
元MotoGPライダーの青木宣篤さんがお届けするマニアックなレース記事が上毛グランプリ新聞。1997年にGP500でルーキーイヤーながらランキング3位に入ったほか、プロトンKRやスズキでモトGPマシンの開発ライダーとして長年にわたって知見を蓄えてきたのがノブ青木こと青木宣篤さんだ。WEBヤングマシンで監修を務める「上毛GP新聞」。第16回は、バニャイアを取り巻くスペシャルなライダー×2人と、日本人ライダーの小椋藍選手について。
●監修:青木宣篤 ●まとめ:高橋剛 ●写真:Michelin, Red Bull
ペドロ・アコスタでも避けられなかった
前回からの続きです。
ライダーの備わったセンサーという観点からすると、今シーズン始まってすぐに大きな注目を集めたペドロ・アコスタが思いつく。シーズン序盤、並み居る強者たちを食う勢いを見せていた彼だが、ここへきてやや失速気味だ。
MotoGPにステップアップして最初のうちは、「知らぬが仏」と言いましょうか、あまり怖い思をしていないからこそ、勢いでイケてしまっていたのだろう。ところが今回のオーストリアGPでも、かなり怖い転び方をした。こうなると、ビビリセンサーが作動してしまい、前のような勢いを発揮できなくなる。
彼ほどのブレーキング巧者なら、やがてはビビリセンサーも克服して、そのうちまたトップ争いに返り咲くだろう。ただ、「ビビリセンサー発動」はライダーなら誰しもが通る道。「アコスタと言えども避けることはできなかったか」と、妙に感慨深いものがある(笑)。
#31 ペドロ・アコスタ選手
そして「ビビリセンサー? いや、そんなの最初から搭載してないけど?」という希有な人が、マルク・マルケスである。この人は、やはりスペシャルだ。恐らくMotoGPライダーの中でももっとも怖い思い、痛い思いをしているはずなのに、ビビリミッターが作動する様子がまったく見られない。リミッター以前に、センサー自体が「ない」のだ。だから簡単に限界を突破してしまう。
オーストリアGPのスプリントレースでは、8周目に2番手になり、トップのバニャイアより速いペースでジワジワと迫った。残り5周、このまま行けば勝てるんじゃないか……というところで、転倒……。限界突破である。本人的には「絶対イケるはずだったのに、なんで?」というところだろう。
今回からミシュランタイヤの仕様が変わって、フロントタイヤが硬くなったとの情報も。マルケスに限らず転倒者が多かったのは、その影響も大きいだろう。それにしてもやすやすと限界を越えてしまうマルケス。ノー・ビビリセンサーのこの男、その要求に応えるマシンが手に入った時は、やはり底知れぬ強さを発揮しそうだ。それはドゥカティ・ファクトリー入りする来シーズンなのか、それとも今シーズン中なのか……。
#93 マルク・マルケス選手
インタビューでは謙虚でも、走りではマルケスらしいアタックを見せ始めている。
イタリアメーカーに乗る日本人、再び
来シーズンと言えば、小椋藍くんがアプリリアからMotoGPを走ることになった。日本人ライダーはどうしても日本メーカーと深い縁を結ぶが、一方で、MotoGPにステップアップできるタイミングもそうそうない。
現時点でホンダに乗るのはかなりつらい選択だし、かと言ってこの先、いつホンダが這い上がってくるのか、保証はまったくない。これは本当に「現時点で」でしかないが、ホンダよりアプリリアの方が可能性があるのは、残念ながら事実だ。
A perfect blend of qualities that @TrackhouseMoto was looking for in a rider 💪
— MotoGP™🏁 (@MotoGP) August 20, 2024
Team Owner Justin Marks opens up about @AiOgura79 partnering @25RaulFernandez 🎙️#MotoGP2025 | INTERVIEW 👇https://t.co/UkgF2FIzVN
日本人ライダー&海外メーカーという組み合わせは、坂田和人&アプリリア(GP)、原田哲也&アプリリア(GP)、芳賀紀行&アプリリア(GP)そしてドゥカティ(SBK)、中野真矢&アプリリア(SBK)など、いろいろな実績がある。国籍を超えて評価されるのは、本当に素晴らしいこと。小椋藍&アプリリアも楽しみだ。
鈴鹿8耐はライダーがオーバーヒートする時代に……
そして最後に、鈴鹿8耐。下馬評では「今年はYART – YAMAHAが3人とも速い!」と、ついにEWCレギュラー参戦チームが表彰台の頂点を奪うかと注目されたが、終わってみれば、やはりHRCが強かった。どんな状況でもタイムを落とさずに淡々と走り切れたのは、それだけ事前テストを重ねたということ。これぞ耐久レースという順当な結果だった。
そしてワタシも現地に行ったのだが、暑い、暑すぎる……。さすがに無理な気温になってきた気がする。タフな外国人ライダーも今年の暑さにはかなりヤラれていたようだ。「水温が高くて走れない!」とピットインしてきたものの、水温は85度程度といたって普通。実はライダーの方がオーバーヒート気味だった、なんて話も。
’22年の鈴鹿8耐をもって現役引退をしたワタシですが、つい最近までは「また出たいな……」という未練があった。しかし今年の暑さでは、正直走りたいとは思えなかった。ライダーはもちろん、お客さんやメディア、そしてオフィシャルなど関係者を含めて、猛暑のリスクはどんどん高まっている。そろそろ本気で開催時期変更を考えた方がいいような気がしてならない……。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([連載] 青木宣篤の上毛GP新聞)
マシンの能力を超えた次元で走らせるマルケス、ゆえに…… 第2戦アルゼンチンGPでは、マルク・マルケス(兄)が意外にも全力だった。アレックス・マルケス(弟)が想像以上に速かったからだ。第1戦タイGPは、[…]
開幕戦タイGP、日本メーカーはどうだった? ※本記事はタイGP終了後に執筆されたものです 前回はマルク・マルケスを中心としたドゥカティの話題をお届けしたが、ドゥカティ以外ではホンダが意外とよさそうだっ[…]
バニャイアの武器を早くも体得してしまったマルケス兄 恐るべし、マルク・マルケス……。’25MotoGP開幕戦・タイGPを見て、ワタシは唖然としてしまった。マルケスがここまで圧倒的な余裕を見せつけるとは[…]
拍子抜けするぐらいのスロットルの開け方で加速 マレーシアテストレポートの第2弾。まずはシェイクダウンテストからいきなり速さを見せた、小椋藍選手について。本人は「ブレーキングが課題」と言っていたが、ブレ[…]
イケてるマシンはピットアウトした瞬間にわかる 今年も行ってまいりました、MotoGPマレーシア公式テスト。いや〜、転倒が多かった! はっきり認識しているだけでも、ホルヘ・マルティン、ラウル・フェルナン[…]
最新の関連記事(モトGP)
全日本、そしてMotoGPライダーとの違いとは 前回は鈴鹿8耐のお話をしましたが、先日、鈴鹿サーキットで行われた鈴鹿サンデーロードレース第1戦に顔を出してきました。このレースは、鈴鹿8耐の参戦権を懸け[…]
予選PP、決勝2位のクアルタラロ MotoGPもいよいよヨーロッパラウンドに突入しました。今はヘレスサーキットでの第5戦スペインGPが終わったところ。ヤマハのファビオ・クアルタラロが予選でポールポジシ[…]
1位:スズキ『MotoGP復帰』&『850ccで復活』の可能性あり?! スズキを一躍、世界的メーカーに押し上げたカリスマ経営者、鈴木修氏が94歳で死去し騒然となったのは、2024年12月27日のこと。[…]
XSR900GPとの組み合わせでよみがえる”フォーサイト” ベテラン、若手を問わずモリワキのブースで注目したのは、1980年代のモリワキを代表するマフラー、「FORESIGHT(フォーサイト)」の復活[…]
上田昇さんとダニと3人で、イタリア語でいろいろ聞いた 先日、ダイネーゼ大阪のオープニングセレモニーに行ってきました。ゲストライダーは、なんとダニ・ペドロサ。豪華ですよね! 今回は、ダニとの裏話をご紹介[…]
人気記事ランキング(全体)
通勤からツーリングまでマルチに使えるのが軽二輪、だからこそ低価格にもこだわりたい! 日本の道に最適なサイズで、通勤/通学だけでなくツーリングにも使えるのが軽二輪(126~250cc)のいいところ。AT[…]
ライディングポジション関連を変更。実用性もアリ!! 基本構成はCB1000ホーネット譲りだが、各部のパーツは専用品が多い。とくに注目すべきはスマートキーだ。ホーネットでは物理キーを鍵穴に挿し込む一般的[…]
半クラッチは熱膨張で繋がる位置が変わる! ほんとんどのバイクは、エンジンのシリンダーよりちょっと後ろに丸い膨らみがある。これがクラッチ。 丸い膨らみの中には、エンジンのパワーを発生するクランクシャフト[…]
日本映画史の記憶に残り続ける『トラック野郎』シリーズ第1作 『トラック野郎 御意見無用』は、1975年に公開された鈴木則文監督による日本映画。東映製作/配給の『トラック野郎』シリーズの記念すべき第1作[…]
250A1、350A7に続く最速チャレンジャー真打ち登場!! 1966年に250ccA1サムライで、先行していたホンダCB72、ヤマハYDS3、スズキT20の性能を上回り、次いでボアアップした338c[…]
最新の投稿記事(全体)
その姿、まるでGB400TT MkIIの正統後継者! 欧州ホンダは、2025年も例年通りカスタムコンテスを開催。これは正規ディーラーがホンダ車をベースにカスタムを手がけ、オンライン投票で最優秀マシンを[…]
原付スクーターは16歳から取得可能な“AT小型限定普通二輪免許”で運転できる バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があ[…]
各部に配された黒が車体を引き締める 1833cc水平対向6気筒エンジンを搭載するホンダのフラッグシップモデル、ゴールドウイング。2022年モデルは、2022年4月21日に発売した。 ここでゴールドウイ[…]
日本を含むアジア圏で人気のSUVスクーター 水冷4バルブのeSP+エンジンを搭載するアドベンチャー系SUVスクーター「ADV160」シリーズに新色が登場した。新たなカラーラインナップが発表されたのはマ[…]
上質な栃木レザーのハンドメイドキーケース このキーケースは、革職人が上質なレザーを用いてハンドメイドで製作。素材には、国産最高峰とされる栃木レザーが使用されており、使い込むほどに手に馴染み、美しい経年[…]