クラッチレバーはあるけど操作は不要!

新型車CBR650R/CB650Rの新技術「Eクラッチ」って何? 知りたいこと全部ホンダに聞いてみた!

まもなく国内発売される予定の、2024年型CBR650R/CB650Rに搭載されるホンダの新世代のマニュアルトランスミッション・Eクラッチ。シフトペダル操作こそ必要だが、走行中にクラッチレバーの操作は一切不要で、それでいてクラッチレバーは装備するため、必要時は通常のMTとしても運転できる世界初のメカニズムだ。今までに類を見ない機構なだけに「こんな時は?あんな時は?」と様々な疑問が浮かんでくる…というわけで、Eクラッチの開発者たちを質問攻めにしてきたぞっ!


●文:伊藤康司 ●写真:山内潤也/Honda

クラッチ操作「する/しない」が選べる?! ホンダ「Eクラッチ」って?

発進/変速/停止時のクラッチ制御を自動で行うホンダの新世代MTがEクラッチ 。シフトペダル操作は必要だが走行中のクラッチ操作は不要で、それでいてクラッチレバーは装備し、通常のMTとしても運転できる世界初のメカニズム。1958年に登場した初代スーパーカブの自動遠心クラッチ以来、クラッチ操作不要な数々のトランスミッションを開発してきたホンダとしては、現時点での到達点がEクラッチと言える。メカニズムの詳細はこちらの記事を。

【採用第一弾はCBR650R系から】Eクラッチ搭載第1号となるのが昨秋のミラノショーで発表され、まもなく日本でも正式発表と目される2024年式CBR650R/CB650R。ホンダはEクラッチの他機種展開も公言しており、今後採用機種はどんどん増加するはず!

Q:これってオートマなの?

Eクラッチはエンジン右サイドのクラッチカバーに張り付くような形で搭載される。内部構造はタイトル写真を参照してほしいが、クラッチレリーズシャフト(写真内の青い部品)を機械的に作動させるためのギヤやモーターなどが収められている。

A:違います!
Eクラッチは大前提として「マニュアルトランスミッションの進化版」。シフトペダルによるギヤチェンジは必須で、クラッチ操作を電子制御に委ねることで走りに集中し、よりスポーツライディングを楽しむのがコンセプト。最大の特徴はライダーが任意のタイミングで「クラッチレバー操作」を行えるところで、Uターン時やスポーツ走行でも威力を発揮する。

同じくクラッチレバー操作を不要としたトランスミッションに、アフリカツインやゴールドウイングなどが採用する「DCT(デュアルクラッチトランスミッション)」があるが、こちらはボタン操作やシフトペダルによるマニュアルシフトも可能だが、基本的には変速も自動で行うオートマチックトランスミッションだ。

「発進」「変速」「停止」という3つのシチュエーション別に、MT/MT+クイックシフター/Eクラッチ/DCTという4つのトランスミッションの操作を比較した図。Eクラッチは、クラッチレバーの操作は不要としながらも変速の楽しさは残す“マニュアルシフトのトランスミッション”なのだ。

Q:免許はMT? AT限定?

A:大型MT免許が必要!

現在の日本国内の法規では「クラッチレバーを装備しているバイクはAT限定免許では運転不可」となっている。

Q:エンストしないの?

A:MTモードだとエンストします

EクラッチはシステムをOFFにするか、またはクラッチレバーを握れば普通のMT車と全く同じ。MTモードで走らせているときにクラッチ操作を誤れば普通にエンストする。もちろん、システムONで走らせればエンストの心配は皆無。ビギナーにも安心だ。

写真は2024年型CB650R・Eクラッチ車のメーター。右側にインジケーターを持ち、システムON状態だとこれが点灯。システムのON/OFFは停止時・ギヤ位置がニュートラルの状態で切り替え可能で、操作は左ハンドルスイッチの4Wayセレクトスイッチで行う。

Q:もし転んで壊したら?

A:普通のMTに戻ります

軽い立ちゴケ程度ならカバーに傷がつくだけ。もしクラッチを制御するアクチュエーターが破損しても、クラッチ本体やレリーズ部が無事ならクラッチレバー操作でMTとして走れる。

Q:基本的な構造は?

A:モーターとギヤでクラッチを断続

簡単に言えば、モーターの力によって、ギヤを介してクラッチの断続を行うメカニズム。コンピューターがシフトペダルへの荷重や車速、エンジン回転数、スロットル開度など、車体各部からの様々な情報を元にモーターを制御し、クラッチの断続を非常に緻密にコントロールしている。

Q:ウイリーはできる?

A:MTモードなら可能!

前述のとおり、EクラッチのシステムがOFF、またはクラッチレバーを操作した際は完全に普通のMT車なので、ライダーにテクニックさえあればウイリーでもバーンナウトでもアクセルターンでも、MT車で出来るコトはすべて可能だ。

それを誇示(?)するかのように、2024年型CBR650Rではホンダとしては珍しく広報画像にウイリーカットを用意。“スポーティなトランスミッションなんだぜ!!”ということをアピールしたい意気込みの現れだろう。

Q:停止時はニュートラルに入れるの?

A:お好きなようにどうぞ

ライダーの好みで、どちらでもOK! 1速に入れたままならスロットルを開けて直ちにスタートでき、ニュートラルならシフトペダルを踏んで1速に入れ、スロットルを開けて発進。いずれにしてもクラッチレバーの操作は不要だ。1速に入れたまま停止しているとクラッチ板の消耗が早い……といったデメリットもまったくない。

Q:システム作動中にクラッチレバーを操作したら?

A:瞬間的にMTに移行し、状況を見て自動復帰

システムONの状態でも、ライダーがクラッチレバーを握った瞬間にMT状態(いわゆるシステムOFFの状態)に自動で移行する。システムONで乗っていて、低速でクラッチレバーを使ってUターンしたいときになどに便利だ。そしてクラッチレバー操作が終了すれば、自動的にシステムONに復帰する。低速時は約5秒後に復帰し、スピードが出ている時は1秒未満で復帰するなど、システムの復帰タイミングも走行状態に合わせてコントロールされる。

システムON状態でも、クラッチレバー操作を行えば即MT状態に移行するのもEクラッチの特徴。マニュアル状態の囲み内に「高回転発進が可能」「レーシング発進」「ウィリー」などの言葉が並ぶことからもわかるように、スポーツ性は一切犠牲にされていない。

Q:どんな構造でレバー操作と自動操作を両立してる?

クラッチは黄色く着色されたレバーを回転させることで断続されるが、それをモーター操作/クラッチレバー操作でお互い干渉なく行えるうえ、オーバーライド時にはモーターよりもレバー操作を優先させる。複雑な要求をシンプルな構造で実現した、まさにアイデア部品!!

A:エンジン側クラッチレバーの構造がキモ!

クラッチのレリーズレバー(エンジン側クラッチレバー)を3分割構造としたのがポイント。システムON状態でモーター操作する際も、クラッチレバー操作でワイヤー作動させる際も、お互いの干渉がなく独立してレリーズレバーを操作できるのだ。さらにシステムON状態でレバー操作を行った際は、モーター作動よりレバー操作を優先させる”オーバーライド(強制介入)”も実現している。

Q:ギヤチェンジ時のスロットル操作は?

A:しない方がスムーズだ

必要ナシ、というより「しない方を推奨」。シフトアップはクイックシフターと同様に、スロットルを開けたままの方がトラクションが途切れず力強く加速できる。減速時のシフトダウンは基本的にスロットルを閉じているが、たとえば高速道路の追い越しで加速力が欲しい時などの6速→5速のようなシフトダウンはスロットルを開けたままでOKだ。

Q:ダウン時の回転差はどう吸収するの?

A:半クラの制御で吸収する

CBR650R/CB650Rはスロットル・バイ・ワイヤ(電子制御スロットル)ではないので、オートブリッパー(自動的な空吹かしによるエンジン回転合わせ機能)は持っていない。しかしEクラッチ車では、車速やエンジン回転数、スロットル開度など多くの情報を元に、非常に緻密な半クラッチ制御を行うことでエンジンの回転差を逃し、スムーズなシフトダウンを実現している。

Q:6速→1速までイッキに落としたら?

A:問題ありません!

連続的にタンタンタンッとシフトダウンしても問題ナシ。緻密な半クラッチ制御と合わせ、あまりに過大なバックトルク(エンジンブレーキ)が生じそうな場合は、アシスト&スリッパークラッチが機能する。

Q:6速に入れたまま停止したら?

A:長〜い半クラで発進!

6速で走行していて、そのままシフトダウンせずに停車したとする。そこからスロットルを開けると…。なんと! 長〜い半クラッチでエンストしないよう制御しながら、ゆっくりと発進するというから驚き。もちろん推奨は1速からの発進で、停車状態でシフトペダルをポンポンと踏み下げて1速まで落とせば良い。この時もクラッチレバーは操作しなくてOKだ。

Q:ガバっとアクセルを開けたら?

A:鋭いクラッチミートで急発進!

ガバッと開ければ急発進し、ソッと開けたらゆっくり徐行発進する。普通のMT車と同じだ。

Q:普通のMT車として走りたい時は?

A:システムをOFFにすればOK

EクラッチのシステムをOFFにすれば、完全に普通のMT車と同じになる。停車中にニュートラルの状態で、左ハンドルのボタン操作でON/OFFの選択が可能だ。

Q:発進以外はクイックシフターと同じでは?

A:もっと滑らか&鋭くチェンジ!

従来からのクイックシフターは、ギヤチェンジ操作を検知してエンジンの点火や燃料噴射を制御することでトランスミッションのギヤ噛み合いを緩めて、シフトペダル操作のみでギヤチェンジを可能にしている。しかしEクラッチはクイックシフターを装備した上で緻密な半クラッチ制御も行うため、クイックシフターよりも変速ショックを抑制しながら素早いギヤチェンジを実現。変速時の車体挙動の変化がより少ない、上位互換といえるシステムだ。

左が従来のクイックシフター、右がEクラッチの駆動力の変動を表したグラフ。緻密な半クラッチ制御によってショックを抑制し、変速に要する時間も短縮。

Q:特別なメンテナンスは必要?

A:一般的なMTと同じ

メンテナンスの内容や頻度は一般的なMT車と何ら変わらない。半クラッチの制御を行うため「クラッチ板が減りやすいかも」というイメージを持つかもしれないが、クラッチ操作が苦手なビギナーと比べたら、制御が緻密で無用な長い半クラッチを使ったりしないので、むしろクラッチ板の寿命は長くなるかも。

Q:「後付け感」がスゴいんですけど…

A:汎用性を重視したから…ってことは?!

コストの抑制や汎用性の高さを重視した設計のため、確かに「既存のエンジンに後付けした感」はかなり強い。しかし、これは逆に考えれば他のエンジンにも後付けが可能ということ。ということで今後、このユニットを転用したEクラッチ車が続々登場するハズだ!

システムとしての重量増はMTに対して約2㎏。クラッチを駆動するアクチュエーター部の大きさは小振りな弁当箱くらいで、MT車と比べても横方向への張り出しが少なく、足元スペースにもほとんど影響ナシ。本体はモーターやギヤを収めるハウジングが3分割されるが、これも様々なエンジンに対応できる汎用性を意識した構造か?

Q:MT車との価格差はどのくらい?

A:YM予想は5〜6万円!

MT車に対して「クイックシフター装備とDCT仕様の中間くらいの価格上昇」と予測。ちなみに現行CBR650R/CB650Rの純正オプションのクイックシフターが1万9800円。そしてアフリカツインやレブル1100のMTとDCTの価格差は11万円。というコトは、MTより5〜6万円アップくらいと考えられるのでは?

Eクラッチ四銃士に直撃取材!

今回の取材に対応してくださったEクラッチの開発陣。左から、大型モーターサイクルカテゴリーゼネラルマネージャーの坂本順一さん、開発責任者の小野惇也さん、制御設計PLの竜崎達也さん、駆動系研究PLの伊東飛鳥さん。小野さんと伊東さんは同期入社で、様々な運命的エピソードを共有している仲らしい?!

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