車両へのキーレスエントリーに不正にアクセスすることでセキュリティシステムに“鍵”を持っていると誤認させ、やすやすと車両を盗難してしまう『リレーアタック』が数年前から問題となっている。BOSCHが2019年6月25日にデモをアジアで初めて公開した『パーフェクトリーキーレス』システムは、スマートフォンを利用した解決策として注目が集まる。
スマートフォン使用のデジタルキー管理システム
リレーアタックという言葉をご存じだろうか。キーレス車両エントリーシステムの車両側とスマートキーの両方にアクセスし、微弱な電波を中継することで解錠する手法から『中間者攻撃』とも呼ばれている、車両盗難の手口である。
スマートキーは、ごく狭い範囲に届く微弱な電波を発しており、これを車両が認識することでドアの解錠やエンジン始動を許可するのがキーレスエントリーの仕組み。これを悪用することで車両に乗り込み、そのまま自走で盗み出していくのがリレーアタックだ。日本でも2018年に初めてこの手法による車両盗難の被害が認知され、話題になっていた。対策としては、電波を遮断するもの(金属の箱など)にスマートキーを入れておくといった手段はあるものの、せっかくの利便性が犠牲になることから、実施しているユーザーも多くないのが現状ではないだろうか。
ボッシュ(BOSCH)が発表した『パーフェクトリーキーレス』システムは、このリレーアタックから守られた安全なキーレスシステムで、従来の受動的な一方通行のシステムとは異なり、スマートフォンに保存されたバーチャルキーと連携することが特徴となっている。車両に装着されたセンサーが、所有者のスマートフォンを指紋認証と同じレベルの安全性で認識し、所有者だけが車両のロックを解除できるというもの。デジタルキー管理は、クラウド経由でアプリと車両をつなぐ。これらにより、ボッシュはこれまでのキーレスエントリーシステムではできなかった利便性と安全性の両立を実現しようとしているわけだ。
この新しいスマートフォンベースの『鍵』は、所有する乗用車、カーシェアリング用車両、および事業者が所有する商用車のフリートにおいて使用することができるという。
キーレスエントリーシステムに革命を起こす
従来のキーレスエントリーシステムでは、車両キーをジャケットなどのポケットに入れて持ち運ぶ必要がある。車両キーは、ドアロックを解除してエンジンを始動するために、低周波(LF)または極超高周波(UHF)帯の無線信号を使って車両と通信を行うのだが、これがハッカーにも利用されてしまっていた。
ボッシュのシステムは、スマートキーで無線技術を介してデータを転送する代わりに、スマートフォンをバーチャルキーとし、Bluetoothを転送技術として使うことになる。つまり、いつものようにスマートフォンを持っていればよく、車両キーを持ち運ぶ必要はない。さらにボッシュは、半導体における数10年の経験のおかげで、この接続を指紋認証と同じくらい安全なものにできる技術を持っているという。パーフェクトリーキーレスのシステムは、スマートフォンに内蔵されたBluetoothチップが持つIDが、システムのデジタルロックに適合する場合にのみドアロックを解除し、他のスマートフォンまたは無線転送を操作する電子機器からの信号をブロック、不正アクセスを防止するのである。
キーレスのまま目的地まで
スマートフォンのバーチャル車両キーは、以前からカーシェアリング用の車両で使われてきた。これらの車両は、運用者がクラウド経由で使用を許可するまで動かない。許可されて初めて、ユーザーはアプリを使って車両のロックを解除し、エンジンを始動、また再びロックすることができるのだ。
スマートフォンと車両の間のこうしたやり取りには、近距離無線通信(NFC)を使用。NFCは数センチメートルの距離でデータを共有するためのワイヤレスプロトコルだが、これを機能させるために、ユーザーは毎回、自分のスマートフォンを取り出して車両の指定部分にかざさなくてはならない。一方、パーフェクトリーキーレスでは、スマートフォンをポケットに入れたままでOK。これにより車の所有者やカーシェアリングのユーザーはもっと便利に車両にアクセスすることができるわけだ。
同じシステムはトラックや商用車フリートにも使用できることから、物理的な車両キーを手作業で管理したり、物理的に手渡したり、キーの紛失や盗難で慌てることもなくなる。また、パーフェクトリーキーレスのアプリが入ったスマートフォンが紛失、または盗難に遭った場合は、デジタルキーをオンラインで無効にするだけで、車両へのアクセスをブロックすることができる。
バイクの場合は?
ホンダPCXなどではスマートキーが利用されているが、今のところバイクがリレーアタックにより盗難されたという話はないようだ。しかし、これから普及していく可能性がある電動バイクなどで、バッテリーの管理や施錠&解錠、充電スタンドにおけるID管理などをスマートフォンで一元管理できるとしたら、これは魅力のある話ではないだろうか。また、トランポとしてハイエースなどを所有しているライダーも少なくないことから、こうしたシステムの実用化は、ライダーにとっても有益なものとなる可能性は高そうだ。
関連する記事/リンク
ボッシュ(BOSCH)は、2019年3月より日本国内で『アドバンスト ライダー アシスタンス システム』の行動実証試験を開始した。警察組織に届け出が提出された先進的な二輪車向け安全運転支援システムの公[…]
2018年5月17日、BOSCH=ボッシュが二輪車の安全技術を発表した。ABSやMSC(モーターサイクルスタビリティコントロール)などで転倒リスクを抑制する技術を開発してきたボッシュだが、今回のは新機[…]