3月10日に決勝が行われた2024年MFJ全日本ロードレース選手権シリーズ第1戦、鈴鹿サーキットのホームストレートを疾走する水野涼の姿に、加賀山就臣監督は目頭を熱くしていた。ファクトリーマシンを初めて走らせてから5日目の出来事だった。
●文/写真:ヤングマシン編集部(佐藤寿宏) ●写真:箱崎太輔
イタリアンレッドが鈴鹿で大暴れ?! 全日本ロードレースが開幕!
早くも全面全日本ロードレース選手権シリーズが開幕しました。例年なら、もてぎで事前テストに向けて準備に追われているところですが、今年は1カ月も早く開幕戦が鈴鹿で行われました。これは4輪のF1が4月になったことから、鈴鹿2&4レースが3月になったのですが、いつもはファン感謝デーが行われており、イベント後のテストは、低温から転倒も多く、2年前には清成龍一、名越哲平が転倒し負傷したことは記憶に新しいところです。さらに遡ると中須賀克行も3コーナーで転倒し肩を痛めており、鬼門とも言えるテストでした。
そんな時期のレース開催は、反対意見が多かったのですが、なぜか行われることになってしまったのですね。あんなことや、こんなことも書くと、またたたかれる(炎上?)ので、やめておきますが、事前テストからレースウイークまで、どれだけ転倒があってケガをしたかを考えると、3月の開催は難しいと考えるのが普通でしょう。それも、今回は基本的に年間エントリーのみで、スポット参戦が認められたのも実績のあるライダーのみ。そんな実力を持つライダーたちが気をつけていても転倒してしまう状況でしたし、被害金額は相当なものです。ケガをしたライダーの気持ちを考えるといたたまれないですね。
前置きが長くなりましたが、レースはDUCATI Team KAGAYAMAの水野涼、DUNLOP Racing Team with YAHAGIの長島哲太が大いに盛り上げてくれました。2人とも、ヤマハファクトリーとガチバトルをしてトップを走りましたからね。
イタリア大使館で体制発表会を行い、鳴り物入りで登場したドゥカティのファクトリーPanigale V4 Rは注目を集めました。ただ、2月26、27日の事前テストでシェイクダウン、レースウイークに入ってマシンセットを進めていきますが、電気系トラブルでストップする場面も見られました。
「事前テストではデータを取るために足回りはいじらずに、レースウイークに入ってからペースを上げるためのセットアップを始めました。初日となった木曜日は、自分はホンダ的、チームはスズキ的な考えが、ドゥカティをよく知っているエンジニアのエイドリアン・モンティと意見が噛み合っていませんでした。金曜日の午前中も同じような状態だったのですが、午後にセットを変えると、いいところが見つかって、タイムが一気にポンと上がりました」(水野)
金曜日の最後のセッションで2分06秒072をマークし水野は2番手につけていました。トップの長島は2分05秒626を記録していましたが、予選タイヤを使っていました。土曜日の予選は、直前に雪やヒョウ混じりの雨が降りキャンセルされることになってしまったため、金曜日のタイムでグリッドが決まることになっていました。
「金曜の時点では半々でした。ポールのテツくんのタイムは違うタイヤでしたし、中須賀さんがどこまでペースを上げてくるのか分かりませんでしたから。勝ちたい思いが50%、このコンディションだから読めないというのが50%でした」
コーナーの立ち上がりでは、まだまだ振られる状態でしたが、フィーリングはかなりよくなってきており、決勝でも、いい状態で臨めたそうです。ただ、今回は、4輪のスーパーフォーミュラとの2&4レース。土曜の予選が中止になってしまったため、決勝で初めてスーパーフォーミュラが走った直後を走るため、路面コンディションを確認しながらのレースとなっていました。
トップ争いの中、赤旗でレースが中断
レースがスタートするとセカンドグリッドからホールショットを奪い、いきなりトップに立ちます。オープニングラップで長島に抜かれ2番手に下がりますが、2周目のホームストレートで再びトップに立つとレースをリード。しかし3周目の最終コーナーで渡辺一樹が転倒したため、赤旗が提示されレースは仕切り直しとなります。
2度目のスタートでは、長島がホールショットを奪い、水野は、1コーナー進入で行き場を塞がれ4番手につけていました。するとオープニングラップの西ストレートで一気に3台をかわしてトップに浮上! ドゥカティファクトリーの速さを見せつけます。
「路面の状態は、通常よりグリップレベルが低い感じでしたが、マシンのフィーリングはよかったですね。3台抜いてトップに立ったときは、スリップストリームが効いて、思っていた以上にスピードが出ていたので130Rで止まらなかったんですよ。まだオープニングラップだったので、ここで抜いても展開的に変わらなかったのですが“レースが盛り上がるかな?”と半分思いながら4輪ファンに2輪レースのおもしろさを、ドゥカティの速さを見せつけられればと」(水野)
ヤマハファクトリーの2台を含む3台抜きは、インパクトがありましたし、鈴鹿サーキットは大いに盛り上がっていました。ドゥカティが全日本JSB1000クラスでトップを走るのは初めてのことです。この瞬間、DUCATI Team KAGAYAMAのピットでは、加賀山就臣監督が目頭を熱くしていました。
「マジで泣いたね。実際にトップを走っているんだから…。今回のプロジェクトは49年間生きてきて一番頑張ったから、なおさらだよね。日本でドゥカティのファクトリーマシンを走らせて5日目で迎えたレース。改めてウチのスタッフのすごさを感じたし、DUCATI Team KAGAYAMAだからこそ、あそこまで走らせることができたと思う。イタリアに行ってバイクを組んで、スクーリングを受けてきたけれど、とにかくハイテクすぎて、スズキファクトリーに長年いたオレでも“このバイクはヤバイな”と感じていた。電気系、車体が全てつながっていて、バイクを速く走らせるためのプログラムが常にアップデートされていく。日本に到着したもののパーツの到着が遅れて事前テストにギリギリ間に合わせて、コースインしたときも泣きそうになったし、レースでは1周目から速かった。水野も難しいコンディションを見極めて転倒もなかったしミスなく走ってくれた。本当にいいパッケージがそろったと確信したね」とチーム代表兼監督の加賀山就臣。表彰台の下でも涙を見せていました。
中須賀克行とのマッチレース
水野は、2周目から2分06秒フラットを記録し、3周目には2分05秒台に突入。3周目にベストとなる2分05秒867をマークしていました。このペースについていけたのは、王者・中須賀のみ。その後は、マッチレースとなり、冷静に前に出た中須賀がレースを制することになります。
「最初5秒台で走ることができていたのですが、ギア抜けがあり、リズムを崩してしまい2分06秒台に落ちてしまいました。具体的にミスをしたというよりは、すぐに5秒台に戻すことができなかったことが、中須賀さんにパスされた理由だと思います」
10周目にヨシムラからスポット参戦し、3番手を走っていた渥美心が3コーナーで転倒し、セーフティーカーが入ります。さらにセーフティーカーラン中に、児玉勇太が、やはり3コーナーで転倒してしまったことから赤旗が提示され、そのままレースは成立となりました。
「セーフティーカーが入った時点で“負けた”と思いました。悔しいですが、そこで後ろにいた自分がいけなかったです。ただ、限られた時間の中で、もちろん勝ちを狙っていましたが、実際にトップに立ってレースを引っ張ることになるとは想定していませんでした。まだまだマシンを理解している真っ最中ですし、寒さとグリップの低いコンディションで2分05秒台で走ることができたのは、ドゥカティのポテンシャルをすごい感じるし、本格的にセットアップを始めて2日間しか経っていないのに、10年近く費やしているヤマハファクトリーに、あそこまで戦えたのは上出来だと思います」と水野は笑顔で語った。開幕戦の率直な感想は? と聞くと“悔しいです”とひと言。
「レース前は3位に入れば100点だと思っていたけれど、今回のようなレース展開だと勝つチャンスはあると思ったね。だから赤旗は悔しかったけれど、2位は100点以上だったと思う。これもファクトリーマシンを貸してくれたドゥカティコルセに感謝。マシンとしてベースが電子制御から車体から、すべてすばらしい。まだまだアジャストできていないので、ノビしろはあるし、まだまだ本来の性能は上にあることが開幕戦を戦ったことで実感できた。新しい風を吹かせていくよ」(加賀山)
全日本ロードレースにドゥカティファンを呼び込んだ
開幕戦から、いきなりトップ争いを繰り広げたDUCATI Team KAGAYAMA。今まで全日本ロードレースには、いなかったドゥカティファンを呼び、応援席ではドゥカティフラッグを振り、レース後には、ドゥカティユーザーとサーキットをパレードした。
「応援席やパレードを企画して楽しんでもらえるネタを作りました。今までサーキットに来たことがなかった方が来て楽しめる環境を、もっと作っていきたい。ドゥカティディーラーの方もよろこんでくれていましたし、うまくレースとつながってもらえたら、うれしいですね。第2戦もてぎも、ご期待ください!」(加賀山)
「チャンピオン(になる可能性)は、十分あると思います。開幕戦で3位ではなく2位というのも大きかったと思います。次回のもてぎは、得意なコースですし、ドゥカティにすごく合っていると思うのでメチャメチャ楽しみです。レース展開もいつもと違う感じになるんじゃないかな」(水野)
開幕戦は通常のハイオクでしたが、第2戦もてぎは、ハルターマン・カーレス社製CN燃料を使う事になります。ドゥカティにとっては初めて使うものですが、すでにサンプルをイタリアのドゥカティコルセに送り分析してもらっているそうです。4月初旬には事前テストもあるので、そこで、どこまでまとめられるかがカギになるでしょう。
ダンロップチームからJSB1000デビューを果たした“テツ”こと長島哲太もすごい走りをしていたので書きたかったのですが、長くなりすぎてしまうので次回にでも。ヨシムラからスポット参戦した渥美も本当にいい走りをしていました。表彰台圏内を走行中に転倒と悔しいレースになりましたが、このまま、全日本にもぜひ出てもらいたいものです。ヨシムラ70周年ですし、スポンサーさんいませんかー? JSB1000クラスに戻って来た高橋巧、野左根航汰の元チャンピオンは、まだまだこれから。本当に今シーズンは話題が豊富なので楽しみですよね。
次戦は、4月13日(土)・14日(日)に栃木県・モビリティリゾートもてぎで行われます。2レース制なので、土曜日には予選とレース1を、日曜日は、JSB1000クラス以外にST1000クラス、J-GP3クラス、ST600クラスのレースも観戦できます。ツーリングがてらモビリティリゾートもてぎを目指すのもオススメですよー。
全日本ロードレース写真館
レース全体のレポートはまた次回にでも……ということで、以下は箱崎太輔カメラマンのレース写真を置いておきます。ご堪能あれ!
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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