
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第107回は、熱かったもて耐と鈴鹿8耐の振り返ります。
TEXT: Go TAKAHASHI PHOTO: Honda Mobilityland, Hiromitsu YASUI
もて耐のチーム監督はなんと………!
日本での「短くて熱い夏」を過ごし、今はモナコに帰ってきています。いろんな意味で「ニッポンの夏 耐久の夏」という感じだったこの数日を、ざっくり振り返ってみますね。
モナコから日本に着いたのは7月27日(木)。翌28日(金)にはモビリティリゾートもてぎで行われる2023もてぎ7時間耐久ロードレース“もて耐”の特別スポーツ走行に参加しました。「世界最大の草レースをめざす」という壮大なテーマで始まったこのレース、今も「ビギナーでも参戦できるハードルの低いレース」というコンセプトは変わらず、現在は250cc以下のバイクが使われています。
僕は「KAWASAKI Team31」というチームで、カワサキの4気筒250ccマシンZX-25Rでの参戦です。28日の特別スポーツ走行を終えると、そのまま29日(土)に予選、そして30日(日)が決勝という流れでした。
ライダーはマジカルレーシングの蛭田貢さん、モトサロンの岡正人さん、’15年アジアロードレース選手権AP250クラスチャンピオンの山本剛大くん、ミリオーレ編集長の小川勤くん、そして僕の5人です。まぁ、今となってはフツーのおじさんたちですね(笑)。
スゴイのはチーム監督! なんと、カワサキモータースジャパン社長の桐野英子さんが務めてくださいました。実は桐野さん、最初はライダーとしての参戦という話で、ご本人はノリノリだったのですが、さすがにストップがかかり……(笑)。でも監督としても非常に優秀な方で、ライダーの気持ちをよく分かってくれて迅速に動いてくれるし、燃費の計算はめちゃくちゃ速い(笑)。さすが自分がバイク乗りだけあって、いろいろ助けていただきました。
ゼッケン31を付けたNinja ZX-25Rを走らせる原田さん。
決勝レースそのものは、すべて順調で可もなく不可もなく……(笑)。出走65台中完走は61台で、僕たち「KAWASAKI Team31」は総合42位でしたが、はっきり言って順位などまったく気にしていません。そもそも僕たちのチームは賞典外でしたが、そうでなくても仲間たちの楽しむことが最大の目的でしたからね。
コース上ではYFデザインの深澤くんやWebikeの梅津さん、ライダースクラブの河村さんなどたくさんの知り合いと遭遇し、抜き際に手を振り合ったりして楽しみました。サスペンションサービス「G sense」の舟橋くんは、SP忠男出身なので後輩にあたります。僕は抜かれちゃいましたが、舟橋くんは「一緒に走れて感動しました!」と喜んでくれたようです。
自分のスティントは45分のはずでしたが、なんだかんだで1時間走らされてしまいました……(笑)。37度近い暑さの中、よく走り切れたものだと思います。こんなことを言うと怒られるかもしれませんが、超真剣なガチ走りじゃなかったからでしょうね。
レースとはいえ完全な「お楽しみレース」だったので、とにかく他の参加者の方に迷惑をかけないように、マージンを持って走りました。僕にとっても、年に1度のお楽しみですからね。サーキットでバイクに乗って笑いながら1日を過ごすという、最高な時間となりました。
7月31日(月)はRIDERS CLUB誌のロケで筑波サーキット・コース1000を走り、8月1日(火)は茂原ツインサーキットで「原田哲也ライディングレッスン」を開催。これで金、土、日、月、火と5日連続でサーキットを走り回ったことになります。
そして鈴鹿8耐のNSTクラスに参戦する「NCXX RACING with RIDERS CLUB」の監督業のため、鈴鹿サーキットへと出発……の予定でしたが、体調を崩してダウン……。鈴鹿サーキットには3日(木)に入りましたが、その日の夜もまだ不調で、4日(金)もピットでできるだけおとなしくしていました。
僕がピットでじっとしているという情報はすぐにパドックを駆け巡ったようで(笑)、何人かが心配して声をかけてくれましたが、みんなに「もういい年なんだから、頑張りすぎちゃダメだよ」と言われてしまい……。「そうだよな」と思いつつ、バイクやレースのことになるとつい力が入ってしまうのは仕方ありませんよね。
そう、鈴鹿8耐の監督として僕がライダーたちに伝えたかったのは、まさにこの「頑張りどころ」でした。若くて勢いのあるライダーほど、どのセッションでも全力で頑張りたくなるものですが、バイクでの頑張りは転倒のリスクを高めます。全力で頑張るべきタイミングは、あくまでも決勝。それまでは、決勝に向けての準備として、あまり頑張りすぎないことが大切です。
だから監督である僕の役目は、はやるライダーたちの気持ちを抑えること。決勝前はとにかく「今は行くべき時じゃないよ」と繰り返しながら、自分たちがそのセッションでやるべきことに集中してもらいました。
実際、僕たちのライバルチームは金曜日のフリー走行で転倒……。僕たちのタイムを見て負けじとタイムアタックをした……のかどうかは分かりませんが、転倒はマシン面でもライダーのメンタル面でも、どうしても後退を招いてしまいます。
頑張りすぎない方がいい時。そして頑張るべき時。そのタイミングを、ウチのチームのライダー、伊藤勇樹、前田恵助、そして中山耀介の3名はとてもよく理解してくれました。
さて、次回ももう少し鈴鹿8耐の話を続けますが、総合2位で表彰台に立ったSDG Honda Racingの埜口遥希くんが、翌週のアジアロードレース選手権でクラッシュに見舞われました。今も懸命の治療が続いているとのこと、心から回復を祈っています。
左写真はピットアウトする埜口遥希選手。表彰台では右端に。オフィシャル情報はSDG Motor Sports OfficialのSNSへ。
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
あなたにおすすめの関連記事
駒井俊之(こまい・としゆき)/1963年生まれ。バイクレース専門サイト「Racing Heroes」の運営者。撮影から原稿製作まで1人で行う。“バイクレースはヒューマンスポーツ”を信条に、レースの人間[…]
鮮やかなトリコロールに輝くゼッケン33! ホンダは「2023 FIM世界耐久選手権 "コカ・コーラ"鈴鹿8時間耐久ロードレース 第44回大会」にワークスチーム「#33 Team HRC with 日本[…]
10回目のチャンピオンを獲得した中須賀克行くん MotoGPはタイGPの中止が発表されましたね。とても残念ですが、世界的にもまだ新型コロナウイルスが猛威を振るっている状況なので、仕方ないのかな、と思い[…]
賞典外でも魅了する、その源泉とは? 日本一盛り上がるイベントレース、テイスト・オブ・ツクバ(TOT)に原田哲也さんが参戦したのは2019年のこと。 「バイクの楽しさを多くの人に伝えたい」「バイク業界を[…]
最新の関連記事([連載] 元世界GP王者・原田哲也のバイクトーク)
1度しか獲れなかったチャンピオン、でも得たものは大きかった 前回の続きです。これは僕の失敗談ですが、’95年、オランダGPの予選でのこと。すでにいいタイムを出していた僕に対して、監督のウェイン・レイニ[…]
ときには諦めるしかないことも ドゥカティのファクトリーチームであるDucati Lenovo Teamのマルク・マルケスがチャンピオンを取り、チームメイトのフランチェスコ・バニャイアがランキング5位に[…]
今のマルケスは身体能力で勝っているのではなく── 最強マシンを手にしてしまった最強の男、マルク・マルケス。今シーズンのチャンピオン獲得はほぼ間違いなく、あとは「いつ獲るのか」だけが注目されている──と[…]
欲をかきすぎると自滅する 快進撃を続けている、ドゥカティ・レノボチームのマルク・マルケス。最強のライダーに最強のマシンを与えてしまったのですから、誰もが「こうなるだろうな……」と予想した通りのシーズン[…]
「自分には自分にやり方がある」だけじゃない 前回に続き、MotoGP前半戦の振り返りです。今年、MotoGPにステップアップした小椋藍くんは、「あれ? 前からいたんだっけ?」と感じるぐらい、MotoG[…]
最新の関連記事(レース)
バニャイアにとって「新しいモノはいいモノ」じゃなかった MotoGPマシンがあまりにも速くなりすぎたこともあって、再来年にはレギュレーションが大きく改定されることになった。 エンジンは850ccに、空[…]
ワールド経験者と全日本ホープが加入! FIM世界耐久選手権(EWC)を戦っているTeam Étoile(チーム・エトワール)が2026年のライダーラインナップを12月12日(金)に発表しました。 2[…]
BLESS CREATIONのカーボン外装をまとう カーボン外装メーカー・ブレスクリエイションの高い質感と造形の美しさのX350専用外装に惚れ、編集部号にも装着することにした。フロントフェンダー/ラジ[…]
1度しか獲れなかったチャンピオン、でも得たものは大きかった 前回の続きです。これは僕の失敗談ですが、’95年、オランダGPの予選でのこと。すでにいいタイムを出していた僕に対して、監督のウェイン・レイニ[…]
2025年の総括と2026年の挑戦 KWTは2025年シーズン、最終戦を”世界タイトル獲得の可能性を残した状態”で迎えるまでに成長しました。 惜しくもランキング4位で終えましたが、Kawasakiで世[…]
人気記事ランキング(全体)
250cc水冷90°V型2気筒でDOHC8バルブが、たった2年でいとも容易くパワーアップ! ホンダが1982年5月、V型エンジン・レボリューションのVF750Fに次ぐ第2弾としてVT250Fをリリース[…]
インカムが使えない状況は突然やって来る!ハンドサインは現代でも有効 走行中は基本的に1人きりになるバイク。たとえ複数人でのマスツーリングだとしても、運転中は他のライダーと会話ができないため、何か伝えた[…]
悪質な交通違反の一つ、「無免許運転」 今回は無免許運転をして捕まってしまったときに、軽微な違反とはどのような違いがあるのか紹介していきます。 ■違反内容により異なる処理無免許運転の人が違反で捕まった場[…]
6/30:スズキの謎ティーザー、正体判明! スズキが公開した謎のティーザー、その正体が遂に判明したことを報じたのは6月30日のこと。ビリヤードの8番玉を写した予告画像は、やはりヤングマシンが以前からス[…]
RZ250の歴代モデル 1980 RZ250(4L3):白と黒の2色で登場 ’80年8月から日本での発売が始まった初代RZ250のカラーは、ニューヤマハブラックとニューパールホワイトの2色。発売前から[…]
最新の投稿記事(全体)
500km/hの速度の鉛玉も防ぐ! SHOEIがキャリーケース事業をスタートする。これまでに培ってきたヘルメット製造技術を活かした新規事業で、GFRPを用いた質感と堅牢性、強固なフレーム構造による防犯[…]
機能美を実現したナップス限定ビレットパーツが登場 カワサキZ900RSは、最高出力111ps/8500rpmを発揮する水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ、948ccエンジンを搭載したネオクラシ[…]
バッテリーで発熱する「着るコタツ」で冬を快適に ワークマンの「ヒーターウエア」シリーズは、ウエア内に電熱ヒーターを内蔵した防寒アイテム。スイッチひとつで温まることから「着るコタツ」として人気が拡大し、[…]
知られざる黎明期の物語 最初の完成車は1903年に誕生した。シングルループのフレームに搭載する409cc単気筒エンジンは、ペダルを漕いで勢いをつけてから始動させる。出力3psを発揮し、トランスミッショ[…]
充実してきた普通二輪クラスの輸入モデル この記事で取り上げるのは、日本に本格上陸を果たす注目の輸入ネオクラシックモデルばかりだ。それが、中国のVツインクルーザー「ベンダ ナポレオンボブ250」、英国老[…]
- 1
- 2















































