![](https://young-machine.com/main/wp-content/themes/the-thor/img/dummy.gif)
カワサキの「2ストロークエンジン」なる特許が7月8日に公開された。図版を一見すると4ストロークエンジンのようなバルブが片側だけ見えるが、これで2ストロークなのだという。一体どういうことなのだろうか。スクープ未満の妄想も含む記事にはなるが、なるべく頑張って考察してみたい。
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●CG製作:SRD(不許複製/All rights reserver)
弁方式がSOHC2バルブの2ストローク……だと??
カワサキモータースが2022年12月26日に出願し、2024年7月8日に公開となった特許には、「2ストロークエンジン」の名称が与えられていた。新規の2ストエンジンか、と簡単に考えたらちょっと違う。なにしろ、4ストロークエンジンでしか見られないはずの円錐状のバルブを採用しているのだ(※)。それも吸気側だけ。
これをヤングマシン的なスペック表記とするなら、●冷2ストローク●気筒SOHC2バルブ……ということになるのだろうか? 一般的なモーターサイクル用2ストロークエンジンの弁方式といえば、ピストンバルブやピストンリードバルブ、あるいはクランクケースリードバルブ、ロータリーディスクバルブの4種類しか聞いたことがない。
しかも、4ストロークエンジンにおける2バルブといえば吸気/排気バルブが各1本という構成であり、この特許図のような吸気側の2本だけというのも実に奇妙だ。
しかし、特許の文面と図版を眺めていると、とても理にかなっていると思えてくる。
一般的なモーターサイクル用2ストロークエンジンでは、シリンダーの前後方向のどちらかの壁面に掃気ポートがあり、反対側に排気ポートがある。上記4つのバルブ方式のいずれかでクランクケース内に吸気し、ピストンが下がることで1次圧縮が行われ、掃気ポートからシリンダーに混合気が供給されるとともに燃焼済みのガスが排気ポートから押し出される。入れ替わった混合気はピストン上昇で圧縮され、スパークプラグで点火することで燃焼を得ることができ、またピストンは押し下げられていく。
こうしたサイクルがピストン1往復=クランク1回転の間で行われ、上/下の2ストロークで1サイクルが完成されることから2ストロークあるいは2サイクルエンジンと呼ばれるわけだ。
4ストロークがピストン2往復=クランク2回転で1サイクルを完成するのに対し、同一回転数なら2倍の回数の燃焼を得ることができ、それゆえ同一排気量なら、2ストロークエンジンのほうが圧縮比を上げにくい構造ながらもパワーを得やすく、反面で燃費は悪い。
軽量シンプルな部品構成ながらポート形状によるパワーの追求は複雑で奥深く、一方でクランクケース内に吸気することからクランクベアリングとピストン&シリンダーを潤滑するためのオイルを供給し続けなければならないのが2ストロークエンジンの宿命だった。
※船舶用などの2ストロークディーゼルエンジンでは円錐状の排気バルブとターボの組み合わせが一般的(本記事のエンジンとは逆)かつ主流だが本記事では割愛
もしかして2ストオイル不要か……!
そんなメリット/デメリットを併せ持つ2ストロークエンジンは、なぜ姿を消していったのか。それは、掃気/排気がオーバーラップすることでどうしても未燃焼ガスが排出されることや、2ストオイルを供給することで排気ガスにオイル成分が含まれてしまうことによって、排出ガスのクリーン化が難しかったことによる。また、燃費をよくするのが難しいため二酸化炭素の排出量でも不利だ。
これらを解決するため、これまでも燃焼室にインジェクターで直接燃料を噴射する直噴や、2ストオイルの混合気への混入を極力減らすようなメカニズムがトライされてきたが、根本的な構造が変わったわけではなかった。
4ストロークエンジンのような吸気バルブシステムを持つ一方で、図版の右側に見えるシリンダー壁面には排気ポートが設けられている。そして左下には『過給機』の文字が!
ではカワサキの出願している特許による2ストロークエンジンはというと、吸気バルブを4ストロークで見られるような円錐型のバルブとし、燃料噴射を直噴にすることで、多くの課題を解決に導くように見える。
構造としては、4ストロークエンジンと同じくシリンダーヘッド上にあるカムシャフトでバルブを駆動し(機構的にはOHVでもいいという)、一般的な2ストロークエンジンと同じようにシリンダー側面に設けられた排気ポートから燃焼済みガスが排出されるようになっている。
面白いことに、吸気バルブは4ストロークエンジンがクランク1回転の間に仕事をし、もう1回転する際には完全に休んでいるのに対し、クランク1回転毎に開閉することになる。
これによるメリットは、クランクケース内に吸気しなくて済むということに尽きるだろう。スロットルボディと4ストローク的な吸気ポート/吸気バルブという流路で吸気システムは成立しており、クランクケースを経由する必要がないのだ。
ピストン上面の形状も工夫されているようで、吸気ポート側の壁面に重点的に新気を取り入れることで効率的な掃気を実現。また、直噴用インジェクターは吸気バルブと対になるような位置(4ストにおける排気バルブのあたり)に配置されている。
となれば、クラッチやトランスミッションを潤滑するエンジンオイルを4ストロークエンジンと同様にクランクベアリングにも共有することができ、ケース内を循環するオイルで潤滑が完結する。そのため2ストオイルのように新たに供給してやる必要がなく、これによって排出ガスにオイルが混入することも避けられるはず(一般的な4ストロークエンジンと同等のごくわずかな混入はあるにしても)。
そうなると燃焼室に供給するべきは空気と燃料ということになり、吸排気の考え方はひと回りシンプルになるように思える。これに直噴を組み合わせることで、排気ポートがピストンで塞がれた後に燃料を供給することも可能になる。つまり、点火前に混合気(未燃焼ガス)が排気ポートを吹き抜ける、という現象も起こらなくなるわけだ。
特許の文面によれば、シリンダー壁面の排気ポートが開いたあとに吸気バルブが開き、掃気~吸気が連動して行われる。そしてピストンが上昇して圧縮行程が開始され、燃料噴射が行われるという。
ではこのカワサキ方式の2ストロークのデメリットはと考えると、やはりクランクケース内に吸気しないことに起因するのではないだろうか。1次圧縮がないことで燃焼室に空気を送り込む力は弱くなり、一方で4ストロークのように吸気行程で燃焼室内がしっかりと負圧になるということもなさそう。つまり、回るには回るとしてもちょっと“吸いが弱い”ように思えてならないわけだ。
しかし、カワサキはすでに解決方法も特許にサラリと記載している。そう、過給機である。これは機械式スーパーチャージャーまたは排気を利用するターボチャージャーのどちらであってもいいようで、これによって新気を送り込む力を強め、掃気をより効率的に行うことができるようになるのだろう。また、2ストロークならではのチャンバー(マフラーのパイプが膨らむ独特の形状)がこのエンジンに対しても効果的なのかどうか、気になるところではある。
一部に4ストロークエンジンのような動弁機構を用い、2ストロークのいいところは残しつつネガティブな要因を排除する。ある意味2ストロークと4ストロークのハイブリッドのようなエンジンと言っていいのかもしれない。あとは気になるとすれば燃費がどうかという部分だろうか。
左の図版はピストンが下死点近くまで下がった掃気行程で、吸気バルブから進入した新気が燃焼済みガスを追い出しているのが想像できる。右は圧縮からの燃料噴射行程のようで、排気ポートが塞がってからの直噴により未燃焼ガスの損失を防いでいるように思える。
このほか、燃料は水素、あるいは炭化水素を含む気体燃料、炭化水素を含む液体燃料(ガソリン/ディーゼル/アルコールなど)であってもいいとされている。
まさしく“ぼくの考えた最強の2スト”が具現化されようとしているかのような公開特許である。これ、マジで実現してほしいんですけど!!
ちなみに、どうやら1989年の東京モーターショーでトヨタが公開したコンセプトエンジンにも、似た系統のアイデアが採用されていた模様。資料が揃わず正体はわからないのだが、下記↓↓の記事で触れているので興味があれば一読を。記事の主題であるホンダの2スト+4ストハイブリッドというのも、前2気筒が4スト/後ろ1気筒が2ストのV型3気筒というのは妄想が過ぎるにしても、実際は今回の記事のようなアイデアと近いものだったとすれば、十分に存在し得たものなのかもしれない。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(スクープ/未来予想)
EICMAで新しい内燃機関車をチラ見せする! 7月3日に報じた新基準原付版スーパーカブ、そして7月6日の新型CB400確定情報と、最近のWEBヤングマシンでは何度もその名前が上がっているホンダの加藤稔[…]
ワインレッドにゴールドストライプの『イノ レッド』 参考:こちらは2005年型のZEPHYR1100/ZEPHYR750/ZEPHYRχ 参考:KAWASAKI Z900RS[2025 Indones[…]
苦労したが仕様は決まった。大丈夫です。 その中での“噂になっている新しいヨンヒャクはどうなっているのか?”という質問に対し、加藤本部長は「400は開発に苦労していたが、なんとか仕様が決まったので大丈夫[…]
1966年式をモチーフとした最終仕様で歴史にピリオド ホンダが50ccのバイクを2025年5月に生産終了するというニュースが駆け巡ったのは6月22日。情報を集めてみると2025年11月までに生産終了と[…]
絶対出力ではなく、総合性能の高さで勝負 とは言っても、スペック的にカワサキをまったく無視するのは難しいだろうから、最新ヨンヒャクとして同じ土俵の上とユーザーに判断してもらえる最高出力、具体的には70p[…]
最新の関連記事(メカニズム/テクノロジー)
スマートキーって?メリットだけじゃなくデメリットもある メリット1:乗り出しから停車までが楽になる バイクの乗り降りの際に、キーの出し入れ/キーシリンダーへの抜き差しといった一連の動作を省けるのが、ス[…]
[A] より剛性を高め、スムーズな動きを追求るために開発された フロントのサスペンション機構、“フロントフォーク”には正立タイプと倒立タイプがある…と聞いて、何のこと? と思われた方は、まず写真を見て[…]
ひとつのカム/ふたつのカム カタログや試乗記事の最後に掲載されているスペック(仕様)で、エンジン形式の最初に「DOHC」とか「OHC」と表記されているのはご存じのはず。 このDOHCは「ダブルオーバー[…]
ほどよく滑りやすく、ほどよく滑りにくい?? 最新のスポーツバイクのシートには、座面にさまざまな素材が使われている。タックロールを入れてクッション性と滑りにくさを両立していた昔ながらの座面の、お尻が沈み[…]
[A] スポーツ性を追求するなら1本ショック。2本ショックはルックス重視 昔ながらのネイキッド系のバイクの多くが今も2本ショックユニット仕様ですが、これはオートバイらしい伝統的なルックスを重視している[…]
人気記事ランキング(全体)
リッター51.9kmの低燃費、735mmの低シートでユーザーに優しい ヤマハは、同社の原付二種スクーターで最も廉価な原付二種スクーター「ジョグ125(JOG125)」の2025年モデルを2024年9月[…]
ニンジャ40周年カラーが当たる!「Ninja ZX-4RR プレゼントキャンペーン」 「かつて“ファミマカラー”と呼ばれたんだからキャンペーンするならこの色しかないでしょ!」という会議があったかどうか[…]
125ccスクーターは16歳から取得可能な“AT小型限定普通二輪免許”で運転できる バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限[…]
スペイシー50[1982] 面を強調しながら真横から見た際に三角形を描く未来的なフォルムや、フロントに備わる施錠式のトランク、上級仕様のカスタムが導入したデジタル式速度計やコムキャストホイールなど、1[…]
1分でわかる記事ダイジェスト レーサーレプリカとは、1980〜1990年代にかけて盛り上がっていたバイクレース用マシンの走行性能やスタイルに基づき、作られたバイクのこと。スーパースポーツとの違いは歴史[…]
最新の投稿記事(全体)
”聖地巡礼“のようだった頃の鈴鹿8耐を思い出させる ヤマハのXSR900 GPの受注が好調とのこと。 初めて見たときのファーストインプレッションは「なんだこれ?」だったけど、なるほど往年のGPレーサー[…]
切符処理されないケースもある?! いきなりパトカーからスピーカーで呼び止められたり、旗を持った警察官に停止を求められたりして「違反ですよ」と言われると、誰でも「やってしまった…」と焦るはず。 ところが[…]
低めの速度レンジでも満喫できるスポーツ性 私が参戦する全日本ロードレース選手権のJ-GP3クラスは、4月中旬に開催された「スーパーバイクレース in もてぎ」が今季の初戦。決勝の順位は6位でした。 掲[…]
[A] 猛暑日はライダーへの負担がハンパなく大きい。自分で絶対守る何箇条かを決める覚悟が必須 避けるべきシチュエーション 真夏にバイクに乗る経験がまだ少ない方は、照りつける直射日光と照り返すアスファル[…]
点火系は強力な着火と安定性が何よりも信条。ASウオタニ製パワーアップで“セミトラ”にチャレンジ 30年以上もガレージに保管され、お不動様状態となっていた筆者のモトグッチ ルマンIII。その保管状況が良[…]