
●文:モーサイ編集部(阪本一史) ●写真:澤田和久 モーターサイクリストクラシック
ブーム体験の思い出も交えたW3試乗インプレッション
1970年代後半から1980年代にかけて、バイク好きの若者たちを虜にした小説が、片岡義男の『彼のオートバイ、彼女の島』です。1986年に同名の映画が公開されたこともあり(故・大林宣彦監督)、当時バイクで青春を謳歌していた世代など、絶大な人気を誇りました。
そして、主人公の橋本 巧(コオ)が乗る「カワサキW3」も、すでに販売が終了していたにもかかわらず、一躍憬れの的となりました。
では、そのW3とはどんなバイクだったのでしょうか? 雑誌『別冊モーターサイクリスト』『モーターサイクリストクラシック』の元編集長で、実際にW3の試乗を経験したことがある筆者が、その独特の乗り味を紹介。『彼のオートバイ、彼女の島』ブームを経験したど真ん中世代でもあることから、当時の思い出も交えて語ります。
カワサキ「ダブル」のルーツはメグロ スタミナ
『彼のオートバイ 彼女の島』の主人公・コオが愛機としていたのは、1960年代に開発されたカワサキW1系モデルの末裔・W3である。どんなバイクなのか、その生い立ちからを紹介しよう。
W1からW3が搭載する並列2気筒OHV624ccエンジンは、目黒製作所(後にカワサキに吸収合併される)のメグロ スタミナK(1962年/497cc)がルーツで、そこから排気量&パワーアップが図られたものだ。
目黒製作所を吸収合併した後にカワサキが製作したカワサキ メグロ500K2を経て、1966年に登場したのがシングルキャブの“ダブワン”ことW1で、当時の国内最大排気量モデルだった。
さらに、これをツインキャブ化と高圧縮化などで53psへ出力アップし、1968年登場したW1スペシャル(W1S)と続く。
その後、国内で主流の左足変速モデルとして(W1とW1Sは右足変速だった)、各部のデザインを変更したW1スペシャル(W1SA)が1971年に登場。ダブルシリーズ中で最多の9870台を生産した。
そして『彼のオートバイ、彼女の島』のコオが愛した650RS-W3が、W1系最終モデルとなる。
「格闘」と表されたW3の乗り味とは?
W3には過去雑誌の企画で2回試乗したが、最初の試乗と2回目の試乗では、その印象が少し違った。2回の試乗の間は20年以上空いていたのだが、その間にW3以外のさまざまなWに試乗したことが大きい。
最初のW3への試乗では、スロットルを開けると「ドゥパパパッ」と音を発する歯切れのよさに驚き、3&4速で3500〜5000rpmでスロットルを開け閉めしながら街中を流すのが刺激的で楽しいと書いた記憶がある。
一方、排気量や音から想像するほどには低速トルクを感じず、5000rpm以上では鼓動感がなくなり、振動がすごく増していく。
「巡航するなら時速75マイルぐらい(約120km/h)が精一杯」と、当時オーナー氏は語っていた。またW3のセールスポイントのひとつ、フロントのダブルディスクブレーキは現代のディスクブレーキのようにカチッと効かないとも書いた。
歯切れのいい音を伴う走りは、耳を始めとした五感を刺激して楽しい。しかし、北米で評価を得られなかった理由が振動と言われており、確かに75〜80マイル(約120〜130km/h)のフリーウェイ走行では厳しかっただろうと想像できる……
※本記事は2021年8月27日公開記事を再編集したものです。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
モーサイの最新記事
仕事を通じてわかった、足を保護すること、足で確実に操作すること 今回は、乗車ブーツの話をします。バイクに乗る上で、重要な装備の一つとなるのが乗車ブーツです。バイクの装備といえばヘルメットやジャケット、[…]
【燃料タンク容量考察】大きければ良いってもんではないが、頻繁な給油は面倒だ 当たり前の話ではあるけれど、燃費性能とともに、バイクの航続距離(無給油で連続して走れる距離)に関係してくるのが、燃料タンクの[…]
バイクいじりで手が真っ黒、そんな時どうしてる? バイクいじりにつきものの、手の汚れ。 特に、チェーンのメンテナンスやオイル交換など、油を使った作業となるとタチが悪い。 ニトリル手袋やメカニックグローブ[…]
松戸市〜成田市を結ぶ国道464号の発展 かつて、千葉県の北総地区は高速道路のアクセスが今ひとつ芳しくなかった。 常磐自動車道・柏インターや京葉道路・原木インターからもちょっとばかり離れているため、例[…]
創業100年を迎えた青島文化教材社「草創期から異端派だった?」 中西英登さん●服飾の専門学校を卒業するも、全く畑違い(!?)の青島文化教材社に2000年に入社。現在に至るまで企画一筋。最初に手がけたの[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車 | カワサキ [KAWASAKI])
1,000ドルを謳い文句に全米で大ヒット! カワサキは1972年のZ1以来、Z650RSにZ750TWINと念願だったビッグバイクの領域で世界のリーダーへと君臨することに成功。 またそのいっぽうで、ホ[…]
次世代を見据えた新技術を随所に投入 ’73年から開発が始まったZ650は、当初は”Z1ジュニア”と位置づけられていた。とはいえ、単なるスケールダウンをヨシとしない開発陣は、次世代を見据えた新技術を随所[…]
超えるべき指針はトライアンフ・ボンネビル ’54年に第一号車として、2スト60ccスクーターを手がけたカワサキが、2輪事業に本腰を入れるようになったのは’60年代に入ってからである。 もっとも、当初の[…]
兄貴分とは一線を画す軽さと扱いやすさ ’72/’73年にZ1/2を世に送り出した直後から、カワサキは新時代の4ストモデルとして、コミューターの400RS、W1系の資質を受け継ぐZ750ツイン、Z1/2[…]
ENGINE:世界最速を目指してたどり着いた型式 ヤマハやスズキのような“専業メーカー”ではなかったけれど、’54年から2輪事業への参入を開始したカワサキは、基本的に2ストロークを得意とするメーカーだ[…]
人気記事ランキング(全体)
キジマ(Kijima) バイク スマートディスプレイ SD01 5インチ キジマの「SD01」は、スマートフォンとWi-Fi(2.4GHz)で接続し、スマホのマップをナビ表示できる5インチのモーターサ[…]
次世代を見据えた新技術を随所に投入 ’73年から開発が始まったZ650は、当初は”Z1ジュニア”と位置づけられていた。とはいえ、単なるスケールダウンをヨシとしない開発陣は、次世代を見据えた新技術を随所[…]
メカもライテクもこの1台に教わった 原付というジャンルが、若者にとって比較的手軽にモータースポーツを楽しむ道具として浸透していく中、別の意味で趣味性の高いアイテムとして発展したのがレジャーバイクと呼ば[…]
超えるべき指針はトライアンフ・ボンネビル ’54年に第一号車として、2スト60ccスクーターを手がけたカワサキが、2輪事業に本腰を入れるようになったのは’60年代に入ってからである。 もっとも、当初の[…]
新型CBは直4サウンドを響かせ復活へ! ティーザー画像から判明したTFTメーターとEクラッチ搭載の可能性 ホンダは中国がSNS『微博』にて、新たなネオクラシックネイキッドのティーザー画像を公開したのは[…]
最新の投稿記事(全体)
X-ADVの兄弟車として欧州で販売される「フォルツァ750」 ホンダは欧州でフォルツァ750(FORZA 750)の2026年モデルを発表した。主要諸元に変更はなくカラーバリエーションの一部変更でイリ[…]
ライダー本人のサイン入り限定ヘルメットも附属 ホンダUKが発表した「CBR1000RR-RファイアーブレードSP ディーン・ハリソン レプリカ」は、2025年のマン島TT・スーパーストッククラスでディ[…]
岡山国際サーキットとの相性、新しいフロントタイヤと改良されたリヤタイヤ ついにこの日がやって来た。 2025年10月5日、全日本ロードレース第6戦の岡山(岡山国際サーキット)で長島哲太がついに表彰台に[…]
2025モトクロス世界選手権チャンピオンが全日本に参戦! 株式会社カワサキモータースジャパンは、2025年11月1日(土)・2日(日)スポーツランドSUGO(宮城)で開催される第63回 MFJ-GP […]
2025年3月の東京モーターサイクルショー以降、何かと話題のCB1000F!! いよいよかと色んな噂が飛び交っているなか、某日、各パーツメーカーのカスタマイズコンセプトがひっそり発表されました。カスタ[…]