カスタムパーツブランド“ストライカー”の代表を務めているのが新 辰朗さんだ。そこには長年プロライダーとして活躍してきたキャリアが活かされているわけだが、そんなストライカーのこれまでと今、そして未来を語ってもらった。
「合法」と「気持ちよさ」のどちらも満たすことができる
新 辰朗さんはしばしば、「性能よりもスタイルが大切」だと語る。もちろんそれは「見た目さえよければ中身は二の次」という意味ではない。スペックを追求し過ぎると少なからず失うものがあることを知っているからこそ、出る言葉だ。
それは新さんがプロライダーとして過ごした時代を振り返ってみれば分かりやすい。1986年に国際A級に昇格し、’95年に第一線から退くわけだが、その10シーズンは空前のレースブームとリンク。市販車も売れに売れ、レーサーレプリカというよりもレーサーそのもののスペックを持つマシンが毎月のように送り出される、ちょっと異常な時代でもあった。
1psでも多く、1kgでも軽く、1km/hでも速いことが正義とされる中でマシンは過激さを増し、当初はそれを歓迎していたユーザーもやがて脱落。ブーム終焉のきっかけのひとつに、スペック至上主義があったことは否めない。
新 辰朗(あらた たつろう):全日本ロードレース選手権、国際A級昇格後、GP250、TT-F1、GP500、スーパーバイクなどで活躍した他、アメリカ全米選手権出場のシーズンでは優勝も記録。現役引退後もテイスト・オブ・筑波などのイベントレースには積極的に参戦し、ゼファー1100で達成した0秒台は今も語り草になっている。※写真は2017年10月28日、テイストオブツクバにて
アフターパーツも同様で、特にマフラーはピークパワーや最高速のアップが大きなPRポイントになっていた。それによって過渡特性が犠牲になったとしても、分かりやすい数値が優先されたのだ。
「6速全開で伸び切った時の馬力や速度なんて、サーキットでもそれほど重要ではありません。ましてストリートなら無意味なのですが、問合せの大半は“何馬力出ていますか?”というもので、パワーグラフがトガっていればいるほど喜ばれた時代がありました」と、新さんはストライカー設立当初の頃を思い出す。
「もちろん、レーシングライダーとしてならピーキーでもなんでもラップタイムがよくなる方を選びます。自分自身、そういう価値観の中で現役時代を過ごしてきましたが、ストライカーのパーツはあくまでもストリートユース。大切にしているのは性能だけでなく、いかに気持ちよく乗れるかという感覚性能です」
そのため、マフラーの場合は低回転域と中回転域がスムーズにつながるように開発されている。集合部分に仕切りを設けたり、テーパーの構造を何パターンもテストしているのはその一環ながら、だからといって一般的にトルクを稼ぎやすい4-2-1の集合スタイルが採用されているとも限らない。
「 確かに4-2-1は構造的には低中速で優位なのですが、その代わり、しっかりとした開発をしないとスカッと上まで回り切る爽快さに欠けることがあります。 ライダーにとって、そこもまた重要なポイントですから、4-1のままでトルクも確保するなど、バイクの素性に合わせて様々なバリエーションを用意しています」
そんな新さんがもうひとつ重要視しているポイントが音だ。マフラーのピークパワーと同様、爆音であればあるほど支持された時代があったが、ここ数年でユーザーの意識は激変。JMCA認定・政府認証・車検対応といったワードが必須になり、 より安心して走れる、周囲への配慮も考えた静かな音が求められるようになったのである。
「レーシングパーツの名を借りて非合法でやっていくか、ストリートでも楽しめる合法パーツとしてやっていくか。マフラー業界は10年ほど前にそういう岐路を迎え、我々は後者を選びました。 そうあるべきだと思いましたし、世の中全体が環境を考えたそういう方向へ進むと感じました。」
結果的にこうした取り組みが功を奏し、ほどなく“ストライカー=合法”というイメージが定着。パーツのアイテム数を増大する余力も生まれ、ステップやスライダーも手掛けるようになった。
クオリティはジャンルを超える
ユニークなのは、バイク界にとどまらず、釣り“フィッシングパーツ”の世界でもそのクオリティが知られているところだろう。 現役時代からルアーフィッシングを楽しんでいた新さんだが、とある競技との出会いがそのきっかけになった。
「 ルアーフィッシングはあくまでも息抜きだったのですが、決められた時間の中で釣果を争うエリアトラウトトーナメントという世界があることを知ったんです 。レース同様、最後の1秒で勝ち負けが決まることが珍しくなく、道具をいかに上手く扱うという点も同じ。すぐに魅了されましたね」
エリアフィッシングは複数のロッドを携え、セレクトするルアーやシュチュエーションによって次々と交換していく必要がある。新さんはそれを支える専用ロッドスタンドをアルミ削り出しで制作。“DLIVE(ドライブ)”と言うブランドを立ち上げた。それは樹脂で成型された既存の製品とは一線を画し、爆発的なセールスを記録したのである。
「 機能はもちろんですが、そこに絶対的な所有感を加えるという意識がエリアトーナメントの世界にはあまり少なく、まして素材にアルミやチタン、ビレットパーツを使うという感覚がなかったのだと思います。バイクの世界では当たり前の機能美と性能が融合したパーツを出したところ歓迎してくださいました 」
そのセンスはリールのパーツやフィッシングネットのパーツにも活かされ、それらも同じくヒット。そして意外にもウェアでも面白い発見があったという。
「レーシングスーツやピットクルーシャツに、スポンサーロゴやチーム名を入れるのって僕らにとっては普通でしょ? エリアトーナメントも競技ですから、そのイメージのウェアを自社ブランド“DLIVE”で作ったところ評判になり、その影響なのか、本来釣りのお客様には直接関係の無いストライカーブランドのアパレルを釣りのお客様にも沢山買っていただけました。やはりビジュアルと言うキーワードも大切にしなくてはならないとあらためて気づかされました」
もちろん、サーキットを忘れたわけではない。パーツ開発の面でも人材育成の面でもレースが果たす役割は大きいため、様々な活動と並行してテイスト・オブ・筑波へはゼファー1100で挑戦。最初はまったくのノーマルだったが、参戦した8シーズンの間に(’08年~’15年)、3度のクラス優勝を達成した他、たびたび1分0秒台という驚異的なタイムをマークするなど、空冷ネイキッドのポテンシャルを極限まで引き出すそのライディングは多くのファンを魅了した。
そんな新さんは今後、何を見据えているのだろうか?
「やはりサーキットは自分の原点。ですから、レースユースを全面に押し出したブランドも展開していく予定です。実はネーミングはもう決まっていて、“ARATA RACING WORKS”の名で動き出しています。これから起こる新たな展開を楽しみにしてください」
ストライカーの母体であるカラーズインターナショナルの設立から間もなく四半世紀。新さんは次のステップへ踏み出そうとしている。
“ARATA RACING WORKS”の新ブランドロゴが入ったサイレンサー。これから新さんが起こすアクションが楽しみだ。
●文:伊丹孝裕 ●写真:坂上修造
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