新型コロナウイルスことCOVID-19感染症の流行によって、他人と触れ合わずとも楽しめる趣味や移動の手段としてバイク人気が高まりました。それはコロナバブルと呼んでも差し支えないほどでしたが、世間がポストコロナへ移行するとともにバイク界のバブルも落ち着いてきています。これでまたバイク人気の下落へ……となるのでしょうか?
●文:Nom(埜邑博道)
コロナバブルが終焉したバイク界、これからのバイクライフはどうなる?
2020年から始まった新型コロナ感染症の流行は、移動や旅行の制限、大人数での会食の禁止、そして在宅での勤務(リモートワーク)など我々の生活に大きな影響と変化を与えました。
同時に起こったのが、密を避ける手段であったり、リモートワークによって突然できた自由な時間を楽しむためといった理由などから、バイクの免許を取得する人が急激に増え、それと同時にバイクが売れ始め、人気の中古車の価格が新車価格を超えるまでに高騰するといったコロナバブルが起きました。
そして、2021年の新車販売台数は約41万6000台と、2014年以来の40万台超えを記録。下降するばかりだったバイク人気、バイク需要に大きな変化が起きました。
バイクに乗り始める人が増えれば、当然、パーツやウエアも売れ始め、多くのメーカーが過去最高の売上を記録し、とくにカスタムマフラーは大きな人気を集め、合法マフラーであることを示す「JMCA認証プレート」を発行するJMCA(全国二輪車用品連合会)によると2020年に発行した認証プレートの枚数は過去最高の約7万枚(通常は年間4万5000枚が平均)。2021年も同様の状況だったとのことでした。
そして今年、2023年。3年ぶりに新型コロナ感染症の影響によるさまざまな制限を最小限にして開催された東京・大阪・名古屋のモーターサイクルショーは対前年を大幅に上回る来場者を記録しました。
ただ、会場で取材して、パーツやウエアメーカーの方々に話を聞くと、さすがに2022年までの勢いが落ちてきているということでした。新規ユーザーの需要が一段落したことがその要因のひとつだという声を多く聞きました。
実際、2022年の夏ころには、入校するのに数か月待ちなんていう話もあった教習所需要も落ち着きを見せるなど、徐々にコロナ禍前の状態に戻りつつありました。
そして、二輪車新聞によると、2022年の国内新車販売台数は、3年連続で40万台を超えましたが、前年比はマイナス1万620台・2.6%減となったそうです。
実際、先日インタビューしたスズキ二輪の濱本社長は2022年の夏以降にコロナバブルが終わっていると語り、ヤマハ発動機社長で、自動車工業会の二輪車委員会トップの日髙さんも今年の年頭から「(バイク界にとって)今年が正念場になる」と身を引き締める発言をされていました。
本当にコロナバブルははじけて、再びバイク人気は下降してしまうのか。現状を各方面に取材してみました。
新車販売台数は前年割れで、中古車相場も落ち着いてきた
まず新車の販売状況を見てみましょう。全国軽自動車協会連合会が発表したデータによると、今年に入ってからの販売台数は軽二輪(126~250㏄)、小型二輪(251㏄以上)ともに前年割れとなっていて、とくに軽二輪の販売が伸び悩んでいます。
ただこれは、メーカー各社が小型二輪の生産に重点を置いているため、軽二輪の供給数が少ないためという話もあります。
実際、国内4メーカーも昨年までのようなコロナ禍による東南アジアの製造工場のロックダウンなどで、半導体や部品の製造が追いつかないと言った状況はかなり改善されてきているとのこと。部品供給不足からウェブサイトで一部車種の受注停止を発表していたホンダも、排ガスの新規規制への対応が遅れていた人気モデルであるGB350/Sの2023年モデルを間もなく発表する模様です(※編註:本記事公開後に正式発表されました)。
また、前述のように、一部人気車種は新車価格を超えるプライスが付いていた中古車市場も落ち着きを見せているようで、バイク館の濱本社長によると近年絶版になったヤマハ・SR400やホンダ・CB400スーパーフォアといったモデルは相変わらずの高値で取引されているそうですが、それ以外の車種の価格は下がり始めているといいます。
これは、新車の供給が増えたことも要因のひとつで、中古車ではなく新車を購入する人が増えているとのことです。
ただ、販売店によっては中古車価格が高騰していた時期に仕入れたバイクもあり、そういうモデルは高値を付けざるを得ないという状況もあるそうで、中古車の購入を考えている方々は狙っているモデルの値動きを注視した方がいいかもしれません。
また、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁処置のひとつで、60万円以上のバイクの輸出が昨年4月から禁止されている影響も出ていて、このロシアに輸出されるはずだったバイク(60万円以上となると大型バイクが大半を占めるとみられます)が日本の中古車マーケットで流通させざるを得なくなっていて、これも一時のタマ不足を解消する要因のひとつとのこと。
いずれにせよ、タマ不足から価格の高騰が生じていた中古車マーケットも、コロナ禍前の状況に戻りつつあるようです。
また、大型用品店チェーンの2りんかん社長の石渡さんは、コロナ禍の収束と昨今の物価高によってお客さまのお金の使い途が変わってきて、消費マインドが低下してきているように感じるとのこと。これに追い打ちをかけたのが5月の3週連続の週末の雨で、トータルの売上が前年割れだったそうです。
また、洋用品に関しては、すでに昨年の8月時点でそれまでの動きが止まっているとの声もあります。
そして、JMCA設立以来という認証プレートの発行枚数を記録するほどの活況を見せていたマフラーの売上も、やはり落ち着きを見せてきていて、2022年の発行枚数は7万枚弱、今年の4月時点では3万枚程度で推移していて、年間を通すと平均4万500枚程度で落ち着く見込みだそうです。
ではコロナバブルがはじけたいま、このままバイク界はコロナ禍前のような下降線をたどってしまうのでしょうか……。
業界各社が積極的にイベントを開催中、テクニック向上のためのスクールも再開
5月8日から、新型コロナ感染症の位置づけが、それまでの2類から5類に変更になったこともあり、社会全体がコロナ禍以前の状況に戻りつつあります。街中でもマスクなしの人の数が日ごとに増えてきています。
バイクの世界を見てみると、各社が競うようにユーザーイベントを開催(あるいは再開)し始めています。
これは、せっかく増えた新規ライダーがバイクから降りてしまわないように、バイクライフを楽しむための「コト」を用意しようという車両メーカーの思いが込められているようです。昨年まではしたくてもできなかったコトが、ようやくできるようになったことと、新車の販売台数が低下していることに危機感を抱いている証拠でしょう。
また、前出の2りんかん・石渡社長によると、関東と関西で6000人規模で開催している大型イベントの「2りんかん祭り」に加え、各地の2りんかん店舗駐車場で開催する「FAN & FUNミーティング」というプチ2りんかん祭りを企画。その第1回を6月3日(土)、4日(日)に東京・美女木の2りんかんで開催し、それ以降、全国各地の2りんかん店頭で開催予定とのことです。
メーカーのイベントも用品店のイベントも、基本的には新規ユーザーのバイク離れを防ぐことが最大の目的のようですが、我々のような既存ユーザーにとっても各地でバイクイベントが開催されることは、とてもうれしい話です。
そしてもうひとつ増えているのが、ライディングスクールです。いまの若い方は、安全意識がとても高い方が多くて、安全に走るためにスキルアップすることを多くの方が望んでいるそうです。
その代表格がヤマハが開催している「ヤマハ・ライディングアカデミー(YRA)」で、女性ライダー限定の開催や、平成生まれの若者限定など、自分と似たようなライダーだけが集まるということで、参加しやすいスクールにしています。
スズキも、中断していた「北川ライディングスクール」の再開を決め、30歳以下のバイク初心者を対象とした「U30スズキ・セイフティスクール」も再開する予定だそうです。
コロナ禍にあって、なかなかユーザーと積極的に向き合うことができなかった反動もあり、メーカーや販売店、用品店などがコロナ前よりもユーザーに楽しんでもらおう、ユーザーの悩みに答えていこうという機運が起こっているように強く感じます。
コロナバブルははじけてしまっても、まだまだバイクの世界は元気を失ってはいないようです。みなさんも積極的に各地のバイクイベントに参加して、コロナ禍あとのバイクライフをお楽しみくださいね!
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
あなたにおすすめの関連記事
保有台数500万台のユーザーが今もいる! 4月4日に投稿した「令和5年度の課題①高速道路料金」に続く課題②としてお届けするのは、「原付」問題です。 手軽な乗り物として1980年代には年間200万台に迫[…]
白いボディカラーのGB350、青みがかったタンクのGB350S! 2021年春に発売され、2022年には販売台数ランキングで251cc以上(小型二輪)クラスを制覇したGB350/GB350Sだが、需要[…]
前年比90.1%と6年ぶり減少だが3年連続7万台以上をキープ 二輪車新聞は、元旦号で2022年の二輪車総需要を総括。これは毎年発表されるデータで、どの排気量クラスが盛り上がっているのか、売れた機種はな[…]
四半世紀ぶりの大台に乗った! 二輪車新聞は、元旦号で2022年の二輪車総需要(需要台数=販売台数のこと)を総括。これは毎年発表されるデータで、どの排気量クラスが盛り上がっているのか、売れた機種はなんだ[…]
Z900RSは1.6倍増! GB350とともに小型二輪カテゴリーを牽引 二輪車新聞は、元旦号で2022年の二輪車総需要(需要台数=販売台数のこと)を総括。これは毎年発表されるデータで、どの排気量クラス[…]
最新の関連記事([連載] 多事走論 from Nom)
総勢2000人が鉄フレームのバイクを楽しむ イベントレースと言えば、毎年5月と11月に茨城県のTSUKUBA2000で開催される「テイスト・オブ・ツクバ」(以下T.O.T.)が有名で、最近は1万人を超[…]
2025年11月の規制を睨み、2021年頃に開発の話が持ち上がった ご存知のように、バイクの世界にもカーボンニュートラル(CN)の波は激しく押し寄せていて、国内外の二輪メーカーはその対応に追われている[…]
新基準原付についてのパブコメ募集が始まった! 来年4月1日からの道交法改正がほぼ決まり 来年11月に施行される新排ガス規制に現在の原付一種(50cc)は対応することが困難という二輪業界からの要望を受け[…]
”聖地巡礼“のようだった頃の鈴鹿8耐を思い出させる ヤマハのXSR900 GPの受注が好調とのこと。 初めて見たときのファーストインプレッションは「なんだこれ?」だったけど、なるほど往年のGPレーサー[…]
ステップアップするライダーが増え、大型免許取得者が21年ぶりに10万人超え! 大型二輪免許(AT大型免許含む)の取得者数が増えているそうです。 警察庁の発表資料によると、昨年の合格者数(警察庁の資料は[…]
人気記事ランキング(全体)
日本で登場したときの想定価格は60万円台か カワサキはタイに続き北米でも「W230}を発表。空冷233cc単気筒エンジンはKLX230のものをベースとしているが、レトロモデルにふさわしいパワー特性と外[…]
ヤマハの3気筒スーパースポーツがついに登場! ヤマハは欧州でR9、北米でYZF-R9を発表した。車名は仕向け地によって『YZF』を省略しているようだが、基本的には(細かな違いはあるとしても)同じマシン[…]
ライダーを魅了してやまない「ハイパーVTEC」 CB400SF(スーパーフォア)に採用されていることでも有名な、バルブ制御システム「ハイパーVTEC(HYPER VTEC)」。この口コミを検索してみる[…]
燃料タンクも新作! サスペンションカバーやディープフェンダーも特徴 ホンダは、昨年11月に車両の姿を公開し、後日国内で発売予定としていた新型モデル「GB350C」をついに正式発表、2024年10月10[…]
1441cc、自然吸気のモンスターは北米で健在! かつてZZ-R1100とCBR1100XXの対決を軸に発展し、ハヤブサやニンジャZX-12Rの登場からのちにメガスポーツと呼ばれたカテゴリーがある。現[…]
最新の投稿記事(全体)
水冷GVシリーズのGV125S/GV300Sに加え、250モデル×3機種を追加 ヒョースンモータージャパンは、新型水冷250cc・V型2気筒エンジンを搭載したクルーザーモデル「GV250」シリーズ3機[…]
ヤマハの3気筒スーパースポーツがついに登場! ヤマハは、欧州および北米で正式発表されたYZF-R9を日本国内にも2025年春以降に導入すると明らかにした。価格や諸元については国内未発表だが、欧州仕様の[…]
タイや欧州、北米で先行発表済みのW230とメグロS1 カワサキモータースジャパンは、新型モデル「W230」と「メグロS1」をタイ、欧州、北米に続き日本でも2024年11月下旬に発売すると発表。これと併[…]
CYBER LEATHER グローブシリーズの特徴 ライダーの基本的な要求である、「怪我から身を守ること」「清潔感を保持すること」「ストレスフリーで快適に走行できること」に基づいて作られたスタンダード[…]
先代譲りの緻密さは最新電脳で究極化?! 旧CB400はハイパーVTECやABSこそあったものの、従来型(NC42)の登場は2007年だけに、近年の最新電脳デバイスは皆無だった。しかし新型CB400は電[…]
- 1
- 2