
レースは一人ではできない。分かってはいたことだが、改めて鉄馬を終えて思うのは協力してくれた方々への感謝の気持ちだ。こんなに楽しくレースをしたのは本当に久しぶりで、最高のバイク、最高の仲間たちに出会えて本当に僕は幸運だと思う。ロイヤルエンフィールドのコンチネンタルGT650への愛情が、レースを終えた今も日々深まっていく。
●文:ミリオーレ編集部(小川勤) ●写真:ロイヤルエンフィールド ●外部リンク:ロイヤルエンフィールド東京ショールーム
着々と完成度を上げていくコンチネンタルGT650レーサー
僕がロイヤルエンフィールドのコンチネンタルGT650レーサーで初めて参戦した『鉄馬フェスティバル with ベータチタニウム』は4月29日(土)〜30日(日)の2日間に渡って九州のHSRで開催。参加するクラスはACT18で、エアクールドツイン(空冷2気筒)18インチ以上の意味。今回新設されたクラスで、様々なバイクが集まった。土曜日に予選、日曜日に決勝というスケジュールだ。
金曜日にレーサー制作をしてくれている熊本のモトジャンキーを訪れると、これまでとは別の雰囲気を放つコンチネンタルGT650レーサーが鎮座していた。雰囲気だけで前回から大幅にブラッシュアップされたことが伝わってくる。代表の中尾さんからはこの日まで随時LINEで情報共有していただいていたが、実車を前にすると気持ちが昂る。よくぞこの短い期間でここまで仕上げてくれたなぁと感動する。
前回のテストから細部を詰めることで軽量化を進め、エンジンは点火時期と燃調を見直し3.98psほどパワーアップ。サスペンションはモトジャンキーの吉松さんに試乗していただき、そのアドバイスを元にフロントのバネレートを上げ、油面などを見直した。
カフェレーサーらしい雰囲気だが、細部を見るとどこまでも本気で突き詰めているのが伝わってくる。ACT18クラスは速さだけでなく、仕上げにもこだわるクラス。モトジャンキーの手で美しくフィニッシュされたコンチネンタルGT650レーサーは、クラシックバイクのような雰囲気も放ち、そのセンスも絶妙である。
鉄馬が開催されたHSR九州でロイヤルエンフィールドのオーナーズミーティングも開催。多くのロイヤルエンフィールドユーザーにレーサーを見ていただいた。このイベントの模様は別途紹介したいと思う。Jトリップ製メッキスタンドがカフェレーサーに馴染む。
ACT18クラスにはBMW、モト・グッツィ、ハーレーダビッドソンなどが参戦。みんなマシンの仕上げがカッコいい。決勝でバトルを繰り広げることになったゼッケン27番はリトモアルベーロのBMW R75/5で980cc。現在市販されているのはロイヤルエンフィールドのコンチネンタルGT650だけ。解説に来ていた青木宣篤さんにもコース攻略を色々と聞いてみた。「まあ、決勝が終わった頃にわかってくると思うよ(笑)」
ウエットも乗りやすい、高バランス
しかし、土曜日の予選当日の空は朝から雲に覆われ、路面はフルウエットだ。空は暗く、参加者の気持ちも知らずに冷酷に雨を降らせる。僕にとってコンチネンタルGT650やピレリのファントム スポーツコンプRS、そしてHSRを雨の中で走るのは初めてのこと。
中尾さんに「少しサスペンションを……」と言うと、「OKです。プリロードと減衰をちょっと抜いておきます」と即対応。すべてを言わずとも理解してくれる、こうしたコミュニケーションが取れるのは素晴らしい。HSRを20年以上見続けているだけでなく、レース経験も豊富な中尾さんの信頼感の高さは絶大である。
ウエット路面を走り出すと、前後サスペンションのストローク感が増していて、車体のピッチングを作れるから安心。ピレリのファントム スポーツコンプRSもしっかりとグリップ感がある。こういった状況下でもコンチネンタルGT650はとても従順だ。サスペンションの変更なども感じやすく、それはきちんとしたシャシーやディメンションがあってこそ。水しぶきを上げながら走り込むほどに、タイムは少しずつアップしていった。
マシンに少し慣れてきたところでチェッカー。予選は3台しか走っておらず、幸運にも明日はクラストップからスタートとなった。
モトジャンキーの中尾さんは、メカニックでありながらチーフエンジニア的にライダーやチームを支えてくれる。マシンの挙動やライダーの言葉を元にバイクを仕立ててくれる。車体、サスペンション、エンジン、燃調、点火などなんでも不安なく答えてくれる。
初陣で2位は上出来? でも悔しい……。
日曜日の朝、HSRの空はどんよりとしているが、遠くの空からどんどん晴れていくのが見ていてわかる。同時にHSRの会場にいるみんなの表情も明るくなっていくのがわかる。午前に行われた練習走行はウエットパッチが残ったが、決勝はドライでいけそうだ。
この日はHSRでロイヤルエンフィールドのオーナーズミーティングも開催。九州では初お披露目となったスーパーメテオ650をはじめ全ラインナップの展示と、僕のレースを応援するツアーだというから少しプレッシャーも感じる。お昼休みには希望者にサーキット走行も体験していただいた。参加者は若い方も多く、彼らがサーキットに来て、レースを見て何を感じるのだろう……とも思う。少しでもバイクの楽しさを共有できると良いなぁと思った。
決勝は予定より少し早めの進行で、13時30分よりスタート。お昼を過ぎると観客もより増え、色々な方が声をかけてくれる。タイム的にはライバルと同じくらいだが、いかんせん排気量が足りない。いったいどんなレースになるんだろう、考えるほどに楽しみになっていく。
スタートは予想通り、排気量の多いバイクに抜かれる。2周目のストレートでリトモアルベーロの土屋さんの駆るBMW R75/5に交わされると、そこからは土屋さんとの一騎打ち。コーナーは追いつくけれど、直線の出だしで離される展開が続いた。結局追いつけず、悔しいけれど、最高に楽しい2位になった。
「クソーッ」と思いながらパドックに戻ると、色々な人が待ち構えてくれていて、ロイヤルエンフィールドのミーティングに来てくれた方々と写真を撮ったり握手をしたり。なんだか物凄く盛り上がっている。土屋さんとのテール・トゥ・ノーズをみんな見ていてくれたようで、子供たちからも拍手をもらう。悔しい気持ちは一瞬でなくなり、そこには達成感だけが残っていた。
「凄い盛り上がりだったよ」「丘の上の観客席も凄い歓声だった」と言われながら、背中やヘルメットを叩かれる。この空気感はずっと浸っていたいと思うほど心地良かった。
僕はこんな感覚を他のイベントレースでは味わったことがない。ピットに戻るまでに土屋さんと言葉を交わし、ピットに戻ってからも色々な方がロイヤルエンフィールドのこと、コンチネンタルGT650のこと、今回のレーサーの仕様を聞いてくる。
「コンチネンタルGT走るね〜」「エンジンはノーマルなの?」というレースの話から、「このバイク、今売っているの?」「作るのにいくらかかるの?」という話題までみんなが興味を持ってくれていることを肌で感じ、とても嬉しかった。
なにより、「子供たちが応援してましたよ『いけー』『頑張れー』って」と何人かに言われたのが嬉しかった。終始テール・トゥ・ノーズだったことと、実況の青木宣篤さんがかなりイジってくれたおがけで、会場内はかなり盛り上がっていたらしい。
この2日間、鉄馬の素晴らしい環境に感動の連続だった。この日のためにモトジャンキーが仕上げてくれたバイクの見事な出来もさることながら、集まっている人々がとても温かくて熱い。参加している人も見ている人も本気で遊んでいるのが鉄馬なのだ。今回はそんな鉄馬の一員になれたことが最高に嬉しかった。
もちろん僕がこんなに楽しめたのは色々な方々のサポートがあってのこと。改めてご協力いただいた皆様、ありがとうございました。
マシンの詳細は次回お届けするので、少しお待ちを。
追伸、翌日知り合いから「昨日のレース凄い盛り上がったんだって。コンチネンタルGT650を注文したので仲間に入れてください」というメッセージが何件か入った! 引き続き、盛り上げていきたいと思う。
今回のレースはエルシーアイ(ロータス、モーガン、ケーターハムなどを取り扱い)の西面一さん(左)と、ロイヤルエンフィールドの輸入元であるピーシーアイの高永賢治さんが仕掛け人。お二人と別件で打ち合わせした際にレースの話になり参戦が決まった。ありがとうございます。
ステップ&ハンドル&タンクパッドを作ってくれたカスノモーターサイクル/AELLAの青木さん(右)も、テストからHSRに駆けつけてくれた。こうしてみんなで一緒に物を作っていく感覚が楽しい。レース後、Jトリップの森さんがコンチネンタルGTレーサーを前後メッキスタンドで立ててくれた。その凛々しさは格別で、クラシカルなスタイルにもよく似合う。
ヘルメットは今回のレースのためにアライヘルメットがオリジナルカラーで塗ってくれた。クシタニもツナギにワッペンを入れるなどスペシャルで展開してくれた。2メーカーとも僕がバイクに乗る上で欠かせないブランド。どちらもデザインはシンイチロウアラカワの荒川眞一郎さん。いつもありがとうございます。
パラソルを持ってくれたのは中尾さんの娘さん。ロイヤルエンフィールドのミーティングでは、Tシャツなども販売サポートしていただき感謝。
バイクの詳細は次回紹介!よく走ってくれたコンチネンタルGT650レーサー。色々な方々に協力いただき、完成させることができた。
ピレリのファントム スポーツコンプRSはクラシカルに見えるけどフィーリングは完全にラジアル。前輪の性能を引き出すセットアップを探し、良いところが見つかったのが大きかった。
今回のレースに携わっていただいた方、全員に感謝。僕はバイクの世界にこうして関わってくれている人たちが大好き。この世界はとても面白くて魅力的で、美しく愛情に溢れていて、僕は改めて素晴らしい場所にいるんだと思った。この先どんなことがあるかわからないけれど、こういった人たちと色々とできていけたら良いなぁと改めて思った鉄馬参戦だった。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
小川勤(おがわ・つとむ)/1974年生まれ。1996年にえい出版社に入社。2013年に同社発刊の2輪専門誌『ライダースクラブ』の編集長に就任し、様々なバイク誌の編集長を兼任。2020年に退社。以後、2[…]
小川勤(おがわ・つとむ)/1974年生まれ。1996年にえい出版社に入社。2013年に同社発刊の2輪専門誌『ライダースクラブ』の編集長に就任し、様々なバイク誌の編集長を兼任。2020年に退社。以後、2[…]
市街地を散策しながら、そのポジションと鼓動を楽しむ まだ眠っている早朝の都内は、とても静かだった。日の出が早くなるこの季節、朝に乗るバイクがとても気持ち良い。コンチネンタルGT650のセパレートハンド[…]
ロイヤルエンフィールドは空冷パラレルツインを熟成させ続ける 深緑の隙間からINT650に光が降り注ぐ。メッキパーツはキラキラと輝き、アルミ地肌のクランクケースカバーやエンジンのフィンは優しい輝きを放つ[…]
9種類ものバリエーションから好みで選べる ついにクラシック350が発売になった。ついに、と書いたのはその期待値がとても高かったから。ロイヤルエンフィールドは2021年に同系列のエンジンを搭載するメテオ[…]
最新の関連記事(ロイヤルエンフィールド)
スペシャルラテを飲みながら新型 ハンター350を堪能 東京・浅草の雷門の近くにあるカフェ「ORTIGA(オルティガ)」。ライダーが集うライダーズカフェとしても有名だ。 そのORTIGAで、8月17日([…]
8/1発売:ロイヤルエンフィールド「ハンター350」 2025年8月1日より受注を開始するのが、ロイヤルエンフィールドの新型「ハンター350」だ。注目すべきは、従来モデルから5万円以上の値下げが敢行さ[…]
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc 400ccクラスは、普通二輪免許を取ってから間もないビギナーも選ぶことができる排気量帯で、16歳から乗ることができる。 そんな400cc[…]
16歳から取得可能な普通二輪免許で乗れる最大排気量が400cc! バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限)があり、原付以外[…]
快適性向上、簡易ナビ/USB-Cを標準装備! ロイヤルエンフィールドジャパンが新型「ハンター350{HUNTER 350)」を正式発表。価格と受注開始時期を明らかにした。 空冷ロングストロークの単気筒[…]
最新の関連記事(レース)
急きょ2人体制になってしまったHonda HRC 2025年の鈴鹿8耐は事前から話題が豊富だった。 ヤマハは創立70周年を記念してスペシャルカラーのYZF-R1投入と6年ぶりのファクトリー体制の復活を[…]
「自分には自分にやり方がある」だけじゃない 前回に続き、MotoGP前半戦の振り返りです。今年、MotoGPにステップアップした小椋藍くんは、「あれ? 前からいたんだっけ?」と感じるぐらい、MotoG[…]
スーパースポーツ好きが多い鈴鹿8耐会場だけに、Ninja ZX-6Rプレゼントが話題に 開催中の鈴鹿8耐“GPスクエア”にあるカワサキブースでは、最新Ninja ZX-6Rを壇上に構え、8月末まで実施[…]
大幅改良で復活のGSX-R1000R、ネオクラツインGSX-8T/8TT、モタードのDR-Z4SMにも触ってまたがれる! 開催中の鈴鹿8耐、GPスクエアのブースからスズキを紹介しよう! ヨシムラブース[…]
今年の8耐レーサーYZF-R1&1999 YZF-R7フォトブース 6年ぶりに鈴鹿8耐へファクトリー体制での参戦を果たすヤマハ。それもあってか、今年の8耐は例年以上の盛り上がりを見せている。 会場のヤ[…]
人気記事ランキング(全体)
昭和レトロの世界が広がる神奈川県『中古タイヤ市場 相模原店』 昭和の夏休みって、どんなでしたっけ? 朝はラジオ体操に行って、午前10時頃からは仮面ライダーやウルトラマンの再放送。昼は学校や地域のプール[…]
主な舞台となった甲府市で「mono」の世界観をリアルに体感 『ゆるキャン△』でキャンプブームを盛り上げた、あfろ先生原作のTVアニメ『mono』。 写真部と映画研究部が合体した「シネフォト部」に所属す[…]
ミニカーとは何かがわかると登録変更のハードルもわかる まず「ミニカー」とは、法律上どのような乗り物として扱われるのか、基本的な定義から押さえておく必要がある。実はこれ、道路交通法上では「普通自動車」扱[…]
Vmaxと同時期にアメリカンカルチャーから発想したマッチョスポーツ! 1985年、ヤマハがアメリカはカリフォルニアの現地でデザインしたVmaxは、アメリカならではのクルーザーやチョッパーのバイクカルチ[…]
動力性能を高めるためエンジンを大幅刷新 カフェレーサー然としたスタイルばかりに注目が集まりがちだが、CB400フォアの魅力はそれだけではない。前任に当たるCB350フォアの不振を払拭するべく、動力性能[…]
最新の投稿記事(全体)
夏の定番「カルピス」を蛇口から注いで飲んで、あま〜い思い出づくり 2007年にポンジュースを製造販売するえひめ飲料が「日本有数のみかん産地である愛媛県では蛇口からポンジュースが出る」という都市伝説を実[…]
百の目を持つ“新種の怪物”「Argus」とは 2023年の東京モーターサイクルショー、HYODブースにて、多くの来場者の度肝を抜いた一台のモンスターが展示されていたことを覚えているだろうか。それが、デ[…]
電池不要‼ 水で濡らすだけで瞬間冷却 ベルモンドの「ふりふり冷感シリーズ」の最大の特長は、冷感タオル記事を使用しており、「そのまま」でも「濡らして」も使える2WAY仕様である点だ。特に注目すべきは、水[…]
動力性能を高めるためエンジンを大幅刷新 カフェレーサー然としたスタイルばかりに注目が集まりがちだが、CB400フォアの魅力はそれだけではない。前任に当たるCB350フォアの不振を払拭するべく、動力性能[…]
FXLRSローライダーS:パワーユニット強化で走りはさらにアグレッシブ 許容リーンアングルが深めに設定されるなど、スピードクルーザーとして絶対的な人気を誇る「ローライダーS」 。2025年式は最高出力[…]
- 1
- 2