YM倉庫発掘団

さらばカワサキ空冷直4、ゼファーχファイナルエディション

46年の歴史を誇るヤングマシン編集部では、お宝写真が発掘されることもしばしば。この度出土した記事は、約10年前のゼファーχファイナルエディションの撮り下ろし。そんなに古くないが、懐かしい……。 ※ヤングマシン2009年5月号より

火の玉に始まり火の玉に終わる

’90年代のネイキッドブームを牽引したゼファー(400)の後継機として誕生したゼファーχ(カイ)は、空冷4バルブ直4を搭載し’96年に発売。以来13年間に渡って販売されたロングセラーとなったが、そのエンジンのルーツを遡れば、’79年発売のZ400FXにたどり着く。そしてさらにカワサキ製直4エンジンの元祖と言えば’73年型Z1であり(デリバリーは’72年秋)、空冷Zの系譜は実に足がけ38年もの歴史を紡いで来た事になる。

Z1はかつて世界中で大ヒットを記録し、高性能・高品質・スタイリングの良さと三拍子揃った歴史に残る名車中の名車となり、今なお世界中に多くの愛好者を持つ。また技術が進化し、歴史がひと回りした後に誕生したネイキッドカテゴリーの発端となったいきさつもあり、後世に与えた影響も大きい。その初期型Z1、あるいは国内仕様のZ2を象徴するカラーリングと言えば茶×オレンジのツートーン塗装だが、通称”火の玉カラー”として これまでのゼファーシリーズに採用されてきた経緯もあるから、すでにお馴染みの読者も多いだろう。

最終型ゼファーχに採用される車体色はキャンディダイヤモンドブラウン×キャンディダイヤモンドオレンジで、これはゼファー750/1100のファイナルエディションと同じく、熟練工による手間のかかった工程を採用。シートレザーを上質な物に変更し、ゴールドエンブレムを装着するのも同じ手法だ。価格はおよそ2万円高となるが、これは内容を考えればお買い得と言える。その他の仕様や諸元に変更はないが、泣いても笑ってもこれが最後。空冷4気筒Zの歴史はここに幕を閉じる。

【KAWASAKI ZEPHYR χ FINAL EDITION 当時価格:65万5000円 発売日:’09年4月10日】’07年のゼファー750/1100に続いて、’09年に発売されたゼファーχのファイナルエディション。750/1100と同じ火の玉カラーで有終の美を飾った。
最終型に採用される専用色は、茶をベースにオレンジのグラフィックをあしらったいわゆる”火の玉カラー”1色のみ。初期型Z1のイメージ取り込んだ象徴的なカラーと言える。なお’07年型の火の玉は黒×赤でこれとは別物。
【KAWASAKI 900 SUPER FOUR Z1 1972年生産】タイヤまでオリジナルで逆輸入された初期型Z1。こちらの正式な色名はキャンディトーンブラウンと言い、’73年型のみこの曲線基調のグラフィックを採用。
’07年発売のゼファー1100/750最終型のカタログで、色名はキャンディダイヤモンドブラウン×キャンディダイヤモンドオレンジ。Z1のタンクと同じ手法を採り、転写ではなく塗りで仕上げられた燃料タンクが自慢だ。

最後のカワサキ空冷直4、今後の追加生産はナシ

Zシリーズの流れを汲む空冷インライン4ユニットはゼファー750/1100がすでに生産終了しているため、シリーズ末弟のゼファーχをもってその血脈に終止符が打たれた。「平成19年排ガス規制に適合しない251㏄以上の小型二輪の場合、 継続生産車は平成20年8月31日までに製造を完了しなければならないと定められた。このため、実際には昨年8月以前に生産された車両であり、この場合正確な年式としては’08年型という扱いになる。ゼファーχファイナルエディションの発売予定日は’09年4月10日。台数限定ではないが、前記の理由により今後の再生産はあり得ない。欲しい人には、これが新車で買える正真正銘のラストチャンスとなる。

テールカウルを備えたスタイリングデザインは’70年代以降にカワサキがマッハシリーズで先鞭をつけ、現代のネイキッドへと連なる。高級感のあるメタリックのツートーンカラーと合わせ、Z1の復刻版を印象付ける。
丸目ヘッドライトに砲弾型メーターもネイキッドのお手本のようなデザインで、Z1からの伝統様式と言える。テールランプは台形だが、ウインカーやメーターなどは丸型基調でZ1を思わせる。
タンクの塗装は職人の手作業により4度塗り重ね、色の境目に段差のない仕上がりを実現。さらにパール、キャンディ、UVクリア塗装を施し対候性を高めている。シート表皮は、STDはメッシュ調だがファイナルエディションではプレーンなものに改められた。パターン自体は同じだ。

撮影:坂上修造