
ホンダは、10月13日に開催の全日本トライアル選手権の第6戦 和歌山・湯浅大会に参戦する電動トライアルバイク「RTL ELECTRIC(アールティーエル・エレクトリック)」の詳細を公開するとともに、ライダーの藤波貴久さんの公開取材会を行なった。
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:ホンダ ●外部リンク:ホンダ
元世界チャンピオンが全日本トライアルに参戦、先行して参戦しているヤマハに挑む
ホンダが開発中の電動トライアルバイク「RTLエレクトリック」で、藤波貴久さんが全日本トライアル選手権に参戦する。そんなニュースをお届けしたのは9月中旬のことだったが、いよいよ今週末の10月13日に迫った全日本トライアル選手権の第6戦 和歌山・湯浅大会。さらに今大会を含む残り3戦すべてに参戦することを目論んでいるという。
週末を前にした今日、ホンダはレプソルホンダチームの監督も務める藤波貴久さんと、RTLエレクトリックの開発責任者である斎藤晶夫さんのメディア向け取材会を開催。まだ言えないことは多いとしながらも、マシンのポテンシャルについて語ってくれた。
開発ライダーを務め、全日本選手権に参戦予定のフジガスこと藤波貴久さんは、2021年までトライアル世界選手権でライダーとして活躍し、2004年には市日本人として史上初にして唯一のチャンピオンを獲得。2021年シーズン限りで現役を引退し、翌2022年からは絶対王者トニー・ボウ選手を擁するレプソルホンダチームの監督を務めている。開けっぷりのいい走りから“フジガス”の異名を持つレジェンドライダーだ。
以下は敬意を込めてフジガスと表記したい。
フジガスが初めてRTLエレクトリックに乗ったのは今年の5月だといい、その際にはまだトライアル的な走りができないという制限付きだったもののパワーなどのポテンシャルを確認。翌6月にはトライアルの走りを試し、その後も何度か日本国内で乗って開発を進めたという。
普段はスペインを拠点に世界選手権やスペイン選手権のマネジメントを務めるフジガスだが、このたびの参戦の話が持ち上がってからはトレーニングとダイエットに励み、約10kgの減量を達成。同時にマシンも軽量化を進め、ライダーは戦闘力を取り戻し、マシンは戦闘力を高めてきた。
RTLエレクトリックの車体は、エンジン車のワークスマシン「Montesa COTA 4RT」に近い重心位置などを再現しているといい、まだ車重のハンデはあるもののエンジン車のワークスマシンに対し70~80%の戦闘力を得るまでになっているというから驚きだ。
電動トライアルバイクの強みは? という質問に対しては、「やはりゼロ発進の瞬発力と力強さ」と答える一方で、パワーの出方をいかに制御していくかが課題であり伸びしろでもあることを明かしてくれた。
左がフジガスこと藤波貴久さん。右は開発者の斎藤晶夫さんで、このプロジェクトの前はMotoGPマシンの燃料系を設計していたという。さらに元々はホンダの社員を務めながら全日本トライアル選手権IASクラスに参戦していたライダーでもある。
今はまっさらのゼロからベースを作っていく段階
このRTLエレクトリックはトランスミッションとクラッチを備えているが、エンジン車の市販バイクが5速を採用し、ワークスマシンが4速仕様と噂されるなか、エンジン車と基本的に同じ考え方で設計しているという。
電動ならではの特性は、やはり出力関連の制御が全てマッピングによるものだということ。エンジン車ならばマフラーやカムの設計で複合的に変化するが、極端に言えば「何rpmのスロットル開度○度のときにこんなパワーデリバリーが欲しい」と要求すればマッピングで対応することが可能だという。
ただし、現段階ではそもそもマッピングのベースをゼロから作っているところであり、ライダーはどういう言葉で伝えたらセッティングにどう反映されるのかといった部分も探りながら進めているようだ。
ちなみに、電動モトクロッサーのCRエレクトリックはトランスミッションとクラッチを装備しないオートマ仕様になっているが、RTLエレクトリックはこれを装備している。これは出足の部分でクラッチによる微妙なパワー制御をしたいことと、フライホイール(エンジンならクランク)をブン回してクラッチを繋ぎ、慣性力を利用して加速するというトライアルならではの走りに応えるためだ。
このあたりはまだいい所と悪い所を理解する途上だというが、大切なグリップ感もマッピングによって作れることにフジガスも驚いたという。
こちらはモーター音のするトライアル走行↓
Test test test🔋 pic.twitter.com/kW62MSbsd0
— TAKAHISA FUJINAMI 藤波貴久 (@fujigasnet) September 20, 2024
出るからには勝ちだけを狙う!
フジガスにとっては21年ぶりの全日本参戦だが、世界一の負けず嫌いを自負するフジガスだけに狙うは優勝のみ。現在はヤマハが投入した3台の電動トライアルバイク「TY-E 2.2」がランキングトップと3位、5位を占めている。ここにいきなり勝負を挑むのはいかにもホンダらしく、フジガスらしい。
かつて2ストロークから4ストロークへの乗り換えを果たしたフジガスにとって、4ストロークから電動への乗り換えはどう感じる? との問いには「別の乗り物」と答えつつも、2→4の乗り換えで感じた違いと同程度の幅で順応していけるのではと腕を鳴らす。
開発者の斎藤さんは、いずれオートマチックになるのがゴールなのかという問いに対し「目標はない。出た答えがATになるならATがゴールということになる」と回答しつつも、世界選手権の絶対王者であるトニー・ボウ選手らに『乗りたい!』と言われるマシンを作り上げたいと展望を語った。
現状のRTLエレクトリックは、具体的な数値こそ明かされなかったがワークスマシンのエンジン車よりは重いようで、満充電ではセクション群を1周できる想定になっているという。バッテリーは交換できる仕様なので、モード設定などで電費を抑えながら移動し、1ラップする毎にバッテリーを交換するという戦略になる模様だ。
今回の和歌山・湯浅大会の次はSUGO大会で、その後にはランキング10位以内に入った者だけが参戦できる最終戦が控える。もちろんフジガスはその3戦すべてに出場するつもりだというから心強い。
電動トライアルバイク「RTL ELECTRIC」
RTLエレクトリックは、これまでトライアル世界選手権でトニー・ボウ選手の18連覇に貢献してきたワークスマシン「Montesa COTA 4RT」を最高峰と位置づけ、それを上回ることを目指して開発が進められている。
RTL ELECTRIC ──詳細は明かされなかったが、マグネシウム合金製と思われるカバーの位置にはクラッチを内蔵していると思われ、その上にモーター、車体前方の黒いボックスはバッテリーだろう。この写真のみの配布だが、おそらくサブフレームを取り外してバッテリー交換をする構造。その他のスロットルやブレーキ&クラッチレバーといった操作系はエンジン車と変わらないレイアウトだ。
パワーユニット関連では、電動モトクロスバイク「CR ELECTRIC PROTO(シーアール・エレクトリック・プロト)」でも使用しているバッテリーを、トライアル用に最適化(コンパクト化している模様)して搭載。モーターはインバーター一体ユニットを採用し、将来のトライアル世界選手権参戦も視野に入れた高出力性能を目指していく。トライアルに必須のクラッチ、フライホイール、トランスミッションを搭載しているのも電動トライアルバイクならではの特徴だ。
車体は競技用トライアルバイク「RTLシリーズ」で実績のあるアルミツインチューブをベースに、フレームを新規で開発。操縦安定性と軽量化の両立を図り、最適な剛性に設定した。スイングアームもフレーム同様RTLシリーズをベースに新規で開発をしており、車体の軽量化に貢献している。そしてEV構成部品の配置を最適化することで重心位置をトライアルで最適な位置に設定し、ライダーがより意のままに操れる操作性を目指している。
ほんだは、2050年にホンダの関わる全ての製品と企業活動を通じて、また、2040年代には全ての二輪製品でのカーボンニュートラルを実現することを目指し、今後の環境戦略の主軸として二輪車の電動化に取り組んでいる。モータースポーツでも、昨年はCR ELECTRIC PROTOで全日本モトクロス選手権(JMX)にスポット参戦し、今シーズンから、電動オフロードバイクの世界戦であるFIM※2 E-Xplorer World Cupにも参戦している。今回新たなにトライアルにおいても、電動二輪車でレースに挑戦することで、さらに技術の強化を進めていくとした。
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