排気量が125cc以上であれば、街乗り車でもカスタム車でもレーサーでも参加できる走行会・アストライド。一般的なサーキット走行会やサンデーレースと比べると、パドックの雰囲気も走行スケジュールも一風異なるこのイベントには、個性的でユニークなマシンで参加するライダーも多い。本記事では、2023年10月に開催された走行会から、サンメカスピリットに溢れた参加車両を紹介しよう。自作派には刺激とヒントがあるはずだ。自作のマシンからクラシカルなレーサーまでさまざまなマシンが集まるアストライドの次回開催は2024年10月。詳しくは公式サイトにて。
●文/写真:モトメカニック編集部(栗田晃) ●外部リンク:オーヴァーレーシングプロジェクツ アストライド
ヤマハFZR250R:動画投稿サイトに刺激を受けて、モトジョイで製作。DX250フレーム+FZR250Rエンジンのハイブリッドマシン
海外の動画投稿サイトで見つけた、250cc4気筒エンジンを積んだ1960年代のヤマハRD56に触発されて、ヤマハDX250のフレームにFZR250Rエンジンを合体させたFD23を製作したUさん。
「どうして? と尋ねられても困りますが、1970年代のバイクに1万何千回転も回るエンジンを載せたら楽しいだろうと思いましてね」というのが製作の動機。
UさんはRZ250のカスタム車やレーサーのTZ250も所有するが、このアイデアを具体化するにはプロのアシストが不可欠。そこでローリングシャーシ状態のDXとFZR用エンジンを鈴鹿のモトジョイに持ち込み、佐藤会長にエンジン搭載のためのフレーム加工をオーダー。
ここでダウンチューブを大胆にカットし、シリンダーを抱え込むダイヤモンドフレームが形となった。RZ250のスイングアームを流用し、1970年代のTZ250のようにモノサスペンション化したのも、Uさんのオーダーによるものだ。
骨格作りはプロに委ねたものの、ワンオフハーネス製作やFCR28キャブレターの取り付けはUさん自身が担当。シェイクダウンとなった2023年10月には未装備だったが、現在は排気デバイスのEXUPも作動するようになり、今後さらなるセットアップを進めていくそうだ。
ヤマハSR400/SRX-6:ノーマルの面影を残すシングルカスタムで、ストリートもサーキット走行も満喫
1978年にデビューしたSR400と1985年発売のSRX‐6は、登場から長い年月を経ても色あせない、ヤマハらしさ溢れる不朽の名車だ。その魅力的なオリジナルスタイルをキープしながらサーキット走行を楽しんでいるのが、SRXのa1さんとSRのMさん。
両名ともスーパースポーツモデル(a1さんはBMW、Mさんはドゥカティ)を所有しながら、ここでは空冷ビッグシングルの理想を追求。30年にわたり初期型SRXを所有するa1さんは、2年半ぶりのアストライドを前にサスペンションをビチューボ製に変更。これまで「やりたいカスタムはすべてやった」と自認していたそうだが、フロントから振られたりリヤが暴れていたコーナーで劇的な改善があり、ラップタイム短縮という客観的データと合わせて効果を実感できたそうだ。
一方、前後17インチホイールとセパレートハンドルというハードな仕様ながら、随所に純正らしさを残すSRは、Mさん自らパーツを選び組み立てたマシン。サーキットに通い始めて1年目で、グリッドに整列してスタートするレース形式の模擬レースにも参加。現在このSRは全バラ状態で、新たなカスタムを構想中とのこと。自分でマシンを作ってサーキットで試す。アストライドの趣旨にピッタリ合った2台である。
ヤマハSR400
1978年に登場したSR400/500は、オフロードモデルのXT500のエンジンとフレームをベースに開発された、言わば派生モデルのようなオンロードモデルだった。だが、プレーンなデザインやビッグシングルらしい重量感などが大いにウケ、時代に対応するための仕様変更を繰り返しながら、XTより遙かに長く2021年まで製造された。
カスタムの素材としてもユーザー/コンストラクターから愛され、クラシック/トラディショナル/カフェレーサー/フラットトラッカーなど、さまざまなスタイルに変貌したのもSRの特徴である。Mさんの愛車は、SR本来のテイストを残しながら、17インチのワイドリムとセパレートハンドルで低く構えたスポーティーなフォルムが魅力的だ。
ヤマハSRX600
XT500のエンジンをSR500に転用したように、XT400/600用エンジンを搭載したスポーツシングルとして開発されたのがSRX-400/600。ただSRXはスチール製角断面フレームから独自に設計されており、スポーティでありながら流麗なスタイルは、“デザインのヤマハ”を強く感じさせる仕上がりとなっていた。
キック始動で前後18インチの初期型から、フロント17インチ/ラジアルタイヤ装備など仕様変更を繰り返し、フルモデルチェンジではセル付きエンジン+モノクロスサスペンションの大改革を受けながら、基本的なデザインを踏襲したSRX。
レーサーレプリカ全盛の風潮に流されることなく多くのユーザーに愛され、今も熱心なファンに支持されている。30年近く所有して手を入れ尽くしたSRX-6に加えて、サーキット用にモノショックの後期型を所有するa1さんもまた、SRXに魅入られたひとりである。
ホンダGB400TT:仕様が異なる2台のマシンを製作したGBマニアと、GB用ガスケットをリプロしたマニアなショップ
アストライドで熱いシングルといえば、レギュラーメンバーとして5台が参戦中のホンダGB400/500TTである。ヤマハSRXと同じ1985年にデビューしたGBは、先に発売された250と同様に“トラディショナルスポーツ”という位置づけだったものの、一代限りで販売終了となった。
そのGBをベースに、2台のマシンを製作したのがHさんだ。1980年代当時にGBを所有し、そのポテンシャルを理解していたHさんは、別の自作レーサーでアストライドに参加した際にIさん(アストライドにおけるGB伝道師)と出会い、GB愛が再燃。レーサーらしくトップブリッジ下にセパレートハンドルを装着しながら、ノーマルのシルエットを崩さないよう、ハンマーで叩いて整形したガソリンタンクと500TT用シングルシートを組み合わせた1号機を製作。
その際に用意したスペアエンジンを使って組み立てたのが、キャストホイールとコンチハンドルの2号機だ。このマシンは自ら乗るのはもちろん、他のGBオーナーにサーキット走行の楽しさを体験してもらうための“教習車”にもするそうだ。サーキット未経験で、しかしGBが集まるアストライドに興味のあるオーナーにとって、先輩の甘いワナ!? は限りなく魅力的なはず。
OHCながら4バルブを持つXR500R用エンジンをベースに用いるGB400/500TT。ヤマハSRXも同じくOHC4バルブだが、GBは半球状の燃焼室に4つのバルブを放射状に配置した、当時ホンダが得意としていたRFVCを採用。またオフロードモデル由来らしく、潤滑方法はクランクケース下部にオイルパンを持たないドライサンプ式だった(SRXも同様)。日本ではトラディショナルイメージの強い前後18インチスポークホイールだったが、海外ではコムスターホイールを装備したXBR500という派生モデルもあった。ホンダCB400スーパーフォア用キャストホイールを装着したHさんの2号機は、令和版XBR400 といっても過言ではない!?
ホンダGB500TT:ガレージ48が腰上メンテの必須パーツ・廃番ガスケットを独自にリプロ
アストライドGBグループで、1台だけGB400TT Mk2用カウル付きのGB500TTで参加しているのが、岐阜県各務原市のバイクショップ・ガレージ48代表の田中克広さん。
溶接/旋盤フライス加工/ワンオフパーツ製作/カスタムバイク製作などを行う一方、「GBはMk2用カウル付きじゃなきゃダメ」というマニアぶりで、愛車をサンプルにGB用パーツも開発。最新パーツは「エンジンメンテの必需品だから、ないと困りますよね」と、国内メーカーにて独自に製造したGB400TT用ヘッドガスケット!! GBに真面目すぎるのが田中さんだ。
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