
待ちわびた「暫定税率の廃止」がついに実現の方向へ進むことになりました。50年近くも前の「当分の間税率」なんていうふざけた名前のガソリン税に対し、一定の決着を見ることができそうです。さらに消費税も上乗せするという意味の分からない状況もどうにかしてほしいものですが……。
●文: Nom(埜邑博道)
一度掴んだ税金は離さない! というお役所論理は、もういいでしょう
12月20日に与党(自民党と公明党)が取りまとめた「令和7年度税制改正大綱」の「令和7年度税制改正大綱の基本的な考え」の3ページ目に「いわゆる『ガソリンの暫定税率は、廃止する。』」という一文が明記されました。
連日、さまざまなメディアで報道されているのでみなさんもすでにご承知だと思いますが、先の衆議院選挙で大きく議席を伸ばして政策のキャスティングボートを握った国民民主党が主張した「トリガー条項」の廃止(=暫定税率の廃止)に与党が対応してこの文章が明記されることになったのです。
あらためてトリガー条項について説明すると、ガソリン価格はガソリン本体の価格に53.8円/Lの税金が加えられていますが、本来の税金である28.7円/Lに1974年から道路整備計画の財源不足に対応するための暫定措置として25.1円Lの「当分の間税率」(=暫定税率)が加算されています。
そして、2010年にはこの特別措置法を改正して、期限を定めずに当分の間、特例税率として53.8円/Lの税率を維持することと、レギュラーガソリンの3か月の平均小売価格が160円を超えた場合(現在はこの条件に当てはまります)は、特例税率の適用を停止する仕組み=「トリガー条項」も設けられたのですが、2011年に起きた東日本大震災の復興財源に充てることを理由として、現在はこのトリガー条項は凍結されています。
野党各党は、これまでも25.1円の税金が上乗せされるトリガー条項の廃止を訴えてきましたし、日本自動車連盟(JAF)も2022年2月7日に「当分の間税率の廃止」とガソリン税に消費税が上乗せられている「Tax on Tax」の廃止を迫る声明を発表しています。
ガソリンは本来の税率と比較して1.9倍に。軽油に至っては、元々の税率が低いとはいえ2.1倍になってしまっている。
上乗せ税率分と二重課税を廃止し、本来のガソリン本体価格に10%消費税を掛けた後に28.7円のガソリン税を足すと、170.9円が140.46円と30円以上安くなる。補助金を出すよりも確実な価格抑制効果があるはずだ。
ご存じのように、ガソリン価格は長い間、高騰していて、政府はそれに対して全国のガソリン価格が170円/L以上になった場合、1Lあたり5円を上限として石油元売り会社に補助金を支給する施策を2022年1月から行っています。
ただその補助金も、ご存じのようにこの12月19日から1Lあたり5円引き下げられ、レギュラーガソリンの小売価格は180円/Lになると予想されていて、来年1月16日以降はさらに1Lあたり5円縮小されて185円/Lにまで上昇することが予想されています。
もし凍結されているトリガー条項が発動されたとしたら、12月19日以降は154.9円/L、1月16日以降は159.9円/Lになるのですから、補助金の支給よりも確実にガソリン価格を押し下げる効果があります。
ではなぜ、政府はトリガー条項の解除(暫定税率の廃止)を頑なに拒み、支給総額が6兆円を超えるという補助金で対応しているのか。
以前、鈴木財務大臣が「トリガー条項を解除すれば1.5兆円の財源が必要になる」と解除しない理由を述べていて、石油元売り各社に支給している補助金が6兆円超になるのを許容してまでも解除による1.5兆円を手放さない、つまり一度掴んだ税金(省益と言ってもいいでしょう)はそれが合理的ではなくとも決して離さないという官僚独特の論理に基づいていると言われています。
なんとまあ、いわゆるお役所的な発想で我々国民が負担を強いられてきたわけですが、今回、与党の税制改正大綱に「暫定税率は廃止」と明記されたのですから、1Lあたり25.1円の減額は実現することになるでしょう。
国民民主党は来年度からの廃止を主張するが政府関係者からは再来年度に議論との声も
ただ、暫定税率がいつから廃止されるのかはまだ非常に不透明です。国民民主党は来年度からの廃止を強く主張していますが、政府内には来年度からの廃止は困難で、再来年度(令和8年・2026年)の税制改正で議論するという声も出ているようです。
暫定税率を廃止することによる国と地方税合わせて約1兆5000億円にのぼるといわれる税収減をどうやって補うかが課題で、これに関しての議論はまだこれからという状態。
そんな状況のもと、国民民主党が主張するように来年度からの廃止が実現するかどうか。来年1月からの国会での税制改正審議がどのように進むのか、バイク/クルマユーザーは注視していくとともに、早期の廃止を訴えていきたいところです。
新基準原付の地方税はこれまでの原付と同じ2000円に
そしてもうひとつ、バイクユーザーにとっての朗報があります。
来年から登場することになった新基準原付の地方税に関してで、現在は2000円の原付の地方税は125㏄以下になった新基準原付の場合、現在の125㏄以下の地方税・2600円になるか、あるいは二輪業界が強く主張してきた、あくまでも「原付」なので従来通りの2000円を維持するべきかが議論されていましたが、与党大綱に「〈軽自動車税種別割〉原動機付自転車のうち、二輪のもので、総排気量が 125cc 以下かつ最高出力が4.0kW 以下のものに係る軽自動車税種別割の税率を 2000 円とする。」と明記されました。
この改正案に関して野党の反対はないでしょうから、来年4月から道交法が改正されて、125㏄以下・最高出力4.0kWまでと定義された新基準原付にまつわる諸課題のひとつが解決することになります。
この新基準原付に関しては、・各メーカーから登場するはずの新基準原付はどんなモデルで、価格はいくらになるのか ・現在、原付(50㏄)用に整備されている街中の駐車場に125㏄以下の新基準原付は駐車可能なのか(後日、このコラムで詳しく解説する予定です)、という課題も残りますが、まずはひとつ前進というところですね。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([連載] 多事走論 from Nom)
大型連休の休日割引除外から、年間すべての3連休へ除外対象を拡大 4月から始まる’25年度は、GW、お盆休み、年末年始およびシルバーウイーク(昨年度から追加され、’25年度は9月13日(土)~15日[月[…]
ガソリン価格が過去最高値に迫るのに補助金は…… ガソリン代の高騰が止まりません。 全国平均ガソリン価格が1Lあたり170円以上になった場合に、1Lあたり5円を上限にして燃料元売り業者に補助金が支給され[…]
新基準原付 2025年、バイク界に起こる最大の変化は従来の50cc原付(=原付一種)に代わって登場することになった「新基準原付」でしょう。 従来の50cc原付が、今年の11月から施行される排ガス規制に[…]
持ち株会社を設立し、ホンダと日産、さらに三菱自動車も加わる? ホンダと日産が経営統合するという話が、12月18日からTVのニュースやワイドショーで大きく取り上げられています。 両社は、今年の3月に自動[…]
アクアライン上り線の混雑時間帯の料金が1600円に! 2025年4月から新料金制を導入 12月3日に開催された「第4回東京湾アクアライン交通円滑化対策検討会」において、令和7(2025)年4月からアク[…]
最新の関連記事(交通/社会問題)
原付バイク安全運転スキルアップ講習会について 本講習会は原付バイクに特化した安全運転講習会で、原付利用者の交通安全意識と安全運転技能の向上を図り、交通事故を防止しようという狙いで2024年から開始され[…]
熊本市繁華街、バイク駐車場の実態 熊本一の繁華街である下通(しもとおり)商店街の周辺を歩いたが、目につくのは自転車駐輪場への125cc以下の受け入れが進んでいること。とくにアーケードから1本入った路地[…]
大型連休の休日割引除外から、年間すべての3連休へ除外対象を拡大 4月から始まる’25年度は、GW、お盆休み、年末年始およびシルバーウイーク(昨年度から追加され、’25年度は9月13日(土)~15日[月[…]
都市部では今や日常的に見かける「特定小型原動機付自転車」 運転免許不要で公道上を走ることのできる新カテゴリー「特定小型原動機付自転車(以下、特定小型原付)」が注目されて久しい。 2023年の法改正で特[…]
ある日のこと。街をぶらぶら歩いていると路肩に駐車されている、YAMAHAドラッグスターを見つけました。「やっぱりアメリカンはかっこいいな」と足を止めて見ていたところ、そこに警察官が来て駐禁ステッカーを[…]
人気記事ランキング(全体)
タイホンダ創立60周年を記念したスペシャルエディション 特別仕様車の製作に旺盛なカブハウスは、タイホンダの創立60周年を記念した「New Monkey Chrome Legacy Limited Ed[…]
ヤンマシ勝手に断言。これでレースに出るハズだ!! 「CB1000Fコンセプト モリワキエンジニアリング(以下モリワキCB)」は、見ての通り、ホンダCB1000Fコンセプトをレーサーに仕立てたカスタムモ[…]
Q.猛暑も過ぎようやくツーリングへと出かけたのですが、曲がり角やカーブのたびにハンドルを重く感じて、内側に切れるのを左手で支え疲れ果てました。これまで快適に乗れていた愛車が、わずか2ヶ月乗らずにいたら[…]
子供の夢を、ホンダが大人げないほど本気で作る この「ホンダコライドン」は、内部のモーターや駆動用タイヤによって走行が可能な電動モビリティ。手足/首/顔も可動としてゲーム上の動きの忠実な再現を目指し、子[…]
2機種/3+2グレードで構成されるインド仕様 ホンダモーターサイクル&スクーターインディア(HMSI)は、日本でGB350シリーズとして販売され人気の空冷単気筒バイク「H’ness CB350(ハイネ[…]
最新の投稿記事(全体)
“PLUS”=HondaGOの有料制会員プログラム HondaGOバイクレンタルやHondaGOバイクギアなど、さまざまなサービスを提供するHondaGO。そのサービスをひとつのアカウントで利用できる[…]
110ccベースの4kW制限モデル=新基準原付 2025年11月の新排出ガス規制導入によって50cc原付・現行モデルの継続生産が困難になり、新たに110~125ccのモデルをベースとした車両に4kW([…]
2024年にモデルチェンジ&Y-AMT仕様追加、最新カラーは1色のみ入れ替えで登場 ヤマハは、2024年4月・9月に発売した新型「MT-09」「MT-09 Y-AMT」に新色のマットライトグレーを追加[…]
まず車間が変わることを理解しておこう! ツーリングでキャリアのある、上手なライダーの後ろをついてゆくのが上達への近道。ビギナーはひとりだと、カーブでどのくらい減速をすれば良いかなど判断ができない。そう[…]
ラインナップ豊富な新生KLX230シリーズ カワサキは、KLX230シリーズをモデルチェンジするとともに、KLX230Sとしては3年ぶり(その他の無印やSMは2~5年ぶり)に復活させた。 KLX230[…]
- 1
- 2