
世に出ることなく開発途中で消えて行ってしまったマシンは数あれど、今でも記憶に残るコンセプトモデルは決して多くない。ここではそんな幻の名車を取り上げてみたい。今回はホンダCO-29他、オートマモデルの様々な試みを紹介しよう。
●文:ヤングマシン編集部 ●写真:本田技研工業、YM Archives
2ストローク90ccの「CO-29」は、キーレスにポップアップスクリーン採用
1988年に劇場版「AKIRA」が公開された翌年、1989年8月にウェルカムプラザ青山で「MOVE HONDA MOTORCYCLE DESIGN WORLD(ホンダモーターサイクルデザインワールド)」というイベントが実施された。当時、同プラザはオープンして4年が経過。総来場者は250万人を数えたところだったが、このMOVEは本田技術研究所のデザイン部門が持ち込んだ珍しい企画として注目された。青山の1Fスペースに研究所のデザインルームを特設スタジオとして再現し、一般に初公開。デザインスタディモデルを多数展示するなどして来場客の目を楽しませるだけでなく、優秀なデザイナーをホンダに引き付けるという狙いもあったようだ。
展示の目玉は、ショールーム中央に展示されたこのCO-29。これは、同年10~11月に開催された東京モーターショーでも2つ目のステージのセンターに置かれたコンセプトモデル。パワートレインは2スト90㏄のCVT駆動で、要はスクーターのそれだが、無段変速の先進性に斬新なコンセプトを与えることで、未来のバイク像を強く主張するものとなる。後日談では「映画・マンガ『AKIRA』に登場したバイクが、デザイナーのイメージにはあったでしょうね」ということだが、駐停車中は格納できるポップアップ式スクリーンやコンピューターライズされたデジタルオペレーションシステムなどを採用と謳うあたり、いかにも劇中に登場してきそうなコンセプトモデルと言える。
「ホンダは、まったく新しい観点からモーターサイクルを見つめ直し、ここに新しい可能性を表現しました。来るべきBIKEの姿を暗示するマシン、それがCO-29。近未来を駆けるリトル・ランナバウトとして、モーターサイクル・デザイナーが描いた一つの回答です」(ホンダの解説より)
【HONDA CO-29 1989年MOVE展出品コンセプトモデル】ナイケンや新型ゴールドウイングが採用して話題となった「デュアルピボットステアリングシステム」を採用してハンドル位置に自由度をもたせている。また、暗証番号スタートイグニッションシステムでキーレス化を実現。■全長1720mm シート高640mm ■空冷2スト単気筒90㏄ 前後タイヤ10インチ
北イタリア、トリノのヴェナリア宮殿で実施中のバイクアート展「EASY RIDER」のカタログに掲載されているAKIRAの金田バイク。’80年代にイメージされていた未来のバイクの象徴とも言える存在で、当時これに憧れたライダーは多い。
【HONDA NM4 for GHOST IN THE SHELL 2017年モーターサイクルショー出品車】最近ではNM4が映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」(2017年)でホンダ自らのデザインによってモディファイされて使用されるなど、ホンダのデザイン部門はAKIRAを代表とする近未来世界のバイクの具現化に長年取り組んでいる?!
オートマ版NSR50的な「PR-0」はメットインスポーツ
無段変速のパワートレインを採用したデザインスタディはCO-29以外にも多数あり、このPR-0はフルカウルスポーツモデルの1台。エンジンは2スト50㏄で、当時全盛を誇っていたNSR50に近いサイズ。先進的なのはメットインとなっているところで、1991年に発売されたNS-1にコンセプトが受け継がれた可能性もありそうだ。メットインのフルカウルスポーツと言えばスズキのアクロス(1990年)があるが、PR-0はアクロスの前身となる「X913」が1989年の東京モーターショーに出品される前の展示となるので、発表としてはホンダが先行していたとも言える。
「ワイドレシオを誇るベルト式無段変速のイージー操作により、スクーターとはひと味違った機敏な走りが可能です。キュートなエアロフォルム。意外にもフルフェイスがすっぽりと入る、メットイン・ラゲッジスペース。アルミキャストホイールやチューブレス扁平タイア。フロント・リアディスクなどなど。アクティブな都会の若者のハートを射抜く、小粒のスパルタンスポーツ」(ホンダの解説より)
【HONDA PR-0 1989年MOVE展出品コンセプトモデル】ヘルメットを収納できるメットイン機能の他、主な特徴としてカウル内収納チャンバーが挙げられた。■全長1510mm シート高620mm ■空冷2スト単気筒50㏄ ■前後タイヤ10インチ
ショートテールの「AW-2」
1989年当時、50㏄スクーターは各社の激しい競争によりハイスペック化が推進されており、ホンダもそれに沿ったデザインスタディを製作していたのが分かる「AW-2」。ハイスペックぶりをアピールする前後ディスクブレーキやカスタム風チャンバーの装備だけでなく、デザイン面でもショートテールとし、最新のCB1000Rなどが採用する凝縮した台形シルエットを実現している。
「スクーターの気軽さをそのままに、よりスタイリッシュに、スポーティに展開。そのコンセプトは『元気そのもの』です。新しい走りを表現する、ハイレスポンスエンジン。フロント・リアディスク&扁平タイヤの採用。シェイプアップされたスタイリングなど、遊びゴコロが満タン。どのパーツをとって見ても、いつ走っても、FUN! FUN! FUN!なのです」(ホンダの解説より)
【HONDA AW-2 1989年MOVE展出品コンセプトモデル】メットインスペースを犠牲にしてスタイルを取ったショートテールがスポーティなイメージを生み出す。さらにセンターサスペンションとし性能面も追求しているのが特徴だ。■全長1500mm シート高680mm ■空冷2スト単気筒50㏄ ■前後タイヤ10インチ
未来版モンキーのような「PI-003」
モンキーZ50A以降の50㏄モンキーと同じ8インチサイズのタイヤを履く「PI-003」。コンセプトもモンキーに似ており、ハンドルが折りたためるようになっている。全長は1170mmで軽自動車のトランクに積むことができるコンパクトサイズを実現。エンジンスタートは発電機や芝刈り機などと同じリコイルスターターというのもユニークだ。
「スタイリングコンセプトは、デリンジャー。あるときは、自宅の高層マンションのエントランスに! またあるときは、クルマのトランクに! 好きなところに待機させておくことができる小型BIKEです。目的地につけばすぐさま360°自在にネットワーク。デリンジャーの名のごとく、鋭い走りを披露します。モダンでキュート。ポケットに隠しておきたい大人のアクション・ギアです」(ホンダの解説より)
【HONDA PI-003 1989年MOVE展出品コンセプトモデル】デリンジャーは小型の拳銃の名称、モンキーとは異なりモダンなデザインだ。ステップが見当たらないので格納式だったと思われる。エンジンは2スト30㏄で1速固定のベルト駆動だった。■全長1170mm シート高570mm ■空冷2スト単気筒30㏄ ■前後タイヤ8インチ
エンジンをリヤホールに格納した「CITY MOPET」
当時、無段変速の50㏄は、女性向けモデルもニーズが高かった時代。だが、この「CITY MOPET」のようなモデルはついぞ発売には至っていない。一世を風靡した’76年のロードパルのような自転車感覚の気軽さを、新たなメカニズムで実現しようとしていたのだろう。現代であれば、EVで上手くまとめられそうなデザインだ。
「ファッションに敏感なヤングレディ達が、もっと生き生きと健康的につきあえるオシャレではつらつとしたシティコミューター。デザインコンセプトは、街に新風”シンプル、スリム”。もちろんスクーターとは一目で違うヨーロッパ感覚のモペットをイメージしたスタイリングです」(ホンダの解説より)
【HONDA CITY MOPET 1989年MOVE展出品コンセプトモデル】インホイールエンジンが大きな特徴。往年のベスパもリヤホイール部分にエンジンを搭載しており、それに近いレイアウトとなる。1速固定→2速と進化した’70年代のロードパルから変速機構が刷新されていたのかは不明。■全長1600mm シート高740~800mm(可変) ■空冷2スト50㏄ ■前後タイヤ17インチ
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([特集] 幻の名車)
幻のヤマハロータリー〈RZ201〉 1972年東京モーターショウの最大の話題は彗星のように登場したこのローターリー車だ。水冷・横置きツインローターを搭載、また前輪とともに後輪にもディスクブレーキを採用[…]
石油危機で消えたポストZ1候補2台目はロータリーエンジン 1970年代初頭、ロータリーエンジンは一般的なレシプロエンジンよりも低振動でよりフラットなトルクカーブとスムーズなパワーデリバリーが実現できる[…]
イタリアンイメージをネーミングやデザインに注入 これらデザインスケッチ等は、1989年8月にウェルカムプラザ青山で実施された「MOVE」展で公開されたもの。これは本田技術研究所 朝霞研究所が企画して実[…]
1984年にツインチューブフレームを採用していた これはホンダウェルカムプラザ青山で1989年8月に開催されたイベント「MOVE」に出品されたプロトタイプのCR-1。モトクロッサー、CR500Rのエン[…]
GLの元となった水平6気筒試作車 CB750フォアの発売後、モーターサイクルキングとは何かを探るために試作された1台。ロータリーエンジンのような滑らかさを求めて水平6気筒としたが、ミッションを後ろにつ[…]
最新の関連記事(ホンダ [HONDA] | 名車/旧車/絶版車)
ハイエンドユーザーに向けたスーパーフラッグシップは何と乗りやすく調教済み! 1980年代に入ると、ホンダが切り札としていたV型4気筒は世界のレースで圧倒的な強みを発揮、それまでの主流だった並列(インラ[…]
BMWの牙城を崩そうとドイツの開発チームと熟成をはかる! ホンダはスーパースポーツで世界を制覇、その勢いはフラッグシップで呼ばれる豪華ツアラーモデルでもリーダーを目指し、水平対向4気筒のGLゴールドウ[…]
「バケヨンカスタムご存じ?」’70年代のホンダ4発末弟はCB350Four! 1972年6月、ホンダはCB350フォアを発売した。 1969年に衝撃のデビューを果たした世界初の量産4気筒スーパースポー[…]
後輪を軸に旋回する基本通りに乗れる車体のしなやかさと従順かつ繊細なエンジン特性! 2ストロークエンジン・メーカーではなかったホンダが、’60年代に世界GP完全制覇の後に再挑戦した4ストNR500が思わ[…]
超高性能なCB750FOURでオートバイのイメージを損なわないようジェントルなモデルをアピール! 1969年、世界初の量産4気筒スーパースポーツ、CB750フォアが衝撃のデビューを果たした。 これを契[…]
人気記事ランキング(全体)
インカムが使えない状況は突然やって来る!ハンドサインは現代でも有効 走行中は基本的に1人きりになるバイク。たとえ複数人でのマスツーリングだとしても、運転中は他のライダーと会話ができないため、何か伝えた[…]
ナンバー登録して公道を走れる2スト! 日本では20年以上前に絶滅してしまった公道用2ストローク車。それが令和の今でも新車で買える…と聞けば、ゾワゾワするマニアの方も多いのではないか。その名は「ランゲン[…]
止められても切符処理されないことも。そこにはどんな弁明があったのか? 交通取り締まりをしている警察官に停止を求められて「違反ですよ」と告げられ、アレコレと説明をしたところ…、「まぁ今回は切符を切らない[…]
ライバル勢を圧倒する抜群のコーナリング性能 ’80年代初頭のヤングマシン紙面には何度もRZが登場しているが、デビュー当初のRZ250の実情を知る素材としてここで選択したのは、’80年11月号に掲載した[…]
寒暖差が大きくても着替えずに対応できる! ワークマンのヒーターウエア『WindCore(ウインドコア)』シリーズは、電熱ヒーターを内蔵する防寒アイテム。別売りのバッテリー(4900円)は必要だが、もの[…]
最新の投稿記事(全体)
瞬時に色が変化! 防曇シートに調光機能を加えた「e:DRYLENS」 SHOEIが、ライディング中のクリアな視界を実現するための新たなアイテムをリリースする。その名も「e:DRYLENS」は、ベースと[…]
ハイエンドユーザーに向けたスーパーフラッグシップは何と乗りやすく調教済み! 1980年代に入ると、ホンダが切り札としていたV型4気筒は世界のレースで圧倒的な強みを発揮、それまでの主流だった並列(インラ[…]
バイク乗りが作ったからこそ、痒い所に手が届く インカムの代名詞「B+COM(ビーコム)」でおなじみのサイン・ハウスが送り出した、SPICERR(スパイサー)ブランドの「ポケッタブル高圧洗浄機」。 20[…]
ひと目でわかる「コイツはタフだ」という機能美 アドベンチャーバイク(ADV)ブームが定着して久しいが、オーナーの悩みどころといえばやはり「タイヤ選び」だろう。オンロードの快適性は捨てがたいが、せっかく[…]
昔ながらの構成で爆発的な人気を獲得 ゼファーはレーサーレプリカ時代に終止符を打ち、以後のネイキッドの基盤を構築したモデルで、近年のネオクラシックブームの原点と言えなくもない存在。改めて振り返ると、’8[…]
- 1
- 2














































