バイクの運動性能を高めるためには「足周りの軽量化」が有効とは、1970年代から言われてきたことだ。素材の進化や高度な加工法により軽量化が進むホイールだが、軽さと強さを両立させない限り性能アップにはつながらない。足周り専門でパーツ開発を行うアドバンテージは、20年以上にわたりこうした高性能ホイールを追求し続けている。
●文/写真:栗田晃 ●写真:アドバンテージ ●取材協力:アドバンテージ
※本記事の内容はオリジナルサイト公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
モトメンテナンス(MM)誌から『モトメカニック』へと生まれ変わって2号目となる2020年春号発売! 旧MM時代にも大人気企画だった「個人ガレージ」の巻頭特集や、メンテナンスに不可欠な工具にフォーカスし[…]
絶えず改良を加えて進化を続ける、世界が認めた”メイドインジャパン”
ホイールの重量が軽くなればコーナリングやブレーキング、加速に至るまで有利になることは誰もが納得できるはず。運動性全般の向上にとってホイールの軽量化は重要な要素だが、強度がなければ問題外。適度な重量があって慣性重量が働くことで安定性が得られる面もある。
スイングアーム、フロントフォーク、ブレーキなどの足周りパーツを開発してきたアドバンテージが、自社製ホイール「EXACT」の開発に着手したのは1998年のこと。創業時から日本人による設計、日本での製造、日本人ライダーによるテストと製品作りをコンセプトとしてきた同社では、有名な海外ブランドも凌駕する品質と性能を実現することを目標に開発を行った。
軽さと強さを両立させるには、製法は鍛造以外ありえない。鋳造技術の進化により、国内外の市販車の純正鋳造ホイールも大胆なデザインによる軽量化が進んでいるが、強度が必要なリム部分はどうしても肉厚を増やさざるを得ない。すると全体重量が軽くてもリム部分が相対的に重くなるため、ジャイロ効果が増してしまう。
これに対して鍛造は、加熱状態の金属素材を打撃・加圧することで金属組織の再結晶を促し、緻密で均一な組織となることで強靱でしなやかさと剛性が向上する。全体重量が同じでも、鍛造のリムは鋳造より薄くできる分、運動性の向上につながる。つまり鍛造ホイールは、製法自体によって生まれながらにして軽く強くなれる要素があるのだ。
しかしながら製法が鍛造ならどれも同じ性能、品質というわけではない。EXACTは国内屈指のホイール鍛造技術を有するメーカーで、F1用ホイールと同じ8000トンプレスによる鍛造を実現。そして軽くても強度がなければ話にならない。
通常、ホイールの設計は破壊しないことを前提に行うが、アドバンテージでは壊れることを前提に設計したテスト品を作り、検査で破壊した破片から最小限、最低限の肉付けをしながら設計変更を繰り返した。また、鍛造品はプレスで打撃した金属素材の表面部分に形成される鍛流線(メタルフロー)によって靱性と強度が向上するため、できるだけ切削加工を少なく抑えることがカギとなる。
一つの金型を複数のホイールサイズで共用して、切削量の大小で対応するメーカーもあるが、アドバンテージでは鍛流線を活かすよう、ホイールサイズに応じた金型を製作して鍛造している。
そして試作ホイールができるたび、国内最大手のホイール検査会社、エンケイ・テスト&ラボラトリーで衝撃耐久性や引っ張り強度など厳しいテストを受けて設計に反映。レース専用部品であれば1レースのゴールまでもてば良いが、市販品はそういうわけにはいかない。
壊れるまで薄く、軽く、細くすることで極限値を知った上で、ホイールにとって最も重要な耐久性と安全性を確保するまで、5年の開発期間を経て製品化されたのがEXACTなのだ。
こうして設計から製造まですべて日本国内で行う鍛造ホイールが完成したわけだが、一度決まったデザインをずっと継続しているわけではない。高性能ホイールというとホイール単体を注目しがちだが、最終的に路面に接するタイヤの進化、変化を考慮しないわけにはいかない。
レースの世界では、レギュレーション変更によってホイールに使える素材が変わると、それによってバイクの操縦性が全く変わり、サスセッティングからライディングスタイルにまで影響が及ぶこともある。またリムの内側とタイヤの内面による空間の形状によって、タイヤが潰れた時の空気の圧縮、膨張まで変化するほど、ホイールとタイヤは密接でデリケートな関係性があるという。
現在のEXACTは、現在のタイヤやバイクとのマッチングを考慮したデザインやバランスで開発されたものだが、アドバンテージではタイヤやバイクが変われば新たなデザインや構造に進化するべきだと考えている。実際、需要の多い350/600-17サイズの12本スポーク仕様は、リムやスポーク形状を中心に5回のアップデートを行っている。
ブランドネームや素材、製法だけでは本当の実力や価値が見えてこないのがスペシャルホイールの世界である。アドバンテージでは、長期間にわたって安心して使える耐久性と強度を確保しながら、軽量化による操縦性向上によりEXACTで安全性アップが可能になると考えている。ホイールが備えるべき性能を考え抜いて作り出されたEXACTには「足周り部品をすべてメイドインジャパンで完成させる」という使命感が具現化されているのだ。

デザインは一貫しているが、スポークの幅や厚さ、ハブとリムへのつながり方など、性能改善のための変更をたびたび行っている。「たまに”以前のデザインが欲しい”と言われることもありますが、最新モデルが最善です。ホイールは機能部品なので、昔の方が良いという考え方はありません」と説明するそうだ。 [写真タップで拡大]
驚異的に細いスポークにできるワケ
「鍛造が強いのは高圧で打撃した後に鍛流線ができるからで、その組織を切削加工で失うなんてあり得ません」(アドバンテージ・中西昇社長)。EXACT のスポークは驚くほど細いが、鍛造後の後加工を最小限にとどめているからこそ強度を確保できる。

開発時には「丸ブッシュでは耐久性が足りない」との意見もあったが、ゴム素材の検討によってクリア。その上で、当初は6本で強度と耐久性が実証できたので、現在は5本止めスプロケへと変更。3本でも耐えられると推測しているが、専用スプロケットが必要なので保留となった。 [写真タップで拡大]
バイクいじりの専門誌『モトメカニック』のお買い求めはこちら↓
関連する記事
スパナやメガネレンチでは回せないような届きにくい場所で、使い勝手の良さを実感できるソケットレンチ。差込角6.3sq.=シブイチがバイク向けであることは、日頃からメンテを実践しいてるサンデーメカニックに[…]
ソケット工具専門メーカー・山下工業研究所(Ko-ken)の会社設立50周年を前にした2009年、次世代向けの提案として始まった「Z-EAL」シリーズ。コンパクト化の追求に不可欠だった全社一丸の取り組み[…]
ショート管を装備したヨンフォアは数多いが、最大の特徴である4イントゥ1のレイアウトを崩したカスタムマシンは、なかなか稀な存在だろう。CBフォアの専門店として名高い闇矢屋(ヤミヤ)がプロデュースしたオリ[…]
大好きな愛車を持ち寄り、一日ゆったりと楽しめるサーキットイベントとして企画されているサーキット走行会「アストライド」。本気のレースだけではなく、自分のペースで走行できるのが大好評だった。2020年は4[…]
全国で180店舗を展開する工具ショップ・アストロプロダクツでは、ツールセットやコンプレッサーなどのガレージアイテムの新製品開発を積極的に行っている。メンテナンスやカスタム、レストアで、作業環境を充実さ[…]
最新の記事
- 鈴鹿8耐、EVA RT 01 Webike TRICKSTAR Kawasakiはマシントラブルから41位・141周で終える
- ホンダCBR600RR [’22後期 新型バイクカタログ]:電脳化で復活したミドルスーパースポーツ
- ホンダ NT1100 試乗インプレッション【どこまでも快適、旅バイクの王道】
- 絶妙なユルさと“カブみ”が魅力 GPX POPz110 試乗ショートインプレッション
- カワサキ ニンジャZX-6R/KRTエディション [’22後期 新型バイクカタログ]:排気量ちょい多めの636cc
- 1
- 2