
フェラーリは、最新の特別仕様モデル「296スペチアーレ」を発表。このリヤミッドエンジン搭載のプラグインハイブリッドクーペは、イタリア語でスペシャルを意味するスペチアーレを車名に戴く、フェラーリにとって正真正銘特別なモデルだ。単にフェラーリの量産モデルの枠を超え、セグメント全体のドライビングスリルとエンゲージメントにおける新たなベンチマークとなりうる、296 スペチアーレを深堀りする。
●文:ヤングマシン編集部(カイ) ●写真:Ferrari Japan
フェラーリのスペシャルモデルの系譜に新たな歴史が築かれる
スーパーカーと呼ばれる高性能かつラグジュアリーなクルマのトップブランド、フェラーリ。世界中のエンスージアストを熱狂させ、そのファンは「ティフォシ」などとも呼ばれるが、ティフォシ垂涎の特別モデルが存在する。
過去にチャレンンジ・ストラダーレ、430スクーデリア、458スペチアーレ、488ピスタといった特別なフェラーリベルリネッタの系譜であり、さらに広義ではF40やF50、エンツォ・フェラーリといった雲上モデルも含むスペシャルモデルが「スペチアーレ」だ。
そしてフェラーリの現行主力モデルの一角、296 GTBにも、バリエーションモデルとしてスペチアーレが追加された。過去のスペチアーレ同様に生産台数を絞り、限られた幸運なオーナーのみステアリングを握ることが可能な296 スペチアーレ。まさに新しい歴史がここに刻まれる。
フェラーリの現行基幹モデルである296 GTBをグレードアップした特別モデルが296 スペチアーレだ。いわば296 GTBをサーキット走行に特化させるべく内外装はおろか動力性能も大幅に強化した生産期間限定モデルとなる。
フェラーリは296 スペチアーレを「生産期間限定」と発表し、今のところ生産台数を明らかにしていないが少数であることは間違いない。デザインはフラヴィオ・マンゾーニが率いるフェラーリ・スタイリング・センターが手掛けている。
深化の極致、880cvのハイブリッド・ハート
296 スペチアーレの核心は、徹底的に磨き上げられたパワートレインにある。その心臓部、120度のバンク角を持つ3.0リッターV6ツインターボエンジンは単なる出力向上にとどまらず、スペチアーレの名にふさわしい深化を遂げた。
フェラーリはワンメイクレース「296 チャレンジ」や、F1で培ったノウハウを惜しみなく注入し、エンジン制御マップとブースト・ストラテジーはサーキットから直接フィードバックされ、コンロッドは軽量かつ高剛性なチタン製へと換装。さらに、F1由来のノック・コントロール・システムが燃焼の限界を監視し、シリンダー内の圧力を7%も高めることに成功している。
これらの改良により、内燃エンジン単体の最高出力は、ベースモデルから37cv増となる700cv/8000rpmという驚異的な数値を叩き出す。リッターあたり234cvという比出力は、このクラスの新たな金字塔だ。軽量化も徹底され、窒化スチール製クランクシャフトの採用も相まり、エンジン単体で約9kg減量。グラム単位で軽量化を積み上げる執念が、鋭敏なレスポンスに直結している。
そして、サウンド。「ピッコロV12」と称賛されたベースエンジンの音色は、スペチアーレでさらなる純化を遂げた。燃焼で生じる3次/6次/9次の周波数成分のみで構成される純粋な倍音は、質と迫力を増し、魂を揺さぶる。これを支えるのが、V6の心臓部から音を直接キャビンに届ける、特許取得の音響ダクトシステムだ。その数は2倍に増やされ、サウンドの空間的広がりまでもが洗練された。
この内燃エンジンの傑作に、180cv(+13cv)まで出力を高められた電気モーター「MGU-K」が組み合わされる。最大のトピックは、SF90 XX ストラダーレから受け継いだ「エクストラ・ブースト・モード」の搭載だ。eマネッティーノを「Qualify」モードに設定し6000rpmを超えると、モーターは短時間ながらその持てる力のすべてを解放する。
コーナー出口で炸裂するこの追加パワーは、ラップタイムを削り取るための切り札だ。システム総出力は880cv。フェラーリの後輪駆動プロダクションモデルとして、史上最高のパワーを手に入れた。
リヤミッドに搭載される内燃エンジン単体の最高出力は、296 GTBから37cvアップの700cv/8000rpmを発揮。同様に296 GTB比で13cvアップの180cvまで出力を高めた電気モーター「MGU-K」をあわせ、システム最高出力は880cvを実現した。
フェラーリの後輪駆動モデルとして最強の880cvを発揮する296 スペチアーレ。パワートレーンを強化した上、チタンやカーボンなどの軽量素材を多用することで軽量化策も万全で、乾燥重量は1410kgを計上している。
空気を支配する、機能主義のエアロダイナミクス
296 スペチアーレのフォルムは、空力性能に全振りしたものだ。250km/hで発生するダウンフォースは435kgにのぼり、これは296 GTBから20%も増加した数値であり、もはやロードカーの領域を超えている。
フロントにはアンダートレイとボンネットをダクトで繋ぎ、気流をボディ上面へと導く「エアロ・ダンパー」を新設してフロントのダウンフォースを安定させ、高速域でのリニアな挙動を約束する。
リヤエンドの「サイドウイング」は、FXX-Kの垂直フィンと296 チャレンジのバンパー形状という、モータースポーツの2つのコンセプトを融合させたもの。垂直フィンがドラッグを低減し、水平面がダウンフォースを生成する。まさに機能が生んだ造形美である。
アクティブ・リヤ・スポイラーも全面的に改良された。ハイ・ダウンフォース(HD)への移行時間は50%も短縮され、新たに高速走行時の安定性を高めるミディアム・ダウンフォース(MD)仕様が追加された。あらゆる速度域で、最適な空力バランスを保つというフェラーリの思想を体現している。
流体解析と風洞テストで最適化したエアロダイナミクスを投入。フロントセクションにはウイング形状のスプリッターを採用し、エアインテークも拡大している。リヤの両端を包み込む「サイドウイング」はドラッグの低減とラジエーターの冷却効率を高めるもの。
フロントアンダートレイとボンネットをダクトで繋ぎ、気流の一部をアンダーボディからアッパーボディへ導くエアロ・ダンパー・コンセプトを採用。アンダートレイで発生するダウンフォースを引き上げ、グラウンド・エフェクトの効率性も高めている。
シャーシ&ダイナミクス、人馬一体の再定義
驚異的なパワーと空力性能を路面に伝えるため、シャーシとビークルダイナミクスも根本から見直された。最優先事項は軽量化だ。総重量は296 GTBから60kgも削減し、乾燥重量の1410kgは1.60kg/cvという驚異的なパワーウェイト・レシオを実現し、後輪駆動フェラーリの新記録を樹立した。
サスペンションは専用セッティングが施され、ライドハイトは5mm低減。コーナリング時の最大ロール角は13%も減少し、ボディの動きはより引き締まった。心臓部には、296 GT3から派生したマルチマティック製アジャスタブル・ショックアブソーバーとチタン製スプリングを装備。サーキットと公道の双方で最適な減衰特性を発揮する。
電子制御システムには、最新世代の「ABS Evo」を搭載。6Dセンサーからの情報を基に車両の速度を精密に推定し、4輪の制動力を最適に分配する。これにより、ブレーキングの正確性と再現性が極限まで高められた。それは単なる制動力の向上ではない。限界域でマシンを信頼できるという、「予測可能性」という名の安心感に繋がる。
そして、このすべての性能を路面に伝える最後の接点が、ミシュランと共同開発した専用タイヤ「パイロットスポーツ カップ2」である。完璧なバランスと素早い反応性を実現し、296 スペチアーレのポテンシャルを余すことなく引き出す。
ブレーキの冷却効率を高めるため、ヘッドライトと一体化した吸気ダクトの断面積を増やしたうえで直接キャリパーにエアーを導き、ディスクとパッドを冷却。ボンネットに左右非対称で穿たれた3組のルーバーはフェラーリのスペシャルバージョンを象徴するエレメントだ。
機能が宿る官能、そして結論
296 スペチアーレのデザインは、296 GTBが纏っていたエレガンスのベールを剥ぎ取り、その下にある過激な本性を露わにしたものだ。フロントマスクの攻撃性、リヤのサイドウイングの圧倒的な存在感、そして金属メッシュから覗くテクニカルなエンジンカバー。そのすべてが、モータースポーツとの揺るぎない繋がりを物語っている。
インテリアも同様に、カーボンファイバーとアルカンターラに覆われたミニマリストな空間を演出し、ドライバーをレースへと誘う。
フィオラノ・サーキットを1分19秒で周回するというタイムは、このクルマの絶対的な速さを証明している。しかし、296 スペチアーレの本質は数字の先にある。
アクセルを踏み込むたびに背中を打つ衝撃と咆哮、ステアリングを切るたびに寸分違わず反応する俊敏性、そして限界域で見せる驚くべき安定性。これらすべてが融合し、「ドライビングの興奮」というフェラーリの核となる哲学を体現している。
インストゥルメントクラスター内のタコメーター右横にカーブした専用のブーストメーターを搭載。エクストラブーストの残り回数を容易に確認できる。センタートンネルの構造部やドアパネルはカーボンを用い、軽量かつシンプルなインテリアを演出している。
オープンモデル「296 スペチアーレ A」も同時リリース
296 スペチアーレの兄弟車として、オープントップモデル「296 GTS」をベースにした「296 スペチアーレ A」もラインナップ。車名の「A」とは、イタリア語で「開いた」を意味する Aperta(アペルタ) を示唆するもの。
クーペモデルで達成された革新的なエアロダイナミクス、シャーシ性能、そして「エクストラ・ブースト」機能といった最先端技術は、オープントップ化に伴う妥協などなくすべてを踏襲。格納式ハードトップ(RHT)を備えながら、徹底した軽量化により乾燥重量は1490kgに抑えられ、パワーウェイト・レシオは1.69kg/cvという驚異的な数値を達成する。
その結果、0-200km/h加速は7.3秒、最高速度は330km/h超という、クーペに肉薄するパフォーマンスを実現。フェラーリは、オープントップならではの開放感と、サーキット直系の圧倒的な性能を両立させ、ドライビング・プレジャーの新たな頂点を定義した。
296 スペチアーレ、そして296 スペチアーレ Aは、単なる速いスーパーカーではない。それは、ドライバーとマシンが一体となり、物理法則の限界に挑むための「究極のツール」である。マラネッロの情熱が生み出したこのサーキットの化身は、間違いなく自動車史にその名を深く刻むはずだ。
296シリーズのスパイダー(オープン)モデル「296 GTS」をベースにスペチアーレへと昇華した「296 スペチアーレ A」。ベルリネッタ(クーペ)モデルの296 スペチアーレと共通のアップデートが成され、スペチアーレのハイパフォーマンスをオープンエアで満喫できる。
主な車両諸元
■フェラーリ 296 スペチアーレ〈296 スペチアーレ A〉
全長4625mm、全幅1968mm、全高(車両重量の状態)1181mm、ホイールベース2600mm、乾燥重量1410kg〈1490kg〉、排気量2992cc、V型6気筒ツインターボ・ガソリンエンジン+ハイブリッド・システム、エンジン最高出力700cv(515kW)/8000rpm、エンジン最大トルク755Nm/6000rpm、eDriveモード最高出力154cv(113kW)、バッテリー容量7.45kWh、システム最高出力880cv(648kW)、トランスミッション8速デュアルクラッチ F1 DCT、最高速度330km/h、0-100km/h加速2.8秒、0-200km/h加速7.0秒〈7.3秒〉。
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