
「ファンティック」の最新のキャバレロシリーズの開発は、1社ですべてを完結しておらず、 イタリア・ボローニャにある「モトーリ=ミナレッリ社」の開発&生産協力によって成立している。今回はそんなファンティックと協力体制にある「ミナレッリ社」についてモータリスト代表の野口さんに聞いてみた!
●文&写真:モータリスト ●まとめ:高橋祐介 ●BRAND POST提供:MOTORISTS
イタリア国内で生産完結することで技術力と品質を守る
今回、新型のキャバレロを生産している国はどこなのでしょうか?
「ファンティックは今、すべてのモデルをイタリアで生産しています。フルラインメーカーとしては事実上欧州でも唯一のブランドです(オフロード専業メーカーなどを除く)。そんなファンティックの自慢は、お客さまにご満足いただける品質とサポートをお届けするために、すべてイタリアの自社工場で製造しています」
General Director of Motori Minarelli: Vittorino Filippas
「その製造工場の中核となるのが、ファンティックのグループ会社でもある『モトーリ=ミナレッリ』です。ファンティック本社から列車で2時間ほどの町、ボローニャにあるミナレッリ社を訪問した様子を紹介しましょう」
ミナレッリ社の役割についてですね。ぜひ教えてください!
「そもそもミナレッリ社は、1951年にヴィットーリオ=ミナレッリとフランコ=モリーニのふたりで北イタリア・ボローニャに創立したバイクメーカーです。その後モペッド(人力走行用のペダルが付いたバイク)の製造にも乗り出し、1956年には2サイクルエンジンのオリジナルモデルを送り出します。そこから工場を拡張し、欧州の多くのメーカーにエンジンが採用されていきました。1970年代にはエンジンの製造台数が25万台を超え、自ら製造したレーシングマシンが125㏄世界グランプリで勝利を飾るなど、その技術力は高く評価されていきます」
1978年から1981年。125cc世界選手権でメーカータイトルを4回、ライダータイトルを2回獲得。
エンジンブランドとして信頼されていたのですね!レースでも活躍したということは日本でも知られていましたか?
「90年代に入ってから、欧州での販売拡大を目指すヤマハがミナレッリの能力に注目してきました。やがてヤマハはスクーターや125㏄4サイクルエンジンの製造も委託するようになり、2002年にはついに完全子会社化を行います。ヤマハの欧州エリアで重要な製造拠点となったミナレッリはエンジンの製造台数も45万台を超えるまでに成長しました。ですがヤマハの経営不振、生産拠点がブラジルやインドネシアの工場で活発化され、全体的なコストダウンが行なわれます。その結果、2020年にヤマハの手を離れ、ファンティック・モーターの傘下に入りました」
現在でもミナレッリ社は他社製品の製造をしていますか?
「モトーリ=ミナレッリは、ファンティックのグループ会社になった今でもヤマハはもちろん、ベータやシェルコなど、多くのバイクメーカーにオリジナルエンジンの供給を続けるエンジンサプライヤーです。同時に、ファンティックの製造拠点として、完成車までの生産を担う企業となっています」
「近年では、ファンティックが誇るエンデューロモデル『XE300』向けの300㏄2サイクルエンジンを開発・製造するほか、新しいキャバレロ・シリーズやストリートモデルである『ステルス』に向けた4サイクルDOHCエンジンの製造、ファンティックが活躍しているロードレース世界選手権のMoto2や、モトクロス世界選手権のMXGP向けにエンジン・チューニングも行っています」
ミナレッリ社のファクトリーマネージャーに質問してみた!
ミナレッリの工場を訪問された代表ですが、ファクトリーマネージャーに野口代表が色々聞いてみたそうですが?
左からAlessandro Barbieri (Minarelli Plant Manager) / Chiara Punzo (Minarelli Marketing Manager)
Ermanno Ventura (Minarelli Sales Manager) / Andrea Benatti (Fantic Export Manager)
「私の方で聞いてみた内容について、まとめてみました。ミナレッリ社の真摯な対応にはとても感謝していますし、とても興味深い時間になりました」
「ここ(モトーリ=ミナレッリ)では、エンジンだけではなく車体も製造しているんですか?」
ミナレッリ「はい。敷地内にエンジン専用工場と、車体組み立て工場とを別々に用意し、それぞれで作業を行っています。車両製造を行うことが、ファンティックが買収した大きな目的でした。ファンティックの自社工場はすでにキャパシティが限界になり、新しいラインアップの生産には工場を新設する必要があったからです。トレヴィーソ(北イタリア、ヴェネツィアにほど近いファンティック創業以来の本社工場)は、組み立てラインは1本しかありません。ミナレッリは車体の組み立てラインは5本に増え、ストリートモデルからモトクロッサーまで、すべてのラインアップを組み立てることができる理想的な製造環境を築き上げることができたのです」
「ヤマハが親会社だった時代も20年ほど続いたわけですが、そこでは何が得られたのでしょうか?」
ミナレッリ「ヤマハは日本のメーカーならではのシステム、例えば『ジャスト・イン・タイム』や『カイゼン』、といったヨーロッパでは一般的ではなかったノウハウを持っていました。これを丁寧に時間をかけ導入し、イタリア企業とは思えないほど合理的かつ高品質なモーターサイクル製造を可能にしています。これを既存のイタリア企業に導入するのは容易ではありません。ファンティックは、ミナレッリをグループ化することでこの仕組みを一挙に手にすることができました」
ミナレッリ「ヤマハが残した『5S=整理、整頓、清掃、清潔、しつけ』も、ミナレッリの中に深く刻み込まれています。この部分はファンティックのマネジメントにも強い影響を与えています。今、ミナレッリのスタッフはヤマハ時代から減ることなく、イタリアン・カンパニーであることに誇りを抱きながらも、ヤマハによって培わせた合理的で緻密な企業としての道を改めて歩んでいます。これはファンティックにとって非常に大きな力となっているのです。ミナレッリのオーナーとなることで、ファンティックはミナレッリがはぐぐんできた経験、歴史、能力を受け継ぐことができました」
ミナレッリ「一方で、このこと自体はヤマハとの決別を意味しているものでもありません。ヤマハは今でも、ミナレッリにとって重要な顧客であり、またファンティックにとっても需要なサプライヤーでもあります。そう、私たちはヤマハにエンジンを売っていますが、ヤマハからエンジンを買ってもいるからです。工場内には、今も欧州ヤマハに向けた車両の企画、開発、製造を担当するスタッフがいます。ヤマハとの関係は深く、また素晴らしいものと考えています」
Motori Minarelli Caballero700 Scrambler製造ライン
「ヤマハのすべてがミナレッリに好影響を残しているわけでもないと思います。ネガティブな影響は今も感じられますか?」
ミナレッリ「ヤマハは日本企業ならではの文化をもたらしました。洗練された構造化、詳細で明確なプロセス、継続的な自主点検。工場の信頼性を上げることに優れ、その文化は今もミナレッリ、そしてファンティックにも好影響を与えています」
ミナレッリ「一方で、堅牢なプロセスだからこそ、柔軟性に欠けてしまう部分があります。そのため、プロセスの変更が必要な時などは非常に時間がかかります。見切り発車はもちろん出来ませんし、時間をかけて検討を重ね、ようやく試験が行われ、変更が承認されます。例外の発生も認められず、また例外が発生した場合の管理コストを厳しく監督しています。ところが、現実世界はもっと柔軟に対応しなくてはいけないことがたくさんあります。決められたものを決められたプロセスに則って生産しているだけに見える工場でさえ、予期しない外的要因の対応が求められるのです」
ミナレッリ「ファンティックと融合することで、日本とイタリアという全く異なる、しかし同じゴールを見ている工業メーカーの長所を伸ばしあうことができるようになりました。ファンティックがより俯瞰的に物事をとらえ、柔軟性に富み、ダイナミックに動ける一方、ミナレッリに根付いた日本的な低コスト、丁寧さや確実さが融合することで、誰と競い合っても引けを取ることのない新しい企業文化を身に着けることができたのです」
「ヤマハとファンティックの大きな違いは何でしょうか?」
ミナレッリ「一番の長所といえる違いは、スピードです。次に柔軟性。改善に向けたスピードは圧倒的に早くなりました。もちろん、イタリア語で理解できるという利点もあります。ただそれだけではなく、ファンティックは小回りの利く、生産台数の少ないメーカーだからこそ、市場に近いところにいつもいるということ。市場からの声を吸い上げ、すぐにそれを商品開発に反映させることができるという特徴を持っています」
ミナレッリ「ヤマハ時代、ミナレッリは市場の声とは遠く離れたところにいました。エンジンの生産拠点として集中され、車両の組み立てはフランスのMBK(ヤマハの企業傘下)が担っていたため、ミナレッリには市場の声は届かなかったのです。今、ファンティックはきわめて市場に近いビジネスを行い、ダイレクトに市場の声をフィードバックしています。もちろん、ミナレッリに対しても同じです。商品の改善はもちろん、将来の商品企画、プロセスの変更など、ダイナミックに市場要求にこたえていくため、非常に良い大きな変化だと思います。
ミナレッリ「もちろん、今でもヤマハとの関係は良好です。ミナレッリとしては、ヤマハの工程のノウハウや経験にファンティックのダイナミックさ、柔軟さが加わった今、成長に向けた大きなポテンシャルを得ていると感じています」
「今後の成長はどのように進むと考えていますか?」
ミナレッリ「ファンティックにとっては、大きな飛躍、成長の機会を得たものと考えています。生産キャパシティは大幅に増加し、今後も広がっていくものと考えています。新型のエンジン(MM460)はファンティックの専用エンジンとして設計され、製造されるものです。こうした専用エンジンの設計、製造、開発が進むことは成長には欠かせないものと考えています」
MM460エンジンを搭載する、Scambler500 / STEALTH500
「ミナレッリはヨーロッパのエンジン工場として従来果たしてきた役割を今後も続けていきます。ヤマハはもちろん、多くの欧州メーカーにエンジンを供給し続け、新しいエンジンを提供していくでしょう。供給先もさらに広がって行くことと私は確信しています!」
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