
近年、これほどまでに僕の琴線に触れるエンジンがあっただろうか…。ドゥカティが2023年の10月に発表したデスモドローミックを搭載する超ハイスペック単気筒エンジンは、659ccで、77.7psを発揮。「φ116mmのピストンが1万250rpmまで回る!」…想像するだけでワクワクする。
●文:ミリオーレ編集部(小川勤) ●写真:ドゥカティ 小川勤 ●外部リンク:ドゥカティジャパン
バイクのパフォーマンスとは何か? それを真剣に考える時代に
最新のリッタースーパースポーツは、どのメーカーのモデルも200psを超える時代。MotoGPは、あり余るパワーをどう使うか、どう路面に伝えるかを考え、それは車体づくりや電子制御のみならず、エアロデバイスや車高調整にまで発展。スポーツバイクの究極がここまできたことは興味深いが、もはや一般的なライダーが楽しむことができないパフォーマンスになってきている。
市販車の姿からかけ離れるMotoGPマシンのF1化や超ハイパフォーマンススーパースポーツは、自分には関係ない世界だと思ってしまう人、危険だと思う人も多いだろう。僕自身もこの世界はバイクの可能性やメーカーが技術を追求する場としては興味があるものの、自分がその性能を体感する日が訪れることがない現実を知ると少し寂しさを感じる。
そんなバイクのパフォーマンス追求にいろいろなジレンマを感じている時に、ドゥカティがやってくれた。ドゥカティはMotoGPやWSBKで圧巻するパフォーマンスを追求する一方で、僕のようなライダーが本音で楽しめるパフォーマンスをシングルエンジンで追求してきたのである。
ライダーを本音を満足させるパフォーマンスとは何か? その答えがこの市販最強シングルエンジンである“スーパークアドロモノ”にあるような気がしてならないのだ。
ドゥカティ渾身のシングエンジン・スーパークワドロモノを最初に搭載するのは、ハイパーモタード。今後、このエンジンを使ってどのような車種展開が行われるのかとても楽しみ。
パワーを使う喜びと、それを路面に伝えて操ることを楽しみたい
スーパークアドロモノのボア×ストロークは116×62.4mmで、排気量は659cc。シングルエンジンは、構造がシンプルがゆえに昔からパフォーマンスの追求が難しいが、ドゥカティは果敢にチャレンジをしてきた。この挑戦こそが「乗ってみたい!」と思わせるいちばんの理由だ。近年のビッグシングルスポーツといえばKTMの690デュークなどが思い浮かぶが、690デュークは排気量690cccでボア×ストロークは105×80mm。この数値を見るとスーパークアドロモノがいかにショートストロークかがわかる。
パワーは77.7psを9750rpmで発揮し、レブリミットは1万250rpmに設定。「φ116mmのピストンが1万250rpmまで回る!」のだ。さまざまな数値を見ていると、この時代にこんな数値が並ぶエンジンをリリースするドゥカティには、本当にリスペクトしかない。
ライダーは、このパワーをどのように効率的に使い、路面に伝えるかというバイクとのコミュニケーションを最大限に楽しめると思う。大パワー時代とはまるで異なるスポーツの世界がここにあるのだ。常に進化を続けているパワーの深淵に浸るのも、たしかにバイクのひとつの魅力である。しかし一方で、過剰ではない範囲でパワーとパフォーマンスを存分に楽しむのも魅力のひとつ。そして後者の魅力を多くのライダーが味わうことができるバイクを具現化する上で、スーパークアドロモノはとてつもない可能性を秘めているといえる。
さらにドゥカティファンは、ドゥカティの技術的なトライを体感するのも楽しみのひとつだろう。今の時代、ビッグボアは排ガス規制などを考えたら大変なチャレンジ。しかし、デスモドローミックならではのカムシャフトのプロファイル設計の自由度の高さやフリクションロスの少なさが、このパフォーマンスを実現しているのは間違いない。
全バラになったエンジンを見せてもらった。超大径ピストンはもちろん迫力だが、ロッカーアームや/カムシャフト/クランクシャフトの造形や処理は、まるでレーサーのようだった。エンジンはそれほどコンパクトな印象はないが、合理的な作り。2本のバランサーやウォーターポンプをクランクケース内に収めている。
スーパークワドロモノはハイパーモタードに搭載!
スーパークワドロモノを最初に搭載して登場したのは、ハイパーモタード698モノ。派手なグラフィックとアップ&ダウン対応のクイックシフトを装備したRVEと、スタンダード(クイックシフトはオプションで装着可)の2機種を用意。車重は151kg(燃料含まず)に収まり、シングルエンジンのメリットを最大限に引き出す車体パッケージとなっている。
スーパークワドロモノは、最新の電子制御を搭載し、低速から使いやすいトルクやパワーを発揮しているはず。そして高回転域では、これまでのシングルエンジンでは体感したことのない、胸の空く加速を約束してくれるだろう。そのかつてないパフォーマンスを想像しながら、僕は試乗できる日を楽しみにしている。この待つ時間すら多幸感に満ちているのは言うまでもない。
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