現行シビックをベースとした、ヴェゼルの上級に位置するホンダの新型SUV「ZR-V」。つい最近、発売が2023年春となったことがアナウンスされたが、現時点でディーラーでは事前商談がスタートしている。今回、このZR-Vに”群サイ”こと群馬サイクルスポーツセンターのサーキットコースで試乗する機会に恵まれた。
●文:月刊自家用車編集部(川島茂夫) ●写真:本田技研工業株式会社
意のままの走りと制動旋回時の高い安定性とコントロール性を両立
シビックから発展したSUVという点ではCR-Vと同じ系統のように思えるが、外観を見ても分かるようにキャラが随分と違っている。さらに言えば、フロントマスクはホンダの現行ラインナップのいずれとも異なる趣。強いて挙げるならハイブリッド専用のコンパクトクーペとして開発されたCR-Zにも似たテイスト。走りはスポーツ性に振っている可能性が高い、と予想したのだが、そのとおりだった。
パワートレーンはシビック同様1.5Lターボ/CVTと2.0L直噴を発電機としたシリーズ/パラレル切替式ハイブリッドのe:HEV。プラットフォームはシビックをベースとし、4WDの電子制御カップリングと後輪駆動系はCR-Vと同じハードを採用。ただし、後輪駆動制御はハードの容量をフルに活かして、オンロードでの操安性と悪路踏破性を向上させたとのこと。開発時の性能試験ではCR-Vでは上がれなかった未舗装登坂路もZR-Vは踏破したという。売りはオンロードでの走りだが、ラフ&オフロード性能も期待できそうだ。
自慢のオンロードでの走りだが、全体の印象は昨今のホンダ車の操安性に操る楽しさを加えて、純度を高めたと言った感じだった。
まずライントレース性がすこぶるいい。前後輪の接地が安定していて、操舵に対して正に過不足なく回頭とラインを変える。ロールやピッチの変化は量的に少なく、揺れ返しもほとんど意識しない。
そういった挙動や操縦感覚が横Gの大小や加減速、路面のうねり等で大きく変わらないのも驚かされた。アクセルを開けながらラインを拡げるのも、減速でラインを絞るのも意のまま。とくに制動旋回時の安定性とコントロール性はSUVらしからぬレベルだ。
そこにほぼタイムラグゼロで反応するe:HEVである。接地性のよさもあってトラクションの掛かりがよく、ライン制御の根幹となる速度制御も自在。ハイアベのワインディングも安心楽々といった感じで走れてしまう。
ただし、乗り心地は硬めである。跳ね返るような揺れ返しや渋さを抑えた減衰感のあるストローク制御は質的には良好だが、絶対値としてはスポーティモデルの範疇。家族や友だちと和気藹々で車中を楽しむには当たりが強い。同乗者にとって許容値ではあるが、ドライバー本意のフットワークだ。
低μ路やさらに大きな負荷変動のコーナリングなら駆動方式による差も広がるのだろうが、この基本特性はFFと4WDで大きな違いはなかった。それでも一般的には爆走レベルのコーナリング速度だったのだが、サスチューニングやアジャイルハンドリングアシスト(AHA)の巧みさが効いているのだろう。ただ、加速しながらの段差通過などで前後に揺するような加速度の揺れの抑制や収束感等の走りの質感は4WD車が勝る。
e:HEVの制御も巧み、というか心憎い。踏み込み時のトルクは即応。ゆっくり踏み増しすれば後伸び感も心地よい。しかも、エンジン回転数が加速度に呼応して変化。意地悪く言えば「ただの演出」なのだが、高性能NAエンジンで言う所の「カムに乗る」ような感覚に思わずにやりとしてしまう。
先に乗ったe:HEV車の印象が強かったせいか、ターボ車については踏み増しのトルク立ち上がりやダウンシフトによるタイムラグでルーズな印象を受けてしまう。スポーツモードを選択して常用回転域を高めにするとルーズさも和らぐが、e:HEVには到底及ばない。ターボ車のパワートレーンも内燃機駆動では相当な優等生なのだが、コントロール精度の次元が違っている。
車重の違いもあって乗り味全般でもe:HEV車が上位モデルらしい出来。コスパ次第ではあるが、ZR-V選びでは悩ましい点だ。
キャビンスペースはCR-Vとヴェゼルの中間くらいに思えた。後席はバックレスト前倒と連動して座面が沈むワンタッチダイブダウン式を採用し、後席収納時の積載性を配慮した設計。ヴェゼルほどではないがファミリー&レジャー用途にも対応できるキャビンだ。
ZR-Vのアピールポイントはスポーツ&ツーリング向けの走り。しかしながらスポーツ性の犠牲となっているのは硬めの乗り心地くらい。しかもスポーツモデルとしては乗り味良質。例えば、CR-Zから、あるいは先代ヴェゼルからの乗換もあり。現行シビックの購入を検討中なら候補車に加えるのもいい。個性的キャラのSUVだが、走りを中心に意外と間口が広い。嗜好と適応用途でクロスオーバーするSUVと言えよう。
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