
2024年シーズン、全日本ロードレース選手権ST1000クラスとアジアロードレース選手権(ARRC)ASB1000クラスという2つのシリーズにフル参戦した國井勇輝が見事ダブルタイトルを獲得! 2つのタイトルを手土産に2025年シーズンは、再び世界にチャレンジする。12月7日・8日にARRC最終戦を終えたばかりの國井に話を聞いた。
●取材/文:ヤングマシン編集部(佐藤寿宏) ●写真:佐藤寿宏、ARRC、クシタニ ●取材協力:クシタニ
全日本ST1000とASB1000の両カテゴリーを制す!
アジアロードレース選手権(ARRC)最終戦タイで劇的な展開でチャンピオンを決めた國井勇輝。日の丸を掲げてウイニングランを行った。
開幕2連勝を飾り、常にポイントリードし最終戦を待たずにチャンピオンを決めた全日本ST1000クラスに比べ、ARRC ASB1000クラスは、ポイントリーダーとして最終戦を迎えていたものの2番手のアンディ・ファリド・イズディハールには2ポイント差しかなかった。
「どちらかが前でゴールすればチャンピオンという状況でしたが、ただレースをするだけではなくプレッシャーを感じながら12月の最終戦を迎えていました。ただ、それもレース1までで、3位になってしまったことで状況がひっくり返ってしまったので、自分的には、そこで吹っ切れたというかチャンピオンシップを考えるよりは、レース1の悔しさを払拭するためにも勝つことだけを考えました」
レース1は、代役参戦の長島哲太に押し出される形で一時は6番手まで後退。そこから追い上げて3位に入ったものの、アンディが優勝したため、逆に7ポイントのアドバンテージを許してしまっていた。國井が優勝してもアンディンが2位になればチャンピオンを獲ることはできない状況となっていた。
レース1で吹っ切れたプレッシャー
かくして勝つことだけに集中した國井は序盤の混戦を抜け出すとトップを独走し優勝。2位に長島が入り、アンディが3位となったため、ASB1000クラスのシリーズチャンピオンを獲得した。
「レース1があったからこそ、勝つことだけに集中できました。もちろんマシンの状態は最高でしたが、今回は周りのみんなもよい状態で、特にアジアチーム(Honda Asia-Dream Racing with Astemo)の3台は速かったですね。自分が仕上がっているなら、みんなも同じなんだなと思っていました。レース1で長島選手との件があってポジションを落とした際も、必死に追い上げましたし、最後まで絶対に諦めない気持ちで走ったことが3位につながりました」
全日本ST1000とARRC ASB1000という2つの王者となった國井。展開的には、ASB1000の方が劇的だったが、どちかがうれしいというよりも、12月まで長いシーズンを戦い切ったという安堵の方が大きかったと言う。
「もちろんチャンピオンになれたことはうれしいですが、やり切ることができた達成感と、無事に終えることができた安堵、そして結果で応援してくださった皆様に応えることができたのが、よかったですね。これもチームやSDGの柏木社長を始め、手厚いサポートをしてくださった皆様のおかげです。全日本とアジア、両方獲るのはなかなかできることではないですから」
全日本ST1000クラスでは、初戦のもてぎで優勝。2戦目のSUGOでも連勝しハルク・プロ通算100勝目を記録。オートポリスのレース2、そして岡山で勝ち、最終戦を待たずにタイトルを決めた。
初めてMoto2マシンを走らせる
國井は、2020年、2021年とMotoGPロードレース世界選手権Moto3クラスにフル参戦したが、結果を残すことができずシートを失う。2022年は全日本ST600、そして2023年はST1000クラスに参戦したが、鈴鹿8耐を前にトレーニング中のケガでシーズン半分を欠場する悔しさも味わった。そのとき國井の代役として鈴鹿8耐に出場したのが、当時ASB1000クラスを戦っていた埜口遥希だった。埜口は、急きょ代役参戦が決まったにも関わらず、初参戦の鈴鹿8耐で期待以上の走りを見せて表彰台に上がっている。國井は、その姿を見てうれしくも悔しい思いをしたが、その翌週に行われたARRCインドネシアラウンドで、不慮の事故で埜口は亡くなってしまう。
2024年シーズンのASB1000クラスは、埜口が果たせなかったタイトル獲りという想いもあった。チャンピオンを獲った際「はるきに見せつけたいです笑!」というSNSへの書き込みもあった。埜口も8耐のときの國井のように、うれしくも悔しがっていたに違いない。
全日本とアジアで王者を獲得し世界に戻るチャンスを引き寄せた國井。日本のレース界にとっても、その活躍に注目が集まる。
そして、2025年シーズン、國井は再び世界の舞台に立つことになる。チームは、かつて所属したIDEMITSU Honda Team Asia、クラスはMoto2となる。
「マシンもタイヤも初めて乗ることになりますし、見ている限りでは、すごく難しいクラスだと思います。ただ、そこで小椋藍選手が世界チャンピオンになっていますし、日本人ライダーでも戦えることを証明しています。それに続くというわけではないですが、まずは自分自信がやれることを、しっかりやっていきたいですね」
まだMoto2マシンには乗っていないが、チームに戻ってきた國井に青山博一監督は、どんな期待をしているのだろうか。
「勇輝は、もともとウチのチームにいましたし世界選手権は初めてではないですからね。コースもチームも環境も分かっているので単なるルーキーではないので期待しています。全日本ST1000とARRC ASB1000と両方チャンピオンを獲れたことは、多くのことを勉強し成長している証拠なので、その経験を生かして勇輝の速さをアピールして欲しいですね。その先につながるシーズンにしてもらいたいですし、アジアの代表として、どこまでいけるか楽しみです」と青山監督。
國井がMoto2マシンに初めて乗るのは、2025年2月12日・13日のポルトガル・ポルティマオのテストとなる。
『小椋選手からはST1000のマシンに近いと聞いていますが、ピレリタイヤも初めてですし、Moto3でタイトル争いをした佐々木歩夢選手が苦労しているのを見ていると、そう簡単に優勝とかチャンピオンとか口にするのは現実的ではないと思っています。もちろん最初から負ける気はないですし目標ではあるのですが、まずはバイク、タイヤを理解して自分の力を出せるように努力することが先決で、その過程でポイント獲得をまずは目指したいですね」
史上最多となる22戦が予定されている2025年シーズン。まずは2月のポルトガルで初乗りを行い、スペイン・ヘレスのオフィシャルテストでポジションが見えてくるはず。その後、先日ASB1000のチャンピオンを決めたばかりのタイ・ブリラムで2月28日~3月2日に行われる開幕戦に挑むことになる。再び世界にチャレンジする國井がどんな走りを見せてくれるのか!? ぜひ注目して欲しい。
國井勇輝・くにい ゆうき(2003年2月18日生まれ 東京都出身)
4歳からポケバイに乗り始めミニバイクにステップアップ。2015年に12歳でロードレースにデビュー。IDEMITSU ASIAタレントカップ、レッドブルルーキーズカップ、FIM CEV Moto3ジュニア世界選手権を経て、2020年からMotoGPロードレース世界選手権Moto3クラスにフル参戦。2021年はランキング25位となったがシートを失う。2022年から全日本ロードレース選手権ST600クラスに参戦し、2023年はST1000にスイッチ。2024年はST1000とアジアロードレース選手権(ARRC)ASB1000のダブルタイトルを獲得した。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(レース)
この1枚の写真、どこかに違和感を感じませんか? さて、この1枚の写真、どこかに違和感を感じませんか? アレっと思ったそこのアナタ、鋭い! そして、かなりのマニア(ぴったんこカンカン)です。[…]
ミルとガードナーのマネージャーが一緒! 親友ラバトも被るカブトとの縁 マーケティング戦略に関わるサポートライダーとの契約は、綿密な計画に基づいて進められると考えられますが、今回のジョアン・ミル(ホンダ[…]
拍子抜けするぐらいのスロットルの開け方で加速 マレーシアテストレポートの第2弾。まずはシェイクダウンテストからいきなり速さを見せた、小椋藍選手について。本人は「ブレーキングが課題」と言っていたが、ブレ[…]
伸び伸びとテストできるサテライト、開発が大変なファクトリー 前回は、「自分に合ったマシンを作ってもらえるかどうか」という話からずいぶん脱線してしまいました(笑)。「自分に合ったマシンを作ってもらえるか[…]
オートレース宇部 Racing Teamの2025参戦体制 2月19日(水)、東京都のお台場にあるBMW Tokyo Bayにて、James Racing株式会社(本社:山口県宇部市/代表取締役社長:[…]
最新の関連記事(モトGP)
いよいよスズキの大逆襲が始まるかもしれない! スズキを一躍、世界的メーカーに押し上げたカリスマ経営者、鈴木修氏が昨年の12月27日、94歳で死去し騒然となった。そんな年末に、海外二輪メディアのMCNが[…]
拍子抜けするぐらいのスロットルの開け方で加速 マレーシアテストレポートの第2弾。まずはシェイクダウンテストからいきなり速さを見せた、小椋藍選手について。本人は「ブレーキングが課題」と言っていたが、ブレ[…]
伸び伸びとテストできるサテライト、開発が大変なファクトリー 前回は、「自分に合ったマシンを作ってもらえるかどうか」という話からずいぶん脱線してしまいました(笑)。「自分に合ったマシンを作ってもらえるか[…]
1発のタイムは狙っていない、それでもマルクはチャンピオン争いの中心になりそうな気配 今年のMotoGPは、多くの移籍によりライダー/チームのラインナップが大きくシャッフルされており、本当に楽しみです。[…]
イケてるマシンはピットアウトした瞬間にわかる 今年も行ってまいりました、MotoGPマレーシア公式テスト。いや〜、転倒が多かった! はっきり認識しているだけでも、ホルヘ・マルティン、ラウル・フェルナン[…]
人気記事ランキング(全体)
さらなる軽快な走りを求めて仕様変更 ホンダは、前21/後18インチホイールの250ccトレールバイク「CRF250L」「CRF250 RALLY」をマイナーチェンジ。カラーリング設定と仕様を一部変更を[…]
いよいよスズキの大逆襲が始まるかもしれない! スズキを一躍、世界的メーカーに押し上げたカリスマ経営者、鈴木修氏が昨年の12月27日、94歳で死去し騒然となった。そんな年末に、海外二輪メディアのMCNが[…]
そもそも”アメリカン”バイクとは? 一般にクルーザーとも呼ぶが、車体の重心やシート高が低く、長い直線をゆったり走るのに適した設計のバイク。ハーレーダビッドソンなどのアメリカ車に代表されることから、アメ[…]
根強い人気のズーマー 2000年代、若者のライフスタイルに合ったバイクを生み出すべく始まった、ホンダの『Nプロジェクト』。そんなプロジェクトから生まれた一台であるズーマーは、スクーターながら、パイプフ[…]
V3の全開サウンドを鈴鹿で聞きたいっ! ここ数年で最も興奮した。少なくともヤングマシン編集部はそうだった。ホンダが昨秋のミラノショーで発表した「電動過給機付きV型3気筒エンジン」である。 V3だけでも[…]
最新の投稿記事(全体)
Q:雪道や凍結路は通れるの? チェーンやスタッドレスってある?? 一部の冒険好きバイク乗りと雪国の職業ライダー以外にはあまり知られていないが、バイク用のスノーチェーンやスタッドレスタイヤもある。 スタ[…]
スマートライドモニターがスマートフォン化! 2023年、業界に先駆けて登場した、Akeeyoのスマートライドモニター「AIO-5」。その後継機となるAIO-6が、2025年3月末からクラウドファンディ[…]
レトロな容姿になってもやっぱり走りはイマドキ 2024年の全日本ロードレース選手権最終戦で、鈴鹿サーキットに対する苦手意識をようやく克服しました。日曜日朝のフリー走行で、走り方の意識を変えたことがその[…]
サイドスタンドを取り外してハンドル切れ角を制限するサーキット仕様車両への最適解 ツーリングやワインディングを走るのはバイクの代表的な楽しみ方ですが、スポーツライディングの選択肢のひとつにサーキット走行[…]
ヨーロピアンスクーターの老舗ブランド・ランブレッタ 1947年にイタリアで最初のスクーターを発表したランブレッタ。1970年代にイタリア労働争議の嵐に巻き込まれ工場を閉鎖するも、根強いファンによってコ[…]
- 1
- 2