
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第141回は、復調が見えたかに思えるMotoGP日本メーカーと、欧州勢が台頭してきた全日本ロードレースについて。
Text: Go TAKAHASHI Photo: Red Bull
予選PP、決勝2位のクアルタラロ
MotoGPもいよいよヨーロッパラウンドに突入しました。今はヘレスサーキットでの第5戦スペインGPが終わったところ。ヤマハのファビオ・クアルタラロが予選でポールポジションを獲得し、決勝も2位表彰台に立ちました。ポールポジションは’22年インドネシアGP以来、表彰台は’23年のインドネシアGP以来ですから、本当に久しぶりです。
優勝は、MotoGPクラスでは自身初となるアレックス・マルケスで、3位はフランチェスコ・バニャイア。アレックスの兄、マルクは転倒して大きく順位を落とし、12位に終わりました。
クアルタラロの健闘は光りましたが、上位陣を見ると、トップ10以内に日本メーカーはヤマハのクアルタラロと、10位のホンダ、ルカ・マリーニだけ。逆にリタイヤしたライダー5人のうち3人は日本メーカーです。ヤマハはもともとヘレスでは好調だったので、今回だけで「日本メーカー復調」と言うのはちょっと難しいかな、と感じます。
スプリントレースでは転倒したものの決勝では快走を見せ、2022年3月のインドネシアGP以来63戦ぶりのポールポジションスタートと、560日ぶりの表彰台を満喫した。
日本人の僕としては、もちろん日本メーカーに頑張ってほしいのですが、現状、ドゥカティとの差はまだ大きいように思います。今回は確かにクアルタラロがポールポジション&決勝2位という成果を残しましたが、シーズンを通してどのサーキットでも上位になれるかと言うと……。まだ「ドゥカティ勢強し」の印象は変わりません。
ドゥカティとBMWが全日本に旋風
……という事態を象徴するような出来事が、全日本ロードレースでも起きましたね。先日、もてぎ2&4レースで開幕したJSB1000クラスで、水野涼くん+ドゥカティ・パニガーレV4Rが独走優勝を果たしました。ヤマハYZF-R1で戦う中須賀克行くんとの差は6.7秒と、かなりのものでした。
3位につけたのは、今年からBMW M1000RRのSBK(スーパーバイク世界選手権)ファクトリースペックを走らせている、浦本修充くん。直前のテストがシェイクダウンでしたが、中須賀くんの背中に迫る力走で、初レース・初表彰台を獲得しました。スーパーバイク・スペイン選手権帰りの浦本くんも素晴らしいし、マシンのポテンシャルもすごい! 改めて、今のヨーロッパメーカーの強さを思い知らされました。
ホールショットを奪ったのは水野涼。
パニガーレV4Rの走りを見ていると、電子制御が優れていることがよく分かります。エンジンがパワフルなのでコーナー立ち上がりでリヤタイヤがスライドするのですが、横方向に逃げてしまうのではなく、縦方向──つまりマシンを前進させる方向に作用しているんです。制御でパワーを抑えすぎるとロスになるし、横方向にスライドしすぎてもロスになる。パニガーレV4Rは、パワーを抑えすぎることなく、なおかつ横方向にはスライドしないような、絶妙な制御になっているようです。
一方のBMW M1000RRはエンジンの速さが際立った一方で、どっしりとした安定志向に見えました。浦本くんのコメントなどから察すると、ウイングレットがかなりのダウンフォースを発揮しており、これがハンドリングの重さにつながっているようです。
中須賀くんのYZF-R1も今年からウイングレットを装着。最大限の注意を払って開発した、とのことですが、やはり課題は残っているらしく、まだまだセットアップの合わせ込みが必要という段階でした。
ヤマハファクトリーの中須賀克行に食らいつく浦本修充。
いずれにしてもドゥカティの独走優勝だった全日本ロード開幕戦ですが、こちらも1戦だけでシーズンの行方を占うのは早すぎるというもの。第2戦の舞台は、ヤマハが得意とするスポーツランドSUGO。ここでの結果次第で、ヤマハ、ドゥカティ、そしてBMWそれぞれの強みと弱点がハッキリしてくるでしょう。
MotoGPはドゥカティ勢に席巻され続けていますが、全日本ロードは日欧メーカーによる覇権争いの真っ最中。しかも第1戦はここにホンダのHRCテストチーム、そしてスズキCNチャレンジと2メーカーの直系チームも加わり、とても華やかでした。「やはり全日本はこうでないと!」と思いましたね。ホンダもスズキも鈴鹿8耐のテストを兼ねてのスポット参戦ということですが、このまま本気でフル参戦してもらいたいものです。
特に僕が気になっているのは、スズキCNチャレンジです。ご存じの通り、「CN」はカーボンニュートラルのこと。レースからバイクの持続可能性を探るという試みは、今まさに社会に求められていることを先行開発しているイメージで、レースの価値や社会的認知度を高めてくれるように思います。
鈴鹿8耐で昨年以上の成績を目指すチームスズキCNチャレンジの津田拓也。
実際のところは性能に極端に影響するほどのカーボンニュートラル化は施されておらず、ライダーの津田拓也くんも第1戦を6位と上位で終えています。ということは、カーボンニュートラル化に関する技術的なトライはわずかなのかもしれません。でも僕は、何もやらないよりちょっとずつでもチャレンジするべきだと考えます。
何しろ、一般の方がレースを見る目が変わるかもしれない。「レースって、社会の役に立つんだね」と思ってもらえれば、それだけでもチャレンジの価値が大いにあります。スズキにはぜひこのCNチャレンジを積極的にPRしてもらいたいし、何より鈴鹿8耐だけではなく、全日本フル参戦にも期待したいところです。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([連載] 元世界GP王者・原田哲也のバイクトーク)
ブレーキディスクの大径化が効いたのはメンタルかもしれない 第8戦アラゴンGPでも、第9戦イタリアGPでも、マルク・マルケスが勝ち続けています。とにかく速い。そして強い。誰が今のマルケスを止められるのか[…]
ヨーロッパラウンドで欧州勢が本調子に MotoGP第8戦イギリスGPが行われた週末は、「モータースポーツ・ウィークエンド」で、なんだか忙しい日々でした(笑)。まずはMotoGPですが、娘がモータースポ[…]
地元ライダーの大活躍で盛り上がったフランスGP MotoGPは第6戦フランスGP、第7戦イギリスGPを終えています。フランスGPはめちゃくちゃお客さんが入っていましたね! ヨーロッパに住んでいる僕の感[…]
全日本、そしてMotoGPライダーとの違いとは 前回は鈴鹿8耐のお話をしましたが、先日、鈴鹿サーキットで行われた鈴鹿サンデーロードレース第1戦に顔を出してきました。このレースは、鈴鹿8耐の参戦権を懸け[…]
上田昇さんとダニと3人で、イタリア語でいろいろ聞いた 先日、ダイネーゼ大阪のオープニングセレモニーに行ってきました。ゲストライダーは、なんとダニ・ペドロサ。豪華ですよね! 今回は、ダニとの裏話をご紹介[…]
最新の関連記事(モトGP)
φ355mmとφ340mmのブレーキディスクで何が違ったのか 行ってまいりました、イタリア・ムジェロサーキット。第9戦イタリアGPの視察はもちろんだが、併催して行われるレッドブル・ルーキーズカップに参[…]
ブレーキディスクの大径化が効いたのはメンタルかもしれない 第8戦アラゴンGPでも、第9戦イタリアGPでも、マルク・マルケスが勝ち続けています。とにかく速い。そして強い。誰が今のマルケスを止められるのか[…]
ヨーロッパラウンドで欧州勢が本調子に MotoGP第8戦イギリスGPが行われた週末は、「モータースポーツ・ウィークエンド」で、なんだか忙しい日々でした(笑)。まずはMotoGPですが、娘がモータースポ[…]
運を味方につけたザルコの勝利 天候に翻弄されまくったMotoGP第6戦フランスGP。ややこしいスタートになったのでざっくり説明しておくと、決勝スタート直前のウォームアップ走行がウエット路面になり、全員[…]
地元ライダーの大活躍で盛り上がったフランスGP MotoGPは第6戦フランスGP、第7戦イギリスGPを終えています。フランスGPはめちゃくちゃお客さんが入っていましたね! ヨーロッパに住んでいる僕の感[…]
人気記事ランキング(全体)
1位:ワークマン「ペルチェベストPRO2」使用レビュー ワークマンの「ペルチェベストPRO2」を猛暑日で徹底検証。最新モデルはペルチェデバイスの数が昨年モデルの3個から合計5個に増加し、バッテリーもコ[…]
当時を思わせながらも高次元のチューニング ◆TESTER/丸山 浩:ご存知ヤングマシンのメインテスター。ヨシムラの技術力がフルに注がれた空冷4発の完成度にホレボレ。「この味、若い子にも経験してほしい![…]
カバーじゃない! 鉄製12Lタンクを搭載 おぉっ! モンキー125をベースにした「ゴリラ125」って多くのユーザーが欲しがってたヤツじゃん! タイの特派員より送られてきた画像には、まごうことなきゴリラ[…]
森脇護氏が考案した画期的なアルミフィン構造 画期的なアイデアマンとしても有名なモリワキエンジニアリングの創始者・森脇護氏。そんな氏が数多く考案した製品群の中でも代表作のひとつに挙げられるのが、1980[…]
エンジン積み替えで規制対応!? なら水冷縦型しかないっ! 2023年末にタイで、続く年明け以降にはベトナムやフィリピンでも発表された、ヤマハの新型モデル「PG-1」。日本にも一部で並行輸入されたりした[…]
最新の投稿記事(全体)
お手頃価格のネオクラヘルメットが目白押し! コミネ フルフェイスヘルメット HK-190:-34%~ コミネの「HK-190 ジェットヘルメット」は、軽量なABS帽体と高密度Epsライナーが特徴のヘル[…]
【特集】黙ってZ/Ninjaに乗れ!!(動画付き) 1970~80年代直4カワサキイズム 屹立したシリンダーヘッドから連なる4本のエキゾーストパイプ。 いつの時代もライダーの心を熱くする“カワサキの直[…]
ホンダ CB400スーパーフォア(2018) 試乗レビュー この記事では、平成28年度排出ガス規制に法規対応するなどモデルチェンジを実施した2018年モデルについて紹介するぞ。 ※以下、2018年6月[…]
MotoGP黎明期のレプリカマフラーだ このマフラーは4スト990ccが導入されて、世界GPがMotoGPに代わった翌年の2003年に、ホンダRC211VエンジンのモリワキMotoGPレーサー・MD2[…]
ホンダのスポーツバイク原点、CB72とマン島T.T.イメージを詰め込んだクラブマンだった! ご存じGB250クラブマンは1983年の12月にリリース。同じ年の4月にデビューしたベースモデルのCBX25[…]
- 1
- 2