左右非対称コンパウンドも積極的に導入した2009年

山田宏の[タイヤで語るバイクとレース」Vol.57「ルールを見直しながらワンメイク初年度を乗り切る」

ブリヂストンがMotoGP(ロードレース世界選手権)でタイヤサプライヤーだった時代に総責任者を務め、2019年7月にブリヂストンを定年退職された山田宏さんが、その当時を振り返ります。2009年のMotoGPは、使用するタイヤが初めてブリヂストンのワンメイクに。シーズン途中でも、チームやライダーの要望を受けてルール変更が積極的に実施されました。

TEXT: Toru TAMIYA PHOTO: 

どこからがウェットで、どこからがドライなのか?

2009年のMotoGPは、使用するタイヤがブリヂストンのワンメイクとなり、これに合わせてタイヤに関する数々の新たなレギュレーションを導入。しかし実際に運用を開始してみると、チームやライダーなどからさまざまな疑問や要望が浮上したため、我々ブリヂストンはオフィシャルに近い立場として、FIM(国際モーターサイクリズム連盟)と協力しながら問題の解決や要望への対応に臨むことが求められました。

例えば第4戦フランスGPでは、レースウィーク直前になってウェットコンディションの定義が問題に。このシーズンは、ウェットタイヤの支給が各ライダーに1ラウンド4セットと決められており、ウォームアップを含むすべてのプラクティスがウェットだった場合は、決勝レース用にプラス1セットが供給されるレギュレーションでした。しかし決勝とは違ってプラクティスでは、スタート前に「ウェット宣言」または「ドライ宣言」によって路面状況が明確化されることはありません。ドライコンディションで始まったプラクティスのセッション途中で雨が降った場合や、逆にウェットパッチが残った状態で始まったセッションがすぐにドライコンディションへと回復したとき、その走行をウェットとドライのどちらと見なすかによって、レースウィークに使えるウェットタイヤのセット数に違いが生まれる可能性があるわけです。

フランスGPが開催されたル・マンのサルトサーキットは毎年天候が不安定で、この年は事前に悪天候が予想されていたことから、最初のプラクティスを翌日に控えた木曜日にチームからの問い合わせを受け、プラクティスの路面状況を明確化すべくFIMと協議しました。そして結論としては、プラクティス終了後にそのセッションがドライだったのかウェットだったのかをFIMが発表することに。ただしその判断は難しく、ドライのときに雨が降りはじめたからといって、路面が完全に濡れなければウェットタイヤで走行するライダーはいないことがほとんどですから、「誰も走らない=ウェットタイヤを消費していない」ならウェットと見なす必要はありません。あるいは、プラクティスで強い雨が降り続けば、走っても意味がないという判断から、同じように誰も走らないという状況が生まれます。ただこのとき、1名だけ走った場合はどうするか……など、さまざまな疑問が湧いてきました。そのため、レギュレーションに対する解釈に関してブリヂストンも協議に参加しましたが、最終的な判断はFIMに委ねることにしました。

第4戦フランスGP、決勝はウェットタイヤでスタート。レース中に路面が乾き始め、各ライダーはマシンを乗り換えるために続々とピットインしていった。 [写真タップで拡大]

2種類を4本ずつか、5本/3本か

またスリックタイヤについては、フロントは各ライダーに2種類のタイヤを4本ずつ供給するというのが当初のレギュレーションでしたが、「このコースでは、このコンパウンド以外の選択は考えられない」というラウンドでは、4本だとタイヤマネージメントがきつくなる場合があるため、第6戦カタルニアGPでルールの見直しが図られました。これにより、フロントについては2種類のコンパウンドを5本と3本でも構成できるようになり、第7戦ダッチTTからこの新ルールを適用。決勝レース終了後2時間以内に、次のラウンドで用意してほしいフロントタイヤを4本ずつにするかどちらかを5本にするのか、申告してもらうことになりました。

ちなみにそのカタルニアGPには、ワンメイクになって初めて左右非対称コンパウンドのリヤタイヤを導入(リヤは1ラウンドで2種類のスペックを6本ずつ供給)。タイヤの右サイドに厳しいサーキットで、しかも決勝レースは非常に暑くて気温36℃で路面温度46℃というコンディションでしたが、問題なく性能を発揮させることができました。なお左右非対称コンパウンドは、第9戦ドイツGPや第12戦インディアナポリスGP、第14戦ポルトガルGP、第15戦オーストラリアGPでも使用。リヤだけでなくフロントにも左右非対称コンパウンド技術を導入し、しかもコースによってベースコンパウンドおよび左右どちらをよりハードな仕様とするかが異なるため、当初はシーズンを通してフロント4スペック、リヤ5スペックで運用する予定でしたが、結果的には準備するタイヤのスペックがかなり増えてしまいました。スペックが増えると、1戦ごとの使用本数には変わりがなくても在庫タイヤはかなり増加するので、生産と輸送のコストアップにつながるのです。

第4戦フランスGPでシーズン2勝目を挙げた#99 ホルヘ・ロレンソ選手。上位陣の中では最後にピットインしたが、最終的には2位以下に約17秒の差をつける圧勝劇となった。 [写真タップで拡大]

とはいえ、左右非対称のスペシャルタイヤを導入することで、レースがハイレベルになり安全性向上も期待できるので、コスト増につながるとはいえタイヤメーカーとしてはうれしい限り。また、シーズン中に用意するタイヤのスペック数は増えたものの、1レースでフロント、リヤともに2種類ずつというルールには変わりなく、ライダーに対する公平性はもちろん完全に保たれていました。シーズン中盤の段階で、決勝レースが接戦になることが多くなったことに対して、MotoGPを運営するドルナスポーツからは感謝されました。これは、タイヤのワンメイク化に加えて、1レースに導入するタイヤのスペックを絞ったことがかなり影響していたはず。たしかにこの年は、優勝したライダーと2~3位あたりまでの差がコンマ数秒~3秒以内というレースが多く、見ごたえがありました。第6戦カタルニアGPでは、優勝したバレンティーノ・ロッシ選手と2位となったホルヘ・ロレンソ選手のゴールタイムがわずか0.095秒差。ヤマハワークスチーム同士のバトルは最終ラップの最終コーナーで決着となり、私がそれまでに見てきたMotoGPのベストレースとも思えるような内容でした。

そしてシーズンは、6勝を挙げたロッシ選手がシリーズタイトルを獲得。4勝のロレンソ選手がランキング2位で幕を閉じました。前年からブリヂストンを使ってきたロッシ選手に対して、ロレンソ選手はこの年が初めてのブリヂストン。そのためシーズン当初は、プラクティスでロングランをかなりやっていたのが印象的でした。マシンセッティングを煮詰めるより、まずは自分が乗り込んでタイヤを理解するという姿勢が、如実に伝わってきました。チームが、ロッシ選手の前年度データをどのように活用したのかまでは不明ですが、ロレンソ選手にとってブリヂストンでの2戦目だった日本GPでの優勝や、ホンダワークスチームのダニ・ペドロサ選手やドゥカティワークスチームのケーシー・ストーナー選手らを抑えてのランキング2位は、ロングランによる成果という要素が大きいと感じていました。


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