9月27日に欧州で発表されたカワサキの新型レトロスポーツ「Z650RS」は、日本を含めた世界中で話題騒然。ただ、搭載しているのはZ650と同じ並列2気筒エンジンということで、4気筒を待望していたファンからは「残念」「コレジャナイ」という声も。だがここには、カワサキのしたたかな戦略があるように思えてならない。
俊敏な運動性、風を切る音“ZAP”、それがザッパーの本質だ!
2017年末にZ900RSが登場した際にも、「“Z”スタイルなのに1本サス」や「空冷4気筒がよかったのに水冷か」といった声はあったが、その後の躍進は目覚ましく、2018年~2020年には401cc以上クラスの販売台数では文句なしの3連覇を遂げ、2021年も4連覇を狙う構えだ。
長年メディアに携わってきた身として実感しているのは、発表時に賛否ともに声が大きかった製品は長きにわたって愛されることが多いということ。デザインには寿命というものがあると言われるが、多少の違和感を持って迎えられ、それが消化されるまでに時間のかかる製品はデザイン寿命も長い傾向にある。なかなか埋もれない存在感があるといってもいいかもしれない。
デザインと言えばイタリア! というわけでもないが、ドゥカティのパニガーレシリーズや水冷ムルティストラーダ、古くは初代モンスターや916系なども、そんなところがあったように記憶している。もちろんイタリアに限らずとも、BMWの左右非対称フェイスを採用したGSシリーズや、スズキで言えば古くはカタナ、そしてハヤブサが先鞭を付けた縦眼+ラムエアダクトの顔は現在も、メーカーの代名詞として存在感を示している。
Z900RS/Z650RSが同じような道を辿るかどうかは時間が証明していくだろうが、そもそも1972年に登場したZ1の不滅のデザインを現代に継承したのがZ-RSでもあるわけで、Zの物語は今後も続くと見て間違いないだろう。
そこで気になるのは、Z650RSのスクープ記事を展開した時から聞かれる「4気筒じゃないのは残念」「こんなのザッパーじゃない」という声だ。
実のところカワサキ自身はこれを「ザッパーです」とは言っておらず、奥ゆかしく旧Z650(つまりザッパー)と並べた写真を公開しているのみ。むしろこれをザッパーの再来と騒ぎ立てているのは、我々をはじめとしたメディアのほうである。
その根拠は何かと言えば、まず単純に排気量が650ccであること。厳密には空冷4気筒652ccの旧Z650と水冷2気筒649ccのZ650RSではあるものの、カワサキが伝統的に強みとしてきた“マジックナイン”こと900ccクラスと対比すれば、大きなくくりでは650ccクラスはカワサキのもうひとつの伝統だ。
そしてもうひとつ、ザッパー(ZAPPER)の語源となった“ZAP”は英語圏における風を切る擬音であり、俊敏に動く様子を表現したものでもある、ということが根拠になる。言い換えれば軽快な加速や俊敏なハンドリングを持ったバイクということになり、フラッグシップのZ1/Z2に対し軽量コンパクトさで勝負した旧Z650のコンセプトを見事に言い表したのが“ザッパー”というキーワードだったのだ。そして、この“軽快で俊敏、コンパクトであること”を現代の技術やZ900RSとの立ち位置の違いなどから導き出したのが、新型レトロスポーツのZ650RSということになる。
昔のバイクとスペック比較してみると……
旧Z650は最高出力64ps/8500rpmに乾燥重量211kgだったが、Z650RSは最高出力68ps/8000rpmに装備重量187kgである。装備重量とは、車体に全ての油脂類を装着&搭載し、ガソリンも満タンにした状態の車重で、現在はこの数値のカタログへの記載が主流。そして前世紀に主流だった乾燥重量とは、油脂類を含まずガソリンも空の状態での車重である。
時代にもよるが乾燥重量の数字はいい加減なもので、特にスペック競争の激しかった1980年代には、ガソリンどころかエンジンオイルも抜き、果てはフォークオイルやバッテリー液なども抜いたうえ、ゴムパッキンまで除外した車重を記載していたものもあるという。だから、燃料タンク容量が17~18L程度しかないのに乾燥重量と車両重量(装備重量と同じ)が20kg以上も違う、なんてことがままあったのだ。
もちろん旧Z650がそのたぐいというわけではないが、乾燥重量211kgは装備重量でいえば確実に220kg台後半以上になるはずで、いっぽうZ650RSの装備重量は乾燥重量に換算すれば170kg台、1980年代のような手口を使えば160kg台と記載することすら可能かもしれない。
45年前の車両と比較しても意味がないと考える向きもあるだろうから、現在の最新モデルでも考えてみたい。まず現行モデルZ900RSの車両重量は215kgであり、Z650RSの187kgは28kgも軽量だ。この単純な重量差だけでなく、クランクシャフトが短い2気筒はジャイロモーメントでも有利だし、最大の重量物であるエンジン自体が軽くコンパクトでもある。さらにホイールベースは1470mm(Z900RS)に対し1405mm(Z650RS)と短く、後輪は180/55ZR17(Z900RS)と160/60ZR17(Z650RS)と2サイズほど細い。細かいことを言えば、φ41mmの正立フォークもステアリングの慣性重量軽減に貢献するだろう。これら車重以外の要素も相まって、軽快で鋭い走りが形づくられていく。
もともと現行Z650は扱いやすいエンジン特性と素晴らしいハンドリングを兼ね備えており、これをベースとしたZ650RSの運動性も同様なはず。最高出力は68psでも、車重の軽さと2気筒ならではのソリッドなトルク特性によって、ストップ&ゴーの街乗りや低中速ワインディングで、乗り手によっては兄貴分を脅かすパフォーマンスを発揮するに違いない。
ただひとつ、サウンドについては「4気筒のほうが好き」と言われれば反論のしようがない。とはいえ、それならば4気筒のZ900RSを選べばいいだけである。Z900RSは138万8600円で、予想価格97万5000円前後のZ650RSとは価格差があるものの、215kgは軽快と言える範疇で初心者でも乗りやすく、また旧Zを彷彿とさせるようなゴワついた4気筒サウンドも健在。さらに上を望むなら、下記のようにオーリンズ製サスペンションやブレンボ製ブレーキで強化されたSEも来春には発売される予定だ。
あえて相似形の縮小版とせず、2気筒エンジンを中心にZ650RSのキャラクターを組み立てたカワサキには、その割り切りぶりに感心するとともに、価格を抑えることで多くのユーザーにレトロスポーツZの世界観を提供したい、という強い意志を感じずにはいられない。以前の記事でも書いたように、もしもZ650RSを4気筒でつくっていたとしたら、高価なニンジャZX-6Rベースのエンジンを選択することになった可能性が高く、結局はZ900RSと変わらない価格で、少しコンパクトなマシンが出来上がっていただけかもしれないからだ。
KAWASAKI Z650RS の純正アクセサリー
日本仕様の発売時に全て同じものが揃うかどうかはわからないが、欧州発表の純正アクセサリーも紹介しよう。昭和っぽいパイプ製のグラブレールや旧い書体のカワサキロゴ、現代的なUSB充電ソケットなどが魅力的だ。
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