バイクの運動性能を高めるためには「足周りの軽量化」が有効とは、1970年代から言われてきたことだ。素材の進化や高度な加工法により軽量化が進むホイールだが、軽さと強さを両立させない限り性能アップにはつながらない。足周り専門でパーツ開発を行うアドバンテージは、20年以上にわたりこうした高性能ホイールを追求し続けている。
●文/写真:栗田晃 ●写真:アドバンテージ ●取材協力:アドバンテージ ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
巻頭特集「ぼくらのガレージ」 様々な形態の個人ガレージを覗き見して、サンデーメカニックの夢である「マイガレージ製作」の参考にしよう! 自分仕様的なアイデアを思い浮かべるにも参考になるはず。また、ガレー[…]
絶えず改良を加えて進化を続ける、世界が認めた”メイドインジャパン”
ホイールの重量が軽くなればコーナリングやブレーキング、加速に至るまで有利になることは誰もが納得できるはず。運動性全般の向上にとってホイールの軽量化は重要な要素だが、強度がなければ問題外。適度な重量があって慣性重量が働くことで安定性が得られる面もある。
スイングアーム、フロントフォーク、ブレーキなどの足周りパーツを開発してきたアドバンテージが、自社製ホイール「EXACT」の開発に着手したのは1998年のこと。創業時から日本人による設計、日本での製造、日本人ライダーによるテストと製品作りをコンセプトとしてきた同社では、有名な海外ブランドも凌駕する品質と性能を実現することを目標に開発を行った。
軽さと強さを両立させるには、製法は鍛造以外ありえない。鋳造技術の進化により、国内外の市販車の純正鋳造ホイールも大胆なデザインによる軽量化が進んでいるが、強度が必要なリム部分はどうしても肉厚を増やさざるを得ない。すると全体重量が軽くてもリム部分が相対的に重くなるため、ジャイロ効果が増してしまう。
これに対して鍛造は、加熱状態の金属素材を打撃・加圧することで金属組織の再結晶を促し、緻密で均一な組織となることで強靱でしなやかさと剛性が向上する。全体重量が同じでも、鍛造のリムは鋳造より薄くできる分、運動性の向上につながる。つまり鍛造ホイールは、製法自体によって生まれながらにして軽く強くなれる要素があるのだ。
しかしながら製法が鍛造ならどれも同じ性能、品質というわけではない。EXACTは国内屈指のホイール鍛造技術を有するメーカーで、F1用ホイールと同じ8000トンプレスによる鍛造を実現。そして軽くても強度がなければ話にならない。
通常、ホイールの設計は破壊しないことを前提に行うが、アドバンテージでは壊れることを前提に設計したテスト品を作り、検査で破壊した破片から最小限、最低限の肉付けをしながら設計変更を繰り返した。また、鍛造品はプレスで打撃した金属素材の表面部分に形成される鍛流線(メタルフロー)によって靱性と強度が向上するため、できるだけ切削加工を少なく抑えることがカギとなる。
一つの金型を複数のホイールサイズで共用して、切削量の大小で対応するメーカーもあるが、アドバンテージでは鍛流線を活かすよう、ホイールサイズに応じた金型を製作して鍛造している。
そして試作ホイールができるたび、国内最大手のホイール検査会社、エンケイ・テスト&ラボラトリーで衝撃耐久性や引っ張り強度など厳しいテストを受けて設計に反映。レース専用部品であれば1レースのゴールまでもてば良いが、市販品はそういうわけにはいかない。
壊れるまで薄く、軽く、細くすることで極限値を知った上で、ホイールにとって最も重要な耐久性と安全性を確保するまで、5年の開発期間を経て製品化されたのがEXACTなのだ。
こうして設計から製造まですべて日本国内で行う鍛造ホイールが完成したわけだが、一度決まったデザインをずっと継続しているわけではない。高性能ホイールというとホイール単体を注目しがちだが、最終的に路面に接するタイヤの進化、変化を考慮しないわけにはいかない。
レースの世界では、レギュレーション変更によってホイールに使える素材が変わると、それによってバイクの操縦性が全く変わり、サスセッティングからライディングスタイルにまで影響が及ぶこともある。またリムの内側とタイヤの内面による空間の形状によって、タイヤが潰れた時の空気の圧縮、膨張まで変化するほど、ホイールとタイヤは密接でデリケートな関係性があるという。
現在のEXACTは、現在のタイヤやバイクとのマッチングを考慮したデザインやバランスで開発されたものだが、アドバンテージではタイヤやバイクが変われば新たなデザインや構造に進化するべきだと考えている。実際、需要の多い350/600-17サイズの12本スポーク仕様は、リムやスポーク形状を中心に5回のアップデートを行っている。
ブランドネームや素材、製法だけでは本当の実力や価値が見えてこないのがスペシャルホイールの世界である。アドバンテージでは、長期間にわたって安心して使える耐久性と強度を確保しながら、軽量化による操縦性向上によりEXACTで安全性アップが可能になると考えている。ホイールが備えるべき性能を考え抜いて作り出されたEXACTには「足周り部品をすべてメイドインジャパンで完成させる」という使命感が具現化されているのだ。
驚異的に細いスポークにできるワケ
「鍛造が強いのは高圧で打撃した後に鍛流線ができるからで、その組織を切削加工で失うなんてあり得ません」(アドバンテージ・中西昇社長)。EXACT のスポークは驚くほど細いが、鍛造後の後加工を最小限にとどめているからこそ強度を確保できる。
バイクいじりの専門誌『モトメカニック』のお買い求めはこちら↓
あなたにおすすめの関連記事
自動車に比べて車重が軽いバイクでは、ボルトやビスでM5、M6の軸径サイズを多用している。一般的にM5ボルトの六角部の二面幅は8mm、M6は10mm、M8は12mm、M10は14mmの組み合わせで、それ[…]
窮屈な自動車整備での使い勝手に優れたソケット工具が欲しい。市場の要望とコーケンの提案で立ち上がった新企画は「ショートソケットプロジェクト」の名称だった。「Z-EAL」となって10年あまり、今ではフルラ[…]
流れるようなレイアウトの4イントゥ1のエキゾーストパイプが超魅力的なホンダCB400フォア。しかし、ワンメイクミーティングの場で同一モデルばかり見ていると、自分のバイクだけは自己主張してみたい!! な[…]
オーヴァーレーシングとモトジョイが共催するサーキット走行会「ASTRIDE(アストライド)」。カテゴリーや年式を問わずさまざまなバイクで走行を楽しめるイベントとして、2019年は9月と12月に開催され[…]
アストロプロダクツではAC100V仕様のコンプレッサーを何機種もリリースしているが、この新製品の自慢は充填時間の短さ。2HPのモーターと30Lのタンクの組み合わせで、ゼロから満タンに要する時間は約1分[…]
最新の記事
- カワサキ「Z900RS」歴代カラー大図鑑【ゼファー再降臨・2021年モデル】
- 「カワサキ初の水冷マシンになるはずだった」〈幻名車〉2ストローク モンスター・SQUAREーFOUR 750(タルタルステーキ)
- ヒマラヤと血を分けたタフなロードスター ロイヤルエンフィールド「ゲリラ450」試乗インプレッション
- 【2024年12月版】600cc~1000ccバイク 国産ネオクラシックおすすめ8選! 大型ネオスポーツカフェから空冷レトロまで
- 「ゲスト豪華…」長瀬智也にレジェンドライダーも参加! ヨシムラが創業70周年&2024世界耐久シリーズチャンピオン獲得の祝勝会を開催
- 1
- 2