2019年7月にインドネシアで先行発表されて、東京モーターショー2019では“市販予定車”として日本初公開されたのが、都市型アドベンチャースクーターのホンダ・ADV150。その開発コンセプトなどを、ショー会場で開発責任者代行の藤井純さんに突撃取材!
TEXT:Toru TAMIYA
SUV的なエッセンスを都市型コミューターに落とし込む
欧州ではイタリアなどを中心に高い人気を獲得して、日本でもコアなファンに支持されているのが、DCT仕様の745cc水冷並列2気筒エンジンを搭載したホンダのX-ADV。このスタイリングをモチーフに、現行型PCX150に大幅なモディファイを加える手法で設計されたのが、2019年7月にインドネシアで先行発表されたADV150だ。外観の専用化だけでなく、サスペンションやタイヤサイズ、ライディングポジションに至るまで、モデルの世界観を実現するため妥協なく変更。2段階可変スクリーンやスマートキー、ラリーマシンを思わせる反転液晶表示の大画面フルデジタルメーターなど、装備も非常に充実している。
X-ADVはクルマのSUV的な立ち位置で、そのスタイリングイメージを継承しながら、日常生活に溶け込む気軽さをプラスした都市型アドベンチャースクーターがADV150ということになる。今回の東京モーターショー2019では、市販予定車としての公開。よほどのことがない限り、日本で発売されるのは確実だ。そんな登場間近なADV150が誕生した背景やセールスポイントなどを、タイ在住でADV150の開発責任者代行を務める藤井純さんにうかがった。
トレンドになりつつある150ccクラスにニュータイプを投入
編集部:まずは、ADV150誕生の背景などを教えてください!
藤井さん:ADV150は、2019年の夏にインドネシアで先行発表いたしました。アセアンの道路事情ということでは、まだ整備があまり進んでいない地域も多く残されている状態。一方でバイク事情としては、150ccクラスのスクーターが現在はトレンドとなっています。弊社としては、このクラスのプレミアムなスクーター(フラットフロアではないタイプ)はPCX150しかラインアップがなく、アセアンの道路事情も踏まえて考えたとき、欧州でご好評いただいているX-ADVのコンセプトを反映させた、荒れた路面にも強い150ccスクーターを導入するという決定に至りました。
編集部:アセアンでもとくに特定の国をターゲットとしているのでしょうか?
藤井さん:とくにこの国でという狙いはないのですが、インドネシアをリードカントリーとして設定させていただき、今後は各国に派生展開していく予定です。その一環として、今回は日本仕様も市販予定車として展示いたしました。日本の市場ということで考えると、任意保険にファミリーバイク特約が利用できて維持費が低めというメリットがある原付二種クラスのPCXに対して、小柄で扱いやすくて高速道路にも乗れるという長所を持つPCX150も、これまで多くのユーザーから支持されてきました。そういう状況の中で、現在のPCXシリーズはすでに3代目ということもあり、異なるコンセプトを持つADV150を導入することで、150ccスクーターの新たな魅力を訴求したいと思っています。
編集部:スタイリングは、まさにX-ADVのイメージです。ユーザーとしてはこのADV150を、「X-ADVがモチーフの軽二輪」と考えてよいのでしょうか?
藤井さん:基本的には、そう考えていただいて大丈夫です。ただし、X-ADVはモーターサイクル、ADV150はユニットスイング式エンジンのスクーターなので、価格帯や使い勝手や操作性などには、大きく異なる部分もあります。逆にデザインや乗り味ということでは、X-ADVと方向性が同じような要素も盛り込んであります。走行性能に関しては、ADV150が発売されてからぜひご試乗いただいて、確認していただければとも思っています。
編集部:外観に関して、X-ADVに似せることにこだわった部分というのを、もう少し詳しく……。
藤井さん:スタイリングでは、もちろん全体的なイメージを共通化させ、アップライトなライディングポジションを採用することで、X-ADVの雰囲気に近づけてあるのですが、アイコンとしてこだわったのはスクリーンアジャスター。これはX-ADVも装備していて、ADV150にぜひとも導入したかったアイテムです。そしてじつはこのスクリーンアジャスターは、デザイン面だけでなく快適性の向上という点でも、導入したいと思っていました。東南アジアや最近は日本でも夏場は、かなり暑い日が続きます。そのため、風を多く受けながら走れるよう、PCX150はショートスクリーンを採用してあります。しかし一方でPCX150の使用環境をリサーチすると、コミューターとしてだけでなくツーリングで乗るお客様も多く、そのような方々にはロングスクリーンの需要がかなりあります。異なる地域や季節や使用環境のすべてにおいて快適性を高めるために、スクリーンアジャスターはマスト装備だと考えました。X-ADVと比べてスクリーンは小型なので、ハイポジションにしても頭頂部からすべてを防風するというほどではないのですが、胸元あたりの防風性は明らかに異なるように、性能面でも作り込んであります。
編集部:東南アジアではスコールも名物のようになっていますが、雨を避ける効果も期待できそうですね。では走りに関して、X-ADVあるいは他のアドベンチャーモデルと同じような方向性を感じられる要素というのは、どのような点でしょうか?
藤井さん:じつは私、フォルツァやフェイズなどのスクーターを担当していた時期もあるのですが、最近ではCRF100Lアフリカツインの開発に携わるなど、いわゆるオンオフモデルの経験も多くあります。そこで培った信念のひとつとして、オフロード走行を視野に入れたカテゴリーの機種では、トラクション性能を高めて滑りやすい路面でも優れたドライバリティを得るために、エンジンの低中速域を重視することが大切と考えています。そしてこのような設計を、ADV150にも施しました。具体的には、PCX150よりも低中回転域の出力をやや増やして、変速特性も専用化してあります。エンジンに関しては吸排気系とECUの変更、駆動系はウエイトローラーやクラッチを最適化させました。
編集部:ということは、ダートもかなり得意と!?
藤井さん:ダートと言っても、河川敷のフラットダートとかそれなりに整備された林道というレベルですが、パワーユニットだけでなくアップライトで自由度の高いライディングポジションも採用することで、そのようなシーンでも扱いやすい走行性能を目指してあります。加えて前後サスペンションは、PCX150と比べてストロークをフロントが30mm、リヤは20mm伸ばしてあります。じつはこれも大きなこだわりポイント。フロントサスペンションストロークは130mmなのですが、市販スクーターでこの数値というのは、ホンダには例がないですし、他社でもこのクラスではまずないと思います。この前後サスペンションにより、最低地上高はPCX150比で30mmアップさせています。このとき犠牲になるのはシート高。ADV150は795mmです。しかしここは、モデルの世界観を感じてもらうためにも、譲りたくなかった部分。着座位置が高いぶん視界は良好ですし、足を降ろすときに干渉しやすい部分を絞り込んだデザインにすることで足着き性を高める工夫も施してあるので、受け入れられると信じています。また、前後タイヤのサイズ設定にもこだわり、前後ともPCXよりワンサイズ太く、リヤは14→13インチホイールにしながら、タイヤのエアボリュームを増やしました。これらは、不整地での走りやすさや乗り心地を高める目的もあります。
編集部:フレームに関しては、PCX150と共通ですか?
藤井さん:基本的にはそうなのですが、フレームのリヤセクションやフロントフォークのボトムブリッジ形状などには変更を加えてあります。これらは、外装デザインに合わせるための対応で、変更しながら走行性能に影響を与えないような配慮を施してあります。
編集部:ところでこのモデル、日本で市販されるときの生産国は?
藤井さん:インドネシアで販売しているモデルについては、同国内のアストラホンダモーターで生産しているのですが、日本仕様はタイ生産を予定しています。そしてADV150はタイでも販売します。そこから先の展開に関してはあまり詳しく申し上げられませんが、欧州などでの販売はPCX150の現状からご想像いただくのがよいかと思います。
編集部:となるともうひとつの想像として、日本ではPCXシリーズに150cc仕様と125cc仕様があるわけですし……。
藤井さん:それに関しては、お答えできることが一切ありません。ですが、なぜADV150という150ccクラスの設定になったかということに関しては、先ほどご説明させていただいたとおり、インドネシアやタイなどで150ccクラスがメインのマーケットになっているという背景があるためです。
編集部:では最後に、日本で発売が開始されたらどのようなユーザーに乗ってもらいたいですか?
藤井さん:このモデルはそもそも、アセアン向けのコミューターとして開発。そしてその中で、これまでにない価値観を追求しています。しかし市街地の移動用としてだけではなく、ツーリングの相棒にしたり、河川敷のフラットダートレベルの未舗装路を走ったりというようなことにも対応できる性能と装備を持っています。開発者として用途を限定するつもりはありませんが、それと同じように、多くのユーザーが幅広い楽しみ方をしてくれることを望んでいます。
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