2018年のフルモデルチェンジ以降、快進撃を見せているニンジャ400。その待望の派生機種“Z400”がついにリリースされた。カワサキが400ccクラスにネイキッドを投入するのは2013年を最後に姿を消したER-4n以来、6年ぶりのことだ。同時に発売されたZ250とシャーシが共通と聞けば軽量ボディに起因する韋駄天ぶりが容易に想起できるだろう。
TESTER:大屋雄一(おおや・ゆういち) 国内外、排気量を問わず2気筒が大好きなフリーランスのジャーナリスト。かつてはボクサーツイン、現在は270度クランクのパラツインに乗り、バイクライフを楽しむ。
軽さとコンパクトさ際立つ、味わいもあるエンジン特性
「軽っ!」というのが偽らざる第一声だった。しかも、400ccとは思えないほどにコンパクトだ。それもそのはず、6年前まで販売されていたER-4n(同じく水冷並列2気筒を搭載)は兄貴分のER-6nをベースとしていたのに対し、このZ400は弟分のZ250と車体を共有している。海外では2015年からZ300というモデルが販売されており、Z400はその後継機種に当たる。ちなみに車重はER-4nの203kgに対して、Z400はマイナス37kg(!)の166kgを公称するなど、圧倒的に軽さが際立つ。
ベースとなったニンジャ400と共通の398cc水冷並列2気筒はアイドリング付近、2000rpm弱から実用域として使えるだけでなく、4000〜6000rpmの間で粒立った鼓動感を伴いながらフワッとトルクが盛り上がるので、市街地での加減速が実に楽しい。斜めにレイアウトされた楕円スロットルバルブの効果か、開け始めからレスポンスが忠実。さらにクロスレシオの6段ミッションとレバー操作の軽いアシスト&スリッパークラッチのおかげで、ギヤチェンジを繰り返す街中の移動が苦にならないどころか、愉快とすら感じられるほどだ。
[CITY]軽いので取り回しに自信を持てる
ハンドリングもいい。車体の傾きに対してナチュラルに舵角が付き、それを幅の広いハンドルバーによって自在にコントロールできる。これにはコンパクトなライポジと圧倒的な軽さも寄与しており、街中での振る舞いは250と何ら変わらない。特にうれしいのは駐輪場での取り回しで、軽い上にハンドル切れ角も左右35度ずつと大きいので、自信を持って小回りや切り返しが行える。小柄で非力なライダーにとってこれ以上ない魅力と言えよう。
ブレーキは、特に街中で多用するリヤのコントローラブルさが際立っており、またフロントはシングルながら必要十分な制動力を発揮してくれた。
車体の基本設計が優秀で高速巡航が苦にならない
街中を抜け、離れたインターチェンジから高速道路に入る。合流区間でスロットルを大きく開けると、Z400は思わず右手を緩めたくなるほどの加速力を見せた。最高出力48psはこのクラスの上限ではなく、データだけで判断するなら決してパワフルとは言えない。だが、オーバーオールレシオの設定が絶妙なのか、レッドゾーンの始まる1万2000rpmまでの到達が非常に速く、まるで1クラス上のバイクに乗っているかのように錯覚する。
この加速性能に大きく貢献しているのが車体の軽さであり、それを踏まえた上で感心するのは、これだけ軽いネイキッドでありながら高速での直進性に優れることだ。ギャップ通過や突風を食らうなどの外乱を受ければ、それなりに前後のサスは作動しフレームもしなるのだが、前後ホイールの整列はビシッと安定しており、走行ラインを乱されることがない。それでいてハンドルに軽くきっかけを与えればスイッと車線変更できてしまうなど、直安性と運動性のバランスが絶妙なのだ。
[HIGHWAY]ネイキッドながら防風効果が高い
感心すべき点はまだ続く。カウリングのないネイキッドの高速巡航は風圧との戦いであり、疲労は確実に蓄積する。もしあなたが高速道路を多用するライダーなら、迷わずベースとなったニンジャ400を薦めるだろう。ところがこのZ400、意外にも防風効果が高いのだ。特に下肢はシュラウドの張り出しが効いているのか風をあまり感じないし、また上半身についてもメーターカバーのおかげで腹部に当たる風圧が軽減されている。純正アクセサリーでラージメーターカバーも用意されており、ネイキッドの中ではという前置きが付くものの、快適に高速巡航できるモデルと言っていいだろう。
トップ6速、100km/hでのエンジン回転数は約6000rpm。バランサーのおかげで体に伝わる不快な微振動はほとんどなく、180度クランクの心地良い鼓動を感じながらの快適な巡航が楽しめる。サスペンション自体の動きはさほど上質ではないが、大きなギャップを通過しても体が突き上げられるようなことはない。これならロングツーリングも楽しめそうだ。
それぞれの技量で遊べる、懐の広いハンドリングだ
ワインディングロードでのZ400は、文字通り水を得た魚だ。基本的にどんな乗り方でも曲がれてしまうという懐の広さと安心感、そして正しく荷重すれば鋭く旋回できるという潜在能力の高さ。こうした特性は兄貴分のZ650に通じるところがあり、さらにZ400は車体の軽さとコンパクトさが加わるので、ライダーが積極的に操縦しやすいのだ。ちなみにER-4nと比べるとホイールベースは35mmも短く、またタイヤは前後とも1サイズずつ細い。こんなデータからもZ400の倒し込みや切り返しの軽さ、旋回力の高さが想像できるかもしれない。
[WINDING]初心者からベテランまで、どんな乗り方も許容する
さて、峠道ではブレーキ性能の優劣も走りの能力を左右する重要なファクターだ。Z400のフロントブレーキはシングルディスクで、しかもキャリパーは片押し式2ピストン。ちなみにER-4nはダブルディスクだったことから、最初のうちは少なからず危惧していた。ところが、性能的には全く不足がなく、しかもシングルディスクなのでバネ下が軽いというメリットも見逃せない。タイトで長い峠道の下りではもしかするとフェードしやすいかもしれないが、この軽さが犠牲になるぐらいなら……、なんてことを思ってしまうほど。また、標準装備されているニッシン製の最新ABSユニットの作動性についても違和感はなし。必要十分な性能を担保しつつコストを下げる手腕はさすがだと言えるだろう。
エンジンについては、スロットルを大きく開ければもちろん速いが、中回転域のトルクが厚いので、シフトダウンを少々さぼってもしっかりとリヤタイヤにトラクションが掛かり、力強く旋回する。これにはロングスイングアームも貢献しているはずだ。また、忠実なレスポンスのおかげで荒れた路面でも出力をコントロールしやすく、トラコンの必要性を感じさせない。これは素の状態の完成度が優れている証拠でもあり、感心することしきりだ。
ライディングポジション ●身長175cm/体重62kg
カワサキ Z400の詳細
[KAWASAKI Z400]主要諸元■全長990 全幅800 全高1150 軸距1370 シート高785(各mm) 装備重量166kg■水冷4ストローク並列2気筒 DOHC4バルブ 398cc 48ps/10000rpm 3.9kg-m/8000rpm 変速機6段 燃料タンク容量14L■キャスター24.5°/トレール92mm ブレーキF=φ310mmシングルディスク R=φ220mmシングルディスク タイヤサイズF=110/70R17 R=150/60R17 ●価格:66万7440円
●文:大屋雄一 ●写真:山内潤也
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