R1Mが初のモデルチェンジを実施

2018新型YZF-R1M新旧比較試乗インプレッション

2015年の登場から4年目を迎えたYZF-R1M。その戦闘力は現在においても未だ最強クラスだが、さらに磨きをかけるべくモデルチェンジを受けた。丸山浩が新旧モデル乗り比べで中身をチェックだ。 ※ヤングマシン2018年7月号(5月24日発売)より

外観では見分けが付かないその違いは一体どこに?

セカンダリーロード最速からサーキット至上主義に生まれ変わってから早4年目。続々登場する新型ライバルを迎撃すべく、R1Mは’18でモデルチェンジを受けることとなった。とは言っても、未だ最強クラスの性能を誇るR1M。ハード的な変更は表立って行われてはおらず、外観的にはカラーリングもアンダーカウル下とマフラーガードの塗り分けが異なるくらいで、ほとんど見分けがつかない。

モデルチェンジの中身は主にソフト面、電子制御の進化にある。まず、セミアクティブサスであるオーリンズ・スマートECが2.0にバージョンアップ。次にQSS=クイックシフターは、ライバルたちと同じくシフトダウン時にも行えるようになった。またLIF=リフトコントロールの制御も見直されて扱いやすさを増したと言う。項目を見るに狙っているのはやはりサーキットでの勝利だ。ということで、袖ヶ浦フォレストレースウェイで全開アタックすることにした。これなら新旧の違いがハッキリと出てくるはずだ。

【YAMAHA YZF-R1M 2018年型南アフリカ仕様(右) 価格:307万8000円 色:銀】オーリンズのスマートEC2.0、さらにQSSやLIFのバージョンアップと、電子制御デバイスを性能アップ。初の本格アップデートとなった。左は’17年型で、このモデルでユーロ4に対応したことで日本国内でも海外仕様のマフラーそのままのフルパワーモデルが入荷されることとなった。だが、それ以外のハード&ソフト面は従来のままだった。

【サーキット】全てはタイム短縮のために

まずは、新しく追加されたQSS=クイックシフトシステムのシフトダウン機能から。これはもうあるのとないのでは、あった方がいいということがライバルSSたちもこぞって採用していることでハッキリ。ただシフトの入り具合については、ライバルたちとはちょっと異なっていた。スロットルを閉じたままでもQSSが行ってくれるオートブリッピングは少なめ。このあたりはCBR1000RRなどの方がバウーンと派手な演出でその気にさせてくれた。ただ、それでタイムにつながるかは別。R1Mはオートブリッピングを少なめにすることでリヤタイヤが無駄にホッピングするのを極力防ぐのを狙っている。あくまでストイックにタイムを刻むため最小限の時間でシフトダウンさせようという方向性と見た。まあ、半クラを併用しなければならなくなる場面もあったが、そこはライバルたちも同じ。いずれにせよ、いちいちクラッチレバーを握らなくてはならない旧R1Mより攻めやすさは断然アップしている。

次にLIF=リフトコントロール。トラコンと相まって、これはR1Mには不可欠な装備だ。無いと200psもあるこのマシンでは、スロットルを開けたらタイヤは派手に滑るしフロントはすぐに浮いて、まったくタイムにつながらない。それを電子制御によって確実に加速へとつなげている。SCS=スライドコントロールでコーナーでは大きくスライドさせない。立ち上がりではLIFでフロントを浮かせない。車体に無駄な動きは何もさせず、ただひたすら前に加速させることだけ考えている。どれも’17にも付いていた機能ではあるが、それがさらに徹底されたように感じる。QSSの考え方もそうだけど、タイムを出すことのみに一本筋を通しているのがR1Mだ。

さて、注目のオーリンズ・スマートEC2.0。結論から言うと、絶対的な速さの面では新旧での違いはほとんど感じられなかった。それもそのはず。ハード的にはどちらも同じで既に完成の域なのだから。標準設定でも袖ヶ浦フォレストレースウェイを全開で走るのに困ることはなかった。では何が変わったのかというと、メニュー画面で呼び出すサス設定の項目内容。従来モデルは圧側/伸び側ダンパーの各減衰量を前後サスそれぞれに指定する一般的なものだったが、’18ではブレーキング、旋回時、加速時とシチュエーションごとの車体姿勢を指定する内容へと改められた。つまり、よりライダーが直感的に分かりやすい調整項目になったというわけで、同じくオーリンズ・スマートEC2.0を採用するパニガーレV4でも同方式となっている。このことは一般ライダーにとって、実は大きなメリットなのだ。 ※テスター:丸山浩

2018モデル。コースは袖ヶ浦フォレストレースウェイでタイムは1分14秒058。
2017モデル。コースは袖ヶ浦フォレストレースウェイでタイムは1分14秒658。

【ストリート】やはり本命はサーキットだ

R1Mは本来の走りを発揮する想定ステージをサーキットに置いている。というわけで、市街地や高速道路と言ったストリートでは、サーキット以上に新旧の走りで違いは感じられなかった。スマートECの公道向け設定モードは、従来の”A-3”(A-1はサーキット+スリックタイヤ、A-2はサーキット+プロダクションタイヤ)から、”R-1″(サーキット+スリックタイヤはT-1、サーキット+プロダクションタイヤはT-2)へと呼び名が変わっただけで、乗り味としては同じ。公道用とは言え、どちらもやや硬めな方向でギャップ通過時はそれなりにショックが伝わってくる。

公道でのQSSシフトダウンについては、ペダルを踏んでグニュ~→ガチャンといった感じで入り、クイックさはあまりない。まあ、エンジンがパワフルすぎるから、公道では2~3速でほとんど事足りてしまう。ライポジはSSのなかでもレーシーで、シート高もSTDに比べて5mm高めた860mmと、足着き性についてはつま先ギリギリ。やっぱりR1Mはストイックにサーキットでの速さを追い求めた本格志向のマシンかな。

QSSのダウンシフトは公道でもメリットだ。
’18は’17から寸法諸元はまったく変わっておらず、ライポジ&足着きは同じだ。SSの中でもライポジは戦闘的な部類。STDのR1でも高いシート高はさらに5㎜上がって860㎜だ。ライダーの身長は167cm、体重は61kg。

【インターフェース】’18は、ユーザー専属のメカニックを得たのと同じ!?

スマートEC2.0では、ブレーキ時のフロント沈み込み具合、コーナーでの車体変動、加速時のリヤの沈み込み具合と一連の状況に対してセッティングするものとなった。これまでは、伸び/圧減衰を各状況に合うよう翻訳してセッティングしなければならず、それなりの知識と経験が必要だった。そもそも全日本やWSBの世界で、なぜセミアクティブサスが使われていないかと言うと、専属メカニックが付いているから。彼らがベストセッティングを出してくれるのだ。だが、そうじゃない一般ライダーにとって、路面状況に合わせて自動調整してくれるセミアクティブサスはすごいメリット。加えて2.0では、対話感覚でさらに分かりやすく希望のセッティングを見つけてくれるようになった。それこそR1Mの中に、開発スペシャリストのヤマハ難波監督が専属メカニックとしていてくれるようなもの。ソフト面での進化ながら、これはハード面での進化以上に大きな武器を得たと言えよう。

2018モデルの電子制御サスセッティング画面。左からブレーキサポート、コーナーサポート、アクセルサポートは、コーナリングをブレーキング、旋回、立ち上がりと分解してそれぞれの場面でサスをどうセッティングするかという方式となった。サスの専門知識がなくても当たりが見つけやすくなっている。
2017モデルでの電子制御サスセッティング画面。左からフロント圧側、伸び側、リヤ圧側、伸び側減衰力をメーター画面上で調整することができる。2018モデルでもこれと同じ従来の調整も可能だ。

テスター:丸山浩
まとめ:宮田健一
撮影:長谷川徹
取材協力:プレストコーポレーション
ニュース提供:ヤングマシン2018年7月号(5月24日発売)