2019年は日本車キラーのBMW S1000RRが、『シフトカム』などの新テクノロジーを盛り込んでフルモデルチェンジ。ついにサーキットへと解き放たれた。ドイツ・PS誌では日本に先立ち、条件が同じ1000cc直4スーパーバイクのライバルを集めて、サーキットで全開テストを敢行。第3回は、今回の車両ではBMW S1000RR以外で唯一の可変バルブタイミングを備えるスズキGSX-R1000Rと、スーパーバイク世界選手権(WSBK)でジョナサン・レイが4連覇中のカワサキ・Ninja ZX-10RRの2車をお届けしよう。
文:Volkmar Jacob(PS) 写真:Arturo Rivas(PS) まとめ:宮田健一
舞台はスペイン・アンダルシア!
アンダルシア・サーキットは南スペイン・アルメリアにあり、旧コースの隣に約1年半前に完成したばかり。旧コースと接続することもできる。全長約4km半で習得は難しく、特にピット出口から数百m先の山頂直後はカーブが縮小し、早めのターンオフが必要となる。
タイヤはピレリで統一!
イコールコンディションでのテストを期するために、タイヤはピレリで統一。しかも、サーキットでの限界性能を引き出すことに挑戦するため、銘柄にはレーシングスリックのDIABLO SUPERBIKE SC1をチョイスした。このタイヤはSBK=ワールドスーパーバイク世界選手権の公式タイヤでもあり、まさにガチ仕様。タイヤ専門のスタッフも派遣され、エア圧などは厳密に管理された。
SUZUKI GSX-R1000R:幅の広い堅実な走りが持ち味
2017年にロールオフした上級バージョンのGSX-R1000R。このマシンは正統派な作りで本当に悪い部分は何もない。我々PS誌が2017年10月号で実施した大規模なスーパーバイクテストで激しいパフォーマンスを見せたアプリリアRSV4に次ぐ2番目の結果を見せたとき、GSX-Rはニュルブルクリンクの北コースでその資質を印象的に示した。ニュル北コースは独特の走り方を必要とすることがよく知られている。一般的なサーキットと異なりジェットコースターのようにうねるスポーティな田舎道を走るには、流れるような丁寧なライディングスタイルを要求するのだ。そしてそれはスズキにとって、とてもよく似合っていた。そのぶん、通常サーキットテストでのメリハリ感は薄まってはいたのだが、今回はまた違った姿を見せてくれるのだろうか。
このバイクはエンジンが特徴的だった。7500rpmまでの中速域ではBMWに次いで2番目と、なかなかの馬力を発生する。力強いサウンドを響かせながら、下から素晴らしいほど均等に、そしてライダーが予想したとおりにパワーは上まで伸びていく。そのため走りをつかみやすい。ただ惜しいことに、最後の部分でエンジンは何かを弱めたような制御が入って、191psでストップしてしまった。
ラップタイムとしては、1分54秒1でZX-10Rよりも前を走ったが、CBRに1秒遅れての総合4位。これは、スリムさを追求したライディングポジションが影響している部分が大きい。今回の5台の中では最も狭いハンドル幅と2番目に高いハンドル高となっており、このことが前輪からのフィードバックを平均的なものとしてしまっていた。全体的な走りやすさはあるのだが、BMW、ホンダ、ヤマハのようにコーナーを鋭く攻めていけるものとは違っていた。車体に関してはサスペンションのダンパー性能も十分。2019年モデルではブレーキホースがステンメッシュになっているが、今回使用した2018年モデルでもほとんど影響はないはずだ。
とにかくGSX-Rはコース全体を非常にニュートラルに平均的なペースで走っていたのが印象的だった。結論としては、このマシンがいつも得意としてきたことを、あらためて示してみせたということだろう。
GSX-R1000Rのディテール
丸山浩のミニインプレ:下から上までキレイに回ってくれる
可変バルブタイミングのおかげで、低回転から高回転まで不得手な部分がない。また、きめ細かなトラコンの効果も手伝ってレインなど悪コンディション下でもスロットルを開けやすい。車体もよく作り込まれており、ABSも空走感がほとんどなく減速Gが逃げない。ただ、理想のド真ん中を狙いすぎて、ちょっとエキサイティングさは欠けるかも。
KAWASAKI Ninja ZX-10RR:フルバンク時の安定性が輝く
ZX-10RRは2019年モデルでアップデートを受けた。チタン製コンロッドを採用し、バルブもフィンガーフォロワーロッカーアームで改良された。これによってエンジンは毎分600回転速くなり、パワーもカタログスペックの上では4ps上昇した204psとなっている。またカワサキはRRのクランクシャフト慣性モーメントを5%減少させたともアナウンスした。これは大いに期待できる。
そのはずだったのだが……。我々が行った実測テストベンチでは予想外の196psしか記録されなかった。約束されたはずのトルクもほとんど感じられない。昨年テストした2018年モデルと比べても最高出力で1ps、発生回転数ではわずか100rpmしか上がっていない。これには何か特別な理由があったのだろうか。
もっとも8000rpmまではちょっと我慢が必要だが、10000rpmを超えると突然羽が生えたようにマシンは自由を覚えてくる。また、これまで見てきた中で最も長い超ロングレシオなファーストギヤとパワー特性の組み合わせは、ほぼ最適な設定になっていたと言っていい。ほかに輝いていたポイントを挙げるとするなら、フルバンク状態に持ち込むとZX-10RRは信じられないほどの安定性を見せてくれた。
ブレーキング時も同様に安定している。ライポジは大柄な方で長いタンクと遠めのハンドルが改良されれば、もっとライダーは動きやすくなるはず。ブレーキレバーももっと近い方がいい。制動力自体は強力で優れているのだから……。クラッチ操作要らずとなるオートシフターもライバルと異なり、ダウンではスロットルが完全に閉じた状態でのみ機能するのも惜しいところ。こうしたところでも、まだ速くなる余地は残されている。
ラップタイムは1分54秒2で、残念ながら今回は苦汁の結果に終わってしまった。この状態のままでRRが完全なレースベース車であるかと言うと、ちょっと疑問が残ってしまったかたちだが、実際にSBKで活躍しているような純レーサーとして仕上げるには、しっかりとした本格チューニングが必要になってくるのだろう。そうすれば、きっと化けてくれるはずだ。レーサーとしてとことん弄りたおすか、さもなくば世界中で500台限定のマシンなので、あえて走りに欲を出さずにそのままの状態でコレクターズアイテムとして保存しておくという選択肢もありなのかも知れない。
Ninja ZX-10RRのディテール
丸山浩のミニインプレ:全域での扱いやすさを何よりも重視
2018年のマイナーチェンジでレブリミットを引き上げて最高出力アップに成功したが、それだけでなく低中回転も含めて全域でパワーを上乗せしたため非常に扱いやすいマシンに仕上がっている。大柄な車格が積極的に攻めるのに少々気になるが、コーナリングの安心感は高い。レースベース車なのだが、ツーリングもこなせる懐の持ち主。
テストはドイツの「PS」誌が敢行! テストを行ったのは、最新スポーツバイクを中心に扱うドイツのナンバー1バイク月刊誌の「PS」。我々ヤングマシンのように実測テストで白黒つける妥協のない本格ガチンコテストが誌面作りのモットーで、今回もスーパースポーツ世界選手権ライダーの“ケリー”ことクリスチャン・ケルナーをメインテスターに熱い戦いを誌面で繰り広げた。
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