
30年ほどドゥカティに乗り続けてきて、今の時代に改めてこんなエンジンに出会えるのは、本当に至極感動的な出来事だ。まずはモタードからスタートしたドゥカティのスーパークワドロモノ戦略には、今後も期待しかない!
●文:小川勤 ●写真:長谷川徹 ●外部リンク:ドゥカティジャパン
シングルファン&ドゥカティファン待望のマシン!
この日は待ちに待った試乗だった。元々、僕はビッグシングルが大好きで、これまでも仕事やプライベートを通してさまざまなシングルエンジン搭載マシンに乗ってきた。ヤマハSRやSRX、ホンダGB系やXR系といった市販車、それらのカスタム車はもちろん、マニアックなモタード、イベントレーサーや欧州のクラシックにも試乗。ヤマハSRは何回もチューニングし、自分のバイクでもショップのバイクでもレースに参戦した。さらに1990年代にブームとなった欧州の選手権・ユーロスーパーモノのレーサーにも憧れ、ドゥカティやビモータのスーパーモノにも試乗し、感銘を受けてきた。
大好きなドゥカティのスーパーモノ。1992年のケルンショーで発表され、1993年からコンストラクターに供給された市販レーサー。エンジンは、851系の水冷Lツインの後ろバンクを廃した設計。一般ライダーの手に渡ることはなかっただけに、憧れていたファンは多い。
シングルエンジンは、コンパクトで分かりやすい設計だが、一方でパフォーマンス追求や耐久性の確保が難しい。だからこそメーカーのチャレンジやチューニングの可能性を見るのが面白かった。
しかしニーズはもちろん、現代の厳しい排ガスや騒音規制により、ビッグシングルスポーツというカテゴリーは絶滅危惧種に。さらに電子化などによりチューニングの可能性も縮小してしまった。そんな背景から、シングルエンジンは速さでなくテイストを主張する方向にシフト。それゆえに新しいハイパフォーマンスシングルエンジンの登場は、個人的に完全にないものだと諦めていたのだ。
そんな時に登場したハイパーモタード698モノに搭載される、スーパークワドロモノと呼ばれる659ccエンジンのインパクトはとても大きかった(詳しくはこちら→今の時代にシングルエンジンのパフォーマンスを追求するドゥカティ【ハイパーモタード698モノ】趣味性の高いエンジンへの大いなる期待)。
まさか今の時代に、デスモドローミックを搭載したハイパフォーマンスシングルエンジンに乗れる機会が訪れるとは思ってもみなかった。こんなエンジンをずっと待っていたマニアは僕だけではないはずだ。
僕がドゥカティを好きな理由は、パフォーマンス追求にとても貪欲だから。Lツイン(今はVツインとも呼ぶ)やV4エンジン、そしてデスモドローミックと呼ばれるバルブ開閉機構を追求し続ける姿勢も素晴らしく、国産車にはないそのアプローチがたまらなく魅力的。そこに加わったハイパフォーマンスシングルエンジンは、期待通りの感動的なフィーリングを見せてくれたのである。
77.7psを発揮するシングルエンジンは、1199&1299のVツインエンジンの後ろバンクを使用。コンパクトな印象はないが、2本のバランサーやウォーターポンプをクランクケース内に収める。カムシャフトは徹底して軽量化され、バルブ径は1299パニガーレと同じで、インテーク側はチタン製。ロッカーアームやピストンピンにはDLC加工も施される。ケースカバーはマグネシウム製だ。
サスペンションの長い本国仕様は、モタードならではのハンドリング。サスの短い日本仕様は、もう少しロードバイクに近い乗り味になるかも。
超ショートストロークなのに、低中速も高回転もすべてが守備範囲
そんなハイパーモタード698モノの試乗会は、千葉県の茂原ツインサーキットとその周辺の一般道で開催。まずはサーキットからスタート。モードはいちばんパワフルな“スポーツ”をチョイス。ポジションや乗り味はいわゆるモタード。スロットルはすぐに全開になる。エンジンは、胸がすくような速さとドゥカティらしいフィーリングを披露する。
感動したのは、低速から高回転まで使いやすいこと。これは最新の電気や燃調がなければ達成できなかったことだろう。ドゥカティらしさは高回転の伸びだ。デスモドローミックというバルブ開閉機構が胸の空く加速を見せてくれる。
パワーは77.7psを9750rpmで発揮し、レブリミットは1万250rpmに設定。シングルとしてはとても強大なパワーだが、リッターバイクに慣れた身体には驚くほどのパワーではない。しかし、φ116mmの超大径ピストンが1万250rpmまで回るのを想像するだけで鳥肌モノなのだ。それを実現するためにカムシャフト/クランクアッシー/ロッカーアームなどエンジン内部の部品は信じられないほど緻密かつ丁寧に作られている。ハイパーモタード698モノの大半のコストは、このエンジンにかけられていると言っていいだろう。
シングルエンジンというとドコドコした感じを想像する方も多いはず。しかし、スーパークワドロモノはどこまでも軽やか。小さなメーターの中のタコメーターのバーは軽々と高回転に飛び込んでいく。
電子制御やサスペンションを自分に合わせていくと、楽しさが倍増する。
オフロードバイクを思わせる小さなメーター。モードは“スポーツ/ロード/アーバン/ウエット”から選べる。モードに応じてトラクションコントロール/ウィリーコントロール/エンジンブレーキコントロール/ABSの介入度が変わる。ABSはロードモデルと異なり、段階によってはスライドバイブレーキ機能を実装。「1」はモタードプロ、「2」はモタードエキスパート、「3」はモタード、「4」はオール/アーバン/コンディション。「1」はリヤのABSをカット、「4」になるほどABSの介入が増えていく。
ハンドリングや乗り味はモタードそのもの
ハイパーモタード698モノは、その車名や見た目通り、乗り味はモタードである。しかし、当然僕はスライドしながらコーナーに進入することなんかできない。でも、軽快かつスリムな車体はさまざまなライディングを楽しませてくれた。
ハングオフして膝を擦ってもいいし(ただし、身長が165cmしかない僕の場合、外足がステップから外れてしまう)、イン側の足を出してリーンアウト気味にモタード気分を味わうのもいいだろう。サスペンションは少し柔らかめ。乗り心地も良い。車体はドゥカティらしいスリムかつ縦方向の剛性をしっかりと出した味付け。
ただし、僕が試乗したのは本国仕様で、日本仕様はショートサスペンションを採用。シート高は本国仕様の904mmから864mmに変更される。そうなるとハンドリングも乗り味もずいぶんと変わるだろう。
サーキットだけでなく、一般道でも試乗してみたが、やはり軽快な乗り味はとても自由なフィーリングに溢れていた。モードはスポーツだけでなくロード/アーバン/ウエットも試してみたが、どのモードでもそれなりの速さを発揮。身長165cmの僕に904mmのシート高はなかなか厳しいが、日本仕様であればなんとかなるだろう。
ちなみにハイパーモタード698モノの受注は好調とのこと。このマニアックなパッケージが多くの方に刺さっているのがとても嬉しい。やはりデスモドローミック搭載のスーパーシングルを待ち望んでいた方は多かった(⁉︎)のだ!
もちろん、これから登場するであろうスーパークワドロモノを搭載したさまざまな新しいカテゴリーの新バイクにも、大きく期待している! 早く試乗してみたい!
一般道でもスリムさと軽快さが魅力。いずれ日本仕様も試してみたい。
ハイパーモタード698モノは、スタンダードと派手なグラフィックとクイックシフトを標準装備するREVを用意。価格はスタンダード(写真)が170万円、REVが182万円となっている。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
ミリオーレの最新記事
孤高のパニガーレV4Sと友好的なパニガーレV2S パニガーレV4Sでサーキットを3本ほど走ると、強烈な疲労感が僕の身体を襲う。汗は止まらず、足腰に力が入らなくなる。試乗直後は格闘技を終えたような感じだ[…]
ファッションからスポーツまで。現代のバイクライフにフィット このバイクは只者じゃない−−。僕はマヨルカ島のリゾートホテルのエントランスに鎮座するトライアンフの「スピードツイン1200RS」に初対面した[…]
ライダーを様々な驚きで包み込む、パニガーレV4S 5速、270km/hからフルブレーキングしながら2速までシフトダウン。驚くほどの減速率でNEWパニガーレV4Sは、クリッピングポイントへと向かっていく[…]
駒井俊之(こまい・としゆき)/1963年生まれ。バイクレース専門サイト「Racing Heroes」の運営者。撮影から原稿製作まで1人で行う。“バイクレースはヒューマンスポーツ”を信条に、レースの人間[…]
駒井俊之(こまい・としゆき)/1963年生まれ。バイクレース専門サイト「Racing Heroes」の運営者。撮影から原稿製作まで1人で行う。“バイクレースはヒューマンスポーツ”を信条に、レースの人間[…]
最新の関連記事(ドゥカティ)
2009年に移籍したのに「GP8」にも乗っていた?! 2003年にホンダからモトGPにデビューしたニッキーでしたが、2009年にはドゥカティ・コルセへと移籍。2007年にケイシー・ストーナーがデスモセ[…]
新型ムルティストラーダV4Sはダート性能もアップ! ムルティストラーダとは、英語にすれば“ マルチな道”、つまり“全路面対応型バイク”という意味だ。実際、ムルティストラーダのコンセプトは4in1バイク[…]
ドゥカティ初の単気筒モタードモデル モタードモデルといえば、通常はオフ車の派生モデルとして作られるが、この「ハイパーモタード698モノ」は、ロードスポーツキャラに100%振りきって、車体剛性も高めに設[…]
走行&レクチャーを1日繰り返す 上のメインカットは、イタリア人講師のリビオ・ベローナさんを追いかける筆者と、その走りを後ろから観察する元世界GP250ccクラスチャンピオン・原田哲也さん。コースはMo[…]
イベントが盛りだくさん! ドゥカティオーナーであるドゥカティストや、ドゥカティファンを対象としたお祭り『DUCATI DAY』が2025年も開催された。 会場である千葉県木更津市にあるポルシェ・エクス[…]
人気記事ランキング(全体)
夏場は100℃超えも珍しくないけれど… いまやバイクのエンジンは“水冷”が主流。安定した冷却性能によってエンジンパワーを確実に引き出すだけでなく、排出ガス/燃費/静粛性の面でも水冷の方が空冷より有利な[…]
皮脂や汗に含まれる尿素が生地を痛めてしまう ──一般の方が汗でびちょびちょのヘルメットをリフレッシュさせたい場合、どのように行えばよいでしょうか? 「どこが外せるのか、どういうふうに洗えばいいのかは、[…]
RH1250S スポーツスターS:ダウンドラフト吸気の水冷Vツインを黒で統一 121HPを発揮するレボリューションマックス1250Tエンジンをオールブラックにし、精悍さを強調するデザインとなった202[…]
シグナスシリーズ、20年の歴史を背負うニューフェイス 以前は空冷エンジン搭載のコンパクトな原付二種スポーツスクーターとして人気を博した「シグナスX」だが、水冷の新世代「シグナス グリファス」に交代した[…]
作って、触って、攻略する。新感覚のサーキット模型 スマホケースなどの地図柄グッズを手がけるクロスフィールドデザインが、モビリティライフスタイルブランド「レシプロ」の新商品として「レイヤード ランドスケ[…]
最新の投稿記事(全体)
ツーリングの楽しさを気軽に、疲れ知らずで ウェット路面に翻弄され、全日本ロードレース選手権のJ-GP3クラス今季初戦は、決勝9位という不本意な結果に…。その悔しさを癒してもらおうと、新型のRebel […]
9月上旬~中旬発売:アライ「RAPIDE-NEO HAVE A BIKE DAY」 旧車やネオクラシックバイクにマッチするアライのラパイドネオに、新たなグラフィックモデルが登場した。グラフィックデザイ[…]
販売終了が続く絶版車用純正部品を信頼のMADE IN JAPANで復刻 長期間不動状態だったバイクを再始動する際、キャブレターやガソリンタンクの状態もさることながら、クラッチの張り付きも懸念事項のひと[…]
RH975S ナイトスタースペシャル:ダウンドラフト吸気の水冷Vツインを黒で統一 レボリューションマックス搭載モデルでは、燃料タンクをシート下にレイアウトすることでダウンドラフト吸気を実現。従来タンク[…]
BMWライフをスタイリッシュにサポート 安全性と品質を兼ね備えたBMW Motorradギア&ガーメント。2025秋のギア&ガーメントも新作アイテムが目白押し。その中でBMWライフをスタイリッシュにサ[…]
- 1
- 2