第47回マシン・オブ・ザ・イヤー2019

曲がらないものを曲げるのが練習

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.20 「“足りない”マシンが違いを生む」

  • 2019/11/1

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第20回は、ファビオ・クアルタラロの走りから「速くなるには」を考察します。

TEXT:Go TAKAHASHI

MICHELIN

クアルタラロが何をどうしているのか理解できない

この秋は各地が大変な台風被害に遭いましたね……。被災された方たちには心からお見舞い申し上げます。日本GPも、僕が登場する予定だったイベントがいくつか中止になりました。

時間ができたので、久々にコースサイドでじっくりMotoGPライダーたちの走りを観察……。いやあ、速いっ!(笑)驚くほど速いですね。2コーナーの立ち上がりから3コーナーにかけての加速なんて、脳みそがおいていかれるんじゃないかってぐらいの凄まじさです。

さすが世界最高峰だけあり、どのライダーも素晴らしいんですが、今年特に際立っていたのはファビオ・クアルタラロでした。彼はコーナーの進入からクリッピングポイントまでがめちゃくちゃ速いんです。ただ、あまりにも異次元すぎて、何をどうしてるのかよく分からない(笑)。

ツインリンクもてぎのヘアピンカーブは、進入で縁石をかすめ、いったんアウト側にはらんで、立ち上がりでまた縁石をかすめるようなラインを取るのが一般的です。コーナーでもっともイン側に近付くクリッピングポイントがふたつある、ダブルクリップと言われるラインですね。

マルク・マルケスは、アウト側にはらんだところでのバンキングスピード(マシンを寝かし込む速さ)がものすごく速くて、バシッと寝かせます。そしてグリッと向きを変え、スパッとマシンを起こして立ち上がっていく。マシンを寝かす速さも起こす速さもマルケスはピカイチ。セオリー通りの走りです。

一方のクアルタラロは、コーナー進入スピードはマルケスよりも速いにも関わらず、アウトにはらむことなく、インベタのまま立ち上がってしまうんです。セオリーから外れた走りなので、何をどうしているのかまったく理解できません。

もしかしたらクアルタラロは、とても上手にリヤブレーキを使っているのかもしれません。ちょっとヒントになったのは、ミシュランのスタッフの言葉です。

ミシュランタイヤは昔からリヤタイヤのグリップの高さに定評がある。今のMotoGPマシン用タイヤも同じです。でも、リヤのグリップが高すぎると、フロントタイヤをアウトに押し出してしまって曲がらないという、プッシュアンダーになりやすい。「それなら、リヤタイヤのグリップを少し下げて前後バランスを取るのか」と思いますが、そうじゃないらしいんです。

ミシュランのスタッフは、「最近のリヤタイヤは、減速するためのグリップを高めています」と言ってました。そしてクアルタラロも含め、最近のMotoGPライダーはハンドブレーキを駆使してリヤブレーキを多用しています。

恐らくクアルタラロは、エンジンブレーキに頼ることなく、そして前ブレーキだけに頼ることもなく、前後ブレーキをしっかり使い切って走っているのではないか、と。十分に減速できているから、インベタでコンパクトに旋回できるのではないでしょうか。

原田さんですら理解できないというクアルタラロの走り。※写真はヘアピンではありません

リヤブレーキの使い方は2ストで覚える

これって実は、2ストロークエンジン時代の乗り方なんですよね。2ストマシンはエンジンブレーキがほとんど利かないので、ライダーは自然と前後ブレーキをしっかり使うテクニックを身に付けます。ところが4ストロークエンジンはエンブレがすごくよく利くので、リヤブレーキをあまり使わなくても減速できてしまう。

でも、レーシングライダーの腕の差って、結局はブレーキングテクニックの差がほとんど。だからエンブレに頼らず前後ブレーキをしっかり使い切っているクアルタラロが、ちょっと異次元の走りを見せているのではないかと思います。

彼はルーキーなのでまだ安定性に欠け、チャンピオンシップという点ではマルケスに届いていませんが、近いうちに「ストップ・マルケス」の先頭に立って大活躍するはずです。

繰り返しになりますが、ブレーキングは本当に重要です。レースで勝負を決める最大のテクニックと言ってもいいかもしれません。そして、最高峰クラスで日本人がなかなか勝てない、チャンピオンになれない理由は、やはりブレーキングテクニックにあると、僕は思っています。最高峰クラスでは、重くて速いバイクをしっかりと減速させなければならないからです。

今、日本で行われているミニバイクレースって、12インチタイヤが中心ですよね。この12インチが曲者(笑)。太くてグリップもすごくいいから、ブレーキをあまりかけなくても勝手にグイグイ曲がってしまうんです。

でも、もっと大径で細くてグリップの低いタイヤで練習しないと、ブレーキングは上達しません。僕は練習にはフロント17インチの細いタイヤがいいと思っていますが、17インチだとクリッピングポイントまでブレーキを引きずらないと十分に減速できず、向きも変わってくれません。そこをライダーのテクニックでどうにかすることこそが、練習なんですよね。

そして、今や時代遅れと言われそうですが、やはり2ストがいいんです。エンブレが利かない分を、やはりライダーのブレーキ操作でどうにかしなければならない。

大径の細タイヤ、そして2ストエンジン。今となってはマシンとしては不出来と言われるのかもしれませんが、そういうマシンで練習してこそ、ライダーの腕が上がるんです。

僕は中学生の頃、RG50Γや、モトクロッサーRM80ベースのS80クラスのマシンで、さんざん練習しました。タイヤもあえて低グリップのものを履いていたので、コーナー進入でドリフトするのは当たり前だったし、コーナーの立ち上がりはホイールスピンかウイリーです。スロットルワークをものすごく丁寧にしないと、うまくパワーバンドに乗せて加速することができない。でも、それも練習には最高でした。

SUZUKI RG50Γ 1982

SUZUKI RG50Γ[1982]前17/後18インチホイールで、タイヤの幅はともに2.75インチ(約70mm)。

レースで勝つためには、もちろん、できるだけいいモノを使いたくなります。でも、勝つためには練習が必要です。そのためには、必ずしもいいモノばかり揃える必要はありません。むしろ不出来なマシンほど、ライダーの腕を高めてくれると僕は思います。

今、アジアのライダーたちがどんどん台頭してきています。彼らは、レーシングマシンとしては決して優れたパッケージとは言えない、アンダーボーンのマシンで頑張って腕を磨いています。足元はやっぱり、大径の細いタイヤです。

日本では、坂田和人さんがMFJロードレースアカデミーでCBR150Rを使っていますよね。タイヤは前後17インチ、幅はフロントが100、リヤが130で、ブレーキングを学ぶにはピッタリ。さすがは世界チャンピオンのチョイスだな、と思いました。近い将来、日本人ヤングライダーによる巻き返しも見られるかもしれませんね。

そうそう、2ストといえば、11月10日のテイスト・オブ・ツクバ、ZERO-1クラスにRG500Γでエントリーします。K-Factoryやマジカルレーシングの協力で、素晴らしい仕上がりになっている……はずです(まだ乗っていないので)。

SP忠男レーシングチームに所属するより前、TEAM SUGAYAでRG50ΓやRM80を走らせていた中学生時代を思い出しながら、久々のスプリントレースを楽しむつもりです。決勝は10周ということなので、なんとか走り切れるかな(笑)。

ミシュランブースにはマルボロヤマハ時代の原田さんのレーシングスーツも!

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原田哲也

原田哲也

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1993年ロードレース世界選手権(WGP)250の世界チャンピオン。1992年に全日本で同クラスのチャンピオンを獲得し、翌年に初挑戦のWGP250で戴冠した。現役当時のニックネームは「クールデビル」。'02年に現役を引退し、現在はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。