
今も絶大な人気を誇る’70年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回はカワサキの「500SS マッハIII」について、このマシンに詳しいバイクショップ・トリプルフィールドの稲村隆寛氏に話を伺った。
【トリプルフィールド|稲村隆寛さん】16歳のときに中古で購入した250SSを皮切りにして、これまでにマッハシリーズ全モデルを所有して来た稲村さんは、’68年生まれの53歳。20~30代の頃は4輪ショップでメカニックとして働き、当時から周囲の友人知人のマッハシリーズの面倒を見ていたと言う。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明/YM ARCHIVES ●取材協力:トリプルフィールド
- 1 カワサキ 500SS マッハIII:「世間のマッハへの誤解を解きたい」
- 2 カワサキ 500SS マッハIII:乗り続けるのは難しくない!
- 3 カワサキ 500SS マッハIII:H1B以降なら、旧車初心者でも気軽に乗れるはず
- 4 [連載] プロに学ぶ’80s国産名車メンテナンスに関連する記事
- 5 ‘70s国産名車 ホンダ CB750フォア 完調メンテナンス【古さの割に決して扱いは難しくない】
- 6 ‘70s国産名車 ホンダ CB750フォア 完調メンテナンス【補修部品に関する心配はほとんど不要】
- 7 ‘70s国産名車 ホンダ CB750フォア 再見【世界を席巻した量産初の並列4気筒車】
- 8 ‘70s国産名車 カワサキ 900スーパー4 Z1 完調メンテナンス【識者インタビュー:お客さんの夢を実現したい】
- 9 ‘70s国産名車 カワサキ 900スーパー4 Z1 完調メンテナンス【補修部品は潤沢だが、品質には要注意】
- 10 ‘70s国産名車 カワサキ 900スーパー4 Z1 再見【驚異の動力性能と流麗なスタイルで世界を席巻】
- 11 ‘70s国産名車 カワサキ 500SS マッハIII 完調メンテナンス【識者インタビュー:好調を維持するのは決して難しくない】
- 12 ‘70s国産名車 カワサキ 500SS マッハIII 完調メンテナンス【補修部品は潤沢だが、品質には要注意】
- 13 人気記事ランキング(全体)
- 14 最新の記事
カワサキ 500SS マッハIII:「世間のマッハへの誤解を解きたい」
マッハシリーズに対して、スプリンターというイメージを持つ人は少なくないだろう。とはいえトリプルフィールドの稲村さんは、若い頃からこのシリーズを駆って、全国各地に出かけてツーリングを楽しんでいると言う。
「意外に思われそうですが、調子のいいマッハシリーズはオールラウンダーとして使えますからね。ただしウチに初来店したお客さんの車両を点検すると、この状況ではロングランは無理で、スプリンターにならざるを得ない…と感じることが少なくありません」
具体的に、同店に新規で入庫してくるマッハシリーズは、どんなところにトラブルを抱えているのだろうか。
「それはもう千差万別で、シリンダーとピストンが焼き付いている車両があれば、エンジンが暖まっても白煙が止まらない車両もありますし、ハンドリングが不自然な車両もあります。調子のいいノーマルを知らないと、好調不調の判断は難しいですが、普通に乗っていて不具合を感じるなら、好調ではないと判断していいと思いますよ」
同店で本来の調子を取り戻したマッハオーナーに対して、稲村さんが注意点として挙げているのは以下の5点。
「2ストの経験が少ないライダーには、2ストオイルの点検と補充、ナラシが終わっても高回転域で走り続けないことをお願いします。もちろん、瞬間的に高回転域を使うのは全然OKですが(逆に低中回転域ばかりを使っていると、燃焼室にカーボンが堆積しやすくなる)、今どきの4ストのように、ノーマルセッティングのままで、レッドゾーンのギリギリを使って走り続けるのはNGです。
それに加えて異常燃焼時にエンジンから聞こえる音、チリチリチリ…というノッキングに敏感になること、その音が聞こえたら絶対に無理はしないこと、安易にキャブレターのセッティングを変更しないことが、私が納車時に挙げている注意点です」
【本来の資質を取り戻したフルレストア車】取材直前にトリプルフィールドでのレストアが完了した750SSは、新車と言われたら信じてしまいそうなほど美しい仕上がり。なお’71年から発売が始まった750SSは、ホンダCB750フォアの対抗馬にして、当時のプロダクションレースの主役だったF750レース規定を前提にして生まれたモデルだ。
カワサキ 500SS マッハIII:乗り続けるのは難しくない!
注意するべき要素はそれなりに豊富なマッハシリーズだが、好調の維持に関しては、あまり難しくないようだ。
「いったん本来の調子を取り戻せば、以後のマッハシリーズは現行車と大差ない感覚で付き合えますからね。ただし季節の変わり目になる春と秋には、キャブレターのエアスクリューを調整して、スロー系の吸入空気量の適正化を図ったほうがいいでしょう」
当記事ではほとんど触れていないけれど、マッハシリーズオーナーの中には、カスタム指向のライダーが数多く存在する。稲村さんはカスタムに関して、どう考えているのだろうか。
「アリだと思いますよ。ウチのお客さんでも、チャンバーや足まわりなどをいじっている人はいますから。ただし、僕自身はノーマルのバランスに好感を抱いているので、こちらから積極的にオススメすることはないですね」
当記事を読んで500SSを購入しようと言う人がいたら、稲村さんはどんなアドバイスをするのだろうか。
「世間の一部で言われているほど、乗りづらくはないし、トラブルも起こりません、でしょうか(笑)。そう言いたくなるほど、マッハシリーズは多くの人に誤解されているので、私としては日々の仕事を通して、その誤解を解いていきたいと思っているんです」
カワサキ 500SS マッハIII:H1B以降なら、旧車初心者でも気軽に乗れるはず
今回は500SSを取り上げたものの、昔ながらの“大きいことはいいことだ”的な考え方をする人が大勢いるのだろうか、近年のマッハシリーズの一番人気は750SSである。
「やっぱり750SSの速さ、74psのパワーは魅力的ですからね。ただし私個人としては、日本の道路事情に一番合っているマッハは500SSだと思います。逆に言うなら750SSは速すぎて、法定速度を守っていると、エンジンのオイシイ部分がなかなか使えないんですよ。
なお500SSに関しては、昔から前期型の人気が高いですが、扱いやすさを考えると後期型も大いにアリでしょう。前期型を乗るうえでは、旧車としてのアジャストが多少は必要になりますが、後期型は現行車に近い感覚で気軽に乗れますから」
【’74 KAWASAKI 500SS MACH III H1E】トリプルフィールドのお客さんのH1D。なお軸間距離を1400→1410mmに延長し、前輪分布荷重を増やしたH1Dは、H1C以前と比べればウイリーの危険性が少なくなった。
撮影車はフロントブレーキをダブルディスク化。H1B以降のフロントまわりは750SSやZ1/2との共通点が多いため、H1/H1Aと比較すると、アフターマーケットパーツを用いたカスタムが容易に行える。
【取材協力|トリプルフィールド】屋号からは3気筒専門店? と思えるものの、’13年から活動を開始したトリプルフィールドでは、年式や国籍を問わず、多種多様なバイクを取り扱っている。と言っても、最も入庫が多いのは’69年型500SSに端を発するカワサキ マッハシリーズで、それに次ぐのは同時代のW1/Z1系/スズキGTシリーズなど。■住所:静岡県沼津市小諏訪136-7-202 ■電話番号:080-1560-4831
[連載] プロに学ぶ’80s国産名車メンテナンスに関連する記事
※本記事は“ヤングマシン”が提供したものであり、文責は提供元に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
人気記事ランキング(全体)
ヤマハ RZV500R「2ストV4エンジン搭載で衝撃のデビューを果たしたYZR500レプリカモデル」 ライトウエイトピュアスポーツからレーサーレプリカへの橋渡しであり、起点とも言えたヤマハ RZ250[…]
126~250ccスクーターは16歳から取得可能な“AT限定普通二輪免許”で運転できる 250ccクラス(軽二輪)のスクーターを運転できるのは「AT限定普通二輪免許」もしくは「普通二輪免許」以上だ。 […]
4ストローク2気筒の『オフ・ザ・ロード』 国産4ストローク2気筒型オフロード車を語る上で外せないバイクが1970年登場のホンダSL350です。SL350は1970年代のホンダ車の中でもレアな存在ですが[…]
GPz900Rを受け継ぐ実用系最速マシン【カワサキGPZ1000RX】 1983年にTT-F1の排気量上限が750ccに引き下げられた結果、リッターバイクはレースの呪縛を解かれて独自に発展し始める。 […]
軽量化とパワーアップの両面を果たしたフルモデルチェンジ フルモデルチェンジが実施された2018年モデルの発売は、2018年2月1日。2017年モデルまでのニンジャ400は、海外向けのERシリーズをベー[…]
最新の記事
- チームスズキCNチャレンジ、2年目の鈴鹿8耐はサステナブルアイテムを拡大! 全日本ロードにもスポット参戦
- 整備やメンテ時は素手派? 軍手派? 手袋派? 実はそれぞれにメリットと落とし穴があるぞ!【DIY整備ビギナーズ】
- 39年ぶり!スズキがコーポレートアイデンティティとユニフォームを刷新する理由
- 「シートのちょっとした破れ」にDIYで対処:張り替えずにお手軽キズ隠し! 【シート補修シールを試してみた】
- セロー乗り必見!柏秀樹さん主催の「清水PA ライテク・ミーティング」でオフロード走行スキルを磨こう
- 1
- 2