素直な疑問なのではないだろうか。「パニガーレV4って……どのくらい速いんだ?!」ならばと、SS史上最強の出力を誇るこのマシンを国内有数のオーバルコースへと持ち込んだ。見せてもらおう。214㎰の実力とやらを! ※ヤングマシン2018年8月号(6月24日発売)より
風の抵抗は強かったが、やはりドゥカティが速い!
まずはS1000RRからアタックだ。直線を全開で駆け抜けエンジンが6速レブリミットに当たっている。リアルタイムのGPSメーター読みで298~299km/hをウロウロ。風がフッと弱まった瞬間、300.69km/hをマーク。これが最高速となった。次にパニガーレV4Sでアタック。こちらも1万4500rpmでレブリミットに当たり、もうこれ以上伸びないところまで達している。最高速付近の安定感は、S1000RRの方が上回っていた。これは足まわりというより、300km/hという世界では空力性能の影響が大きい。カウルがスリムなパニガーレV4Sは、ちょっとでもスクリーンから顔がズレようものなら猛烈な風圧が外乱を呼んでしまう。このあたりは空力よりもデザイン優先といった感じだろうか。その点、スクリーンも高いBMWの方が有利だ。
とは言っても、どちらもさすがSS。高速周回路の壁のようなバンクにマシンを全開で当てても、そこからのライン微調整はニンジャZX-14Rなどでアタックしたときとは段違いにスパっと決められる。車体の軽さと剛性はとにかく高次元だ。そんな性能を感じながらGPSメーターを見てみると、306km/h。何だかんだ言ってもパニガーレV4Sの方が速かった! が、最高速を記録したのはどちらもレッドゾーンに入って既にパワーが落ちていた領域であったため、もう少し速度が出ていいようにも思える。このあたり、走行中にどういうことが起きていたのか、次の項目で走行データを見ながら再確認してみたい。
パニガーレにはまだ余力がある?
結果的にパニガーレV4Sは、300km/hの大台を文句なしで突破してみせた。しかし、+100㏄&+15㎰あるのにS1000RRに対して6km/h差というのは、ちょっと控えめではなかろうか。ここで推測されたのが「300km/h」という欧州での速度自主規制。どうもこれがしっかり守られていたようだ。どちらも速度による点火カット制御の傾向は表れなかったことから、レブリミットに達したときに最終減速比が300km/hになるよう設定されているのではないか。工業大国ドイツらしくS1000RRが「実測300ピッタリ」に数字を合わせてきたことからも、そのことが伺える。その点、パニガーレはタイヤを交換した際の外径誤差なども加味して、やや上回る設定としたといった感じか。ちなみに6速での総合減速比を調べてみると、S1000RRは5.514だったのに対し、パニガーレV4Sは5.764とショートだった。それでも今回の最高速テストでは上回ったのだから、スプロケ丁数をロングに変えれば、さらにもうひとつ上を狙えるポテンシャルがあるのは確かなのだ。
さて、最高速では勝利したパニガーレV4Sだが、テスト中に気になる点がひとつあった。それはS1000RRの方が加速自体は速いのではないかという感触だ。このことは0→1000m加速のデータで、その通りだと証明されることになってしまった。下のグラフを見てほしい。ちょうど100m付近を通過する際に、パニガーレV4Sはガクンと大きくロスをしている。これは強大すぎるパワーに対して絶対的なクラッチ容量が不足しているのが、その理由だと考えられる。個体差か、このマシンには高回転だとジャダーが出て、クラッチがうまくつながってくれない癖があった。しかも1速のレブリミットが1万rpm付近と低く設定されており、1→2速間のシフトチェンジで特に大きなロスが生じてしまう。100m付近は、ちょうどこのときなのだ。中盤からはパワーに物を言わせて速度で勝るようになるが、それでもグラフの450mや650mあたりにも表れているようにシフトチェンジのたびにロスが出ていることは否めない。結果、0→1000m通過タイムとしては、ストレスなくシフトアップしていけるS1000RRの後塵を浴びてしまった。
これらのことから分かったのは、パニガーレのV4エンジンは214psのポテンシャルをまだ完全には出しきれていないということだ。考えてみれば、つい最近登場したばかり。一方のS1000RRの直4は、’09年のデビューから約10年を数え、あらゆる弱点を克服しきった超熟成ユニットだ。したがってまだまだ伸びしろがあるのはパニガーレのV4エンジンの方。今後、着々と進化を遂げていくのは間違いない。来年、再来年には最高速だけでなく、0→1000mタイムでもパニガーレV4Sが真の頂点に立つようになるのか、はたまたそのときには別のライバルが新たに立ちふさがることになるのか、ますますもって目が離せなくなったと言っていいだろう。
テスター:丸山浩
文:宮田健一
撮影:山内潤也