左右に張り出すエンジンを搭載するモト・グッツィは、それだけでバイクとしてはかなり稀有な存在。個性的な見た目のエンジンの乗り味は、何にも似てなくどこまでも独創性に溢れ、走るほどに魅了される味わいを持つ。まずは試乗を、そうしないとこのインパクトは分からないかもしれない……。
●文:ミリオーレ編集部(小川勤) ●写真:長谷川徹、モト・グッツィ ●外部リンク:ピアジオグループジャパン
イタリア最古のメーカーが放つ50年以上普遍の味わい
「ドルンッ」。セルを回すと、大きく身震いをして縦置き90度Vツインエンジンは目を覚ます。そんな震えなくても……とも思うが、これは昔から変わらないモト・グッツィの個性だ。
現存するイタリアのバイクメーカーでもっとも古い歴史を持ち、2021年に創業100周年を迎えた。1967年に初めて『空冷の縦置き90度Vツインエンジン+シャフトドライブ』のパッケージで登場したV7スポーツをオマージュしたV7スペシャルとV7ストーンは、当時とほとんど変わらない車体構成で生き続けている。
『空冷の縦置き90度Vツインエンジン+シャフトドライブ』の車体構成は50年以上変わらず、最新モデルもすべてに採用している組み合わせ。古き良き時代を感じさせ、そのスタイルはとてもトラディショナルだ。
ちなみに2021年のミラノショーでは創業100周年を記念した『V100マンデッロ』が発表され、エンジンは新設計の水冷となったが、縦置き90度Vツインとシャフトドライブは継承。日本導入時期などは未定だが、モト・グッツィが新しい時代へ踏み出す1台になるはずだ。
そんな長い歴史を持つモト・グッツィはとても味わいがある。といういうかクセが強い。もし縦置きツインに乗ったことがなければ、まずは始動した瞬間に、そして次に走り出した瞬間にその個性に驚かされるはず。トルクとは何か、鼓動とは何か、そんな答えを一瞬で導き出してくれる。
排気量を拡大しつつ規制に対応。味わい、速さ、扱いやすさを獲得した
1967年のV7スポーツをオマージュした最初のモデルであるV7クラシックは、2008年から日本で発売。その時の排気量は744ccで車体も1回りコンパクトだった。
しかしそこから14年の月日が経過し、排気量は拡大。質感も大きく向上させている。排ガスや騒音規制は、毎年のように厳しくなり、空冷エンジンを断念するメーカーも多い中、モト・グッツィは伝統を守りながら、そのエンジンを育み続けている。
V7スポーツをオマージュしたモデルは、現在はV7ストーンとV7スペシャルを用意し、ともに853.4ccのエンジンを搭載。スペシャルは各部にメッキパーツを採用した装備を充実させた上位モデル。ストーンはキャストホイールでスポーティな雰囲気が特徴だ。
「美しいバイクだなぁ」。思わず声に出してつぶやく。目の前のV7スペシャルは多くの人の目にそう映るであろう、佇まいの良さと雰囲気を持っている。深いブルーのタンクは太陽の光を浴びて輝き、各部のメッキパーツには青空が映り込む。
左右に張り出したエンジンは、強烈な存在感を放ち、力強い。昔ながらの伝統を現代の技術でアレンジし、高い所有感を約束してくれる。空冷エンジンならではのシンプルな美しさがここにある。
エンジンは排気量を744ccから853.4ccに拡大したことで、最大出力は25%も増加。スペックは、従来の52ps/6200rpmから65ps/6800rpmとなり、最大トルクも6.12kgf-m/4250rpmから7.44kgf-m/5000rpmに増加。3000rpmで最大トルクの80%以上を発揮している。
縦置きエンジンって何が縦なの?
跨ってブリッピングすると「ドルンッ」という力強いエキゾーストノートとともに、反トルクで車体を右に傾ける。縦置きエンジンならではのこのフィーリングは、慣れてしまうととても愛おしい。
ところで、縦置きエンジンって何が縦なのだろう?
通常の横置き(とは言わないけれど)エンジンは、エンジン内のクランクシャフトが前後輪と同じ方向に回転している。しかし、縦置きエンジンはクランクシャフトが進行方向に対し左右方向に回っているのだ。
そのため、リヤタイヤはチェーン駆動でなくエンジンと同じ縦方向に回転するシャフトで駆動され、それをべべルギアで90度方向変換。これがBMWなどに共通する縦置きエンジンの車体構成である。
では、この伝統の車体構成のメリットはどこにあるのだろう?
エンジンと対話しているような独特のコミュニケーションが心地よい
「なんなんだこのエンジンは……」初めてのモト・グッツィだったらそう感じると思う。他のエンジンとは異なる豊かなトルク感に包まれる。ガソリンがきちんと燃焼し爆発している感じ、後輪が路面を蹴るダイレクト感、そして鼓動やトルクの意味をすぐに教えてくれる。
規制の兼ね合いで、パワーやトルク感を出すのは益々難しい時代。それでもモト・グッツィは逞しいトルクを追求し続け、それを達成している。走るほどに排気量をアップした意味がよくわかる。スタートしてすぐにシフトアップを繰り返す。常用するのは2000〜3000rpm、この領域でこれほど力強いエンジンは、なかなかない。
そして縦置きエンジンはハンドリングが穏やか。ただし、それはぬるいという意味ではなく、ライダーを急かさない優しさを備えつつ、思い通りのラインを描ける醍醐味の高さを持ち合わせている。
サスペンションやブレーキはそれほど高性能ではない。しかし、どちらもライダーの操作に緩やかに反応する過渡特性を持ち、こちらも疲労感の軽減など、走るほどによく考えられた味付けであることがよくわかる。
高速巡航では若干常用回転域が高いのが気になったが、振動は少なく、直進安定性も高い。
気になる方は、まず試乗を! それが初めてのモト・グッツィなら、まずは戸惑いを楽しんでいただければと思う。走り出して、噛み締めるほどに納得が強まるなら、それは魅了されている証拠。数日経っても忘れられなかったら、もう抜け出せない。モト・グッツィはそんな魔力を秘めているイタリアンなのである。
123万2000円のV7ストーンも用意
V7ストーンはV7スペシャルよりも少しだけ手軽にモト・グッツィを楽しむことができる。確かに高級感はスペシャルが勝るが、実はストーンは軽量に仕上がり、その分スポーティな走りが可能。また、ポップなカラーバリエーションも魅力だ!
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