![〈不滅の国産車黄金伝〉カワサキ ゼファー[1989-2009] いま振り返る“西風”の進撃(1)](https://young-machine.com/main/wp-content/themes/the-thor/img/dummy.gif)
400ccクラスに4気筒のネイキッドモデルが復活する…とヤングマシンでは予想している。そうなれば、1990年代に巻き起こった400ネイキッドブームが再燃するかもしれない。そこでブームの立役者となった「ゼファー」を今一度振り返りたい。はたして何が革命的だったのか。本誌秘蔵アーカイブによる当時の熱気とともにプレイバックしよう。
●文:沼尾宏明(ヤングマシン編集部) ●写真:YM Archives
バイクは性能だけじゃない。大胆に温故知新を貫いた
1馬力でも高く、0.1秒でも速く…。1980年代後半、そんな熱狂にライダーは身を焦がしていた。レースでの勝利を至上命題にしたレーサーレプリカが世に溢れ、サーキットや峠道が賑わった時代である。
セールスにおいても、1980年代前半はZ400FX/XJ400/CBX400Fなど現代で言うネイキッドが占めていた。しかし、1985年にヤマハからTZR250が発売されると、フルカウルのレプリカ人気が加速。2ストローク250ccでは決定版のNSR250Rがデビューし、1988年のベストセラーに君臨する。
400ccクラスには4ストレプリカがひしめき、CBR/VFR/FZR/GSX-Rが覇を競い合った。こうして当時はセールスもラインナップもほぼレプリカ一色に。とくに400はフルカウルに水冷エンジン+アルミフレーム、自主規制上限59psのマシンが並んでいた。
だが、車両価格の高額化が進むと同時に、スペック優先の高性能主義に付いていけないライダーも増えていく。ライディングポジションが前傾で気楽に走れない、スタイルは未来的なフルカウルばかり。もっとシンプルでカッコよく、それでいて自由に乗れるバイクはないか…!?
そんな空気を鋭敏に捉えたのがカワサキだった。1989年4月に送り出された「ゼファー」は、フルカウル全盛の最中、時代に逆行したかのような剥き出しの空冷直4にアップハンドル/丸眼ヘッドライト/リヤ2本サスペンションという普遍的なバイクらしい姿をしていた。車名に排気量表記もない。最高出力は400クラスの常識である59psに対し、46psだった。
そして、水冷400レプリカが70万円前後だった当時としては破格の52万9000円で登場した。しかしながら、ゼファーの船出は実に静かだった。当時としては異色のモデルだっただけに、2輪ジャーナリストや速さを求めるライダーからは「ファッションバイク」「時代遅れ」と揶揄され、「これは売れない」と断言する関係者も多かったと聞く。
しかし一般ライダーの目線は違った。入手困難になるほどの人気で、1989年は販売期間が短かったにもかかわらず、クラス2位の販売台数に輝き、翌1990年にはクラストップを記録。1990年末までに2万台超を販売した。
【KAWASAKI ZEPHYR(1989)】主要諸元■全長2100 全幅755 全高1095 軸距1440 シート高770(各mm) 車重177kg(乾燥) ■空冷4スト並列4気筒DOHC2バルブ 399cc 46ps/11000rpm 3.1kg-m/10500rpm 変速機形式6段リターン 燃料タンク容量15L ■ブレーキF=Wディスク R=ディスク ■タイヤF=110/80-17 R=140/70-18 ●発売当時価格:52万9000円
【同メーカーの400同士で15万円も安かった】1989年当時、カワサキのレプリカであるZXR400は68.6万円で、59psの水冷エンジン+フルカウル+アルミフレームに倒立フォークと超豪華。46ps空冷ユニットなどシンプル装備のゼファーは約15万円も安かった!
市場のニーズを読み、妥協なく市販化へ繋げる
――実は筆者もゼファーに魅せられたひとりだ。1989年に18歳だった私は、バイクに乗りたいけどレプリカは高額で手が届かない。加えて、往年のZ1/Z2やZ400FXなどに憧れがあった。そんな中、ゼファーはまさにドンピシャ。中古だったが初期型を購入したのだ。
それにしても、ゼファー以前にCB-1などのネイキッドが登場していたがヒットせず、なぜゼファーだけ圧倒的な支持を獲得できたのか?
それは“ゼファーが妥協しなかったから”というほかない。ゼファー以前のネイキッドは、レプリカからカウルを剥ぎ取り、走りもルックスもスポーティー路線を引きずっていた。
一方のゼファーは徹底していた。スタイルは本格レトロ路線。流線的なZ1/Z2の特徴をリファインした王道フォルムを入念に造り出した。DOHC2バルブエンジンはベースだったGPz400Fの54psよりもあえてダウン。急かされず、ビギナーでも扱いやすい特性を狙った。
いずれもレプリカ全盛時代に投入されたバイクとしては実に野心的であり、挑戦的なコンセプトだ。
世間のニーズは読めても、時代と逆行した製品を実際に市販化することは難しい。ゼファーは、独自の道を貫いた結果の貴重な成功例である。カワサキの慧眼と大胆さは、後世にもエポックな製品を送り出すことになるが、これは別稿に譲ろう。この年を境にレプリカ市場は縮小し、ネイキッド時代が幕を開ける。奇しくも元号が昭和から平成に変わった年の出来事であった。(続く)
1989年に突如現れたゼファーは、当時から見てもタイムスリップしたかのような先祖帰りした1台。しかし数値に表れないものを追求する、古くて新しいバイクだった。
【同期400NK BEFORE】みんな次を模索中
ゼファーが登場する1989年前後、各メーカーもレプリカに代わる次のマシンを模索していた。レプリカを基盤としたネイキッドや、オフ車ベースの心臓を抱く単気筒モデルが登場したものの、ゼファーほど振り切ったレトロさはなく、多くは短命に。
【HONDA CB-1】CBR400RRベースの水冷直4を専用の鋼管フレームに搭載。丸眼1灯にリヤモノサスなど、近未来的な装いとスポーティーな走りが自慢だ。●発売当時価格:64.6万円
【SUZUKI BANDIT400】GSX-R400由来の59ps水冷直 4をトレリスフレームに積み、流麗なスタイルと鋭い走りが特徴だ。翌年に可変バルブタイミングのV(写真)も登場。●発売当時価格:59.5万円
【YAMAHA SRX-4】オフ車 XT400の空冷単気筒を抱き、SR400の次世代機として登場。美しい和のデザインが好評だったが、よりレトロなSRが生き残った(写真は1988年式)。●発売当時価格:51.8万円
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