「雑誌屋がSNS に踊らされてどうする!?」と自嘲しながら、動向を追ってしまったZ1/Z2 シリンダーヘッドリバイバル。いかに天下のカワサキZといえ、絶版車ユーザーに向けたメーカーの底力に感服、感動で迎えた2020年1月。サイトオープンから2時間足らずで完売となった初回ロットを幸運にも購入できた、モトメカニック編集部の栗田。床の間に飾ります(笑)。
● 文/写真:栗田晃 ●取材協力:井上ボーリング ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
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絶版車ユーザーに向けたメーカーの底力に感服
絶版車を所有するサンデーメカニックにとって、いかにパーツを確保するかは重要な課題。だから、2019年3月1日にカワサキのFacebookページで発表された「Z2/Z1シリンダーヘッドリバイバル」には驚いた。
不動期間が長く、走行距離が短いKZ900LTDを所有する自分にとって、シリンダーヘッドは現状切迫した問題ではない。だがヤフオクの「程度良好な中古」とメーカーの「新品」には天と地ほどの違いがある。だから2020年1月6日の初回オーダー開始日に注文サイトにアクセスしてみると、幸運にもトントン拍子に進み「ご注文ありがとうございました」ページで注文終了。
後にカワサキに取材して分かったことだが、予想を超えるアクセス集中と想定を超えるオーダー数により、初日はオープンから2時間ほどでページを閉じたという。つまり注文できたのは本当に偶然だったのだ。
現状ではLTDのヘッドに問題がないので、すぐにリバイバルヘッドには交換しないと思う。1000個という生産数も限定ではないとカワサキが明言しているので、転売ヤーを企んでも大した魅力はない。だが、このプロジェクトを契機にカワサキや他のメーカーが「絶版車ビジネスはカネになる」と判断するなら、1000分の1個の購入はもったいない話ではないと信じている。
今後の参考になる!? オーダー手順
2020年1月6日、当初の予告通りオーダーサイトがオープンして受注を開始。先に黒ヘッドを発売したらさらに盛況だっただろうが、しかし銀ヘッドでもアクセスが集中、サイトが不安定に。
商品注文ページには通常の通販サイトと同じような仕様で、数量も自由に設定できる状態だった。このため大量の数字を入れたり、買い物途中で放置されるページが全国規模で発生したらしい。
一般的なネット通販なら、購入金額に応じて送料サービスなどの特典があるが、リバイバルヘッドは住所別に設定された送料がしっかり掛かる。しばらく迷うが、行くしかないとマウスをポチッ。
オーダーに続き、支払いサイトのページがオープン。クレジット決済は迷わず複数払いを選択し、すべての手続きが終了。サイト滞在時間わずか10分程度でシリンダーヘッドを買うなんて……。
1月6日の夕方前に再度確認すると、すでに1stロットは売り切れ状態だった。カワサキにとっても直販は初の試みで、1回注文の上限数を2個にするなどシステムを継続的に行い、次回の受注は銀が6月、黒が7月を予定している。
専用梱包で配達されました! 箱も緩衝材も永久保存!?
注文から1ヶ月後、自宅に到着したリバイバルヘッド。純正シリンダーヘッドを部品で購入したのは初めてだが、HERITAGE PARTSの表記と発泡スチロールの梱包材がスペシャルムードを演出。同梱されたURLでアクセスできる取扱説明書にも特別感が溢れている。
【当時物ヘッドと色味は合ってる】塗装後のギラつきを抑えるため、鋳造後の塗装下地に用いる研磨材を通常のステンレスメディアに代えて亜鉛ショットとして、程度の良い当時物の銀ヘッドを参考に調色した塗料でペイントされたリバイバルヘッド。自分のLTDのヘッドとも色味が合っており、交換しても全く違和感はないはず。
新品シリンダーヘッドは大歓迎。ICBM®とクランクシャフトOHの3点セットで、Z2/Z1のエンジン全体をモダナイズ
全国のオーナーやショップから、数多くの内燃機加工の依頼を受ける井上ボーリング。中でもトップクラスのシェアを誇るのがZシリーズだが、今回のリバイバルヘッド販売は大歓迎だと語る井上社長。その理由とともに、井上ボーリングが誇るICBM®と組み立てクランク技術とのセットによるエンジン改善作戦の全貌を伺った。
![Z用アルミメッキスリーブ ICBM[井上ボーリング]](https://young-machine.com/main/wp-content/themes/the-thor/img/dummy.gif)
(株)井上ボーリング 代表取締役 井上壯太郎氏 「実は数年前、Z用シリンダーヘッドを自分たちで作ろうと計画していたんです。もっと程度の悪いヘッドが増えたら、修理より新品交換の方が合理的だろうと。カワサキが製品化してくれたので、ICBM®
とクランクOHに集中できるようになり、大きな朗報になりました」
バルブシートカットやバルブガイドの打ち替えなどの内燃機加工とともに、折れ込んだボルトの抜き取りや潰れたプラグ穴の再生などの修理仕事も行う井上ボーリング。”このヘッドを使わなければ次がない”というZユーザーの手助けも行ってきた。
それでも「もう50年近く経過して素材自体も劣化しているので、お金を掛けて修理しても間を置かず別の場所が壊れたりして、残念な気持ちになることもあります」と井上社長。だからカワサキの手によるシリンダーヘッドの復刻は大賛成だという。
「弊社ではアルミメッキスリーブのICBM®
と、独自オーダーコンロッドを用いた組み立てクランクシャフトのオーバーホールが可能で、残すはシリンダーヘッドという状況でした。ここで技術力と信頼性のあるメーカー”純正”ヘッドが加われば、Zのエンジンは完璧なんです。本当に”よくやってくれました!”という気分です」。
リバイバルヘッドで得られるのは馬力向上や最高速アップではなく、良好なコンディションが長期間持続できるという耐久力と安心感である。そうであるなら、スリーブが回ってしまう純正シリンダーや、ベアリング音が不安な純正クランクシャフトも、合わせて手当てしておくのが賢い選択であることは明白だ。
雌ネジのナメや燃焼室のクラック。当時物ヘッドのトラブルは当たり前
プラグのネジ穴やカムシャフトのベアリングキャップの雌ネジがナメているのは日常茶飯事。M6ボルトがM8に交換されているのも当たり前。バルブシートとプラグ穴の間にクラックが入っているものも多いが、いたちごっこのように修理が続くとお互いに疲弊してしまう。
素材を変えて性能アップは復刻ヘッドと同様。シリンダー再生に最適なICBM®
アルミ製シリンダーバレルと鋳鉄スリーブの膨張係数の違いで、スリーブが回ったり踊ったり、位置が定まらなくなるのがZの悪癖。そのデメリットを解消するだけでなく、軽量で放熱性が高く、表面硬度アップによって耐摩耗性まで向上するのがアルミスリーブに特殊メッキを施したICBM®
。現行車でアルミメッキシリンダー採用車が多いのは、鋳鉄に対して利点しかないから。リバイバルヘッドがZX-10R用と同じ合金で硬度と耐久性をアップしたように、ICBM®
でシリンダーの耐久性を向上させたい。
鋳込み式のバルブシートのツバは、シートリング入れ替え時にヘッド側に残す。「鋳込み式が悪くて圧入式の方が良いということはありません。カワサキが当時の仕様通りに復刻されたのは正解だと思います」
腰下の要、独自製造のコンロッドで妥協なきクランクシャフトを実現。フルコースで永年継承できるZが完成!
プレーンメタル式の一体クランクよりもオイル管理に対してタフな、組み立て式クランクシャフトを採用したZ1 /Z2だが、組み立て式ゆえにコンロッド単品が部品設定されていなかった。井上ボーリングではこれも単品設定のないニードルローラーベアリングとスラストスペーサーを調達してオーバーホールを行ってきたが、ついにZ1用の寸法を踏襲した独自のコンロッドを企画。国内の有名メーカーに製造を依頼し、オーバーホール時に積極的に使用するそうだ。
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