
初代登場時からずっと125ccエンジンを搭載しているホンダ・グロムに、ななんと250ccエンジン搭載車が現れた?! このチートマシンは初代グロム(JC61)に同じくホンダのCBR250R(MC41)用の水冷250cc単気筒エンジンをスワップしたもので、排気量は2倍、パワーはなんと約3倍!! このたび試乗機会を得たこの魔改造グロム、どんな走りを見せるのか?
●文と写真:ヤングマシン編集部(マツ) ●取材協力:京葉スピードランド
パワーは3倍!! はたしてまともに走るのか?
“エンジンスワップ”は昔から改造マニアのロマンである。エンジンを他機種用に積み替えるというカスタムは明らかに正統派ではなく、車両メーカーが構築したバランスが崩れてしまうのも否めない。それでもメーカーのお仕着せを望まず、自分だけの理想の1台を追求しようとする、その究極的な行為だからこそロマンなのだ(と思いますがいかがでしょう?)。
そして今、筆者の前にあるのはノーマルの2倍の排気量を持つ「グロム250」である。ベースは2013年に登場した初代グロム(JC61)で、本来搭載されている124ccの空冷OHC2バルブ単気筒は、同じホンダのCBR250R(MC41)用の249cc水冷DOHC4バルブ単気筒に換装され、最高出力はノーマルグロムの9.8psから29ps(ともにカタログ値)と、なんと約3倍にも達している魔改造マシンだ。そんなバイク、はたしてまともに走るものなのか?
本場アメリカでは人気スワップベース?
【ホンダ・グロム250(カスタム車)】
オーナーの鈴木政人さんによると、エンジン換装にはアメリカで発売されているマウントキットを使っており、電装系やハーネス類はMC41をそのまま流用。エンジンもMC41のノーマルだが、取り回し変更が必要な排気系や、MC41のままではフレームに干渉する吸気系は鈴木さんが自らモディファイしている。
今回はとりあえず走れるように組み上げた状態で、本格的に走らせるのはご本人も初めて。とくに最終減速はチェーンが車体に干渉したため415サイズ化(グロムは420、MC41は520)しているが、グロム用の415ドリブンスプロケは品薄だそうで、暫定的に組んだ現状の二次減速比は19✕33T。JC61グロム(15✕34T)比で言えばかなりロングに振られている。
鈴木さんによると、アメリカではグロムのエンジンスワップはメジャーらしく、ホンダCBR500RやヤマハMT-07のパラツインを積んでいる例もあるという。それと比べればキットがあるMC41換装は普通なのかもしれないが、それでも日本に存在するグロム250は両手の指に満たないだろう(その後、筆者がお世話になっている和光2りんかんさんで、同様のスワップマシン(しかも公道仕様)を2台もパワーチェックしていることが判明しました)。
初代グロム(JC61)に、CBR250R(MC41)用の水冷単気筒をスワップ。車体に対するエンジンの大きさはおかしいものの(笑)、割と違和感なく収まっている?! 車体はJC61のスタンダードだが、フロントフォーク内部パーツとリヤショックはシフトアップ製のパーツでグレードアップされている。
エンジン本体はMC41のノーマルをそのまま搭載。センターアップに変更された排気系は鈴木さんによる自作品で、吸気系もMC41のままではフレームと干渉するため、これも鈴木さんが取り回しを変更。この位置にパワーフィルターが露出する。
エンジンマウントはアメリカのCHIMERA ENGINEERING製のスワップキットを使用(グロムだけでなくモンキー125にも使用可)。同社は削り出しのインマニやラジエターなど、CBR250R/300R用エンジンをグロムに搭載するためのパーツを多数用意している。
スロットル周辺はMC41のままだとフレームに干渉するため、シリコンホースで向きを変えて暫定的に装着される。補助メーターで見えにくいが、計器類もMC41のノーマルを使用している。
違和感ほとんどナシ。これがノーマルでもいいぐらい?
今回はご縁あって試乗の機会をいただいたのだが、車両は完成したばかりで今回がほぼ初走行。当然ナンバーもないので千葉県長生郡のミニバイクコース・京葉スピードランドでの試乗となった。ちなみに筆者は学生時代、NSR50でお遊びレースに出たりしていた経験はあるものの、12インチのミニバイクでサーキット走行するのはほぼ30年ぶり。しかも京葉も初走行である。
まずはノーマルの感触を掴もうと、やはり鈴木さんが所有する2代目グロムでコースイン。とはいえこちらも164cc化を筆頭にカスタムされていてかなり速く、かつ安心感もあって1周650mの京葉スピードランドを楽しく走れる。先述のとおり、筆者はかなり久々のサーキット走行だったが、それでも楽しめたのはグロムの扱いやすさに負うところが大きいと思う。
そしてグロム250に乗り換える。またがって車体を左右に振るだけでも、換装されたエンジンの重量感がずっしりと伝わってくる。ノーマルのグロムで同じことをしてもほとんど重さは感じないが、そこは水冷250cc。エンジン単体重量は空冷125ccよりかなり重いはずだ(鈴木さんによれば「+10〜15kgぐらいかな?」とのこと)。
しかし、違和感と言える違和感はほぼそれだけだった。コースインしてまず感じるのは、164ccグロムに対する圧倒的なトルク感だ。どこから開けてもタタタタッと明瞭な鼓動感を放ちつつ、車体がぐぐぐっと前に進む。京葉のコースでは3速だけでもそこそこ走れてしまうほどで、30年ぶりのリターンミニバイカーにはグロム164よりむしろ走りやすいほどだ。
でも全開にしたらさぞアブナイんじゃないの…と思いきや、ズ太いトルク感をそのままに車速がグングン高まっていくようなフィーリングなので、身構えるような怖さがほとんどない。エンジン特性がある回転域からビュッと立ち上がるような、二次曲線的な特性ではないことが大きいのだと思うが、数周もするとアクセル全開、レブリミッターまで引っ張れるようになってしまった。
後続を確認しつつ、1速でゼロ発進からの全開加速も試してみたが、フロントが浮きまくってヤバい…といった危うさもない。このへんは二次減速比(繰り返すが現状は暫定)も関係するから、ショートに振ればウイリーマシンにも仕立てられるのだろうが、そんな潜在能力を忘れるほど普通に乗れてしまう。黙って乗せたら「やたらトルクのあるグロムですね」と、エンジンスワップに気づかない可能性すらありそうだ。
思いのほか走りやすいグロム250。開ければどこからでも前に進むため、テスター(筆者)のしょぼいスキルも助けてくれる。
車体も、少なくともミニバイクコースのスピード領域では何の問題も感じられなかった。加速時にハンドルが取られたり、リヤタイヤが激しくスライドなんてこともない。シフトアップ後にスロットルを急開するとかなり強くドンツキが出て車体姿勢が乱れるが、これはエンジン側の制御などの問題だろう。
さらに驚いたのがハンドリングで、走り出すとグロム164と感覚的にほとんど変わらないのだ。不思議なことに、またがったときのようなエンジンの重さも感じない。これは仮説なのだけど、換装されたMC41エンジンはかなり前傾して積まれているので、結果的に横型シリンダーのノーマルグロムに近い重心位置や重量配分になっているのでないか。
というわけで魔改造なグロム250は拍子抜けするほど乗りやすく、バランスの悪さもとくに感じない…という、意外にもほどがありすぎる展開になってしまった。しまったのだが、だからこそ逆に、頭の中でムクムクと広がってくる妄想があった。このパッケージには可能性があるのではないか?
予想外の好バランスに、思わず妄想が膨らむ!
古くはYSR50やNSR50、現行車で言えばグロムを筆頭にモンキーやダックスといった12インチホイール車って、小型軽量で足着き性も良好と、基本的な特性として誰にでも乗りやすいフレンドリーさを備えている。しかし排気量は大きくても原付二種の枠に留まっており“ミニバイク”という枠からは逸脱できずにいる。
ここに250ccクラスのエンジンを搭載すれば“新種”が作れるのではないか? 排気量に少し余裕を持たせて低速型に味付けすれば、手軽さを保ったまま高速にも乗れるツーリングバイクにもできるし、ギヤ比やエンジン特性の設定次第では、250ccにもかかわらず全開加速でフロントが浮くぐらいの、ちょい過激なライトウェイトスポーツにもチューニングが可能なのではないか?
12インチ車も250cc車も、そもそもが高価な機種ではないうえに、基本的にあり物の組み合わせで済む。排ガス規制もベース車でクリア済みだし、小型軽量で排気量がそう大きくないのもイマ風だ。インドあたりで200ccクラスのモーターサイクルがトレンドになりつつあると聞けば、マーケットもありそうに思える…。
素人にもかかわらず、偉そうについそんなことを考えてしまったのも、単純にグロム250が面白かったから。過去に乗ったどんなバイクにも似ていないから走らせていてとても新鮮で、かといって命や免許が危うくなるようなモンスターでは全然ない。いかがでしょうメーカーさん!! 試しに1台、テスト車でも作ってみませんか?
取材に協力してくれたオーナーの鈴木さん(左から3人目)とそのお仲間さんたち。今回は2台のグロムに加えてNSR50とNSR80、さらにスーパーカブ110(!)と計5台を京葉に持ち込み、皆で交代しながら楽しんでいた。筆者も丸1日、楽しませていただきました(メチャクチャ暑かったけどね…)。
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