやスクーター初2灯ヘッドライトも採用した尖ったスクーターでした。
原付スクーター初の水冷2ストエンジンを搭載し1983年にデビューしたホンダ・ビート。自主規制値いっぱいとなる7.2psを発揮し、排気ルートを変更する可変トルク増幅排気システム“V-TACS”も備えた最強スクーターでした。開発者の池ノ谷保男さんは、後にNSR250Rの開発責任者を務め、HRCの社長にもなったお方だ。
手軽に楽しめるということで始まったスクーターレースも、次第にヒートアップしてくる。人気市場なので、メーカーも高性能化を促進し、ママさん用のベーシックモデルはそのままに、スポーティな上位機種をヤング層向けに次々と投入する。最初は8インチタイヤでレース向きじゃなかったホンダDJ-1も、10インチ&パワーアップ版とした“DJ-1RR”となり、ディオも“ディオZX”に。ジョグなら“スーパージョグZR”、スズキのセピアは“セピアZZ(ジーツー)”。いかつい名前のスポーツスクーターが続々登場していくのでした。
原付スクーターとはいえ、さまざまなレプリカカラーも登場した。写真は1986年発売のスズキHiで、同時期に全日本で活躍した水谷勝選手をスポンサードしていたウォルターウルフカラーも用意され大人気に。ちなみにハイは6.5psが生む猛烈なダッシュが売りで、アクセルオンで簡単にフロントが跳ね上がるほどでしたw。
武川やキタコなど有力カスタムパーツメーカーも次々に誕生
スクーターブームは数多くのカスタムパーツメーカーも生んだ。関東だとO&Mがパイオニアだったかな。オートバイ誌のメイン企画だった「ゼロヨン最高速グランプリ」で活躍していた大下さんと三原さんが始めたショップだった。三原さんは後にミハラスペシャリティを設立して、ヤマハ社のチューニングやバンス&ハインズのマフラー輸入なんかで有名になりましたね。関西だとやっぱり武川、キタコ、オクムラあたりが有名で、スクーターパーツの開発販売をどんどん仕掛けて行く。もちろん宣伝の場はレースということになり、ショップワークスも参戦するようになって、よりスクーターレースは熱を帯びるようになっていった。
写真は1986年に鈴鹿で開催されたスクーター4時間耐久レースのスタート前の1カット。鈴鹿のホームストレートを50ccの原付スクーターが埋め尽くす様からは、当時の異様なまでの熱気がムンムンと伝わってくる。その後、排ガス規制に伴って2スト→4スト化されたこともあり、スクーターレースは衰退していった(4ストは手間とお金を掛けないと速いマシンが作れないから敷居が高いんだよね)。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(ホンダ [HONDA] | 名車/旧車/絶版車)
250ccを思わせる車格と水冷2スト最強パワーに前後18インチの本モノ感! 1979年、ホンダはライバルの2ストメーカーに奇襲ともいえる2スト50ccの、まだレプリカとは言われてなかったもののレーシー[…]
似ているようでカブとはまったく違うのだ アウトドアテイストの強いCT125ハンターカブが人気だからといって、ここまでキャラクターを寄せてくることないんじゃない? なんて穿った見方で今回の主役であるPG[…]
ドリームはホンダ初の本格バイク 1947年のA型からプロトタイプのB型(1948年)、エンジンに加え自転車フレームも初めて自社製としたC型(1949年)を経て1949年8月に登場したのがドリームD型と[…]
ホンダ「モンキー125」(2021)比較試乗レビュー この記事ではかわいらしいフォルムと実用性が同居したファンバイク、モンキー125の2021年モデルについて紹介するぞ。ミッションが5速化されたうえに[…]
幻のヤマハロータリー〈RZ201〉 1972年東京モーターショウの最大の話題は彗星のように登場したこのローターリー車だ。水冷・横置きツインローターを搭載、また前輪とともに後輪にもディスクブレーキを採用[…]
最新の関連記事(新型スクーター | 名車/旧車/絶版車)
「1990~2000年代」250ccスクーターブーム回想 軽快さと機動力を重視したフリーウェイ。一方で、ロー&ロングな車体にゆったりと乗るフュージョン。これら1980年代に登場した2台の250ccモデ[…]
軽二輪の排気量上限「250ccスクーター」登場はスペイシー250フリーウェイから ホンダ PCXやヤマハNMAX、はたまたヤマハ マジェスティSなど、ボディサイズは原付二種クラスでありながら、排気量は[…]
BMWのスクーター・Cシリーズの1号車「C1」 BMW Cシリーズといえば、400ccクラスのC400X、C400GT、そして2022年4月に発売となる電動スクーターのCE 04がラインナップされる、[…]
そのスポーティな性能から、世界中にファン多し。台湾のスクーターメーカー、キムコから重量級旗艦スクーター「AK550」が日本でも正式発表された。53ps強を発揮するエンジンパワーや倒立フォークなどの装備[…]
人気記事ランキング(全体)
最新モデルはペルチェデバイスが3個から5個へ 電極の入れ替えによって冷却と温熱の両機能を有するペルチェ素子。これを利用した冷暖房アイテムが人気を博している。ワークマンは2023年に初代となる「ウィンド[…]
アウトローなムードが人気を呼んだフルフェイスがついに復活! 6月3日付けでお伝えしたSHOEIの新製品『WYVERN(ワイバーン)』の詳細と発売日が正式に発表された。 1997年に登場したワイバーンは[…]
バイクツーリングにおすすめの都道府県ティア表 バイクツーリングの魅力は、ただ目的地に行くだけでなく、そこへ至る道中のすべてを楽しめる点にある。雄大な自然が織りなす絶景、心地よいカーブが続くワインディン[…]
水冷Vツイン・ベルトドライブの385ccクルーザー! 自社製エンジンを製造し、ベネリなどのブランドを傘下に収める中国のバイクメーカー・QJMOTOR。その輸入元であるQJMOTORジャパンが、新種のオ[…]
東洋の文化を西洋風にアレンジした“オリガミ”のグラフィック第2弾登場 このたびZ-8に加わるグラフィックモデル『ORIGAMI 2』は、2023年1月に発売された『ORIGAMI』の第2世代だ。前作同[…]
最新の投稿記事(全体)
「2025 鈴鹿8耐 Kawasaki応援グッズ」を期間限定でオンラインショップにて販売 株式会社カワサキモータースジャパンは、2025年鈴鹿8時間耐久ロードレースに参戦するカワサキチームを応援するた[…]
バイクを愛するすべての人へ 去る6月7日(土)、東京のお台場に位置するBMW GROUP Tokyo Bayにて、BMWモトラッドが主催する『NIGHT RIDER MEETING TOKYO 202[…]
ホンダの大排気量並列4気筒エンジンをジェントルかつスポーティーに TSRは鈴鹿のマフラーメーカー「アールズ・ギア」とともに世界耐久選手権(EWC)を戦い、リプレイス用のマフラーも同社と共同開発していま[…]
0.1ps刻みのスペック競争 日本史上最大のバイクブームが巻き起こった1980年代は、世界最速を謳う大型フラッグシップや最新鋭レーサーレプリカが次々と市場投入され、国産メーカー間の争いは激化の一途を辿[…]
365GTB/4 デイトナ:275GTB/4を引き継ぎつつ大幅にアップデート 1968年のパリ・モーターショーでデビューした365GTB/4は、それまでのフラッグシップモデル、275GTB/4を引き継[…]
- 1
- 2